訪問歯科診療の介護保険と医療保険の使い分け完全ガイド

訪問歯科診療で介護保険と医療保険はどう使い分けるべきか?算定ルールや施設種別ごとの適用条件、歯科衛生士単独訪問の請求方法まで、歯科医従事者が押さえるべき実務ポイントを徹底解説。あなたの請求は本当に正しいですか?

訪問歯科診療の介護保険・医療保険を正しく使い分ける実務ガイド

特養入所者に居宅療養管理指導(介護保険)を算定すると、全額返戻になります。


📋 この記事の3つのポイント
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治療は医療保険・指導は介護保険が基本

訪問歯科の診察・治療はすべて医療保険で算定。口腔ケアや療養指導などは介護保険(居宅療養管理指導)が優先適用されます。

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施設種別で算定できる保険が変わる

訪問先が特養・老健・介護医療院であれば介護保険の居宅療養管理指導は算定不可。施設種別の確認を怠ると返戻・監査につながります。

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16km超の訪問は全額自費リスクあり

患者希望で歯科医院から半径16km超の場所に訪問した場合、保険請求は原則不可。事前説明なしだと医院側が全額負担するリスクがあります。

歯科情報


訪問歯科診療における介護保険と医療保険の基本的な役割の違い


訪問歯科診療では、「医療保険」と「介護保険」の2つの保険制度が絡み合います。初めて訪問歯科に取り組む歯科医従事者ほど、「どちらを使えばいいのか」と迷うケースが少なくありません。


結論から言えば、治療行為には医療保険、療養管理・指導には介護保険というのが基本の原則です。


医療保険が適用されるのは、いわゆる「病気を治す」目的の行為全般です。虫歯治療・抜歯・義歯の作製や修理・歯周病処置など、歯科医院の外来診療で行う内容を訪問の場でも実施する場合、その費用はすべて医療保険で算定します。訪問に際して算定される「歯科訪問診療料」も医療保険の範囲内です。


一方の介護保険は、要介護・要支援認定を受けた方が「在宅での生活を維持するためのサポート」を受ける制度です。訪問歯科においては「居宅療養管理指導」という介護保険サービスが該当し、歯科医師歯科衛生士が自宅や施設を訪問して、療養上の管理や指導を行った際に算定します。具体的には口腔ケア・嚥下リハビリ・家族への歯磨き指導・ケアマネへの情報提供などが含まれます。


つまり医療保険と介護保険が原則です。そして重要なのは、1回の訪問の中でこの2つを同時に「目的別で併用」するのが、訪問歯科の標準的な運用形態だという点です。例えば、歯科医師が入れ歯を調整し(医療保険)、その後に歯科衛生士が口腔ケアと家族へのブラッシング指導を行った(介護保険)場合、同一訪問で2つの保険を使い分けて算定します。これは「混合診療」とは異なり、目的が明確に別れているため問題なく認められます。


整理すると「治療=医療保険、指導・ケア=介護保険」が基本です。


介護保険を使える対象者の条件も確認しておきましょう。介護保険で居宅療養管理指導を算定するには、患者が要支援または要介護認定を受けていること、かつ介護保険が適用される居宅・居住系施設に住んでいることが必要です。介護保険証と負担割合証の確認も算定前に必須となります。


厚生労働省「居宅療養管理指導」の算定要件PDF(訪問時の条件・算定方法の公式資料)


訪問歯科診療の保険算定は施設種別で変わる──特養・老健では介護保険が算定できない

訪問歯科の算定で最も誤りが多い落とし穴のひとつが、訪問先の施設種別による算定可能な保険の違いです。


「介護認定を受けている患者なら居宅療養管理指導(介護保険)を算定できる」と思っている方は多いですが、これは正確ではありません。施設の種類によって、介護保険での算定が認められない場合があります。これは意外ですね。


下表に、施設種別ごとの算定適用保険をまとめます。
























訪問先の施設・場所 歯科訪問診療料(医療保険) 居宅療養管理指導(介護保険)
患者の自宅・有料老人ホーム・グループホームなど(居住系施設) ✅ 算定可 ✅ 介護認定があれば算定可
介護老人福祉施設(特養)・介護老人保健施設(老健)・介護医療院 ✅ 算定可 ❌ 算定不可(医療保険のみ)
病院・診療所 ✅ 算定可 ❌ 算定不可(医療保険のみ)


特養・老健・介護医療院に入所している患者は、施設の介護サービスに包括されているため、居宅療養管理指導は算定できません。算定できるのは医療保険(歯科疾患在宅管理料や訪問歯科衛生指導料)に限られます。施設種別の確認を怠ると返戻になります。


実務上のポイントは、訪問前に必ず施設名と施設種別の両方を確認することです。「有料老人ホーム」と「介護老人保健施設(老健)」は名称が似ているように聞こえますが、算定ルールは全く異なります。有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅は居住系施設として介護保険算定が可能ですが、老健は介護保険施設として介護保険の居宅療養管理指導は不可となります。


施設との連絡を密に取り、入所先の施設種別を事前に確認する習慣を徹底することが、算定ミスや返戻リスクを下げる第一歩です。施設ケアマネへの確認メモを毎回作成するなど、チェックリストを運用することを検討してみてください。


訪問歯科診療で介護保険証が必要な施設区分と保険証の有効期限の管理法(実務向け詳細解説)


訪問歯科診療の歯科訪問診療料──20分ルールと点数体系を正しく理解する

訪問歯科における医療保険の中核となるのが「歯科訪問診療料」です。算定点数は、同一建物に居住する患者の人数と、1人あたりの診療時間によって決まります。


2024年の診療報酬改定では、区分がより細分化されました。現行の点数体系は以下のとおりです。








































区分 同一建物の患者数 20分以上の点数 20分未満の点数
歯科訪問診療料1 1名 1,100点(時間要件なし)
歯科訪問診療料2 2〜3名 410点 287点
歯科訪問診療料3 4〜9名 310点 217点
歯科訪問診療料4 10〜19名 160点 96点
歯科訪問診療料5 20名以上 95点 57点


2024年改定から、歯科訪問診療料1(患者1名)については診療時間に関わらず1,100点を算定できるようになりました。これは大きな変更点です。


一方で訪問診療料2〜5については、診療時間が20分以上か未満かで点数が変わります。例えば同じ建物に2〜3名を診療する場合、20分以上なら410点ですが、20分未満になると287点まで下がります。1点=10円換算のため、患者1人あたり1,230円の差が生じます。


「20分」には何が含まれるか、逆に何が含まれないかを正確に把握することが重要です。移動時間・準備・後片付け・訪問歯科衛生指導の時間はカウントされません。純粋に医師が診療行為を実施した時間のみが対象です。これだけ覚えておけばOKです。


また、施設基準の届出の有無によっても算定できる点数が大きく異なります。届出なしでは初診267点・再診58点しか算定できません。届出ありでは歯科訪問診療料1〜5(最大1,100点)が算定可能となり、各種加算も算定できるようになります。現場での収益性を高めるためには、地方厚生局への施設基準届出は早期に行うべきです。


厚生労働省「令和6年度診療報酬改定の概要【歯科】」(2024年改定の公式概要資料)


訪問歯科診療における介護保険の居宅療養管理指導費──算定条件と月単位計算の注意点

介護保険で算定する「居宅療養管理指導費」は、医療保険の歯科訪問診療料とは計算の仕組みが根本的に異なります。この違いを正確に理解していないと、算定ミスや請求漏れの原因になります。


医療保険の点数は「1日単位」で計算されますが、介護保険の居宅療養管理指導は「月単位」で算定します。つまり、その月に同一建物内で何人に指導したかで1回あたりの報酬単位が変わる、という仕組みです。


歯科医師が実施する居宅療養管理指導費の単位数(介護保険)は下表のとおりです。




























サービス区分 単一建物居住者の人数 単位数(1回あたり) 月の算定上限
歯科医師居宅療養管理指導Ⅰ 1名 516単位 月2回まで
歯科医師居宅療養管理指導Ⅱ 2〜9名 486単位 月2回まで
歯科医師居宅療養管理指導Ⅲ 10名以上 440単位 月2回まで


歯科衛生士が実施する場合は、単一建物1名なら362単位、2〜9名なら326単位、10名以上なら295単位で、月4回まで算定可能です。


ここで注意が必要なのが「算定日」のルールです。介護保険の居宅療養管理指導は、歯科訪問診療料を算定した日に限り算定できます。また、歯科衛生士による訪問歯科衛生指導料(医療保険)と、介護保険の居宅療養管理指導は、同日には重複して算定できません。


さらに見落としがちな制限として、「1名の利用者に対して居宅療養管理指導を算定できる歯科医師は1名まで」というルールがあります。既に別の歯科医師が同患者に対して算定していれば、後から訪問した歯科医師は算定できないということです。これは厳しいところですね。


算定条件が複雑に思える場合は、訪問前にチェックリスト形式で「施設種別・介護認定の有無・既算定有無・訪問日の診療料算定状況」を確認するフローを作成すると、実務上のリスクを大きく減らせます。


日本訪問歯科協会「歯科衛生士がいることで算定できる報酬」(居宅療養管理指導の単位数・実務解説)


訪問歯科診療の保険請求で見落としやすい「16kmルール」と施設以外の算定制限

訪問歯科における保険請求でもう一つ忘れてはならないのが、「半径16kmルール」と、訪問先の場所に関する算定制限です。


原則として、訪問歯科診療の保険適用が認められるのは、歯科医院(保険医療機関)を起点に半径16km以内の範囲に限られます。この距離をひとつの目安として表すと、東京都心部なら山手線の直径(約5km)の約3倍強に相当するエリアです。


患者やご家族の希望でこの距離を超えた場所に訪問した場合、その診療は原則として保険診療として請求できず、全額自費扱いになります。事前の説明なしに訪問してしまうと、医院側が費用を全額持ち出すリスクが生じます。これは大きな損失になります。


16km超でも保険算定が認められる例外条件は以下のとおりです。


- 患者の居住地から半径16km以内に、患者が求める診療に専門的に対応できる医療機関が存在しない
- 対応可能な医療機関が存在しても、その医療機関が往診・訪問診療を行っていない


これらの例外に該当する場合は、レセプトの摘要欄への記載と、事前の確認が必要です。事実確認が不十分なまま算定すると、後から算定否認・返戻の対象となります。


また、保険算定が認められる「訪問先」は、患者が日常的に寝泊まりしている場所(自宅・入居施設など)に限られます。デイサービスのような通所施設は、患者が一時的に滞在している場所であるため、訪問歯科診療の算定対象外です。通所施設での診療は保険請求できないと覚えておきましょう。


16kmを超えた訪問の依頼を受けた際は、患者側に事前に「保険適用外となる可能性」を説明した上で、同意書を取得しておくことを強くおすすめします。トラブルの大半は「事前説明の不足」から発生します。訪問前の確認を1アクションで行うために、施設情報と距離を管理できる訪問管理ツール・アプリの活用も検討に値します。


Apotool「訪問歯科で気をつけること完全ガイド」(保険請求・16kmルール・衛生管理の実務解説)




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