乳歯列期の患者に「歯周基本検査」を算定すると、全額返戻になります。
混合歯列期とは、乳歯と永久歯が口腔内に共存する6歳〜12歳ごろの時期を指します。この時期、歯式はいわば「2つの言語が混在した地図」のような状態になります。つまり、永久歯の番号体系(1〜8)と乳歯のアルファベット体系(A〜E)が1枚のカルテの中に同時に登場するのです。
日本の歯科臨床で標準的に使われているのはZsigmondy-Palmer(ジグモンディ・パルマー)方式です。永久歯は中央の前歯を「1番(中切歯)」として、奥歯方向に2番(側切歯)、3番(犬歯)、4番(第1小臼歯)、5番(第2小臼歯)、6番(第1大臼歯)、7番(第2大臼歯)、8番(第3大臼歯=親知らず)と数えます。
乳歯の表記はアルファベットを使います。中央の前歯から奥歯方向にA(乳中切歯)、B(乳側切歯)、C(乳犬歯)、D(第1乳臼歯)、E(第2乳臼歯)と5本で1セット。上下左右で合計20本の乳歯が、このA〜Eの記号で表されます。乳歯にはそもそも親知らずに相当する歯がありません。これが原則です。
| 記号 | 歯の名称 | 特徴 |
|---|---|---|
| A | 乳中切歯 | 最前部の乳歯 |
| B | 乳側切歯 | 中切歯の隣 |
| C | 乳犬歯 | 角のような形の乳歯 |
| D | 第1乳臼歯 | 奥から2番目 |
| E | 第2乳臼歯 | 最も奥の乳歯、後継は永久歯の5番 |
もうひとつ押さえておきたいのが、カルテへの記入方向です。歯式は患者と術者が対面していることを前提に書くため、向かって右側が患者の左側、向かって左側が患者の右側になります。左右反転が基本ルールです。これはパノラマX線写真と同じ向きになるように設計されており、レントゲンと歯式を並べて確認するときに合わせやすくなっています。
混合歯列の歯式を正確に書くには、「今この患者の口の中にある歯が乳歯か永久歯か」を一本ずつ確認する習慣が大切です。見た目だけでは判断が難しい場合もあるため、X線写真と照合しながら記入するのが安全です。
参考:歯式の書き方全般について(カルテ記入の基本ルールと乳歯記号の一覧を掲載)
歯科衛生士必見!歯式記号のカルテ記入やその一覧について紹介 – うえの歯科医院
歯式は歯の位置番号だけではありません。実際のカルテには、う蝕(虫歯)の状態、治療の有無、補綴物の種類など、さまざまな記号が歯番号に組み合わさります。これらを読み書きできることが、歯科従事者として最低限のベースラインです。
まずう蝕関連の記号を整理します。「C(カリエス)」が虫歯の総称で、進行度によってCO(要観察歯・初期段階)、C1(エナメル質までのう蝕)、C2(象牙質までのう蝕)、C3(歯髄に達したう蝕)、C4(歯冠崩壊・根のみ残存)の5段階に分かれます。混合歯列期の子どもの場合、乳歯のC4は保護者へのインフォームドコンセントが特に重要になります。
補綴物の記号も現場でよく使われます。CR(コンポジットレジン充填)、In(インレー)、On(アンレー)、FCK・FMC(全部金属冠)、HR(硬質レジン前装冠)、Br(ブリッジ)などが代表的です。混合歯列期では乳歯にFCKが入っているケースもあるため、「この歯はCなのか、それとも既にFCKが入っているのか」を正確に歯式に落とし込む必要があります。
歯周病関連では、P(歯周病)がP1・P2・P3と進行度別に表記されます。歯肉炎の初期段階はG(ジンジバイティス)で表すこともあります。混合歯列期の場合、萌出途上の歯の周囲は歯肉が不安定でプラークが蓄積しやすく、G・P1に該当する状態が見逃されやすい傾向があります。
| 記号 | 読み | 意味 |
|---|---|---|
| CO | シーオー | 要観察歯(初期う蝕) |
| C1〜C4 | シーワン〜シーフォー | う蝕進行度 |
| CR | シーアール | レジン充填 |
| FCK/FMC | エフシーケー/エフエムシー | 全部金属冠 |
| Br | ブリッジ | 連結補綴物 |
| G | ジー | 歯肉炎 |
| P1〜P3 | ピーワン〜ピースリー | 歯周炎の進行度 |
| ○(マル) | マル | 処置完了・健全歯 |
| ×(バツ) | バツ | 欠損歯・抜歯済み |
記号はすべて歯のイラストの外側に書くルールです。歯の図の内側には書きません。混合歯列では乳歯と永久歯が隣り合っているため、どの番号の歯に対応した記号なのかを視覚的に明確に書き分けることが重要です。
また、現在使用が認められていない略称をカルテに書くと、個別指導で指摘されることがあります。厚生労働省が「歯科の診療録及び診療報酬明細書に使用できる略称について(令和6年3月27日 保医発0327第7号)」を通知していますので、使用できる略称は必ずこの通知を参照して確認するようにしましょう。
混合歯列期の歯式に関わる実務で、最も現場でミスが起きやすいのが「歯周病検査の区分選択」です。知らずにやってしまうと、返戻の原因になります。
保険算定上のルールは明確です。乳歯列期(乳歯のみが存在する時期)の患者に対する歯周病検査は、「混合歯列期歯周病検査(P混検)」のみ算定可能とされています(歯科診療報酬点数表 D002(7))。つまり、乳歯列期の患者に歯周基本検査(歯周基本検査1・2・3区分)を算定することはできません。
これは直感に反するポイントです。「乳歯列期は混合歯列期じゃないのでは?」と思う人もいますが、保険のルールとしては「乳歯列期もP混検で算定する」と定められています。厚生労働省の告示(別添2・D002関係)でも明記されています。
さらに注意が必要なのが、混合歯列期の患者に歯周基本検査を行う場合の歯数カウントです。永久歯の歯数に応じた算定区分で計算しなければなりません。乳歯は、後継永久歯が先天性に欠如している場合を除いて、歯数には含めないのが原則です。
つまり、混合歯列期の患者の口腔内に乳歯が10本、永久歯が12本ある場合、歯周基本検査の算定区分は「永久歯12本分」を基準にします。乳歯10本を足して22本分で算定すると、それが返戻の原因になるわけです。
一方で例外があります。後継永久歯が先天性欠如の場合、その乳歯は永久歯の歯数に含めて差し支えないとされています(しろぼんねっとD002 留意事項)。先天性欠如歯は日本人で約10人に1人に見られ、実は珍しくありません。この例外を知らないと、今度は逆に過少算定してしまうリスクがあります。
厚生労働省「保険診療確認事項リスト(歯科)令和7年度改訂版」でも、混合歯列期の患者に対して歯周基本検査を画一的に選択している不適切な例、また永久歯の歯数ではなく乳歯を含めた歯数で算定している不適切な例が繰り返し指摘されています。
参考:混合歯列期歯周病検査の算定要件、P混検の対象・点数・注意点
混合歯列期歯周病検査とは?年齢・算定要件・経営メリットまで解説 – ORTC
参考:厚生労働省の個別指導でも繰り返し指摘される歯周基本検査の算定留意事項(最新官報準拠)
保険診療確認事項リスト(歯科)令和7年度改訂版 – 厚生労働省保険局医療課
混合歯列期は「動いている時期」です。定期通院している患者の口腔内は、来院のたびに歯式が変化します。乳歯が抜け、永久歯が萌出し、そのたびに歯式を更新する必要があります。この「歯式の変化」を正確にレセプトに反映させないと、審査の場でひっかかります。
同一初診期間内に永久歯または乳歯が萌出して、前回の歯周病検査時と歯数が変わった場合は、レセプトの摘要欄に「永久歯または乳歯が萌出したため歯列の変更」と記載することが求められます。これを省略すると、審査機関側には「なぜ歯数が変わったのか」が説明できません。返戻の原因になります。
また、C管理(歯科疾患管理料)を算定中の患者で、歯の交換期に歯式変更があった場合も同様で、レセプト摘要欄にその旨を記載しながら継続病名で管理を続けることが求められます(愛知県保険医協会 歯科保険請求Q&A)。
実務上のポイントをまとめると、次のようになります。
歯科レセコン(レセプトコンピュータ)を使用している場合、歯式の入力は電子カルテと連動しているシステムが多いですが、自動更新されない場合もあります。変化があったらその都度手動で確認・修正する習慣が大切です。
また、厚生労働省の確認事項リストには「診療録は診療を担当した保険医が記載すること」と明記されており、歯科衛生士や歯科助手が代わりに記載する場合は、必ず保険医が内容を確認して署名または記名押印を行うことが求められます。これも歯式を含むカルテ記載全体に適用されるルールです。
「歯式はZsigmondy-Palmer方式だけ覚えればいい」と思っているスタッフは少なくありませんが、実際の現場ではFDI方式(国際歯科連盟方式)の表記も出てきます。意外ですね。紹介状や学術論文、歯科用システムの設定画面など、FDI方式が使われている場面は確実に存在します。
FDI方式では、口腔を4つの象限(クアドラント)に分け、2桁の数字で1本の歯を表します。最初の数字が象限を示し、右上=1、左上=2、左下=3、右下=4と割り振られます。2桁目が歯の位置番号(前歯から1〜8)です。
たとえば「16」はFDI方式で「右上の第1大臼歯(6番)」を意味します。Palmer方式での「右上6番」と同じ歯です。乳歯の場合は最初の数字が5(右上)・6(左上)・7(左下)・8(右下)となり、「55」であれば「右上の第2乳臼歯(E)」に相当します。
| 方式 | 右上6番(第1大臼歯) | 右上E(第2乳臼歯) | 主な使用場面 |
|---|---|---|---|
| Palmer方式 | 右上6 | 右上E | 日本の一般歯科臨床、カルテ |
| FDI方式 | 16 | 55 | 国際論文、電子カルテシステム、紹介状 |
混合歯列の患者で特に注意が必要なのは、電子カルテのシステムによってデフォルト表示方式が異なるケースがあることです。ある患者の紹介状をFDI方式で受け取り、院内カルテをPalmer方式で記入している場合、変換ミスが起きると全く別の歯に処置を記録することになりかねません。
そのようなリスクを防ぐために、院内で「どちらの方式を基準とするか」を明確にルール化し、スタッフ間で共有しておくことが有効です。「方式の違いを認識している」というだけでも、読み間違いによるトラブルを大幅に減らせます。
参考:FDI方式とPalmer方式の詳しい比較と乳歯の表記ルール
歯の番号の数え方・表記方法|FDI式からわかりやすい呼び方まで – 予防歯科.net
混合歯列の歯式を正確に記録することが、口腔機能発達不全症(以下、口腔機能不全症)の診断・算定とも密接につながっています。これはあまり語られないポイントです。
口腔機能不全症は2018年の診療報酬改定で新設された疾患名で、18歳未満の小児(混合歯列期の子どもを含む)に対して保険算定できます。診断の流れとして「咬合の状態(乳歯列・混合歯列・永久歯列のどの段階か)」を確認し、歯列と咬合の評価を行うステップがあります。この評価の根拠は、正確な歯式の記録に基づいています。
つまり、混合歯列の歯式が不正確または未更新であると、口腔機能不全症の診断根拠が曖昧になり、算定の正当性を問われるリスクにつながります。厚生労働省の確認事項リストにも、診断根拠のないレセプト病名を避けることが明記されています。
逆に言えば、混合歯列の歯式を丁寧に管理している歯科医院は、口腔機能不全症の診断からリコール管理、さらには矯正相談への誘導まで、一貫した患者管理ができるという強みを持ちます。
具体的には以下のような流れが考えられます。
混合歯列期の子どもは、歯が次々と生え変わる「変化の連続」にあります。その変化を1枚の歯式で追い続けることが、子どもの口腔の成長を支える記録として機能します。単なる「記号の羅列」ではなく、成長の地図として捉える視点が、この時期の歯科診療では特に重要です。
参考:口腔機能発達不全症の診断フローと混合歯列での評価ポイント
口腔機能発達不全症の診断・保険算定・検査・訓練方法 – GC歯科向け情報