国内大手メーカーのpeek材料を選んでいると、実は海外製の同等品より年間30万円以上コストが増える場合があります。
歯科情報
PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)は、歯科用途において金属フリーかつ高強度という特性から近年急速に普及が進んでいます。しかし、一口に「peek材料」と言っても、その価格帯は非常に広く、グレードや用途によって大きく異なります。
歯科向けpeekブランクの価格は、おおよそ以下のような水準です。
この価格差はなぜ生まれるのでしょうか?主な要因は「純度・フィラーの有無・認証取得状況」の3点に集約されます。医療機器認証(薬機法)を取得しているpeek材料は、規格外品と比較してコストが高い傾向にあります。つまり認証の有無がコストを左右します。
特に注意したいのは、「歯科用途対応」と表記されていても薬機法上の医療機器として認証されていない材料が市場に流通している点です。これは価格だけで選ぶと見落としがちなリスクです。国内での使用に際しては、必ず認証番号を確認することが原則です。
また、同じpeekブランクでも「ブランクの厚み」「直径サイズ」「形状(ディスク型/ブロック型)」によって価格が変わります。切削余裕を確保するために大型サイズを選ぶと材料コストが上がりますが、廃棄ロスを減らせるため、トータルでは有利になることもあります。
国内外で流通している歯科用peekブランクには、代表的なメーカーとしてEvonik(エボニック、ドイツ)のVESTAKEEP®シリーズ、Solvay(ソルベイ、ベルギー)のKetaSpire®、そして国内ではクラレノリタケデンタルや松風が手掛けるpeekベースの補綴材料などが挙げられます。
これらはまったく異なるポジション設定を持っています。
国内メーカーの「認証済み安心感」は価値があります。ただし、認証内容の範囲(適応補綴の種類)を正確に把握しないまま採用すると、適応外使用のリスクが発生します。これは法的リスクになり得ます。
メーカーを選ぶ際には価格だけでなく「自院の技工体制に合っているか」「適応症の範囲が十分か」という視点を加えて検討することが重要です。特に訪問診療や義歯修理を多く手がけるクリニックでは、加工のしやすさ(切削抵抗・工具消耗率)も運用コストに直結するため見落とせないポイントです。
材料の定価だけを比較して「このpeekブランクが一番安い」と判断するのは早計です。実際には以下の要素がトータルコストに大きく影響します。
| コスト項目 | 内容 | 目安金額 |
|---|---|---|
| 材料費(ブランク) | 1枚あたりの定価 | 3,000〜35,000円 |
| CAD/CAM加工費 | 外注技工所への切削委託費 | 5,000〜15,000円/補綴物1個 |
| 工具消耗費 | peekはジルコニアより工具摩耗が少ないが蓄積する | 月あたり数千〜数万円 |
| 廃棄ロス | 1枚のブランクから何個取れるか(取り数) | 設計次第で材料費の10〜30%変動 |
| ポリッシュ・染色費 | 表面処理や着色加工の外注費 | 1,000〜3,000円追加が多い |
これが正確な比較の全体像です。例えばブランク1枚が5,000円と安価でも、1枚から1つしか補綴物が取れないサイズでは、実質的な材料コストは15,000円ブランクから3個取れるものより高くなります。1枚から何個取れるか、取り数の設計が最重要です。
外注技工所を利用する場合は、「peek対応」と「ジルコニア対応」で切削単価が異なるケースもあります。技工所に発注する際は、peekの切削費用を事前に書面で確認することをお勧めします。これは後からのコスト増を防ぐために有効です。
また、院内にCAD/CAM機器を保有しているクリニックでは、機器のソフトウェアがpeek材料のネスティング(配置最適化)に対応しているかを確認することで、廃棄ロスを最大20〜30%削減できた事例もあります。
peek材料を使用した補綴物は、現在の日本の保険診療においてほぼ全域が自費診療扱いとなります。これが患者説明と費用設定を難しくする要因の一つです。
自費診療における一般的な費用設定(患者負担)は以下のとおりです。
材料コストが5,000〜30,000円程度であっても、患者負担が5〜10倍になるのは、技工費・設計費・医院の管理費が上乗せされるためです。これは標準的な構造です。
ここで歯科従事者として把握しておきたいのが、「材料費対売上比率(原価率)」の管理です。peek補綴物の材料原価率は、適切な価格設定を行っている医院では15〜25%程度に収まるケースが多いとされています。この比率が30%を超えてくると、材料の見直しや価格改定を検討するサインと捉える歯科経営コンサルタントもいます。
また、2024年以降、一部の保険適用拡大議論においてCAD/CAM義歯床材料へのpeekの組み込みが検討されていた経緯もあります。最新の保険改定情報は厚生労働省の告示を都度確認することが必要です。
厚生労働省:令和6年度診療報酬改定について(歯科関連告示・算定要件を含む)
上記リンクでは歯科補綴に関連する保険改定の算定要件や材料規定が確認できます。peek材料の保険適用状況を確認する際の一次情報源として活用できます。
これはあまり語られない視点ですが、peek材料の調達コストを下げるための実践的な方法として「歯科技工所組合や勉強会を通じた共同購買」があります。
単院で交渉するより、複数の技工所・医院が集まって一括発注するほうが、仕入れ単価を交渉しやすくなります。実際に5〜10施設が共同発注することで、1枚あたりのブランク価格が15〜20%程度安くなったケースもあります。これは使えそうです。
具体的な取り組みとしては以下の方法があります。
また、peekブランクには「使用期限」があることを見落としている現場が少なくありません。一般的にpeek原料自体の劣化は少ないものの、認証製品としての期限管理が必要です。期限切れ品を使用した場合、薬機法上の問題になり得ます。期限管理は必須です。
在庫を抱えすぎてコストが増えるリスクと、少量発注で割高になるリスクのバランスを取るために、月間の使用量をベースに最適発注量を算出することをお勧めします。月間5枚以上消費している場合は、10枚ロットでの発注が多くの場合コスト最適になります。
※peek材料の物性・規格については製品添付文書またはメーカー公式データシートを一次情報として参照してください
なお、peek材料の物性比較や価格動向については、各ディーラーの最新カタログおよびメーカーへの直接問い合わせが最も正確です。製品仕様は随時更新されるため、記事内の数値はあくまで参考値として活用してください。

歯科技工 PEEKによるクラウン製作のポイント ―新たな非金属材料の保険適用により広がる歯科技工の可能性 2024年1月号 52巻1号[雑誌]