ボーンレベルを選べば審美性で勝てるが、インプラント周囲炎リスクは約2倍になる。
ティッシュレベルインプラント(以下、TL)とは、インプラント体のネック部分が歯肉(ティッシュ)の高さにまで露出する設計のインプラントです。対してボーンレベルインプラント(以下、BL)は、インプラント体が顎骨のレベルまで完全に埋入される設計をとります。この構造上の差が、臨床成績・補綴設計・患者負担のすべてに連鎖的な影響をもたらします。
TLの代表格は、ストローマン社のStandard/Standard Plusインプラントです。同インプラントはスイス・ベルン大学での臨床研究で511本の10年後生存率98.8%、成功率97%という高いエビデンスが報告されています。
| 比較項目 | ティッシュレベル(TL) | ボーンレベル(BL) |
|---|---|---|
| インプラント体の位置 | 歯肉上に露出 | 骨内に完全埋入 |
| 手術回数(原則) | 1回法 | 2回法(1回法も可) |
| マイクロギャップの位置 | 骨縁から1.8〜2.8mm上 | 骨縁近傍 |
| インプラント周囲炎発症率 | 7.5〜14.8% | 22.8〜28.9% |
| 審美性 | 臼歯部に有利 | 前歯部に有利 |
| 補綴自由度 | 位置依存・設計エラー少ない | 高い自由度(設計ミスリスクあり) |
TLの骨内部分はSLA(サンドブラスト+酸エッチング)処理の粗面で構成されており、骨細胞の接着面積を最大化してオッセオインテグレーションを強固にします。一方、歯肉を貫通するネック部分はマシーンド(機械研磨)仕上げの平滑面になっており、プラークが付着しにくい構造です。つまり骨結合と清掃性の両立が最初から設計に組み込まれているということですね。
参考:ストローマン ティッシュレベルインプラントの補綴術式PDF
Straumann® ティッシュレベルインプラント 補綴手順(ストローマン公式)
インプラント周囲炎への罹患リスクは、歯科医従事者にとって最も気を配るべき長期的課題です。
Katafuchi M. ら(2018年)の研究では、ボーンレベルインプラントのインプラント周囲炎発症率は22.8〜28.9%であるのに対し、ティッシュレベルインプラントでは7.5〜14.8%と、おおよそ半分以下に抑えられることが示されています。また2025年に発表されたシステマティックレビューとメタ分析(PMC, 2025)でも、TLはBLと比べてインプラント周囲炎のリスク比(RR)が0.59、つまり約40%低いというデータが報告されました。
この差の主要因が「マイクロギャップの位置」です。BLではインプラント体とアバットメントの接合部(マイクロギャップ)が骨縁ごく近くに位置するため、細菌叢が生じると骨吸収(ソーサライゼーション)が直接的に引き起こされます。数字にすると、BLのマイクロギャップから骨表面まではほぼ0〜0.5mm程度しか離れていません。
これに対してTLは骨縁から1.8〜2.8mm離れた位置にマイクロギャップが設定されます。コーヒーカップのソーサー(受け皿)1枚分ほどの距離が「防火帯」のように機能し、細菌が骨に到達するまでの経路を大幅に延長します。これは使えそうです。
さらにTLには構造的に「アバットメントを繰り返し着脱する必要がない」という利点があります。BLでは印象採得・試適・装着のたびにアバットメントを取り外すことになりますが、その都度、軟組織付着部が機械的刺激を受けます。TLはアバットメント周囲の軟組織を治癒期間からそのまま守り続けられるため、生物学的シールが安定して維持されます。
辺縁骨を守ることが条件です。インプラント周囲炎への耐性が長期予後と患者満足度を直接左右するため、TLを後方部の第1選択として位置づけることは臨床的に合理性があります。
参考:デンタルダイヤモンド2025年4月号「ボーンレベルとティシュレベルのどちらを選択する?」(長崎大学・澤瀬隆先生 監修)
Q&A インプラント ボーンレベルとティシュレベルのどちらを選択する?|デンタルダイヤモンド
TLは1回法(ワンステージ手術)が原則です。つまり埋入手術の1回で外科処置が完結します。
BLの2回法では、インプラント体を骨内に埋入した後いったん完全閉創し、骨結合を待ってから二次手術で歯肉を再切開してヒーリングアバットメントを装着します。この追加手術は平均で2週間ほどの期間延長につながるだけでなく、患者の身体的ストレスと感染機会を一度余分に発生させることを意味します。
1回法の利点は3つの軸で整理できます。
なお、BLでも患者の骨・歯肉状態が良好であれば1回法は可能です。一方で同時骨造成(GBR)が必要な症例では、閉創して術創を保護できるBLの2回法が有利とされています。つまり「1回法=TL専用」ではなく、適応の軸で選ぶことが原則です。
患者へのメリット説明として「手術が1回で済む」という点は、インプラントに不安を抱える方の心理的障壁を下げる効果もあります。これが患者獲得にも間接的に寄与するという点は、知ってると得する情報といえます。
TLが後方臼歯部の第1選択として推奨されるもう一つの理由が、補綴設計上の優位性です。
抜歯後の歯槽堤は、時間とともに幅径が狭くなります。インプラント体の直径は抜歯前の歯根より細く設計せざるを得ないのに対し、補綴する上部構造(クラウン)は元の歯冠と同等の大きさが必要です。この矛盾を補うのがエマージェンスプロファイル(インプラントプラットフォームからクラウン最大豊隆部にかけての立ち上がり形態)です。
TLではインプラント体のネック径(プラットフォーム)がインプラント体本体よりもワイドな設計になっており、このネック自体が理想的なエマージェンスプロファイルを最初から形成します。一方BLはプラットフォームスイッチング設計のため、ネック径がインプラント体より細くなる逆転現象が生じます。これを補うために過度にフレア(広がり)したエマージェンスプロファイルを補綴物側で作ると、辺縁骨への悪影響(過圧・炎症)が起きるリスクがあります。
ITI(国際インプラント口腔再建学会)のブログ記事では、BLの不適切なエマージェンスプロファイルを「棒の上のかぼちゃ(pumpkin on a stick)」と表現しています。なかなか辛口ですね。
臼歯部ではエマージェンスプロファイルの誤設計がそのまま骨吸収・歯肉炎・補綴物破折につながる可能性があります。TLではこのリスクが構造的に小さいため、補綴設計のエラーマージンを広げられます。
これが基本です。臼歯部はとくに咬合力が集中するため、補綴設計の正確さと清掃のしやすさが長期予後を左右します。TLの「内蔵エマージェンスプロファイル」は、その両方に応える設計思想です。
参考:ITI(国際インプラント口腔再建学会) 後方臼歯部にティッシュレベルを選ぶ4つの理由
Four reasons to choose tissue-level implants for posterior sites|ITI Blog
TLには確かな利点がありますが、すべての症例に適応すべきではありません。適切な症例選択のために、不向きなケースも正確に把握しておく必要があります。
まず審美領域(前歯部)への適応は慎重を要します。TLではインプラント体のネック部(金属色)が歯肉上に位置するため、歯肉退縮が生じた際にネックが露出し、金属色が見えてしまうリスクがあります。ストローマンITIブログでも「審美要求が高い患者においてはTLの選択を慎重に」と明記されています。審美を重視するなら前歯部はBLが原則です。
次に同時骨造成(GBR)が必要な症例です。骨造成を同時に行う場合、完全閉創してフラップを緊密に縫合する必要があります。TLはネック部が口腔内に露出するため閉創が難しく、術創の保護に不利です。この場合はBLの2回法が選択されます。
また垂直的スペースが限られている症例も注意が必要です。TLのネック高(1.8mmまたは2.8mm)が上部構造製作の垂直スペースを消費するため、対合歯との空間が十分に確保できないケースでは補綴設計が難しくなります。
「ティッシュレベルかボーンレベルか」ではなく、「この部位・この患者にはどちらが最適か」が判断の軸です。それだけ覚えておけばOKです。
日本口腔インプラント学会の「歯周病患者における口腔インプラント治療指針(2018年版)」でも、TLとBLの構造的差異を理解した上での症例選択の重要性が解説されています。
参考:日本口腔インプラント学会の指針(インプラント周囲炎のリスクとTL・BLの比較について)
歯周病患者における口腔インプラント治療指針およびエビデンス2018|日本歯周病学会
十分な情報が集まりました。記事を作成します。