毎日ブラッシングしても、頬小帯が高位付着していると歯周病が改善しないことがあります。
頬小帯(きょうしょうたい)とは、頬の内側の粘膜から上下顎の小臼歯部付近の歯茎にかけて伸びる、筋張ったヒダ状の組織のことです。頬を引っ張ったときに浮き上がって見える、あの細いスジがまさに頬小帯です。この組織は、咀嚼中に頬が歯列に引き込まれすぎないよう動きを調整する役割を担っています。
口の中にある「小帯」は頬小帯だけではありません。上唇と前歯の歯茎をつなぐ「上唇小帯」、舌の裏側と口底をつなぐ「舌小帯」もあり、それぞれが口腔機能の維持に関わっています。頬小帯はこれらのなかで最も問題が起きにくいとされていますが、付着位置が異常に高い「高位付着」の状態になると話が変わります。
頬小帯が歯茎の高い位置に強く付着していると(頬小帯高位付着)、頬粘膜が動くたびに小帯が引っ張られ、歯周ポケットが開閉を繰り返します。これは歯周病の悪化因子となることが歯科口腔外科の専門医によって確認されており、たとえ毎日ていねいにブラッシングしても改善が難しいケースがあります。つまり、歯磨きの問題ではなく「構造的な問題」として切除が必要になるわけです。
頬小帯が問題になる主な状況は次のとおりです。
これが「構造的な問題」ということですね。
日本歯科医師会のウェブサイトでは、頬小帯の高位付着と義歯への影響について、東京大学大学院口腔外科学分野の監修のもと解説されています。権威性の高い情報源として参考になります。
参考:頬小帯・小帯の異常について(日本歯科医師会 歯の博物館)
https://www.jda.or.jp/park/trouble/index16_03.html
頬小帯切除術は、専門的には「小帯形成術(frenectomy)」または「小帯切除術(frenotomy)」と呼ばれます。入院は不要です。外来で、局所麻酔下で行われる小手術です。
手術の所要時間は10〜30分程度が一般的です。痛みは麻酔によってコントロールされるため、処置中はほとんど感じません。以下が一般的な術式の流れです。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ①術前評価 | 問診・視診・触診、口腔内写真・模型の作製 | 付着位置・緊張度を確認 |
| ②表面麻酔 | 切除部位にゲル状の麻酔薬を塗布 | 注射針の痛みを軽減するために行う |
| ③局所麻酔 | リドカインなどを注射 | 十分に浸透させてから切除に進む |
| ④小帯の切除 | メス・電気メス・CO₂レーザーなどで切除 | 器具の選択は術者・状態により異なる |
| ⑤縫合 | 切除部位を縫合糸で閉鎖 | シルク糸・吸収糸・ナイロン糸などを使用 |
| ⑥術後説明 | 注意事項の説明と処方薬(鎮痛薬・抗菌薬)の交付 | 当日は帰宅可能 |
| ⑦抜糸 | 術後1週間前後に抜糸または自然吸収を確認 | 通院1〜2回で完了するケースが多い |
切除の際に使用する器具については、大きく分けてメス(外科用メス・歯肉バサミ)とレーザー(主にCO₂レーザー)の2種類があります。それぞれに特徴があり、担当医の技術や経験、患者の状態によって選択されます。
広島市の三好デンタルオフィスの歯科医師は、自院での実際の手術を記録したブログの中で「レーザーでは後戻りや予想した結果が得られにくいと感じるため、切離縫合する方法を採っている」と述べています。縫合が必要です。一方でレーザーは出血が少なく縫合が不要なケースもあるため、どちらが正解というわけではありません。担当医との事前の相談が重要です。
縫合糸の種類も医師の判断によります。ナイロンやポリ乳酸は吸収しないタイプ、バイクリル(吸収糸)は自然に溶けるタイプです。シルク糸は柔らかく粘膜への刺激が少ないため、頬の内側など違和感が出やすい部位に用いられることがあります。
参考:実際の頬小帯切除術の術中記録と術後1か月の経過写真(三好デンタルオフィス)
https://www.mdo.jpn.com/blog/2017-10-20171005-html/
手術そのものは短時間で終わりますが、術後のケアが仕上がりを大きく左右します。これが意外と重要です。
術後2〜3日間は傷口に痛みが出やすく、縫合糸のチクチク感が気になることもあります。食事や発音に支障が出る場合もありますが、通常は鎮痛薬でコントロールできます。長期的に強い痛みが続く場合は、周囲の組織に何らかの問題が起きている可能性があるため、歯科医院に連絡してください。
術後の生活上の注意点をまとめると以下のとおりです。
特に重要なのが「再癒着防止のストレッチ」です。切除した部位が再び癒着してしまう「後戻り」が起こると、手術の効果が薄れることがあります。この予防のため、術後は1日4回以上のストレッチを、歯科医師の指示に従って約4週間継続することが推奨されています。上唇や頬を意識的に動かすことで、切除部位が広い状態で治癒するよう促します。
再癒着のリスクを減らすためにも、術後のフォロー通院は欠かさず受けましょう。術後1週間での抜糸・経過確認が、良好な治癒経過を得る上での条件です。
参考:小帯切除術の注意点・術後ケアの解説(川崎 ふたば歯科医院)
https://www.futaba-shika.com/【鶴見・川崎の歯医者】小帯の異常と小帯切除術について/
費用は気になるところですね。頬小帯切除術は、医学的に必要と判断された場合に健康保険が適用されます。逆に言えば、審美目的(見た目をよくしたいだけ)の場合は保険が使えません。
保険適用となる主な条件は次のとおりです。
費用の目安は次のとおりです。
| 術式 | 保険適用(3割負担) | 自由診療 |
|---|---|---|
| メスによる切除 | 3,000〜5,000円程度 | — |
| レーザーによる切除 | 3,500円程度 | 10,000〜30,000円程度 |
子ども医療費助成制度が適用される自治体では、自己負担がゼロまたは数百円で済む場合もあります。受診前にお住まいの自治体の助成制度を確認しておくと安心です。
通院回数は、初診(検査・診断)・手術当日・術後チェック(抜糸)の計2〜3回が一般的です。総通院期間も2〜3週間程度で完了するため、仕事や育児で忙しい方でも比較的スケジュールを組みやすい治療です。
参考:頬小帯切除の費用・保険適用条件の詳細解説(イナグマ歯科)
頬小帯切除術は「やったほうがいいかもしれないけれど、本当に必要?」と迷う方が多い処置です。以下のような状況が重なる場合には、専門医に相談することを検討しましょう。
矯正治療との関係は特に重要です。頬小帯が異常付着している場合、矯正装置(ブラケット・ワイヤー)と干渉して炎症・痛みの原因になることがあります。また、せっかく歯並びを整えても、小帯が牽引力として働き続けると「後戻り」を起こすリスクがあります。矯正治療前または治療中に切除を行うことで、このリスクを下げられます。
一方で、成長期の子どもの場合は「経過観察でよい」と判断されることも多くあります。成長に伴って小帯の位置が自然に下がり、機能的な問題が解消するケースがあるためです。子どもの頬小帯切除については、まず小児歯科や口腔外科で現在の状態を正確に診断してもらうことが先決です。
独自視点として注目したいのが、義歯(入れ歯)との関係です。歯を失って歯槽骨が吸収すると、もともと問題なかった頬小帯の付着部が相対的に歯槽頂に近くなり、義歯の安定を妨げる原因になります。つまり、若い頃は何も問題のなかった頬小帯が、加齢による骨吸収をきっかけに「切除が必要な状態」に変化するのです。義歯が合わなくなってきたと感じた場合、頬小帯の状態が一因となっている可能性があります。義歯のフィットが悪い方は、歯科医師に頬小帯の確認を依頼してみましょう。
口腔外科専門医である武田歯科医院の症例集では、50代男性の頬小帯高位付着により歯周病が悪化したケースが報告されており、頬小帯形成術で付着位置を引き下げた治療例が紹介されています。実際の症例として参考になります。
参考:頬小帯高位付着の症例・形成術の治療内容(武田歯科医院 口腔外科)
https://takeda-sika.com/case/case_01-4/