永久歯列が完成しても、歯根は未完成のまま矯正すると歯根吸収リスクが2倍以上になります。
永久歯列の完成とは、親知らず(第三大臼歯)を除く28本の永久歯がすべて萌出し、上下が咬合した状態を指します。一般的には、第二大臼歯が萌出する11〜13歳頃がその目安です。
最初の永久歯が口腔内に現れるのは6歳前後です。この時期に萌出する第一大臼歯(6歳臼歯)と下顎中切歯が、永久歯列の土台となります。その後、8〜9歳にかけて側切歯・犬歯が、9〜12歳にかけて第一小臼歯・第二小臼歯が順次萌出します。つまり歯の生え変わりは、おおよそ6歳から12歳の約6年間にわたって続くわけです。
萌出の順序には個人差があります。日本小児歯科学会の調査では、上顎の萌出順序は「6→1→2→4→3→5→7」、下顎では「1→6→2→3→4→5→7」が標準とされており、1年前後のズレは正常の範囲内です。臨床でこの順序から外れていたとしても、それだけで萌出異常とは判断しません。
意外ですね。
最後に萌出する第二大臼歯(12歳臼歯)が上下ともに咬合することで、永久歯列の完成となります。なお、第三大臼歯(親知らず)は17〜24歳頃に萌出するケースがあり、これは永久歯列完成後の出来事として扱います。
以下に各永久歯の萌出時期をまとめます。
| 歯種 | 上顎 萌出時期 | 下顎 萌出時期 |
|---|---|---|
| 第一大臼歯 | 6歳 | |
| 中切歯 | 6〜7歳 | 6歳 |
| 側切歯 | 8歳 | |
| 犬歯 | 10〜11歳 | 9〜10歳 |
| 第一小臼歯 | 9〜10歳 | |
| 第二小臼歯 | 10〜11歳 | |
| 第二大臼歯 | 12〜13歳 |
参考:日本歯科医師会「テーマパーク8020 歯はいつ頃からできますか」
日本歯科医師会 公式|乳歯・永久歯の萌出時期・歯胚形成時期の詳細データ
歯列が完成した=治療を始められると考えてしまうのは、歯科従事者でもよくある誤解です。これが原因で、臨床上のリスクが見落とされることがあります。
永久歯が萌出しても、歯根が完成するまでにはさらに2〜3年かかります。例えば第二大臼歯は12〜13歳頃に萌出しますが、歯根が完成するのは14〜16歳頃です。歯根完成は萌出時期+約3年、が目安です。
歯根未完成の歯に強い矯正力をかけると、歯根吸収(歯根が短くなること)のリスクが高まるとされています。歯根が完成した成人に対して矯正を行う場合と比べて、歯根未完成の歯は移動による吸収リスクが異なり、一部の文献では成人の方が吸収の程度が大きくなりやすいとも報告されています。つまり、萌出直後の歯根未完成歯に強い垂直的な力をかけることには注意が必要です。
「萌出した=使える」ではありません。
咬合誘導の観点では、歯根未完成の歯に垂直的な力をかけることは避けるべきとされており、成長期には頬側へのブラケット装着も慎重に判断する必要があります。歯列の完成と歯根の完成、この2つを切り離して考えることが、安全な臨床管理の出発点です。
歯根の完成を確認するには、パノラマX線写真が最も実用的です。歯根の完成状態を評価したうえで矯正力の適否を判断するフローを、日常のプロトコルに組み込んでおくと見落としを防げます。
参考:歯根吸収と矯正治療のリスクに関する解説
矯正治療における歯根吸収のリスクとは?症状と治療法も解説(ortho-dontic.net)
臨床現場で永久歯列の完成度を評価するときに役立つのが、ヘルマン(Hellman)の咬合発育段階です。小児歯科で広く使われる指標で、口腔内の状態を萌出状況から体系的に分類できます。
ヘルマンの歯齢は、萌出開始をC(commenced)、萌出完了をA(attained)と定め、ⅠからⅤのステージで発育を評価します。永久歯列の完成に関わる主なステージは以下のとおりです。
これが原則です。
ヘルマンの咬合発育段階は、保険診療上の装置選択にも影響します。例えばリンガルアーチは、ⅢA(第一大臼歯・前歯萌出完了期)以降に使用可能となり、ⅢB(側方歯群交換期)では特に推奨されています。一方、ⅡA(乳歯咬合完成期)ではディスタルシューが適応となるなど、ステージに応じた装置の使い分けが求められます。
患者さんの口腔内を見たとき、「今どのステージか」をヘルマンの歯齢で即座に評価できると、咬合誘導の方針立案がスムーズになります。パノラマX線写真と口腔内の状態を合わせて確認するのが基本です。
参考:ヘルマンの咬合発育段階の詳細表と保険上の注意点
ファーストナビ歯科衛生士|ヘルマンの咬合発育段階と歯胚形成時期の一覧表
永久歯列の「完成」を前提に患者管理をしていると、気づかぬうちにリスクを見落とすことがあります。それは、永久歯の先天性欠如です。
日本小児歯科学会が全国7大学・15,544名を対象に実施した疫学調査では、永久歯の先天欠如は10.09%に確認されました。男子9.13%、女子10.98%で、女子にやや多い傾向があります。約10人に1人という割合です。
欠如しやすい歯種には傾向があります。
欠如は1歯の場合が5.22%と最も多く、2歯欠如は2.93%、3歯以上の欠如はそれぞれ1%未満です。欠如する歯の位置によって、残存乳歯の管理・保隙・矯正計画が大きく変わります。これは使えそうです。
乳歯が長期間残存しているケースでは、その下の永久歯の有無をパノラマX線写真で確認することが重要です。「乳歯がなかなか抜けない」という主訴の子どもの中に、後継永久歯が先天的に存在しないケースが含まれています。7歳以上では歯冠部の石灰化がほぼ確認できるため、この年齢以降のパノラマ撮影で先天欠如の有無をスクリーニングするのが現実的です。
6歯以上の永久歯先天欠如がある場合は、健康保険での矯正治療が適用されます。5本以下では自費になるため、保護者への早期の情報提供と適切な紹介のタイミングが、患者・保護者の経済的負担の軽減につながります。
参考:日本小児歯科学会の先天欠如に関する全国調査データ
日本歯科医師会 テーマパーク8020|永久歯先天欠如の発生頻度調査(日本小児歯科学会)
永久歯列の完成に向けた管理では、リーウェイスペースの理解が欠かせません。リーウェイスペースとは、乳歯の側方歯群(乳犬歯・第一乳臼歯・第二乳臼歯の3本)の近遠心幅径の合計と、それに対応する永久歯(犬歯・第一小臼歯・第二小臼歯)の幅径合計の差を指します。
この差は、上顎で約1mm、下顎で約3mmです。単純に聞こえますが、下顎の3mmは臨床的にとても大きな意味を持ちます。乳歯が正常に残存していれば、このスペースを活用することで軽度の叢生は矯正装置なしに解消されることがあるのです。
つまり、早急に装置を使うほどでもないケースがある、ということですね。
リーウェイスペースをうまく活用するために重要なのが、第二乳臼歯(E)の管理です。第二乳臼歯はリーウェイスペース最大の提供源であり、早期脱落するとこのスペースが失われ、第一大臼歯が近心移動して叢生や咬合異常を招くリスクがあります。第二乳臼歯のむし歯管理が、永久歯列の完成に直結するわけです。
咬合誘導において、下顎はリーウェイスペースが大きいため、Eさえ残存していれば適切な咬合誘導が可能という考え方があります。一方で上顎のリーウェイスペースは1mmと小さく、スペース管理の余裕が少ないため、保隙装置の選択や介入タイミングがよりシビアになります。
保隙の手段として、混合歯列期にはリンガルアーチが有効です。ⅢB(側方歯群交換期)での使用が特に推奨されており、永久歯列の完成に向けたスペース管理の主力装置となっています。
参考:リーウェイスペースと永久歯列完成期の咬合誘導について
島矯正歯科クリニック|歯の生え変わりと歯ならびの成長変化・リーウェイスペースの解説
歯科従事者の間でも見落とされやすいのが、永久歯列の完成と顎骨の成長終了のタイムラグです。これが軽視されると、矯正治療の結果が後戻りしたり、治療後に咬合が変化するリスクに気づけないまま患者を管理することになります。
広島県歯科医師会の資料によると、中学生の時期に第二大臼歯が萌出して永久歯列が完成したあとも、顎骨の成長は身長の伸びが止まるまで続くとされています。身長のピークは女子で14〜15歳、男子で16〜17歳頃とされており、永久歯列の完成(12〜13歳)からさらに数年間、顎骨は成長し続けることになります。
これは少し驚きですね。
例えば、思春期スパートと呼ばれる急激な成長期に下顎骨が前方成長すると、矯正治療後の咬合が変化してしまう場合があります。永久歯列が完成した直後に成人矯正を開始しても、顎の成長が終わっていなければ治療後に再び歯並びが変化するリスクがあるのです。
このリスクを正確に評価するには、暦年齢だけでなく「骨年齢(skeletal age)」も確認することが有効です。手のX線写真から骨端線の状態を確認する方法が代表的で、顎骨の成長がほぼ終了しているかどうかを判断する補助情報として活用されています。
患者に対して矯正の開始時期を説明する際には、「永久歯が生えそろいましたよ」だけでなく、「顎の成長がまだ続いている可能性があります」という視点を加えることが大切です。これが条件です。
特に男性患者で身長の伸びが継続している場合や、反対咬合(下顎前突)など骨格性の問題を含む症例では、治療開始を急がず骨格成長の落ち着きを確認してから介入することを検討します。
参考:広島県歯科医師会による歯列咬合マニュアル(顎骨成長と永久歯列完成の関係)
広島県歯科医師会|子どもの健全な発育のための歯列咬合マニュアル(PDF)