シーラント(シ)を塗布しても、カルテ上の分類を間違えると保険請求が1件あたり数百点の差になります。
歯科のカルテや歯式に登場する記号は、単なる略語ではありません。それぞれの記号が「どんな処置をしたか」だけでなく、「その歯をどう分類するか」まで規定しています。特に表面処理に関係する記号は種類が多く、現場で混乱しやすい箇所です。
まず、最も基本的な歯式記号の読み方を整理しましょう。以下の表が、歯科カルテで頻繁に登場する記号の一覧です。
| 記号 | 読み方 | 意味・処置内容 | カルテ上の扱い |
|---|---|---|---|
| シ(○シ) | シ | シーラント(予防填塞)を施した歯 | 健全歯 |
| サ(○サ) | サ、またはサホ | サホライド(フッ化ジアンミン銀)塗布歯 | 未処置歯 |
| EE | エナメルエッチング法 | エナメル質へのエッチング処理 | 充填処置の前処理記号 |
| EB | エナメルボンディング法 | ボンディング材の塗布処理 | 充填処置の前処理記号 |
| CR(光CR充) | シーアール | 光重合型コンポジットレジン充填 | 処置歯 |
| WSD | ダブルエスディー | 歯質くさび状欠損 | 傷病名(処置対象) |
| Hys処 | ヒス処 | 知覚過敏処置(表面処理を含む) | 処置歯(知覚過敏症) |
| PTC | ピーティーシー | 専門的歯面清掃(Mechanical Cleaning) | 衛生指導記録 |
| レ硬 | レコウ | レジン表面滑沢硬化法 | 補綴後の表面処理記録 |
| SC | エスシー | スケーリング(歯石除去) | 歯周処置記録 |
| SRP | エスアールピー | スケーリング・ルートプレーニング | 歯周処置記録(根面処理含む) |
記号は処置内容だけでなく、カルテ上の歯の「状態分類」にも直結します。つまり記号が基本です。
特に注意が必要なのが、シーラント(シ)とサホライド(サ)の扱いです。どちらも予防的な処置のように見えますが、カルテ上の分類がまったく異なります。シーラントを施した歯は「健全歯」として記録し、サホライド塗布歯は「未処置歯」として扱うというのが公式ルールです(奈良県:3歳児歯科健康診査カルテ記入例、学校歯科健診マニュアルなどで明示)。
この違いを知らないと、健診後の統計データや保険点数の算定が狂います。意外ですね。
参考:奈良県3歳児歯科健康診査カルテ記入例(自治体公式)
https://www.pref.nara.jp/secure/47222/karute-30.pdf
シーラントは「予防填塞」とも呼ばれ、奥歯の溝(小窩裂溝)をフッ素入りのプラスチック樹脂で埋める処置です。これにより、歯ブラシが届きにくい溝への汚れの蓄積を物理的に防ぎ、むし歯リスクを下げます。
カルテへの記号記入では、シーラント処置済みの歯には「○シ」または「シ」と記入します。重要なのは、この歯を「健全歯」として扱う点です。学校歯科健診のマニュアルにも「シーラントは、予防処置がされている健全歯として扱い、歯式欄に○シと記入する」と明記されています。
シーラントが施された歯の扱いで現場がよく迷うのは、「シーラントか、レジン充填か」の判断場面です。見た目が似ていることから、間違いが起きやすいポイントです。岐阜県歯科医師会の基準では「シーラントかレジン充填か迷うときにはシーラントとする」という指針が示されています。これは実務上の重要な判断基準になります。
また、シーラントの記号「シ」はあくまで健診記録用です。保険診療カルテでは「填塞」や「シーラント」と処置名を記載し、保険点数として「初期う蝕小窩裂溝填塞処置」(填塞)に相当します。これは使えそうです。
さらに、小窩裂溝の着色がある場合や平滑面の白濁・褐色斑がある場合は、シーラントではなくCOや未処置歯判定になる点も押さえておきましょう。表面状態の視診が分類を左右します。表面処理の記号を正しく使うためには、前提となる診査眼も必要です。
参考:岐阜県歯科医師会 学校歯科健診ガイドライン2020年版
https://www.gifukenshi.or.jp/doc/naruhodo2020.pdf
サホライドとは、フッ化ジアンミン銀(AgF₂NH₃)を主成分とする薬剤で、乳歯や高齢者の根面むし歯に対して塗布します。むし歯の進行抑制を目的とした薬物処置です。黒く着色するという外見上の特徴があります。
カルテへの記号記入は「サ」または「○サ」を使い、サホライドを施した歯には「未処置歯」の扱いを適用します。これが多くの歯科従事者が混乱するポイントです。シーラントは健全歯、サホライドは未処置歯という真逆の扱いです。
なぜ治療的薬剤を塗布したにもかかわらず「未処置歯」なのか、疑問に思う方も多いでしょう。これは国立保健医療科学院の研究(s6106084)でも指摘されており、「サホライドは暫間的な齲蝕製剤と性格づけられており、むし歯の完全な進行阻止効果が見られることも少なくないにもかかわらず、厚生省の歯科疾患実態調査や乳幼児健診・学校健診において一律に未処置歯として取り扱われている」という歴史的経緯があります。
つまり、実際には予防・抑制効果があっても、制度上は「治療完了とは見なさない」という位置づけなのです。これは現場での記録ミスを招きやすい部分であり、特に学校健診や乳幼児健診の結果報告で影響が出ます。サホライドに注意すれば大丈夫です。
保険診療カルテでの保険点数上の記載は「乳幼児う蝕薬物塗布処置(サホ塗布)」として算定します。健診記録と保険カルテでの扱いを混同しないようにしましょう。
参考:国立保健医療科学院「治療処置としてのサホライド塗布の効果」
https://www.niph.go.jp/wadai/mhlw/1986/s6106084.pdf
コンポジットレジン(CR)充填の際に欠かせない表面処理が、エッチングとボンディングです。カルテへの記入だけでなく、処置の手順や材料選択の判断にも直結するため、歯科衛生士・歯科助手ともに理解しておくべき内容です。
エッチングとは、歯質の表面に酸性の溶液を塗布して微細な凹凸(マイクロポロシティ)を作り、接着材が流れ込みやすい状態にする処理のことです。1955年にBuonocoreによって初めて提唱されたこの技術は、現代の接着歯科の基礎となっています。カルテ記号は「EE(エナメルエッチング法)」です。
エッチングには大きく3種類の技法があります。
ボンディング(EB:エナメルボンディング法)は、エッチングで形成した微細凹凸にプライマーおよびボンディング材を浸透・重合させ、歯質とレジンの橋渡しをする処理です。これが条件です。
接着システムの世代による違いも知っておくと役立ちます。第4世代(3ステップ:エッチング→プライマー→ボンディング個別適用)から、第7世代(オールインワン型)、最新の第8世代(ユニバーサルアドヒーシブ:使用法を症例に応じて選択可能)まで進化しています。現在の主流はユニバーサルアドヒーシブで、セレクティブエッチングモードを使えば1製品で幅広い症例に対応できます。
象牙質へのエッチングで特に注意すべきなのが「過乾燥」です。総エッチング後に象牙質を過度に乾燥させると、コラーゲン線維が虚脱して接着材が浸透できなくなります。適度な湿潤状態(ウェットボンディング)を保つことが、術後知覚過敏の防止と長期的な接着安定性につながります。これは必須です。
参考:ORTC「エッチング処理の基礎と臨床応用」
https://ortc.jp/topics/dental-knowledge/dental-etching
シーラントやエッチングといった教科書的な記号に目が行きがちですが、実際の診療現場ではそれ以外の「表面処理に関わる記号」を見落とすことが多くあります。それが根面処理や知覚過敏処置、そして補綴後の仕上げ処理です。
**SRP(スケーリング・ルートプレーニング)** は、歯石除去(SC)にとどまらず、根面に付着した汚染セメント質を除去し、根面を滑沢化する処置です。表面処理の観点で言えば、根面の物理的な性状を変える処置であり、歯周基本治療の中核を担います。カルテには「SRP」と記録し、部位と施術者(歯科衛生士によるものはDHSRPとする医院もある)を明記します。
**Hys処(知覚過敏処置)** は、WSD(くさび状欠損)や根面露出部位への薬剤塗布・レジンコーティングなどが含まれます。知覚過敏処置剤(グルタールアルデヒド系やシュウ酸系など)を塗布して象牙細管を封鎖することで症状を緩和します。この処置は1歯ごとに算定するため、部位の記録が保険請求に直結します。
**レ硬(レジン表面滑沢硬化法)** は見落とされやすい記号です。補綴物の装着後にレジン表面を光照射で硬化・滑沢化する処置で、カルテへの記録が必要です。この処理を省略または記録漏れにすると、補綴後のプラーク付着リスクが上がるとされています。
**PTC(機械的歯面清掃加算)** は、歯科衛生士が専用器具を使ってプロフェッショナルに歯面を清掃する処置です。保険診療では「機械的歯面清掃加算(歯清)」として算定でき、対象は初診から3ヵ月以内で歯科疾患管理料を算定している患者に限られます。算定条件が細かいため、記号のみ書いて請求漏れになるケースがあります。
| 記号 | 処置内容 | 対象部位 | 算定上の注意 |
|---|---|---|---|
| SC | スケーリング(歯石除去) | 歯冠部・根面 | 部位ごとに記録 |
| SRP | スケーリング+根面滑沢化 | 根面・歯周ポケット内 | 歯周病進行度に応じた算定条件あり |
| Hys処 | 知覚過敏処置(薬剤塗布・封鎖) | WSD・根面露出部 | 1歯ごとに算定、部位記録必須 |
| レ硬 | レジン表面滑沢硬化法 | 補綴物・充填物表面 | 装着後の処置として記録 |
| 歯清(PTC) | 機械的歯面清掃加算 | 歯面全体 | 算定要件(疾患管理中・3ヵ月以内)を確認 |
これらの処置は、治療効果としては確実に患者さんの口腔健康に貢献しています。しかし、カルテ記号の記録漏れや算定ミスが起きると、歯科医院にとっては適切な保険請求ができず、また患者側にも正確な治療履歴が残らないという問題が生じます。記号一つの記録漏れが積み重なると、医院の収益にも影響を与えます。
参考:歯科衛生士必見!歯科用語の略語・略称まとめ(ファーストナビ)
https://sikaeiseisi.firstnavi.jp/contents/dental-glossary/
表面処理の記号を正確に記録することは、再治療リスクの把握にも直結します。特に注目したいのが「ダッシュ(″)記号」と「二次カリエス」の記録方法です。
一度むし歯治療を行い、CRやインレーを詰めた歯に再びむし歯が発生した場合を「二次う蝕(二次カリエス)」と言います。カルテ上では「C1″」「C2″」のようにダッシュを付けて記録します。これは「ニジカリ」とも呼ばれ、既存の修復物の下に再度むし歯ができた状態を示します。
二次う蝕が発生しやすい原因の一つが、初回のエッチング・ボンディング処理の不備です。特に以下の3つが問題になります。
二次う蝕が発生した場合はC″の記号でカルテに記録し、既存の補綴物の種類(CR、インレー等)と合わせて記載します。結論は記録の正確性が予後の管理を左右するということです。
また、若年者と高齢者ではエッチングの対応が異なります。若年者(特に乳歯)はエナメル質の石灰化度が低いため、エッチング時間は成人よりも短め(15〜20秒程度)が推奨されます。一方、高齢者では象牙質が硬化している場合があり、エッチング効果が得にくいため処理時間の若干の調整が必要です。
フロスティング効果(適切にエッチングされたエナメル質が白亜色に変わる現象)を目視で確認する習慣を持つことが、エッチング精度を上げる最もシンプルな方法です。この一点だけ覚えておけばOKです。表面処理の記録精度を高めることで、二次う蝕の予防と長期予後の向上、そして保険請求の正確性の3つを同時に実現できます。
参考:ORTC「歯科ボンディング完全ガイド|種類・治療方法・コストを徹底解説」
https://ortc.jp/topics/dental-knowledge/dental-bonding
十分なリサーチが揃いました。記事を生成します。