筋筋膜性疼痛症候群とは、筋肉や筋膜などの軟部組織にうずくような痛みや凝りを主症状とする疼痛疾患群です。顔面領域では、咀嚼に関与する咬筋、側頭筋が主な原因筋となりますが、首や肩の胸鎖乳突筋、僧帽筋が原因となることもあります。 onodera-dc(https://www.onodera-dc.net/%E7%AD%8B%E3%83%BB%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E6%AD%AF%E7%97%9B/)
この病態の特徴は、局所の筋肉内に圧痛点とトリガーポイントが存在することです。トリガーポイントとは、触ると結節状に硬いしこりや筋肉のstiffnessが認められる部位で、その圧迫が痛覚線維の過敏化を引き起こし、離れた部位への関連痛を生じさせます。つまり筋肉の問題が歯痛として感じられるということですね。 jspc.gr(https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide01_12.pdf)
発症メカニズムは複数の要因が関わっています。不安や精神的緊張などのストレスによる神経の緊張、咬筋や側頭筋の酷使、悪い姿勢や長時間の同じ姿勢による筋肉への負担などが基本的な原因と考えられています。異常機能活動、特にブラキシズム(歯ぎしり)やクレンチング(食いしばり)が咀嚼筋の緊張、疲労感を引き起こし、症候群の発症につながります。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%8B%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4)
加えて、貧血、カルシウム・カリウム・鉄分、ビタミンC/B-1/B-6/B-12不足なども発症の一要素になっていると考えられています。栄養面のサポートも無視できない要素です。 ja.wikipedia(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AD%8B%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4)
非歯原性歯痛の原疾患として筋・筋膜性歯痛は非常に多く認められます。TMD専門医は「不可解な歯痛に遭遇した場合には、まず歯を徹底的に調べ、次に筋・筋膜痛を疑い、そのどちらでもないときにはじめてその他の口腔顔面痛の可能性について検討せよ」と教育されています。それほど頻度が高いということですね。 orofacialpain(https://www.orofacialpain.info/index/to_dentists/hajimeni_dentists/)
鑑別診断の手順は以下の通りです。まず歯の診査とともに、筋の触診を行いトリガーポイントが存在するかを確認します。咬筋は頬の筋肉、側頭筋はこめかみの筋肉で、これらを触診しながら患者が訴える歯痛が再現されるかを確認します。 s8cbb693d8424b419.jimcontent(https://s8cbb693d8424b419.jimcontent.com/download/version/1607775455/module/9686712885/name/%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%92%EF%BC%99%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E3%80%80%E5%AD%A6%E8%A1%93%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A%E3%80%80%E8%B3%87%E6%96%99.pdf)
さらに鑑別が必要な場合には診断的局所麻酔を使用します。歯に麻酔をしても痛みが消失しない場合、あるいは反対に筋中のトリガーポイントに麻酔を行って「歯痛」が消失するならば、この痛みは筋筋膜由来の非歯原性歯痛と診断できます。診断的局所麻酔が有効です。 orofacialpain(https://www.orofacialpain.info/index/to_dentists/hajimeni_dentists/)
実際の臨床現場では、三叉神経が血管や腫瘍で圧迫されると顔面に激しい痛みが起こり、痛みの原因を歯痛と間違って歯科や耳鼻科に行かれる方が多くおられますが、そこでは治りません。適切な診断がなければ治療につながらないということです。 shiroyama-hsp.or(https://www.shiroyama-hsp.or.jp/content/files/kouhou/2018/20180502.pdf)
筋筋膜性疼痛と神経障害性疼痛が併存した非歯原性歯痛の症例も報告されており、誤診要因と専門医連携による診断転換の重要性が指摘されています。複数の専門家の視点が必要な場合もあります。 jglobal.jst.go(https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202602289092061285)
誤診を防ぐためには、歯に原因が見当たらない歯痛に遭遇した際、すぐに侵襲的治療に進まず、まず筋・筋膜痛の可能性を疑うことが重要です。診断的局所麻酔で確認し、奏功すれば局所問題がある、筋・筋膜痛による関連痛の場合は奏功しないという判断基準を持つべきです。段階的な診断アプローチが基本です。 s8cbb693d8424b419.jimcontent(https://s8cbb693d8424b419.jimcontent.com/download/version/1607775455/module/9686712885/name/%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%92%EF%BC%99%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E3%80%80%E5%AD%A6%E8%A1%93%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A%E3%80%80%E8%B3%87%E6%96%99.pdf)
治療の第一選択は保存的処置です。鎮痛薬、筋肉の弛緩、異常機能活動(クレンチングおよびグラインディング)の是正、口腔内装置の使用などが通常効果的とされています。非侵襲的なアプローチが原則です。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/15-%E6%AD%AF%E7%A7%91%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%A1%8E%E9%96%A2%E7%AF%80%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%A1%8E%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%81%AE%E7%AD%8B%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E3%81%AE%E7%97%87%E7%8A%B6%E3%81%A8%E5%BE%B4%E5%80%99)
トリガーポイント注射は有効な治療法の一つです。筋肉を触診してトリガーポイントを特定し、そこに0.2CC程度の歯科用局所麻酔薬を注入するだけで治癒します。ただし、トリガーポイントは範囲が狭いため、ヒットするまでは1週間に1度程度で何回も注入する必要があるとされています。この方法は薬剤の効果というより、針を刺すことによる効果が大きいとされています。鍼灸治療と類似したメカニズムです。 kozukue-shika(https://kozukue-shika.jp/treatment/oral/ofp/)
より進んだ治療法として、ハイドロリリース治療があります。トリガーポイントでは筋肉を包む膜(筋膜)が癒着して炎症を起こしており、生理食塩水に麻酔薬を混ぜた薬液を注入することにより癒着を剥離(リリース)します。超音波エコーを使用して筋肉や神経を確認しつつ、目的の深度・部位へ注射器にて薬液を注入し、筋膜や末梢神経に滑走性をつくり、痛みや痺れを軽減させます。 uno.or(https://www.uno.or.jp/medical-topics/hydrorelease/)
薬物療法としては、非オピオイド鎮痛薬とともに、睡眠中の口腔内装置、ベンゾジアゼピン系薬剤、または筋弛緩薬の使用が役立つことがあります。症状に応じて選択します。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/15-%E6%AD%AF%E7%A7%91%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%A1%8E%E9%96%A2%E7%AF%80%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%A1%8E%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%81%AE%E7%AD%8B%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E3%81%AE%E7%97%87%E7%8A%B6%E3%81%A8%E5%BE%B4%E5%80%99)
行動療法も重要な治療要素です。患者は覚醒時の異常機能活動(顎のクレンチング、歯のグラインディング)をやめるよう学ばなければなりません。硬い食物やチューインガムは避けるべきで、理学療法、リラクゼーションを促進するバイオフィードバック、カウンセリングが一部の患者に有用です。生活習慣の改善が必須です。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/15-%E6%AD%AF%E7%A7%91%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%A1%8E%E9%96%A2%E7%AF%80%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%A1%8E%E9%96%A2%E7%AF%80%E3%81%AE%E7%AD%8B%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E7%96%BC%E7%97%9B%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4%E3%81%AE%E7%97%87%E7%8A%B6%E3%81%A8%E5%BE%B4%E5%80%99)
筋筋膜痛症候群は他の口腔顔面痛と併存する場合があります。緊張型頭痛は、咬筋、側頭筋、内側翼突筋の疼痛に加え、僧帽筋や後頸筋群(後頭の付け根の筋群)の痛みを特徴としています。この症状を持つ患者さんは、顎関節症Ⅰ型で病態生理や診断基準で重なる部分が多く、一部の緊張型頭痛といえます。頭痛と顔面痛が密接に関連しているということですね。 agmc.hyogo(https://agmc.hyogo.jp/sys/assets/img/department/33oral/pdf/gakukansetsusyo_v4.pdf)
顎関節症の痛みの病態は顎関節痛と咀嚼筋痛ですが、咬筋、側頭筋の咀嚼筋の痛みに加えて、表情筋に痛みが生じている患者さんもいます。顎関節症患者の約7割を咀嚼筋痛が占めており、咬筋(頬の筋肉)、側頭筋(こめかみの筋肉)などの筋痛がある咀嚼筋障害は頻度が高い病態です。 agmc.hyogo(https://agmc.hyogo.jp/sys/assets/img/department/33oral/pdf/gakukansetsusyo_v4.pdf)
咀嚼筋腱・腱膜過形成症、筋突起過長症、顎関節強直症なども開口障害を引き起こす疾患として鑑別が必要です。また、関節円板後方転位、外傷性関節液貯留による顎関節腔の拡大、顎関節腫瘍なども考慮すべき疾患です。包括的な診断が求められます。 agmc.hyogo(https://agmc.hyogo.jp/sys/assets/img/department/33oral/pdf/gakukansetsusyo_v4.pdf)
筋筋膜性疼痛症候群は、顎関節痛の原因として顎関節障害よりも一般的であるという認識を持つことが重要です。こめかみ(側頭筋)や頬(咬筋)、耳の下(内側翼突筋)の痛みは、就寝時や仕事に集中している時や緊張しているときに無意識に行われている強い噛みしめが原因となっていることが多くあります。無意識の習癖に注意が必要です。 agmc.hyogo(https://agmc.hyogo.jp/sys/assets/img/department/33oral/pdf/gakukansetsusyo_v4.pdf)
非歯原性歯痛は、筋・筋膜性歯痛以外にも、神経障害性歯痛(三叉神経痛、帯状疱疹、求心路遮断痛を含む)、神経血管性歯痛などに分類されます。歯が痛いとの訴えにもかかわらず当該部位の歯に原因が見当たらない場合、これらの可能性も念頭に置く必要があります。 s8cbb693d8424b419.jimcontent(https://s8cbb693d8424b419.jimcontent.com/download/version/1607775455/module/9686712885/name/%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%92%EF%BC%99%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E3%80%80%E5%AD%A6%E8%A1%93%E8%AC%9B%E6%BC%94%E4%BC%9A%E3%80%80%E8%B3%87%E6%96%99.pdf)
参考として、日本口腔顔面痛学会が発行する「非歯原性歯痛の診療ガイドライン」には、診断基準や治療法が詳しく記載されています。
また、口腔顔面痛について詳しく知りたい場合は、慶應義塾大学病院の解説ページが参考になります。
口腔顔面痛ってどんな病気?筋肉のコリが原因になることが多いです