パタカラ体操だけで算定すると、ケアマネに同意を断られ加算ゼロになります。
口腔機能向上プログラムとは、高齢者を中心とした利用者の「食べる」「話す」「飲み込む」といった口腔機能の低下を早期に発見し、改善・維持を支援する介護予防サービスです。厚生労働省の定義では「要介護者の口腔機能が低下している状態を早期に発見して、機能維持さらには改善することにより、自分らしい生活の確立と自己実現を支援するもの」と位置づけられています。
なぜこのプログラムが重要かというと、口腔機能は全身の健康と直結しているからです。オーラルフレイル(口の衰え)が認められた場合、そうでない高齢者と比べて身体的フレイル発症リスクは約2.4倍、要介護認定リスクは約2.4倍、総死亡リスクは約2.1倍に上昇するというデータが報告されています。口腔は入り口です。
誤嚥性肺炎は高齢者の死因の上位を占める疾患であり、口腔機能の低下が直接的なリスク要因となります。細菌を含んだ唾液や食物が気管に入り肺に到達することで発症し、口腔内の衛生状態が悪ければ悪いほどリスクは高まります。歯科従事者として、こうした全身への影響を踏まえたプログラム提供が求められるわけです。
口腔機能向上プログラムの主な支援内容は以下の4本柱で構成されます。
これら4つを組み合わせることで、単独よりも効果が高まるとされています。つまり、複合的なアプローチが基本です。
口腔機能向上プログラムは、介護保険制度では「口腔機能向上加算」として評価されており、通所介護(デイサービス)・通所リハビリテーション(デイケア)・介護予防通所介護(総合事業)などで算定が可能です。歯科衛生士がいる施設では特に積極的に取り組むべき加算といえます。
参考リンク(厚生労働省による口腔機能向上の全体的な手引き・実施マニュアル):
口腔機能向上マニュアル ~高齢者が一生おいしく(厚生労働省)
口腔機能向上加算には「(Ⅰ)」と「(Ⅱ)」の2種類があります。2021年度の介護報酬改定で(Ⅱ)が新設され、科学的介護情報システム「LIFE」との連携が求められるようになりました。両者の最大の違いはLIFEへの情報提出の有無です。
単位数と算定上限回数は次のとおりです。
| 区分 | 単位数 | 算定上限(要介護1〜5) | 算定上限(要支援・総合事業) |
|---|---|---|---|
| 口腔機能向上加算(Ⅰ) | 150単位/回 | 月2回まで | 月1回まで |
| 口腔機能向上加算(Ⅱ) | 160単位/回 | 月2回まで | 月1回まで |
要介護1〜5の利用者であれば(Ⅰ)で最大300単位/月、(Ⅱ)で最大320単位/月が加算されます。(Ⅰ)と(Ⅱ)は同時算定できない点に注意が必要です。
口腔機能向上加算(Ⅰ)の算定要件は以下の4点をすべて満たすことが条件です。
重要なのは「摂食・嚥下機能に関する訓練の指導もしくは実施」を行っていない場合は、たとえ他の要件を満たしていても算定できないという点です。これが落とし穴の一つです。
(Ⅱ)を算定する場合はさらに、LIFEへの情報提出(計画作成月、計画変更月、および少なくとも3ヶ月に1回)が求められます。提出する情報は、利用者の基本情報・スクリーニング結果・口腔機能改善管理計画・実施記録などです。LIFEの提出期限は各対象月の翌月10日までとされています。期限は厳守です。
参考リンク(口腔機能向上加算の算定要件・単位数・よくある質問を詳解):
【よくわかる】口腔機能向上加算(Ⅰ)とは【2024年報酬改定対応】(QLC)
口腔機能向上加算は、すべての利用者に一律で算定できるわけではありません。対象者の選定が適切でないと、算定できないだけでなく実地指導で指摘されるリスクもあります。対象者の選定が大前提です。
算定対象となるのは、次の(イ)(ロ)(ハ)のいずれかに該当し、口腔機能向上サービスの提供が必要と認められる利用者です。
| 判断基準 | 具体的な内容 |
|---|---|
| (イ)認定調査票 | 嚥下・食事摂取・口腔清潔の3項目のいずれかで「1(できる・介助なし)」以外に該当する者 |
| (ロ)基本チェックリスト | 口腔機能関連の(13)(14)(15)の3項目のうち2項目以上が「1(はい)」に該当する者 |
| (ハ)その他 | 口腔機能が低下している、またはそのおそれがあると判断される者(医師・歯科医師・ケアマネ等からの情報提供含む) |
基本チェックリストの口腔3項目の内容を具体的に確認しておきましょう。「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」「お茶や汁物でむせることがありますか」「口の渇きが気になりますか」の3設問です。日々の会話のなかで自然に確認できます。
(イ)(ロ)の基準に該当しない場合でも、(ハ)として算定できるケースは多くあります。視認による口腔内の衛生状態の問題、主治医意見書に摂食・嚥下機能の低下が記載されている場合、ケアマネジャーからの情報提供による判断なども対象になり得ます。
一方で、以下の利用者は対象者の条件を満たしていても算定できません。
複数のデイサービスを利用している利用者は珍しくありません。利用者本人・家族・ケアマネジャーと情報連携し、他事業所での算定状況を確認することが算定前の必須ステップです。
参考リンク(対象者の選定基準・算定できないケースのQ&Aを網羅):
口腔機能向上加算とは|(Ⅰ)(Ⅱ)の違い・算定要件・計画書について(リハブクラウド)
実際のプログラムでは、まず事前アセスメントで利用者の口腔機能・衛生状態を把握し、個別の「口腔機能改善管理指導計画書」を作成します。計画に基づいてサービスを提供し、月1回のモニタリング・おおむね3ヶ月後の事後アセスメントへと続く一連の流れが基本です。
プログラムの具体的なトレーニング内容は、利用者の口腔機能評価の結果に応じて選択します。複数のトレーニングを組み合わせることで、単独実施より効果が高まるとされています。代表的なトレーニングは以下のとおりです。
注意すべき点として、パタカラ体操だけに頼るプログラムは評価が低くなりやすいことが現場データから明らかになっています。「テレビでもやっていた」「家でもできる」という利用者の声は現場でよく聞かれます。これは痛いですね。
エビデンスの観点から、プログラムには「舌や口唇の運動機能向上(Hakuta et al., 2009)」「嚥下機能の向上(大岡ら, 2007)」「唾液分泌量の増加(Ohara et al., 2015)」「味覚改善(Ohara et al., 2015)」などの効果が報告されています。さらに栄養改善との複合プログラムでは「日常生活自立度や生活の活力の改善(森下ら, 2017)」も報告されており、栄養改善加算との組み合わせによる相乗効果も期待できます。
口腔ケアの二本柱は「口腔内を清潔に保つこと」と「摂食・嚥下のトレーニング」です。この2つが揃ってはじめて、誤嚥性肺炎リスクの軽減と口腔機能の維持向上が期待できます。
参考リンク(唾液腺マッサージ・パタカラ体操・嚥下体操など実施方法の詳細を掲載):
口腔機能向上加算導入の手引き(東京都健康長寿医療センター研究所)
口腔機能向上加算は「算定しやすい加算」と言われながらも、通所介護事業所全体での算定率は(Ⅰ)(Ⅱ)合わせても約14%にとどまっています。これは意外ですね。介護報酬の中で取り組みやすいとされる加算でありながら、8割以上の事業所が算定できていない現実があります。
算定できない主な理由は3つに集約されます。
第一の原因は「利用者の同意が得られないこと」です。口腔内は敏感で、日常的に他者に見られたり触れられたりする場所ではありません。そのため拒否や非協力が生じやすく、特に認知機能が低下した利用者への説明・説得には時間と工夫が必要です。利用者の問題意識が低いことも大きな壁となります。
第二の原因は「ケアマネジャーの信頼を得られないこと」です。事業所が独自の基準で対象者をヒアリングしても、尺度に信頼性がなければケアマネジャーの同意を得ることは難しくなります。
第三の原因は「プログラムの内容が画一的であること」です。他の事業所と同様の「パタカラ体操だけ」のプログラムでは利用者の満足度が上がらず、「お金を払ってやってもらう意味があるのか」という声も出てきます。プログラムの質が算定継続の鍵です。
これらを踏まえると、算定を安定させるためのポイントは「個別性の高いアセスメント」「エビデンスに基づいたプログラム」「ケアマネジャーとの積極的な情報共有」の3点に絞られます。
また、見落とされやすい算定不可ケースとして「業務委託スタッフによるサービス提供」があります。加算算定には、事業所に雇用された言語聴覚士・歯科衛生士・看護職員(労働者派遣法に基づく紹介予定派遣を含む)が実施することが要件です。業務委託は認められません。
2024年度改定では口腔連携強化加算が新設され、歯科医療機関との連携がより重視されるようになりました。歯科医院に勤務する歯科衛生士が訪問介護や通所介護との連携に関わる機会も増えており、多職種連携の視点を持つことが一層重要になっています。多職種連携が今後の鍵です。
参考リンク(算定に関する失敗事例とケアマネジャーとの連携ポイントを解説):
口腔機能向上加算の算定ができない?意外な落とし穴と改善のポイント(ルネサンス)
ここでは検索上位記事ではほとんど取り上げられていない視点を紹介します。歯科医院・歯科診療所に勤務する歯科衛生士が、「介護保険の外」で口腔機能向上プログラムの知識を活かす方法です。
歯科診療の場では、75歳以上の高齢患者への口腔機能低下症の検査・診断・管理が診療報酬として評価されています(2018年新病名「口腔機能低下症」として保険収載)。歯科衛生士が行う歯科衛生実地指導料に対して、2024年度改定で新設された「口腔機能指導加算(12点)」を算定することで、より専門的な口腔機能訓練の実施と評価が可能になりました。
つまり、介護施設での口腔機能向上プログラムの実施経験を持つ歯科衛生士は、歯科診療所でも即戦力です。
具体的には、訪問歯科診療や外来での高齢患者に対して、以下のような関わりが可能です。
また、口腔機能向上プログラムの効果は「口腔単体」に留まりません。栄養改善プログラムとの複合実施で日常生活自立度・食欲・生活の活力の改善が報告されており、通所介護では栄養改善加算との組み合わせが収益面でも有効です。栄養と口腔は切り離せません。
介護施設の口腔機能向上プログラムと歯科診療所の口腔機能低下症管理は、名称や制度は異なっても「高齢者の口腔機能を守る」という目的は同じです。歯科従事者として両者の知識を持っておくことで、利用者・患者への質の高いケアの提供と、事業所の加算収益の両立が実現できます。これは使えそうです。
今後の人口動態を見ると、75歳以上人口は2030年まで増加が続く見通しであり、口腔機能向上への需要はさらに高まることが確実です。歯科従事者としてこの領域の専門性を今のうちに高めることは、キャリア上の大きな強みにもつながります。
参考リンク(オーラルフレイル対策の口腔体操・唾液腺マッサージの実施方法を日本歯科医師会が公開):
オーラルフレイル対策のための口腔体操(日本歯科医師会)
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