チャーターズ法は「歯肉マッサージ専用」と思い込んでいる歯科医従事者ほど、プラーク除去効率を上げるチャンスを逃しています。
チャーターズ法は、歯ブラシのわき腹(側面と毛先の中間部分)を活用するブラッシング法です。日本歯周病学会の資料でも「歯肉マッサージを考慮し、主に歯ブラシの脇腹を使用する方法」の一つとして位置づけられています。手順を正確に理解することが、患者への指導精度を上げる最初のステップです。
具体的な手順は以下のとおりです。
ここで重要なのが歯ブラシの硬さの選択です。チャーターズ法のようにわき腹を使う方法では、日本歯周病学会の資料によると「中等度以上の硬めの歯ブラシ」が推奨されています。これに対し、歯肉の炎症が強い段階やブラッシング圧のコントロールが難しい患者には、軟毛の歯ブラシを使い、炎症が落ち着いてから普通の硬さへ移行させる流れが原則です。
歯ブラシが原則です。なお、歯ブラシの毛先が広がり始めたら清掃効果が明らかに低下するため、通常1〜2ヶ月での交換を目安に指導してください。
参考:日本歯周病学会による正しいブラッシング方法の解説(適切なブラッシング圧・手順の詳細を掲載)
正しい歯のブラッシング方法をご存知ですか?セルフケアの質を高める — 歯周病・periobook
チャーターズ法が他の方法と比べて力を発揮するのは、口腔内の状態に特定の「条件」がそろったときです。この法が「万人向け」ではなく「特定の適応がある手法」であることを正確に理解しておくことが、TBI(歯ブラシ指導)の質を左右します。
臨床で特に有効とされる適応ケースを整理します。
「歯周病が進行している患者」についてはバス法との使い分けが重要です。これは重要な点です。バス法は毛先を歯周ポケット内に挿入してプラークを除去するため、すでにポケットが深くなっているケースに優先して使われます。一方、チャーターズ法はわき腹で歯間乳頭部をアプローチする性質上、ポケット深部への到達性はやや劣るとされています。
つまり「炎症がある→すべてバス法」ではなく、炎症の場所・深さ・患者の口腔内条件によって選択するという視点が条件です。歯科衛生士がこの使い分けを理解して指導に臨むことで、患者のプラークコントロールの精度が大きく向上します。
臨床現場でよく混乱するのが、チャーターズ法・バス法・スクラビング法の3つの比較です。これらはどれも「歯と歯肉の境目にアプローチする」というイメージで語られることがありますが、目的と使用部位が異なります。整理しておくことで患者への説明も格段にわかりやすくなります。
| ブラッシング法 | ブラシの使用部位 | 主な目的 | 主な適応 |
|---|---|---|---|
| チャーターズ法 | わき腹 | 歯肉マッサージ・歯間部清掃 | 歯肉退縮・歯列不正・術後 |
| バス法 | 毛先(45°) | 歯周ポケット内プラーク除去 | 歯周炎・ポケット深い患者 |
| スクラビング法 | 毛先(直角) | 歯面のプラーク除去 | 軽度歯肉炎・健康な歯肉 |
この比較で見えてくるのは、チャーターズ法が「歯肉マッサージ+歯間部清掃」の2つの役割を担っているという点です。これは他の方法にはない特徴です。
チャーターズ法のデメリットとして「習得難易度の高さ」がよく挙げられます。わき腹の当て方が難しく、患者が独力で正しく行えるようになるまでに複数回の指導が必要なケースも少なくありません。特に奥歯の舌側ではアクセスが難しくなります。厳しいところですね。だからこそ、歯科衛生士が手順を丁寧に分解して伝え、患者自身が「なぜこの動きなのか」を理解した上で実践できるよう指導することが重要です。
参考:スクラビング法・バス法との比較も含めた詳細なブラッシング法解説(祖師ヶ谷大蔵駅前歯科)
歯ブラシの仕方についての説明 — 祖師ヶ谷大蔵駅前歯科・矯正歯科
チャーターズ法の大きな特徴の一つは「歯肉に加圧する動作」が手順に含まれている点です。日本歯周病学会の解説では「歯と歯肉に強い力を加え、小さい円を描くような振動を与える」と記載されており、他のブラッシング法と比べてもブラッシング圧の管理が特に重要になります。
適切なブラッシング圧は150〜200gとされています。これはシャープペンシルで紙に書くときの力よりもわずかに強い程度で、ほとんどの患者がイメージより「軽い」と感じる力加減です。実際に診療台の上でスケールを用いてブラッシング圧を測定してみると、多くの患者が300〜500gの過剰な力でブラッシングしているという報告があります。
過剰なブラッシング圧が続くと何が起きるか、具体的に見てみましょう。
これが問題です。特にチャーターズ法は「力を加える」という手順が含まれているだけに、患者が「強く磨くほどキレイになる」と誤解しやすい構造を持っています。歯科衛生士からの指導では、150〜200gという数字を具体的なたとえ(「ハガキを押さえる程度の力」「鉛筆で線を引く程度」など)で伝えることが実際の行動変容につながります。
また、中等度以上の硬さの歯ブラシとチャーターズ法を組み合わせるのが基本ですが、炎症が強い時期や圧のコントロールが難しい患者には、まず軟毛の歯ブラシを用いた指導から始める段階的なアプローチが歯肉の損傷予防に有効です。プラーク除去が第一目的ならば問題ありません。歯肉状態に応じて歯ブラシの硬さを変えることを、患者に具体的に説明しておきましょう。
参考:ブラッシング圧と歯茎退縮のリスクについての解説(適切な圧加減の目安も掲載)
歯磨きの力加減、大丈夫ですか?ブラッシング圧について解説! — 吉祥寺もろぐちクリニック
チャーターズ法が他のブラッシング法と本質的に異なるのは、「歯間乳頭部の歯肉マッサージ」という側面が強調されている点です。一般的なブラッシング指導では歯周ポケットのプラーク除去が主題になりがちですが、歯間乳頭部の血行を意識したアプローチは、長期的な歯肉の健康維持にとって実は見逃せない要素です。これは使えそうです。
歯間乳頭(歯と歯の間の三角形の歯肉)は、歯周病の最初の炎症が起きやすい場所として知られています。ここへの血流促進と軽度の刺激が、早期の歯肉炎段階での組織抵抗力を高める効果を持つとされています。チャーターズ法のわき腹の当て方は、まさにこの歯間乳頭部への接触面積を最大化する構造になっており、歯間ブラシやデンタルフロスが使えない・使いにくい患者(例えば歯列不正が強いケースや術後の痛みがある回復期の患者)のつなぎのケアとして有効に機能します。
一点補足しておくと、歯ブラシのみのブラッシングでは歯間部のプラーク除去率は約60%にとどまるというデータがあります(ライオン歯科衛生研究所の資料等より)。チャーターズ法はわき腹で歯間に入りやすい構造をしていますが、それでも歯間ブラシやデンタルフロスとの併用が前提です。チャーターズ法「だけ」で歯間清掃が完結するわけではない、という点がポイントです。
TBIの現場で患者に伝えると反応が良い説明の例として、「歯ぐきも筋肉と同じで、毎日やさしく刺激を与えることで血の巡りがよくなります。チャーターズ法の丸い動きは、その刺激を加えるための動きです」というフレーズがあります。患者が「なぜこの動きなのか」を腑に落とすことで、自宅でも継続してもらいやすくなります。歯間ケアの補助手段として、歯間ブラシのサイズ選定と組み合わせて指導することで、患者のプラークコントロールの質を一段階引き上げることが期待できます。
参考:歯間部プラーク除去の効果についての研究データと清掃用具の比較(ライオン歯科衛生研究所)