リドカイン 歯科治療で使用される局所麻酔薬の基礎知識と最新情報

歯科治療で広く使用されるリドカインの特性や使用方法、最大投与量、副作用について詳しく解説します。患者さんの安全を守るために歯科医師が知っておくべき知識とは?

リドカイン 歯科での使用と特性について

リドカインの基本情報
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アミド型局所麻酔薬

1943年に合成された歯科治療で最も一般的に使用される局所麻酔薬の一つ

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作用時間

浸潤・伝達麻酔での作用持続時間は約60分、アドレナリン添加で約90分に延長

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使用濃度

歯科では主に2%溶液にアドレナリンを配合して使用

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リドカインは1943年に合成されたアミド型局所麻酔薬で、歯科治療において最も広く使用されている局所麻酔薬の一つです。組織に対する刺激作用が少なく、表面麻酔作用はコカインに匹敵するという特性を持っています。浸潤・伝達麻酔ではプロカインの2倍の効果があり、作用持続時間は約60分とされています。

 

歯科臨床では、痛みを伴う処置を快適に行うために局所麻酔は不可欠です。リドカインは即効性と持続時間のバランスが良く、安全性も高いことから、歯科医療の現場で広く採用されています。また、心室性不整脈に対する抗不整脈作用も持ち合わせており、心筋収縮力低下作用や血圧降下作用が比較的少ないという利点もあります。

 

歯科で使用されるリドカインの濃度は主に0.5%、1%、2%があり、特に歯科では最高濃度の2%溶液にアドレナリンを配合して使用することが一般的です。これにより、麻酔効果をより確実にすることができます。他にも表面麻酔剤としてビスカス(2%)、ゼリー(2%)、軟膏(4%)などの剤形も存在し、様々な状況に応じて使い分けられています。

 

リドカイン 歯科用局所麻酔剤の種類と特徴

歯科治療で使用されるリドカイン製剤には、主に以下のような種類があります。

  1. 1/8万分アドレナリン含有2%リドカイン
    • 最も一般的に使用される製剤
    • 商品名:歯科用キシロカインカートリッジ、エピリド配合注歯科用カートリッジなど
    • 特徴:アドレナリンの血管収縮作用により麻酔効果が増強され、作用時間が延長される
  2. アドレナリン非含有リドカイン
    • 高血圧や心疾患などの基礎疾患がある患者に使用
    • 特徴:アドレナリンによる副作用リスクを避けられるが、効果持続時間は短い
  3. 表面麻酔用リドカイン製剤
    • ゼリー、軟膏、スプレーなどの剤形がある
    • 注射の前に塗布して痛みを軽減する目的で使用

リドカイン製剤の選択は、治療内容や患者の全身状態に応じて適切に行う必要があります。例えば、長時間の処置が予想される場合はアドレナリン含有製剤が適していますが、循環器疾患を持つ患者ではアドレナリン非含有製剤を選択することが安全な場合があります。

 

また、近年では7%リドカインクリームなどの高濃度製剤も研究されており、より効果的な表面麻酔の実現を目指した開発が進んでいます。

 

リドカイン 歯科治療における最大投与量と安全性

歯科治療における局所麻酔薬の安全な使用のためには、最大投与量(基準最高用量)を理解することが重要です。リドカインの基準最高用量は以下のように設定されています。

  • リドカイン単独使用の場合:200mg(2%リドカイン10mLに相当)
  • アドレナリン添加リドカインの場合:500mg(2%リドカイン25mLに相当、カートリッジ約13本分)
  • 体重あたりの基準最高用量:7mg/kg

実際の臨床では、健康な成人であれば1/8万分アドレナリン含有2%リドカインを約14本程度まで使用可能とされていますが、通常の歯科治療では0.5〜2本程度で十分に効果が得られるため、最大量を使用することはまれです。

 

安全に使用するための注意点。

  1. 患者の全身状態を十分に観察する
  2. 必要最少量にとどめる
  3. 血管の多い部位(顔面等)には少量を投与する
  4. 注射針が血管に入っていないことを確認する
  5. 注射の速度はできるだけ遅くする
  6. 小児や高齢者では量を減らす

高血圧症の患者では、アドレナリン含有製剤の使用は1〜2本までにとどめるべきという学会からの提言もありますが、持続的な血圧測定など全身管理下であれば、この限りではありません。痛みがある状態で治療を続けることによる血圧上昇のリスクの方が高い場合もあるため、個々の患者の状態に応じた判断が必要です。

 

日本歯科麻酔学会「安全な歯科局所麻酔に関するステートメント」

リドカイン 歯科麻酔におけるアドレナリンの役割と効果

歯科用局所麻酔剤にアドレナリン(エピネフリン)を添加する主な目的は以下の3つです。

  1. 麻酔効果の増強
  2. 麻酔時間の延長
  3. 末梢血管収縮による出血抑制

アドレナリンは血管を収縮させる作用があり、これによりリドカインの局所での滞留時間が延長します。通常、リドカイン単独での作用持続時間は約60分ですが、アドレナリンを添加することで約90分(30分延長)に伸びます。これにより、時間のかかる処置でも再注射の必要性が減少します。

 

また、アドレナリンの血管収縮作用は、処置部位の出血を抑制する効果もあるため、特に外科的処置において有用です。歯科で一般的に使用される1/8万分アドレナリン含有2%リドカインでは、1管(1.8mL)あたり0.0225mgのアドレナリンが含まれています。

 

しかし、アドレナリンには心拍数を増加させる作用もあるため、麻酔後に動悸を感じる患者もいます。これは通常の生理的反応であり、多くの場合は問題ありませんが、循環器疾患を持つ患者では注意が必要です。

 

アドレナリン含有製剤を使用する際の注意点。

  • ハロゲン含有吸入麻酔薬との併用で不整脈のリスク
  • 三環系抗うつ薬やMAO阻害薬との併用で血圧上昇のリスク
  • 非選択性β遮断薬との併用で血管収縮、血圧上昇、徐脈のリスク
  • 高齢者ではアドレナリンに対する感受性が高いことがある

これらのリスクを考慮し、患者の全身状態や併用薬に応じて適切な製剤を選択することが重要です。

 

リドカイン 歯科麻酔の副作用と対処法

リドカインを含む歯科用局所麻酔は、適切に使用すれば安全性の高い薬剤ですが、いくつかの副作用が生じる可能性があります。主な副作用とその対処法について理解しておくことが重要です。

 

主な副作用:

  1. 中枢神経系の症状
    • 眠気、不安、興奮、霧視、めまい、頭痛など
    • 重症化するとショックや中毒症状に移行する可能性あり
  2. 循環器系の症状
    • 動悸、頻脈、血圧上昇など
    • 特にアドレナリン含有製剤で生じやすい
  3. 消化器系の症状
    • 悪心・嘔吐など
  4. アレルギー反応
    • 蕁麻疹などの皮膚症状、浮腫など
    • まれにアナフィラキシーショックを起こすケースも
  5. 投与部位の症状
    • 潰瘍、壊死など

また、麻酔注射に関連して「迷走神経反射」が起こることもあります。これは麻酔そのものの副作用ではなく、注射への恐怖心や緊張から副交感神経である迷走神経が優位に働き、血圧低下、頭痛、吐き気、気分不良、めまいなどを生じるメカニズムです。

 

副作用への対処法:

  1. 予防的対応
    • 患者の全身状態や既往歴を十分に把握する
    • 適切な投与量と投与速度を守る
    • 血管内注入を避けるため必ず吸引テストを行う
  2. 副作用発現時の対応
    • 患者の全身状態を注意深く観察する
    • 軽度の症状であれば安静にして経過観察
    • 重篤な症状の場合は適切な救急処置を行う
    • アナフィラキシーショックの場合はアドレナリン筋注など緊急対応
  3. 特別な配慮が必要な患者
    • 高血圧や心疾患のある患者:アドレナリン非含有製剤の使用を検討
    • 妊婦:リドカインは胎児への影響が少ないとされるが最小限の使用に
    • 小児:体重に応じた投与量の調整が必要

副作用の多くは適切な投与量と投与方法を守ることで予防できます。また、万が一の緊急事態に備えて、救急薬品や機器の準備、緊急時の対応手順の確認を日頃から行っておくことが重要です。

 

リドカイン 歯科における新しい局所麻酔剤の開発と将来展望

歯科治療における局所麻酔の分野は、リドカインが長年にわたり主力として使用されてきましたが、近年では新たな局所麻酔剤の開発や既存薬剤の改良が進んでいます。これらの新しい動向は、より安全で効果的な歯科治療の実現に貢献することが期待されています。

 

最近の開発動向:

  1. アルチカイン(アーティカイン)の国内承認
    • 2024年9月に日本での薬事承認を取得
    • 欧米ではリドカインに次いで広く使用されている局所麻酔剤
    • 特徴:局所で作用した後に速やかに麻酔効果のない代謝物となり排出される
    • 全身的に作用するリスクが低いとされる
  2. リドカインの新しい製剤開発
    • コンドロイチン硫酸ナトリウム(SCS)添加リドカイン
      • リドカインの効果を増強し、作用持続時間を延長する可能性
    • エピネフリン無添加でも効果を持続させる製剤の研究
      • 循環器疾患患者や高齢者への安全性向上を目指す
    • 新しい投与方法の開発
      • 無針注射器(ジェットインジェクター)の改良
      • コンピュータ制御による一定速度での注入システム
      • 表面麻酔薬の浸透性向上技術

将来の展望:

  1. 個別化医療への対応
    • 患者の遺伝的背景や全身状態に応じた最適な局所麻酔剤の選択
    • AI技術を活用した投与量の最適化
  2. 副作用の少ない局所麻酔剤の開発
    • 神経選択性の高い新規化合物の研究
    • 血管収縮作用を持ちながらもアドレナリンのような心血管系への影響が少ない添加物の開発
  3. 患者体験の向上
    • 痛みの少ない注射技術
    • 麻酔効果の迅速な発現と適切なタイミングでの消失
  4. 環境への配慮
    • 生分解性の高い製剤
    • 廃棄物削減のための包装改良

これらの新しい開発により、歯科医療における局所麻酔はさらに安全で効果的なものになることが期待されます。特に日本では長らく新しい局所麻酔剤の導入がなかったため、アルチカインの承認は歯科麻酔の選択肢を広げる重要な一歩となります。

 

岡山大学「新しい歯科用局所麻酔剤の国内薬事承認を取得」
歯科医療従事者は、これらの新しい動向に注目し、最新の知見を臨床に取り入れることで、より質の高い治療を提供することができるでしょう。同時に、どのような新薬や新技術が導入されても、患者の安全を最優先に考え、適切な使用法を守ることの重要性は変わりません。

 

リドカインは今後も歯科局所麻酔の中心的存在であり続けると考えられますが、新しい選択肢の増加により、患者一人ひとりに最適な麻酔方法を選択できる幅が広がることは、歯科医療の質の向上につながるでしょう。