「ゴロを一夜漬けで詰め込んだだけだと、国試本番で選択肢を見た瞬間に頭が真っ白になります。」
歯科情報
顎動脈(がくどうみゃく)は、外頸動脈の2つの終枝のうちの1本です。もう1本は浅側頭動脈で、この2本が外頸動脈の終枝として並びます。外頸動脈自体は、総頸動脈(そうけいどうみゃく)が内頸動脈と分かれた後に始まる動脈で、上甲状腺動脈・舌動脈・顔面動脈・後頭動脈・後耳介動脈・上行咽頭動脈・顎動脈・浅側頭動脈と8本の枝を出します。
顎動脈は、下顎頸(下顎骨の関節頭の直下)の裏側あたりで外頸動脈から分かれます。そこから内側・上方に向かって進み、翼突筋の間を通って、最終的に翼口蓋窩(よくこうがいか)の奥へと到達します。走行ルートが「外から内へ、下から上へ」と複雑に潜り込んでいくため、イメージが作りにくい動脈として知られています。
顎動脈の走行は3つのブロックに分かれます。スタート地点の「下顎枝部(かがくしぶ)」、中間地点の「翼突筋部(よくとつきんぶ)」、最終地点の「翼口蓋部(よくこうがいぶ)」の3つです。この3ブロックから、合計13本の枝が出ます。
| ブロック | 枝の本数 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 下顎枝部 | 4本 | 耳・硬膜・下顎の歯への血流 |
| 翼突筋部 | 4本 | 咀嚼筋・頬への血流 |
| 翼口蓋部 | 5本 | 上顎の歯・口蓋・鼻腔への血流 |
「顎動脈は3部位・13本が基本です。」まずこの数字を頭に入れてから、各ブロックの細かい枝名の暗記に進むのが合理的な順序です。3ブロックという枠組みが頭にないままゴロだけを詰め込もうとすると、試験本番でゴロが崩れたときに対応できなくなります。
Denticola「顎動脈の枝が覚えづらい」|3ブロック構成の図解イラストつき解説。顎動脈が「上方・内側へ潜り込む」走行の難しさと視覚的な整理法を紹介。
下顎枝部から出る4本の枝は次の通りです。
- 深耳介動脈(しんじかいどうみゃく):外耳道と鼓膜に分布
- 前鼓室動脈(ぜんこしつどうみゃく):鼓室(中耳)の前壁に分布
- 中硬膜動脈(ちゅうこうまくどうみゃく):棘孔から頭蓋内に入り硬膜を栄養
- 下歯槽動脈(かしそうどうみゃく):下顎孔から下顎骨内に入り下顎の歯を栄養
この4本を覚える有名なゴロが「深夜の出前(出=前鼓室)は中(中硬膜)華(下歯槽)そば」です。「深・前・中・下」という4文字の頭文字をそれぞれ拾っています。これは知恵袋でも多くの歯科系学生が使ってきた定番のゴロで、意味のある文として完結しているため定着しやすいです。
4本の中で特に国試頻出なのが、中硬膜動脈と下歯槽動脈です。中硬膜動脈は「蝶形骨(ちょうけいこつ)の棘孔(とげあな)を通って頭蓋内に侵入する」という点が頻繁に問われます。棘孔は蝶形骨に開いた小さな孔で、中硬膜動脈だけが通過するという点がポイントです。これは「中硬膜動脈だけは例外です」という独自のメモとして覚えておくと使えます。
下歯槽動脈は、下顎孔(かがくこう)から下顎骨の中に入り、前方に向かって進んだのちオトガイ動脈(mentalartery)として出てきます。この「顎動脈の枝→オトガイ動脈」という流れは、顔面動脈の枝である「オトガイ下動脈」との混同が起きやすく、名前の違いに注意が必要です。臨床的には、下顎孔伝達麻酔(下歯槽神経ブロック)の際に下歯槽動脈への誤注入リスクがあるため、解剖位置の把握は実務でも欠かせません。
下歯槽動脈の誤注入に関する安全管理については、厚生労働省の標準的な予防策の資料も参照できます。
厚生労働省「歯科治療時の局所的・全身的偶発症に関する標準的な予防策と緊急時対応」|下顎管と下歯槽神経への圧力・誤注入リスクと、コーンビームCTを使った事前診断の有用性について記載。
翼突筋部から出る4本の枝は以下のとおりです。
- 咬筋動脈(こうきんどうみゃく):咬筋(頬の外側にある咀嚼筋)を栄養
- 深側頭動脈(しんそくとうどうみゃく):側頭筋(こめかみの筋肉)を栄養
- 翼突筋枝(よくとつきんし):内・外側翼突筋を栄養
- 頬動脈(きょうどうみゃく):頬筋・頬粘膜に分布
この4本のゴロは、「よく(よくとつ=翼突筋枝)咬み(咬筋動脈)、フカ(深側頭動脈)ヒレは(頬動脈)よく翼ばります」という覚え方が使われることがあります。ただし、こちらは下顎枝部のゴロほど語感が安定しておらず、翼突筋部の4本はむしろ「咀嚼筋グループ」として機能的にまとめる方が記憶に残りやすいという意見もあります。
これは使えそうです。咀嚼に関わる筋肉(咬筋・側頭筋・内外側翼突筋)+頬筋、という「顎を動かす筋肉すべてに血を送るブロック」として理解すると、試験で選択肢を絞る際の判断根拠になります。
翼突筋部で注意が必要なのが「頬動脈」です。頬動脈は歯髄に分布する細動脈を持つという性質があり、歯科国試96A40では「歯髄に分布する細動脈を持つのはどれか」という問いが出ています。正解は「後上歯槽動脈・頬動脈」の組み合わせで、頬動脈は翼突筋部に属するにもかかわらず歯髄へのアクセスを持つという点が意外性のある内容です。この「翼突筋部なのに歯髄に関係する」という点は、試験で引っかかりやすいポイントです。
翼突筋部は4本の枝がすべて筋肉に分布するシンプルな構造のように見えますが、頬動脈の歯髄分布という例外的な特徴があるため、機能ごとに整理しながら覚えることが得点につながります。
翼口蓋部から出る5本の枝は次のとおりです。
- 後上歯槽動脈(こうじょうしそうどうみゃく):上顎大臼歯・小臼歯と歯周組織を栄養
- 眼窩下動脈(がんかかどうみゃく):眼窩下管を通り上顎前歯部の歯を栄養
- 下行口蓋動脈(かこうがいどうみゃく):口蓋孔を通り硬口蓋・軟口蓋を栄養
- 翼突管動脈(よくとつかんどうみゃく):翼突管を通り咽頭・耳管を栄養
- 蝶口蓋動脈(ちょうこうがいどうみゃく):鼻腔後部・鼻中隔に分布
翼口蓋部の5本のゴロは、dental Youth Shareが公開しているゴロ「後で、眼の下に、よく(翼突管)もまあ、バターフライ(蝶口蓋)が残ってました」が有名です。頭文字を拾うと「後・眼・下・翼・蝶」となります。
翼口蓋部は国試頻出度がとりわけ高いブロックです。各動脈がどの孔(こう)を通るかが問われるパターンが多く、出題形式に慣れておく必要があります。
| 動脈名 | 通過する孔 | 栄養する部位 |
|---|---|---|
| 後上歯槽動脈 | 歯槽孔(上顎結節後面) | 上顎大臼歯・小臼歯・歯周組織 |
| 眼窩下動脈 | 眼窩下管→眼窩下孔 | 上顎前歯・小臼歯・歯肉 |
| 下行口蓋動脈 | 大口蓋孔・小口蓋孔 | 硬口蓋・軟口蓋 |
| 翼突管動脈 | 翼突管 | 咽頭・耳管・軟口蓋 |
| 蝶口蓋動脈 | 蝶口蓋孔 | 鼻腔後部・鼻中隔 |
「孔の名前と動脈名のセット」が原則です。歯科医師国試117B33では「上顎の歯を栄養する動脈が通過するのはどれか(3つ選べ)」という形で出題されており、正解は歯槽孔・下眼窩裂(正確には眼窩下管)・翼口蓋窩のセットでした。単に動脈名を覚えるだけでなく、通過ルートとセットにしておく必要があります。
蝶口蓋動脈は、鼻腔後方の出血(後方性鼻出血)と関係が深い動脈として臨床でも知られています。前方の鼻出血とは異なり圧迫止血が難しく、耳鼻咽喉科領域では手術的処置の対象になることもあるほどです。歯科的な観点では国試知識としての重要性が高いですが、口腔外科や顎顔面外科に携わる場合には臨床的な意義も出てきます。
3部位のゴロをそれぞれ習得したあとは、3つを1本のストーリーでつなぐと記憶の定着率がさらに上がります。歯科系学生の間では以下の流れが広く使われています。
> 「深夜の出前(出=前鼓室)は中華(下歯槽)そば。よく咬み、フカ(深側頭)ヒレはよく翼(翼突筋)ばります。
後で、眼の下に、よく(翼突管)もまあ、バターフライ(蝶口蓋)が残ってました。」
これで合計13本すべての頭文字が含まれます。1文目が下顎枝部(4本)、2文目が翼突筋部(4本)、3文目が翼口蓋部(5本)に対応しています。
ただし、ゴロの丸暗記だけに頼ることには注意が必要です。試験問題の選択肢は「動脈名」「通過する孔」「栄養する部位」「所属するブロック」のどれが問われるかが毎回異なります。ゴロは入口として使い、各動脈の詳細(どこを通って、どこを栄養するか)を加えて覚えるのが、安定して得点できる方法です。
以下は、3部位のゴロ・頭文字・対応する動脈名をまとめた全体表です。
| 部位 | ゴロのキーワード | 対応動脈名 |
|---|---|---|
| 下顎枝部 | 深 | 深耳介動脈 |
| 下顎枝部 | 前 | 前鼓室動脈 |
| 下顎枝部 | 中 | 中硬膜動脈 |
| 下顎枝部 | 下(華) | 下歯槽動脈 |
| 翼突筋部 | 咬 | 咬筋動脈 |
| 翼突筋部 | 深(フカ) | 深側頭動脈 |
| 翼突筋部 | 翼 | 翼突筋枝 |
| 翼突筋部 | 頬(ヒレ) | 頬動脈 |
| 翼口蓋部 | 後 | 後上歯槽動脈 |
| 翼口蓋部 | 眼 | 眼窩下動脈 |
| 翼口蓋部 | 下 | 下行口蓋動脈 |
| 翼口蓋部 | 翼 | 翼突管動脈 |
| 翼口蓋部 | 蝶 | 蝶口蓋動脈 |
「13本の整理が条件です。」この一覧を手書きで何度も再現するのが、試験直前の最終確認として効果的です。Quizletなどのフラッシュカードアプリを使って「部位→動脈名」「動脈名→通過孔」の方向からランダムに確認するのも、知識の固定に役立ちます。
Quizlet「解剖(外頸動脈、顎動脈)単語カード」|顎動脈の3部位ごとの分岐をフラッシュカード形式で確認できる。スマートフォンからも利用可能で、すきま時間の反復練習に最適。
ゴロで覚えた内容が実際に試験でどう問われるかを、過去問の構造で確認しておくことが重要です。顎動脈に関連する過去問は、歯科医師国家試験・歯科衛生士国家試験の双方で継続的に出題されており、問われ方のパターンを事前に把握しておくだけで大きく得点が変わります。
過去の頻出パターンをまとめると、以下の3種類に分類できます。
- 「顎動脈の枝はどれか」タイプ:外頸動脈の他の枝(舌動脈・顔面動脈など)と混同させる問題。「舌動脈は顎動脈の枝ではない」という知識が問われる。
- 「通過する孔はどれか」タイプ:翼口蓋部の5本でとくに多い。後上歯槽動脈→歯槽孔、眼窩下動脈→眼窩下管、中硬膜動脈→棘孔のセットが頻出。
- 「〇〇を栄養するのはどれか」タイプ:上顎前歯部(眼窩下動脈)・鼻腔(蝶口蓋動脈)・硬口蓋(下行口蓋動脈)などが問われる。歯だけでなく粘膜や骨にも注目が必要。
「通過孔とのセット暗記が原則です。」とくに棘孔を通る中硬膜動脈と、歯槽孔を通る後上歯槽動脈は、孔の名前と動脈名のセットが問われる頻度が高いため、この2本は単体で必ず押さえておく必要があります。
歯科衛生士国家試験においても、顎動脈の分岐は解剖分野の中核テーマとして継続的に出題されています。第32回の国試対策解説でも「外頸動脈のうちどれが顎動脈の枝か」という選択問題が出ており、すべての歯科系国試受験者にとって必須の知識です。
実戦的な確認として、過去問5問のセットが公開されているページを参照しておくとよいでしょう。