歯科訪問診療料の算定要件と正しい請求方法

歯科訪問診療料の算定要件は複雑で、知らずに誤請求しているケースも少なくありません。距離・時間・同一建物の区分など、見落としがちなポイントを詳しく解説します。あなたの医院は正しく算定できていますか?

歯科訪問診療料の算定要件と正しい請求方法

同一建物に複数の患者を訪問しても、届出なしだと1件あたりの診療料が約8割減算になります。


この記事の3つのポイント
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算定要件の基本構造を理解する

歯科訪問診療料には「1」「2」「3」の3区分があり、患者との距離・同一建物の人数・施設の種別によって点数が大きく変わります。

⚠️
見落としやすい減算・加算ルール

同一建物減算や在宅療養支援歯科診療所の届出状況によって、実際の請求点数は大きく変動します。算定ミスは返還請求につながるため注意が必要です。

正しい記録・文書管理で算定を守る

訪問診療は診療録・訪問記録の整備が算定の根拠になります。記録が不十分だと、指導監査で算定そのものが否認されるリスクがあります。


歯科訪問診療料の区分「1・2・3」と算定要件の基本

歯科訪問診療料は、令和6年度(2024年度)改定後の診療報酬において、大きく「歯科訪問診療1」「歯科訪問診療2」「歯科訪問診療3」の3つに区分されています。この区分の違いを正確に把握することが、正しい算定の第一歩です。


歯科訪問診療1(歯訪診1)は、患者の居宅または患者が入居・入所する施設と診療所との距離が16km以内であり、かつ同一建物内で訪問した患者が1人だけの場合に算定できます。点数は888点(令和6年改定後)です。この区分はいわゆる「個別訪問」に相当し、在宅で療養する患者に対して丁寧に対応するケースが多いです。


歯科訪問診療2は、同一建物内で同日に2人以上9人以下の患者を訪問した場合に適用されます。点数は218点となり、歯訪診1と比較すると大幅に低い設定です。つまり同じ施設に複数回診に行っても、同じ日に複数人診れば自動的に2の区分が適用されます。


歯科訪問診療3は、同一建物内で同日に10人以上の患者を訪問した場合の区分で、点数は118点です。特別養護老人ホームや介護老人保健施設などで集団的に対応するケースがこれに当たります。


重要なのは「同一建物」の定義です。集合住宅やグループホームのように、建物の構造上1つの施設とみなされる場所であれば、別の階・別の部屋でも「同一建物」として扱われます。同一敷地内の別棟は原則として別建物ですが、施設の管理形態や構造によって判断が分かれるケースもあるため、地方厚生局への確認が望ましいです。


また、算定には「通院困難な患者」であることが前提条件です。歩行困難・寝たきり・認知症の進行など、外来通院が著しく困難な状態であることを診療録に記載する必要があります。通院できる患者に訪問診療料を算定することは認められません。これが原則です。


厚生労働省|令和6年度診療報酬改定 歯科関係の主な改定内容(PDF)


歯科訪問診療料の算定で見落としやすい「在宅療養支援歯科診療所」の届出要件

歯科訪問診療料の算定において、在宅療養支援歯科診療所(歯援診)の施設基準の届出があるかどうかは、加算取得の可否に直結します。届出の有無を見落としてしまうと、算定できるはずの加算を取り逃がしたり、逆に取れない加算を誤って請求したりするリスクがあります。


在宅療養支援歯科診療所には「歯援診1」と「歯援診2」の2種類があります。歯援診1は、過去1年間に歯科訪問診療を24回以上実施していること、在宅歯科医療に係る研修を受講していること、緊急時の対応体制が整備されていることなどが要件です。歯援診2は歯援診1より要件がやや緩和されており、訪問診療の実績が12回以上で取得できます。


この届出がある場合、「在宅療養支援歯科診療所加算」として1(歯援診1)は110点、2(歯援診2)は80点が歯科訪問診療料に上乗せされます。これはかなり大きいですね。年間で換算すると、月10件の訪問診療を行う医院なら、届出の有無だけで年間13万円以上の差が生じる計算になります。


届出を済ませているのに算定を失念しているケースが一定数あるようです。これは典型的な「もったいない算定ミス」です。レセプト請求前に施設基準の一覧と照合する習慣をつけることで防げます。


反対に、要件を満たしていないにもかかわらず届出を維持し続けて加算を算定してしまうケースも見られます。年度の途中で訪問件数が基準を下回った場合は、届出の変更または取り下げが必要です。放置すると指導監査で全額返還を求められます。


関東信越厚生局|在宅療養支援歯科診療所の施設基準に関する届出の手引き(PDF)


歯科訪問診療料の「同一建物減算」と例外的に減算されないケース

「同一建物減算」は、歯科訪問診療2・3が適用される場面で特に重要な概念です。同一建物内で複数の患者を診た場合に点数が大幅に下がる仕組みは理解されていますが、減算が適用されない例外ケースは意外と知られていません。


結論から言えば、以下のケースは同日複数患者訪問であっても歯科訪問診療1(888点)での算定が認められています。




















例外ケース 根拠・条件
患者の急変・緊急対応 定期訪問日以外に緊急で呼ばれた場合
末期悪性腫瘍の患者 ターミナル期の患者で、個別対応が必要と判断される場合
独居・家族不在で特別な対応が必要な患者 施設であっても個別訪問の医療的必要性が明確な場合


厳しいところですね。これらの例外を使う場合には、診療録に「なぜ個別対応が必要だったか」を具体的に記載することが必須です。記載が曖昧だと、審査の段階で歯訪診2・3に査定されるリスクがあります。


また、「同一建物かどうか」の判断は施設の外形だけでは決まらないことがあります。たとえばサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、入居者が独自に住所を持つ「居宅」として扱われるため、同日に複数の居室を訪問しても原則として歯訪診1での算定が認められています。これは意外ですね。


一方、特別養護老人ホーム(特養)や介護老人保健施設(老健)は施設内での医療提供が前提となるため、同一建物の扱いとなります。施設の種別ごとに算定区分が変わる点は、訪問先を確認するたびに意識する必要があります。


歯科訪問診療料の算定で不可欠な診療録・訪問記録の正しい書き方

訪問診療の算定根拠は診療録と訪問記録にあります。これが最も重要な基本です。点数の算定要件を満たしていても、記録が不十分であれば指導監査で否認されるリスクがあります。


診療録には、以下の情報を必ず記録します。



  • 通院困難の理由(診断名・身体状況・ADL評価)

  • 訪問日時・訪問先の住所または施設名・部屋番号

  • 実施した処置内容と使用した材料・薬剤

  • 患者の同意を得た旨(口頭でも記録に残す)

  • 次回訪問の計画または終了の理由


特に見落としやすいのが「訪問先の住所・部屋番号の記載」です。同一建物内の複数患者を訪問する場合、各患者の居室番号が記録にないと、同一建物の確認ができず区分判定の根拠が崩れます。記録は細かく、が原則です。


訪問診療計画書と訪問診療報告書の整備も必要です。訪問診療計画書は月の初回訪問時に作成し、患者またはその家族への説明と同意を得ることが求められます。報告書は訪問ごとに作成し、施設の場合は施設の担当者に提供することが望ましいとされています。


なお、訪問診療の記録は診療報酬の請求だけでなく、介護保険との連携記録としても機能します。ケアマネジャーへの情報提供を行った場合は「在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導料」や「歯科疾患在宅療養管理料」などの別の加算に結びつく可能性があります。記録の充実は、算定漏れの防止にも直結します。これは使えそうです。


電子カルテを使用している医院では、訪問診療専用のテンプレートを設定することで記録の抜け漏れを防げます。特に地方厚生局の個別指導では「記録の質」が重点的に確認されるため、訪問診療を月10件以上実施している医院は記録フォーマットの見直しを一度行うことをお勧めします。


日本歯科医師会|在宅歯科医療推進のための手引き(PDF)


歯科訪問診療料と併算定できる加算・管理料の一覧と注意点

歯科訪問診療料は単体で算定するだけでなく、複数の加算・管理料と組み合わせることで、適切な報酬体系を構築できます。ただし、算定できる加算の組み合わせには制限があるため、誤った併算定は返還の原因になります。


代表的な加算・管理料は以下の通りです。







































加算・管理料名 点数(目安) 主な算定条件
在宅療養支援歯科診療所加算1 110点 歯援診1の届出がある場合
在宅療養支援歯科診療所加算2 80点 歯援診2の届出がある場合
歯科疾患在宅療養管理料(歯在管) 100〜400点(区分による) 継続的な訪問診療と管理計画の作成
在宅患者訪問口腔リハビリテーション指導料 170点 口腔機能の低下があり訓練が必要な患者
訪問歯科衛生指導料 360点(月4回まで) 歯科衛生士が単独で訪問する場合
在宅歯科医療推進加算 50点 一定の要件を満たす施設・設備がある場合


注意が必要なのは歯科疾患在宅療養管理料(歯在管)との関係です。歯在管は月1回しか算定できず、歯科訪問診療料を算定した月に限り請求できます。訪問診療を実施せずに管理料だけを請求することはできません。歯在管が条件です。


また、訪問歯科衛生指導料は歯科衛生士が単独で患者宅を訪問した場合に算定しますが、これは歯科訪問診療料とは別の区分です。歯科医師の訪問診療と歯科衛生士の単独訪問を混同しないよう、スタッフ間での確認体制を整えることが重要です。


さらに、同月内に歯科訪問診療料と外来診療を両方実施する場合も算定制限があります。同一月内に同じ患者について外来と訪問の両方を行うケースでは、算定できる管理料の種別が限定されることがあるため、月をまたいだスケジュール管理が望ましいです。


レセプトコンピュータの設定だけに頼らず、月次でのチェックリストを使った算定確認を行うことが、返還リスクを最小化する現実的な対策です。医院の規模にかかわらず、訪問診療件数が増えてきた段階で算定ルールの勉強会を定期開催することをお勧めします。


社会保険診療報酬支払基金|歯科レセプト請求の手引き(参考ページ)


歯科訪問診療料の指導監査で指摘されやすいポイントと実務対策

地方厚生局による個別指導・適時調査では、歯科訪問診療に関する算定ミスが繰り返し指摘されています。実際に指摘が多い項目を把握しておくことは、リスク管理の観点から非常に重要です。


指摘されやすいポイントを整理すると、次のような内容が上位を占めます。



  • 通院困難の根拠が診療録に記載されていない、または記載が薄い

  • 同一建物の区分(歯訪診1・2・3)の誤りまたは意図的な使い分けの疑い

  • 施設基準の届出を行っていない加算の請求

  • 訪問日と請求日のずれ(訪問した事実がないと判断されるリスク)

  • 患者の同意書が存在しない、または日付が不整合

  • 歯在管の計画書が毎月作成されておらず使い回しになっている


特に「計画書の使い回し」は近年指摘が増えているポイントです。歯科疾患在宅療養管理料を算定するためには毎月の計画書が必要ですが、患者の状態に変化がないからといって全く同じ内容をコピーし続けると、「実態のない書類」として指摘されます。患者の口腔状態の変化、実施した処置の内容、今後の方針をその都度更新することが必要です。これが基本です。


適時調査は、医療機関が突然選定されて実施されるケースが多く、事前準備の時間が取れないことがあります。常日頃から記録・書類を整備しておくことが唯一の対策です。具体的には、月次での「訪問診療算定チェックシート」を作成・運用することが効果的です。


チェックシートには「訪問日・訪問先・人数・算定区分・加算の有無・計画書の更新日・同意書の有無」を1行で確認できる形式にすると、レセプト提出前の最終確認が短時間で完了します。1つ確認する手間が、数十万円規模の返還を防ぐことにつながります。


また、診療報酬改定は2年に1度行われており、算定要件が変わるたびにルールの確認が必要です。改定の内容を院内に周知するためのミーティングを、改定年の4月前に必ず実施する体制を整えることをお勧めします。日本歯科医師会や地方歯科医師会が提供する改定説明会への参加も、実務上の理解を深める有効な手段です。


日本歯科医師会|在宅歯科医療に関する情報ページ