反応象牙質と修復象牙質の違いと歯髄保存への臨床活用

反応象牙質と修復象牙質は、どちらも第三象牙質に分類されますが、その形成メカニズムは根本的に異なります。臨床で歯髄保存の成否を左右するこの違い、正しく理解できていますか?

反応象牙質と修復象牙質の違いと歯髄保存への臨床的意義

修復象牙質のほうが、反応象牙質より石灰化が不規則で管腔も少なく、バリアとして"弱い"構造になっています。


🦷 この記事の3ポイント要約
刺激の強さで分類が変わる

「適度な刺激」→既存の象牙芽細胞が生き残り反応象牙質を形成。「強い刺激」→象牙芽細胞が死滅し、新たに分化した幹細胞由来の細胞が修復象牙質を形成。同じ第三象牙質でも形成細胞が異なります。

IPC法では3〜6ヶ月で第三象牙質が確認できる

暫間的間接覆髄法(IPC法)では、水酸化カルシウム製剤などを貼付してから3〜6ヶ月で修復象牙質の形成が確認されます。リエントリーのタイミングが歯髄保存の鍵です。

デンティンブリッジは修復象牙質と別物

修復象牙質は「露髄していない象牙質の下」に形成されます。一方、デンティンブリッジは「露髄した歯髄の直上」に形成されます。混同すると治療の評価指標が誤ります。


反応象牙質と修復象牙質の定義:第三象牙質の分類を整理する


歯の損傷後に歯髄側から新たに形成される象牙質を、総称して「第三象牙質」と呼びます。咬耗摩耗う蝕、歯の切削などの刺激が加わったとき、歯髄は防御反応として象牙質を局所的に添加します。この第三象牙質は、さらに刺激の強さによって「反応象牙質(reactive dentin)」と「修復象牙質(reparative dentin)」の2種類に分類されます。


つまり第三象牙質が上位概念で、その下に反応象牙質と修復象牙質が並ぶ構造です。


反応象牙質は、比較的弱い刺激に対して、既存の象牙芽細胞(一次・二次象牙質を形成してきた細胞)が生き残ったまま象牙質形成を再開することで作られます。一方、修復象牙質は刺激がより強く、損傷部位の象牙芽細胞が死滅した後に、歯髄内に存在する間葉系幹細胞(歯髄幹細胞)が新たに象牙芽細胞様細胞へと分化して形成されます。形成に関わる細胞の素性が異なる、という点が最も重要な相違点です。


































項目 反応象牙質 修復象牙質
英語名 Reactive dentin Reparative dentin
形成する細胞 生き残った既存の象牙芽細胞 新たに分化した象牙芽細胞様細胞(幹細胞由来)
形成される刺激の強さ 比較的弱い刺激 強い刺激(象牙芽細胞が死滅するレベル)
象牙細管の有無 象牙細管が比較的残存 象牙細管が少ない・不規則
石灰化の均質性 比較的均質 不規則・管腔も少ない


新潟大学の大島勇人教授らの研究(新潟歯学会誌, 2009)によれば、ラットを用いた歯の切削実験において、切削後6時間以内に損傷部位の象牙芽細胞がマクロファージや好中球によって除去され、12時間後には歯髄・象牙質界面に樹状細胞が出現、術後2日目以降に新しく分化した象牙芽細胞が配列するという詳細なプロセスが確認されています。これが修復象牙質の形成過程です。


反応象牙質が比較的均質な構造をもつのに対し、修復象牙質は象牙細管が少なく不規則な構造になりやすい傾向があります。歯髄保存の観点からは、反応象牙質のほうが質的に優れたバリアを形成するといえます。ただし、どちらの形成もなされれば歯髄保護には寄与するため、臨床的には「形成されたかどうか」を評価することが先決です。


参考:新潟大学大学院 大島勇人教授による歯の損傷後の歯髄修復機構に関する研究論文(査読あり)


歯の損傷後の歯髄修復機構の新規仮説について(新潟歯学会誌, 2009)


反応象牙質の形成メカニズム:既存の象牙芽細胞が防衛する仕組み

反応象牙質の形成は、象牙質・歯髄複合体が一体として外的刺激に応じる防御システムの一部です。象牙芽細胞はその細胞突起を象牙細管の中に伸ばしており、象牙質に侵襲が加わると象牙細管経由で刺激が伝わり、歯髄全体が影響を受けます。


比較的弱い刺激、たとえば初期のう蝕や軽度の咬耗、知覚過敏状態などでは、静止状態にあった既存の象牙芽細胞が象牙質形成を再開します。これが反応象牙質です。


反応象牙質の形成は段階的に進行します。まず象牙質への刺激が歯髄に伝わり、続いて象牙芽細胞が活性化されます。形成された象牙質は「管腔が比較的保たれた、均質な構造」であることが多く、一次・二次象牙質に近い性質をもちます。


臨床的に重要なのは、この反応が「刺激が除去されれば止まる」という点です。う蝕が進行し続ける間は形成が促されますが、治療によって感染源が取り除かれると活性は低下します。


知覚過敏症の自然寛解も、この反応象牙質の形成と象牙細管の封鎖が一因とされています。


参考:新潟大学大学院 興地隆史先生(う蝕学分野)による象牙質・歯髄複合体の防御・修復機構についての講演レポート。反応象牙質の形成メカニズムと歯髄保存療法の基礎が詳述されています。


象牙質/歯髄複合体の防御・修復機構と歯髄保存の臨床(HHK歯科、興地隆史先生講演)


修復象牙質の形成メカニズム:歯髄幹細胞が担う再生の実態

修復象牙質の形成プロセスは、反応象牙質とは根本的に異なります。強い侵襲によって象牙芽細胞が死滅すると、歯髄内の免疫担当細胞(マクロファージ・好中球・樹状細胞)が一時的に出現し、変性組織を清掃します。その後、歯髄中央部血管周囲に局在する歯髄幹細胞(間葉系幹細胞の一種)が新たに象牙芽細胞様細胞へと分化し、修復象牙質の形成が始まります。


歯髄幹細胞はすごい能力をもっています。大島教授らの研究では、象牙芽細胞に分化する能力をもつ「前駆細胞」と、より根源的な「歯髄幹細胞」の2種類が歯髄内に存在し、損傷の程度によって使い分けられることが示されました。軽度の損傷では前駆細胞が、強い損傷では歯髄幹細胞が直接象牙芽細胞に分化して対応するという、精巧な階層的修復システムが働いているのです。


この分化プロセスは術後2日目から始まり、5日目ほどで新生象牙芽細胞の配列がほぼ完了します。ただし形成される象牙質は象牙細管が少なく不規則な構造をとることが多く、反応象牙質より透過性が低い分、歯髄へのバリアとしては構造的に弱い面もあります。それが冒頭の「驚きの一文」が意味するところです。


修復象牙質の形成は歯髄の自己修復能力の証明でもあり、近年の再生医療研究ではこの仕組みを積極的に利用する方向が検討されています。歯髄幹細胞は骨芽細胞・神経細胞・脂肪細胞にも分化できることが知られており、歯髄再生療法(自己歯髄幹細胞を用いた根管治療後の歯髄再生)として国内でも臨床研究が進んでいます。


IPC法・間接覆髄法と反応象牙質・修復象牙質の臨床的活用

歯髄保存を目的とした処置の中で、反応象牙質・修復象牙質の形成を積極的に利用する代表的な術式が「暫間的間接覆髄法(IPC法)」と「間接覆髄法」です。


IPC法とは、深在性う蝕において感染歯質の深層を意図的に残したまま3ヶ月以上覆髄剤(水酸化カルシウム製剤など)を貼付し、軟化象牙質の硬化と修復象牙質の形成を期待したうえで、後日リエントリーして残存感染歯質を除去する術式です。日本歯科保存学会のAIPCガイドラインでは、3〜6ヶ月で第三象牙質(修復象牙質)の形成が確認されるとされています。これはIPC法の適用を判断するうえで、重要な目安です。


3〜6ヶ月という期間が条件です。


この期間を短縮しようとして早期にリエントリーすると、十分な修復象牙質が形成されていないため、感染歯質の除去時に露髄するリスクが高まります。リエントリーのタイミングは、エックス線写真での象牙質添加の確認と、臨床症状(打診痛・自発痛の消失)で総合的に判断することが求められます。


間接覆髄法については、かつてコンポジットレジン接着技術が確立されていなかった時代には、「深い窩洞にはセメントによる裏層が必須」とされていました。しかし現代では接着性モノマーの進化により、裏層なしでも修復象牙質の形成を促しつつ象牙質への良好な接着が得られることが示されています。この変化は、修復象牙質形成の理解と材料学の進歩が連動した成果といえます。


覆髄材の選択という場面でも、反応・修復象牙質の知識は生きてきます。水酸化カルシウム製剤は長く第一選択でしたが、溶解性が高く封鎖性に乏しい弱点があります。一方、MTA(Mineral Trioxide Aggregate)は優れた生体親和性と封鎖性をもち、水酸化カルシウムを徐放することで修復象牙質形成を促します。2007年から本邦でも歯科用覆髄材料として薬事承認されており、直接覆髄後のデンティンブリッジ形成率で従来製剤と同等以上の成績が報告されています。


参考:日本歯科保存学会 AIPC(非侵襲性歯髄覆罩)のガイドライン。第三象牙質形成の期間や覆髄剤の選択について詳述されています。


日本歯科保存学会 AIPCガイドライン(PDF)


修復象牙質とデンティンブリッジの違い:混同しやすい概念を整理する

歯科従事者が混同しやすいのが「修復象牙質(第三象牙質)」と「デンティンブリッジ(象牙質橋)」の関係です。これは国家試験でも頻出のポイントで、臨床の現場でも正確に区別できている方が多いとは言い切れません。


整理すると以下の通りです。


修復象牙質は「露髄していない象牙質の下」に形成されます。つまり、歯髄が外界に直接触れていない状態で、象牙質の歯髄腔側に薄く添加される第三象牙質のことです。間接覆髄法やIPC法の結果として確認されるものが典型例です。


デンティンブリッジ(被蓋硬組織)は「露髄した歯髄の直上」に形成されます。直接覆髄法・生活歯髄切断法・アペキソゲネシスなどの処置後に、露髄面を橋渡しするように形成される硬組織です。水酸化カルシウム製剤やMTAを露髄部に塗布することで形成を誘導します。



  • 修復象牙質:露髄なし/間接覆髄・IPC法/象牙質の歯髄腔側に添加

  • デンティンブリッジ:露髄あり/直接覆髄・断髄法/露髄面を橋渡しする硬組織


注意すべきは、デンティンブリッジ自体がトンネル状の欠損(トンネル欠陥)を含む場合があることです。露髄部が完全に閉鎖されたように見えても、顕微鏡レベルでは連続性のない硬組織であることがあり、その部位から細菌が侵入する経路になります。これが覆髄後の微少漏洩による感染失敗の一因です。


術後の封鎖性が成否を左右します。このため、MTA・ケイ酸カルシウム系材料(セラカルLC等)など封鎖性の高い材料で速やかに最終修復を施すことが、歯髄保存を確実にするための重要なステップです。


参考:歯科国試対策サイトによる修復象牙質とデンティンブリッジの違いの解説。試験対策から臨床理解まで役立ちます。


「修復象牙質(第三象牙質)」と「デンティンブリッジ」は違う(kokushi.space)


反応象牙質・修復象牙質の「独自視点」:二次象牙質との連続性と老齢歯における臨床的落とし穴

一般的な解説では反応象牙質・修復象牙質の話は「病的・損傷後の反応」として語られることが多いですが、臨床上は「加齢による二次象牙質の形成との連続性」を理解しておくことが見落とされがちです。


加齢に伴い、歯髄腔には生理的第二象牙質が歯髄腔全体に薄く均一に形成され続けます。これが歯根の成長完了後も継続的に蓄積することで、高齢者の歯髄腔は著しく狭小化します。この状態の歯に対してう蝕治療や冠形成を行う場合、注意が必要です。


高齢者の歯は「歯髄腔が狭窄している分、歯髄までの距離が近いように見えて実は深い位置にある」という逆説的な状況になることがあります。歯髄腔縮小による神経保護能力の向上という面がある一方で、二次象牙質が厚く形成された歯では、感染への反応が鈍くなることもあります。


実際、根管治療が必要なほど歯髄が壊死しているケースでも、歯髄電気診断(EPT)に反応しないことがある一方で、反応する場合もあります。これは二次象牙質や第三象牙質の形成によって象牙芽細胞突起が短縮・変性することで電気刺激の伝達が変化するためです。


二次象牙質と第三象牙質の区別だけが問題ではありません。高齢になるほど第三象牙質の形成能力自体が低下するという研究報告もあります。これは、加齢に伴い歯髄幹細胞の数と分化能が低下することに起因すると考えられています。歯髄保存療法の適応を考えるとき、患者の年齢と歯髄の残存活性をどう評価するかは、今後の研究が期待されるテーマの一つです。


臨床では年齢だけで判断しないことが原則です。


さらに、加齢歯では象牙質粒(デンティクル、歯髄結石)の出現頻度も高くなります。これは根管治療の際の穿通困難につながります。第三象牙質・二次象牙質による歯髄腔の変化を把握するためにも、術前のCBCTやデンタルエックス線による歯髄腔形態の確認は欠かせません。


参考:日本歯科医師会の「加齢による歯の変化」についての解説。高齢者の象牙質・歯髄の形態変化が平易に説明されています。


加齢による歯の数、形の変化(日本歯科医師会)




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