発症した子どものうち85%に明確な誘因があり、歯科の関与が転帰を左右します。
歯科情報
機能的嚥下障害とは、口腔・咽頭・食道に器質的な異常が存在しないにも関わらず、嚥下動作が正常に行えなくなる状態を指します。小児の摂食障害全体のうち約2割を占めるとされており、決してまれな病態ではありません。
成人における機能的嚥下障害は脳卒中後の麻痺や薬剤性の筋機能低下が主因となることが多いですが、小児の場合は性質が異なります。小児では「物がのどに詰まった」「近くで誰かが吐くのを見て怖くなった」といった心理的・体験的なきっかけによって、不安から食物を摂取できなくなるケースが多く報告されています。こうした誘因が確認された症例は全体の85%に上るとされており(金原出版「小児科」65巻9号、2024年)、心因性の要素が強い病態であることがわかります。
つまり心因性が中心です。
発症年齢は2〜19歳と幅広く、平均8.9歳で発症するとされています。成人の摂食障害と比べると年齢が低く、また男性の割合が33%と比較的高いことも特徴のひとつです。神経発達症(発達障害)の併存も31%に認められており、背景に発達の問題が隠れていることも少なくありません。
歯科医療従事者として重要なのは、この障害が「口の問題」に見えて実際は心理的な問題を核としている点です。口腔内を診察するだけでは気づきにくく、問診や保護者からの聞き取りで「なぜ食べられなくなったのか」という経緯を把握することが、早期発見への第一歩となります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象年齢(報告例) | 2〜19歳(平均8.9歳) |
| 摂食障害全体に占める割合 | 約2割 |
| 男性の割合 | 約33% |
| 発症の誘因あり | 約85% |
| 神経発達症の併存 | 約31% |
| 3か月以内に初診 | 約67% |
参考:小児の機能的嚥下障害の詳細な臨床データについては以下を参照してください。
機能的嚥下障害の診断と治療(小児科 65巻9号)- 医書.jp
小児の嚥下障害を正確に評価するためには、まず正常な嚥下発達の過程を理解することが欠かせません。
人は生まれてすぐ、哺乳反射によって食物を嚥下しています。この哺乳時の飲み込み方を「乳児嚥下」と呼びます。乳児嚥下では口を開いたまま顎を閉じない状態で嚥下が行われ、主に原始反射によって制御されます。
乳児嚥下が残存しているということです。
これに対し、離乳期を経て獲得されていくのが「成人嚥下(成熟嚥下)」です。口唇が閉鎖し、顎の動きが止まった状態で嚥下が行われる成熟嚥下は、9歳ごろにようやく完成するとされています。つまり、幼少期に「飲み込みが下手」と感じられる様子があっても、発達段階として正常な範囲内であるケースも多いのです。
歯科臨床で問題となるのは、乳児嚥下の名残である「舌突出嚥下(異常嚥下癖)」が学童期以降にも残存しているケースです。嚥下時に舌が前歯の間や上下の前歯舌面に圧接される状態が続くと、舌癖が固定化し、開咬や前突といった歯列・咬合の異常に直結します。これが口腔機能発達不全症の嚥下機能不全の典型的な所見です。
また、機能的嚥下障害と発達段階の問題は混同されやすいため、「いつから」「どんなきっかけで」食べられなくなったかを確認することが、両者を区別するための重要な鑑別ポイントとなります。
参考:昭和大学の研究による摂食嚥下機能の獲得プロセスと評価については以下に詳しい記述があります。
2018年4月の診療報酬改定により、「口腔機能発達不全症」が保険収載されました。これは15歳未満の小児において、食べる機能・話す機能・その他の機能(呼吸など)が正常に発達していない状態を評価・管理するための病名です。機能的嚥下障害との関連は非常に深く、嚥下機能不全は口腔機能発達不全症の評価項目のひとつに明確に含まれています。
これは使えそうです。
日本歯科医学会「小児の口腔機能発達評価マニュアル」によれば、嚥下機能発達の不全は「成人嚥下(成熟嚥下)の発達に影響を及ぼし、舌癖により歯列・咬合の発達、口唇閉鎖機能発達を抑制する可能性がある」と明記されています。つまり、嚥下の問題を放置することは、歯並びや咬合に直接的な悪影響を及ぼすリスクがあるということです。
歯科医療の立場から見ると、嚥下機能の不全は単に「食べられない」という問題にとどまらず、以下のような口腔への影響を引き起こします。
特に、機能的嚥下障害の子どもは「のどを通る感覚への不安」から食物の形態が制限されやすく、軟食や流動食に偏りがちです。これが咀嚼機能の低下・顎骨への刺激不足につながり、歯列不正をさらに悪化させるという悪循環に陥ることもあります。
口腔機能発達不全症として保険算定が可能な場合は、積極的に活用することで継続的な管理・指導の枠組みが整います。診断と算定の詳細については日本小児歯科学会や各大学附属病院の情報を確認しておくことが望ましいです。
参考:口腔機能発達不全症の診断基準と保険算定の詳細については以下が参考になります。
歯科医療従事者が機能的嚥下障害の小児と向き合う際、まず必要なのは「器質性か機能性か」の見極めです。口腔内に明らかな器質的異常(口蓋裂・舌小帯異常・歯牙欠損など)がなく、かつ発症に何らかの心理的誘因が疑われる場合、機能的嚥下障害の可能性を念頭に置いた対応が求められます。
評価が基本です。
歯科で実施できる初期評価としては、以下のような手順が有効です。
重要なのは、機能的嚥下障害の多くが「怖くて飲み込めない」という心理的な訴えを主体とする点です。口腔内の機能に異常がなくても不安が強い場合は、歯科単独での対応には限界があります。こうした場合は、小児科・耳鼻咽喉科・心療内科・大学病院の摂食嚥下専門外来への紹介を早めに検討することが患者さんのためになります。
実際の報告によれば、外来での診断・説明と経過観察のみで3か月以内に終了できた症例は全体の31%でした。入院が必要になったのは24%、経管栄養に至ったのは15%と報告されており、軽症から重症まで幅広いことがわかります。
歯科衛生士が担える役割としては、食形態のアドバイスや保護者への生活指導、嚥下体操などの間接訓練のサポートが挙げられます。特に「食べる行為を怖いと感じさせないための環境づくり」への助言は、歯科衛生士が日常的な保護者への指導のなかで自然に提供できる大きな強みです。
参考:地域歯科医院での摂食嚥下リハの実践例については以下の記事が参考になります。
歯科医院で取り組む「食支援」のススメ(Osada Zoom Up Media)
機能的嚥下障害と診断された小児の転帰について、ひとつの重要な事実があります。適切な診断・説明・経過観察が行われれば、摂食障害としても不安障害としても問題のない状態に回復した症例は全体の67%に上るとされています(金原出版「小児科」65巻9号)。早期介入の重要性を示すデータです。
回復率が高いということですね。
しかし、初診まで3か月以上を要したケースや入院・経管栄養に至ったケースも少なくありません。問題は「誰が最初に気づくか」という点です。地域の歯科医院は乳幼児健診や定期管理を通じて小児と長期的な関係を持っており、保護者が最初に「食べない・食べられない」という悩みを打ち明ける場になることがあります。この初期の「気づき」の場として機能できることが、歯科の独自の強みです。
多職種連携の観点では、小児の機能的嚥下障害には小児科・耳鼻咽喉科・言語聴覚士(ST)・管理栄養士・心療内科などが関わります。歯科医師・歯科衛生士は口腔機能の専門家として、この連携の中でおもに以下の役割を担います。
連携のポイントは、「紹介で終わり」にしないことです。専門医での指導内容を歯科でも把握し、保護者に対して継続的な声かけ・確認を行うことが回復を後押しします。定期的な口腔機能の再評価と記録の共有が、チームとしての介入の質を高めます。
また、歯科が担える「もうひとつの役割」として、食事場面の環境整備があります。机・椅子の高さ、食具の選択、一口量の調整など、食べる行為の安全性・快適性を高める具体的なアドバイスは、機能的嚥下障害の子どもの不安を軽減するうえで大きな意味を持ちます。「おいしく楽しく食べる口を整える」という歯科の本来の使命と、機能的嚥下障害への支援は、本質的に同じ方向を向いているといえます。
参考:食べる機能に困りごとのある子どもと家族への支援の詳細については以下の資料が参考になります。
食べる機能に困りごとのあるこどもと家族への支援(こども家庭庁 研修資料)

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