鋳接法で作ると保険請求できません。
2021年9月1日から磁性アタッチメント義歯が保険収載されたことで、歯科医療現場では新たな選択肢が生まれました。しかし、すべてのケースで保険適用されるわけではありません。
厚生労働省が定める適応症例には明確な基準があります。多数歯欠損症例では9歯以上の部分床義歯、または全部床義歯に相当するオーバーデンチャーが対象です。遊離端欠損症例では片側の大臼歯全てまたはそれ以上の欠損がある場合に限られます。つまり、少数歯欠損の患者には保険適用されないということです。
残存歯が1本以上ある場合に限定される点も重要です。
完全無歯顎の患者さんには保険での磁性アタッチメント義歯は提供できません。自費診療ではインプラントにキーパーを装着して対応できますが、保険診療では天然歯の歯根が残っていることが絶対条件となります。この制限を患者説明時に明確に伝えないと、後々トラブルの原因になる可能性があります。
支台歯の条件も厳格です。適切な歯内療法が行われた歯であること、歯冠歯根比が適切であること、歯周組織が健全であることが求められます。歯周病で動揺のある歯や、根管治療が不十分な歯には適用できません。保険診療では限られた時間と材料で確実な成果を出す必要があるため、支台歯の選定には慎重な判断が必要です。
日本歯科医学会による磁性アタッチメント診療ガイドライン(適応症例の詳細基準が記載)
製作方法に関する制限は特に注意が必要です。キーパーの設置はダイレクトボンディング法に限定されており、従来の鋳接法は保険適用外となります。この制限により、技工士の作業工程も変更を余儀なくされました。
ダイレクトボンディング法では、キーパーと根面板を接着性レジンセメントで直接装着します。鋳接法と比較して、キーパーの変形や酸化被膜による脱落を防ぎ、安定した吸着力を発揮できるのがメリットです。ただし、接着操作の精度が予後を大きく左右するため、術者の技術レベルが問われます。
厳しいですね。
軟質材料を用いて床裏装を行った義歯も保険適用の対象外です。軟質裏装材は義歯床と粘膜の接触面を柔らかくして痛みを軽減する効果がありますが、磁性アタッチメントとの併用は認められていません。患者さんから「痛いから軟質裏装も一緒にやってほしい」と要望されても、保険診療では対応できないことを事前に説明する必要があります。
使用できる製品も限定的です。保険収載当初は「フィジオマグネット」のみが対象製品でしたが、現在では複数のメーカー製品が追加承認されています。それでも自費診療と比べると選択肢は少なく、症例によっては最適な製品を使えないケースもあります。製品選定の自由度は自費診療の大きなアドバンテージといえるでしょう。
磁性アタッチメントの保険点数を正確に把握することは、患者への費用説明において必須です。磁石構造体を使用する場合は460点、キーパー付き根面板を用いる場合は550点が算定されます。これは1個につきの点数なので、複数使用する場合は個数分を算定できます。
3割負担の患者さんの場合、磁性アタッチメント1個あたりの自己負担額は約2,000円から6,000円程度です。例えば上顎の残存歯4本にキーパーを装着し、対応する義歯内面に磁石構造体を4個埋め込んだ場合、磁性アタッチメント部分だけで8,000円から24,000円程度の負担となります。
ただし、この金額は磁性アタッチメント本体のみの費用です。義歯を新製する場合は別途、有床義歯製作料が必要になります。部分床義歯の製作料は1装置あたり約3,000円から10,000円(3割負担)、総義歯の場合は約10,000円から15,000円(3割負担)が目安です。これらを合計すると、磁性アタッチメントを使用した義歯治療全体の患者負担額は、ケースによって15,000円から40,000円程度になることが多いでしょう。
従来は自費診療で磁性アタッチメント1個あたり7万円から10万円かかっていたことを考えると、保険適用による患者負担の軽減効果は非常に大きいといえます。経済的理由で治療を諦めていた患者さんにも、質の高い義歯治療を提供できるようになったのが保険収載の最大のメリットです。費用面での説明時には、保険適用前後の価格差を示すと、患者さんの理解が深まります。
磁性アタッチメント保険点数の詳細(しろぼんねっと診療報酬情報)
磁性アタッチメント義歯を装着している患者がMRI検査を受ける際には、特別な注意が必要です。強力な磁場を使用するMRI装置の近くでは、磁性アタッチメントが画像に歪み(アーチファクト)を生じさせます。また、磁石部分が微量ながら発熱する可能性もあるため、MRI検査時には必ず義歯を外す必要があります。
問題は、キーパー側の対応です。義歯本体は取り外せますが、支台歯に装着されたキーパーは固定式のため、患者自身では取り外せません。MRI検査の範囲や撮影部位によっては、キーパーがアーチファクトの原因となり、正確な診断を妨げるケースがあります。特に頭頸部のMRI撮影では影響が大きく、場合によってはキーパーの一時的な除去が必要になることもあります。
このリスクを回避するには、磁性アタッチメント義歯を製作する前の段階で、患者さんの全身疾患や今後のMRI検査予定を十分に確認することが重要です。脳疾患、整形外科的疾患、悪性腫瘍などの既往があり、定期的なMRI検査が予想される患者さんには、他の治療法を検討する方が適切な場合もあります。
万が一MRI検査が必要になった場合の対応手順も、事前に患者さんへ説明しておくべきです。MRI撮影前には必ず義歯を外すこと、医療機関に磁性アタッチメント使用を申告すること、キーパー除去が必要な場合は歯科医院で対応することなどを、文書で交付しておくと後々のトラブル防止になります。特に高齢患者さんの場合、緊急時の対応を家族にも共有しておくと安心です。
磁性アタッチメント以外にも、アタッチメント義歯には複数の種類が存在します。それぞれの特性を理解することで、症例に応じた最適な選択が可能になります。
コーヌステレスコープは、内冠と外冠の二重構造で茶筒の原理を利用して義歯を固定する方式です。磁性アタッチメントと比較して、より強固な維持力が得られ、支台歯への側方力の分散にも優れています。ただし、支台歯を大きく削合する必要があり、高度な技術を要するため、自費診療でのみ提供されています。費用は1装置あたり50万円から80万円程度と高額ですが、長期的な予後の良さから根強い支持があります。
バーアタッチメントは、複数の支台歯をバーで連結し、義歯側のクリップで固定する方式です。支台歯が少数でも安定した義歯を製作できるのが特徴です。磁性アタッチメントよりも複雑な構造のため、こちらも自費診療となり、費用は30万円から60万円程度が相場です。インプラントオーバーデンチャーにもよく使用される方法で、固定性と可撤性のバランスに優れています。
基本です。
ノンクラスプデンチャーは金属のバネを使わない部分入れ歯で、審美性に優れていますが、アタッチメント機構を持たないため維持力では磁性アタッチメント義歯に劣ります。費用は10万円から30万円程度と、アタッチメント義歯の中では比較的リーズナブルです。若年層や審美性を重視する患者さんに人気がありますが、経年劣化による維持力低下が課題です。
それぞれの長所短所を踏まえた上で、患者さんの口腔内状況、経済状況、審美的要求、全身状態などを総合的に判断して治療法を提案することが、歯科医療従事者に求められます。保険適用の磁性アタッチメントは選択肢の一つとして非常に有用ですが、万能ではないことを認識しておく必要があります。
保険診療で磁性アタッチメント義歯を提供する際には、診療報酬請求上の留意点を正確に理解しておく必要があります。算定要件を満たさない請求は査定や返戻の対象となるため、細心の注意が求められます。
病名記載は「多数歯欠損」「遊離端欠損」など、適応症例に該当することが明確にわかるものを選択します。摘要欄には「磁性アタッチメント使用」と明記し、使用個数、装着部位、使用製品名を記載することが推奨されます。特に複数個使用する場合は、どの歯に装着したかを具体的に記載することで、査定を回避しやすくなります。
根面板の製作と装着は、通常の歯冠修復の手順に準じて算定します。支台築造、歯冠形成、印象採得、咬合採得、装着などの各処置を適切に算定する必要があります。ダイレクトボンディング法による装着時には、接着性レジンセメントの材料料も別途算定可能です。ただし、再装着の場合は算定できない点に注意しましょう。
有床義歯の製作過程でも、通常の義歯製作と同様に各段階を算定します。印象採得、咬合採得、試適、装着調整などの基本的な項目に加えて、磁性アタッチメント本体の点数を個数分算定します。義歯完成後の調整料も通常通り算定できますが、磁性アタッチメント特有の調整であっても、追加の点数はありません。
レセプトチェックを強化している保険者が増えているため、適応症例の判断が微妙なケースでは、事前に保険者へ問い合わせることも検討しましょう。特に地域によって審査基準が微妙に異なるケースもあるため、所属する歯科医師会や保険医協会の相談窓口を活用すると安心です。適切な請求は医療機関の経営安定にも直結するため、事務スタッフを含めたチーム全体での情報共有が重要です。