根面被覆術の保険と算定要件を歯科医に解説

根面被覆の保険算定は「根面板によるもの」と「レジン充填によるもの」で点数が大きく異なり、令和6年・令和8年の改定で点数も変わっています。算定要件を正確に把握していますか?

根面被覆の保険と算定要件を歯科従事者が押さえるべき完全ガイド

「根面被覆は全部自費」と思い込んでいると、算定できる保険点数を毎回取り逃がしています。


🦷 この記事の3つのポイント
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根面被覆には保険算定できるケースがある

根面板・レジン充填による根面被覆(M010-4)は残根保存を目的とした処置として保険算定が認められています。歯肉退縮に対する審美的な根面被覆術とは別物です。

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算定には「歯内療法で根の保存が可能」という絶対条件がある

根面板・レジン充填によるM010-4の算定は、歯内療法により根の保存が可能な場合に限ります。この条件を満たさないと査定リスクが生じます。

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令和6年・令和8年改定で点数が変わっている

根面被覆の保険点数は診療報酬改定のたびに変わります。令和8年6月施行の改定では根面板によるものが225点へ引き上げられました。最新点数を確認しておく必要があります。

歯科情報


根面被覆の保険における「根面板」と「レジン充填」の根本的な違い


歯科診療報酬点数表では、根面被覆(M010-4)は「1 根面板によるもの」と「2 レジン充填によるもの」という2種類に分類されます。この2つはただの材料の違いではなく、手技・手順・算定できる付随行為がまったく異なります。正確に理解しておかないと、取れるはずの点数を取り逃します。


根面板によるものは、鋳造方式で製作された金属製の根面板を使って根面を被覆する処置です。金銀パラジウム合金(金12%以上)を使った場合、令和6年6月改定後は大臼歯195点・小臼歯および前歯は金属材料料を含めて換算されます。銀合金の場合は点数が大幅に下がります。令和8年6月施行の改定では根面板によるものの技術料が225点へ引き上げられる予定です。


根面板による方法では、歯冠形成・印象採得・装着といった付随行為を別途算定できます。具体的には、歯冠形成を行った場合はM001「歯冠形成の3のイ 単純なもの」を1歯につき算定し、印象採得はM003の「1のイ 単純印象」または「1のロ 連合印象」を1歯につき算定します。装着を行った場合はM005の「1 歯冠修復」を1個につき算定します。つまり根面板は複数の行為をセットで請求できる構造です。


根面板が複数の行為を算定できる構造です。


一方、レジン充填によるものは、歯科充填用材料Ⅰを用いて根面を被覆した場合です。令和6年時点では技術料は106点という低めの設定でした(令和8年改定後の点数は発出される告示・通知等で確認が必要)。レジン充填でも歯冠形成を行った場合はM001の「3のイ 単純なもの」を算定できますが、印象採得・装着は算定の対象外です。


| 区分 | 内容 | 技術料(R6改定後) | 付随算定 |
|---|---|---|---|
| 1 根面板によるもの(金パラ) | 鋳造金属板による被覆 | 195点(R8改定後は225点) | 歯冠形成・印象採得・装着が可 |
| 1 根面板によるもの(銀合金) | 銀合金鋳造板による被覆 | 材料料別途 | 同上 |
| 2 レジン充填によるもの | 歯科充填用材料Ⅰによる被覆 | 106点 | 歯冠形成のみ可 |


現場で見落としがちなのは「根面板は印象採得と装着も算定できる」という点です。レジン充填との区別が曖昧になっていると、算定できる項目を丸ごと落としてしまうリスクがあります。


参考:M010-4 根面被覆(1歯につき)の詳細な算定要件については以下で確認できます。


しろぼんねっと:M010-4 根面被覆(1歯につき)算定通知の全文


根面被覆の保険算定で必須となる「歯内療法」の条件を正確に理解する

根面被覆(M010-4)を保険で算定するうえで、絶対に外せない条件が1つあります。それは「歯内療法によって根の保存が可能なものに限る」という要件です。この要件を満たさない状態で算定すると、審査で査定される可能性があります。


どういうことでしょうか?


根面被覆はあくまで「残根状態の歯を積極的に保存するための処置」として保険に位置づけられています。虫歯が進行して歯冠部が失われた残根歯に対し、根管処置などの歯内療法で根を保存できると判断した上で行う処置です。単に露出している根面を覆うだけでは算定の根拠になりません。


根管処置が完了した残根上への義歯装着も認められているということです。


重要なのは、通知に「抜歯禁忌症以外であっても、根管処置及び根面被覆が完了した残根上に義歯の装着は認められる」と明示されている点です。つまり「抜歯できない特別な理由がなくても」残根を保存した上で義歯を装着することが保険診療として認められています。高齢患者でよく見られる残根上義歯の症例において、根面被覆の算定根拠として活用できます。


ただし、高齢者では根管が閉鎖している場合があり、歯内療法が困難なケースも存在します。愛知県保険医協会の保険請求Q&Aによると、「高齢者で根管が閉鎖して歯内療法が困難な場合でも根面被覆は認められる」という解釈が示されている地域もあります。ただし、地方審査での判断が異なるケースがあるため、審査支払機関への事前確認が望ましいです。


実務上の注意点として、根管処置を同月に算定した場合と、根管処置が前月以前に完了していて今月から根面被覆を行う場合とでは、レセプト記載の仕方が変わります。処置の流れを診療録に時系列で記録しておくことが、査定防止につながります。診療録への記録が算定の根拠です。


参考:残根上義歯と根面被覆の関係については以下に詳しい解説があります。


愛知県保険医協会:歯科保険請求Q&A(残根・根面被覆に関する解説を含む)


根面被覆の保険点数が変わった令和6年・令和8年改定のポイント

診療報酬改定のたびに点数が変わるのが保険診療の特徴です。根面被覆に関しても例外ではなく、令和6年6月と令和8年6月の2回の改定で変更が加わっています。現場で正しい点数を使っているか、この機会に確認しましょう。


令和6年6月改定では、根面板による根面被覆の技術料が引き上げられました。また磁性アタッチメントのキーパー付き根面板を用いる場合(M021-3の2として算定)は、350点から550点へと200点という大幅な引き上げが行われました。この変更は現場への影響が大きく、磁性アタッチメントを使った義歯症例では算定額が約57%増加する計算になります。意外ですね。


令和8年6月施行の改定では、根面被覆(根面板によるもの)の技術料が195点から225点へと引き上げられています(令和8年3月5日版の厚生労働省概要資料より)。また磁性アタッチメントのキーパー付き根面板については550点から580点へと変更される予定です。令和8年6月以降に算定する場合は、この新点数が適用されます。


令和8年6月以降は新点数での算定が原則です。


改定のたびに早見表や院内の算定マスタを更新しないと、旧点数で請求し続けるリスクが生じます。特に医事コンピュータのマスタ登録は、施行日前後に必ず確認するべきです。厚生労働省が発出する「歯科診療行為マスター登録内容の一部変更」通知には、根面被覆に関する診療行為コードの変更情報も含まれています。このマスタ更新を見落とすと、旧点数での算定が続いてしまい、診療報酬の不足請求につながります。


さらに、貴金属材料(金パラ)を使用した根面板の材料料は、金属価格に連動した「随時改定」の対象項目です。技術料は2年に1度の診療報酬改定で変わりますが、材料料は四半期ごとに改定される場合があります。この点を混同している施設は少なくないため、技術料と材料料を分けて管理する習慣をつけておくことが重要です。


参考:令和8年度歯科診療報酬改定の概要(厚生労働省)
厚生労働省:令和8年度診療報酬改定の概要【歯科】(令和8年3月5日版)


根面被覆の保険と「歯肉退縮に対する根面被覆術(自費)」を正しく区別する方法

歯科従事者が最も混乱しやすいのが、保険算定できる「根面被覆(M010-4)」と、自費診療となる「根面被覆術(歯肉退縮に対する歯周形成外科)」の違いです。名称が似ているため、患者への説明でも混同が起きやすく、算定ミスや患者トラブルにつながるリスクがあります。


保険算定できるM010-4の「根面被覆」は、う蝕歯冠破折で歯冠部を失った残根歯に対して、根面板またはレジン充填で根面を保護・被覆する処置です。目的は「残根の保存と義歯の維持装置としての活用」であり、対象は残根歯です。


つまり2つはまったく別の治療です。


一方、自費診療となる「根面被覆術」は、歯肉退縮によって歯根面が露出した部位に対して、結合組織移植術(CTG)や遊離歯肉移植術(FGG)などの歯周形成外科を行って露出根面を覆う治療です。費用は1歯あたり10万〜15万円が相場とされており、保険の適用外です。


































項目 保険:根面被覆(M010-4) 自費:根面被覆術
対象 う蝕・破折による残根歯 歯肉退縮による歯根露出
目的 残根保存・義歯維持 歯肉回復・審美・知覚過敏改善
材料 根面板(金属)またはレジン充填 自家歯肉移植片
手技 補綴的処置 外科的歯周形成術
保険適用 ✅ 算定可(条件あり) ❌ 原則自費


患者が「歯茎が下がった」と来院した場合、その主訴に対する治療は原則自費です。しかし同じ患者に残根歯が別途存在し、その残根歯に根面板を装着する場合は保険算定できます。両者を同一患者に対して行う場合には、それぞれの目的と費用負担を患者に明確に説明し、インフォームドコンセントを文書で残すことが求められます。


診療録への記録が混同防止の鍵です。


自費の根面被覆術を計画している場合、CTG(結合組織移植術)などの術式や術後管理に関する知識のアップデートも欠かせません。歯周形成外科を専門とした学術情報の参照を継続的に行うことで、患者への説明精度も向上します。


参考:歯肉退縮に対する根面被覆術の自費費用についての解説
歯肉退縮の治療費用相場は1本あたり3万〜15万!後悔しない選び方(患者向け参考情報)


根面被覆の保険算定で見落としがちな「磁性アタッチメント・キーパー付き根面板」の別途算定

通常の根面板と、磁性アタッチメントのキーパー付き根面板では、算定する区分が異なります。この違いを知らずに一律でM010-4の1で算定してしまうと、大幅な算定不足が生じます。これは使えそうです。


通常の根面板はM010-4の「1 根面板によるもの」として算定します。しかし磁性アタッチメントを目的として装着するキーパー付き根面板は、M010-4ではなくM021-3(磁性アタッチメント)の「2 キーパー付き根面板を用いる場合」として別途算定する仕組みです。


令和6年6月改定後の技術料は550点(令和8年改定後は580点予定)であり、通常根面板の195点と比較すると約2.8倍以上の差があります。1歯あたりの差額は355点、つまり3,550円になります。5歯に磁性アタッチメントを適用する義歯症例であれば、合計で17,750円分の算定漏れが生じる可能性があります。


5歯で約18,000円の差になります。


また、M021-3の通則として「磁石構造体は有床義歯に装着した個数ごとに算定し、キーパー付き根面板は装着した個数に応じて算定する」とされています。磁石構造体(マグネット部分)とキーパー付き根面板はそれぞれ別々に算定する仕組みです。義歯側の磁石構造体と、歯根側のキーパー付き根面板の両方を正確に算定しないと、二重の算定漏れが起きます。


レセプト上での記載方法も注意が必要です。キーパー付き根面板はM021-3の2として算定しますが、材料料には別途「キーパー」の費用が加算されます。電子レセプト作成の手引きでは、キーパー付き根面板を用いる場合は技術料と材料料を分けた形式での記載が求められており、医事コンピュータへの登録設定が適切かどうかも確認すべきです。


現場でよく起こる算定ミスのパターンは次の3つです。


- 📌 キーパー付き根面板をM010-4で算定してしまっている(区分間違い)
- 📌 磁石構造体のみ算定してキーパー付き根面板の算定を忘れる(項目漏れ)
- 📌 磁性アタッチメントの再装着時にキーパーが既存のものを流用したとして、技術料のみ算定しキーパー料を算定しない(材料料漏れ)


これら3つに注意すれば大丈夫です。


磁性アタッチメント義歯を積極的に導入している歯科医院では、年間の算定漏れ額が相当な規模になる可能性があります。定期的なレセプト監査を行い、過去の算定に誤りがないか確認しておくことを強くお勧めします。


参考:磁性アタッチメントの保険算定について(東京歯科保険医協会)
東京歯科保険医協会:磁性アタッチメントを用いた義歯の請求(詳細算定方法解説)




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