咀嚼神経と脳神経の関係を解説する歯科従事者向けガイド

咀嚼筋を支配する三叉神経は他の筋肉とは異なる特殊な神経経路を持ち、脳機能に直接影響を与えます。咀嚼神経と脳神経の関係を正しく理解すれば、患者の認知機能低下や記憶障害の予防にどう貢献できるでしょうか?

咀嚼神経と脳神経

咀嚼筋開口筋には筋紡錘がほとんど存在しません。 nishitanabe-iesaki-dc(https://www.nishitanabe-iesaki-dc.com/2021/10/08/%E7%AD%8B%E7%B4%A1%E9%8C%98%E3%81%AE%E5%BD%B9%E5%89%B2%E3%81%8C%E5%A4%A7%E5%88%87/)


この記事の3ポイント
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咀嚼神経の特殊な経路

咀嚼筋の感覚情報は三叉神経節を経由せず中脳路核へ直接伝達される特異な神経機構を持つ

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脳神経との多重連携

咀嚼運動には三叉神経・顔面神経・舌咽神経・迷走神経・舌下神経の5つの脳神経が協調して働く

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認知機能への直接的影響

咀嚼刺激は三叉神経を介して海馬や前頭葉の血流を増加させ記憶・学習機能の維持に寄与する


咀嚼神経における三叉神経の役割と神経支配の仕組み

咀嚼筋はすべて三叉神経第3枝である下顎神経の支配を受けています。具体的には、咬筋神経、深側頭神経内側翼突筋神経、外側翼突筋神経といった枝が各咀嚼筋を支配しており、これらは表情筋を支配する顔面神経とは明確に区別されます。 kubota-specialcaredental(https://kubota-specialcaredental.jp/blog/%E5%92%AC%E7%AD%8B%E3%83%9E%E3%83%83%E3%82%B5%E3%83%BC%E3%82%B8%EF%BC%88%E5%92%80%E5%9A%BC%E7%AD%8B%E3%81%AE%E8%B5%B7%E5%A7%8B%E5%81%9C%E6%AD%A2%EF%BC%89/)


三叉神経は12本ある脳神経の中でも最も太い神経で、歯根膜を通じて脳の中枢へ信号を送る役割を担っています。歯と歯が当たって咀嚼する際、その力を歯根膜が受け止め、刺激を歯髄に伝達し、さらに三叉神経を経由して脳へと信号が送られます。 kokumin.ago(https://kokumin.ago.ac/study/02/index.html)


咀嚼筋を支配する三叉神経は、その末端に筋紡錘とゴルジ腱受容体という感覚受容体を持ち、咀嚼筋活動を神経筋機構によって巧みにコントロールしています。筋紡錘は筋の伸張反射に関与し、ゴルジ腱受容体は閉口緊張の反射的調整に関係しています。これが基本です。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/occlusion/20268)


ただし、咀嚼筋の中でも開口筋には筋紡錘がほとんど存在しないという特徴があります。筋紡錘は細やかな動きが必要とされる眼輪筋や指先の筋肉に多く見られますが、咀嚼筋では閉口筋にのみ筋紡錘の存在が確認されます。 nishitanabe-iesaki-dc(https://www.nishitanabe-iesaki-dc.com/2021/10/08/%E7%AD%8B%E7%B4%A1%E9%8C%98%E3%81%AE%E5%BD%B9%E5%89%B2%E3%81%8C%E5%A4%A7%E5%88%87/)


咀嚼神経が脳神経中枢へ伝達される特殊な経路

咀嚼筋の固有感覚情報は、他の感覚神経とは異なる特殊な経路で脳へ伝達されます。咀嚼筋に存在する筋紡錘や腱受容体からの情報は、三叉神経の三叉神経節を介さずに、直接中脳根線維を経て三叉神経中脳路核に伝達されるのです。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/occlusion/20040)


三叉神経中脳路核は、自己受容性の感覚(固有感覚)を司る中枢として重要な役割を果たしています。ここで整理された感覚情報の一部は、さらに上位の中枢へ上行して脳でその感覚が識別され、また一部の情報は三叉神経運動核に伝達されて咀嚼筋などの活動を促進または抑制するよう働きかけます。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/occlusion/20040)


研究によると、咀嚼筋筋紡錘の感覚は、三叉神経上核から視床のVPMcvmに加え、視床髄板内核群のoval paracentral nucleus(OPC)にも両側性に伝達されることが明らかになっています。つまり口腔顔面感覚の中で咀嚼筋筋紡錘の感覚と他の感覚とが明確に区別されて伝達されるということですね。 dent.osaka-u.ac(https://www.dent.osaka-u.ac.jp/oa2/oa2-4231)


この三叉神経視床路は2つ存在し、咀嚼筋の感覚が他の口腔顔面感覚とは異なる特別な処理を受けていることを示しています。この経路の賦活がトゥレット症候群などの疾患とも関連する可能性が指摘されており、臨床的にも重要な知見となっています。 dent.osaka-u.ac(https://www.dent.osaka-u.ac.jp/oa2/oa2-4231)


咀嚼運動と協調する脳神経のネットワーク

咀嚼から嚥下までの一連の動作には、三叉神経だけでなく複数の脳神経が協調して働いています。12本ある脳神経のうち、実に5本もの神経が食べ物を噛んで、舌を動かし、唾液とまぶして、呑み込むという行為と関係しているのです。 kokumin.ago(https://kokumin.ago.ac/study/02/index.html)


具体的には以下の神経が関与しています。


- 三叉神経:咀嚼時の顎の開け閉めや、ごっくんと飲み込む時の喉仏(喉頭)を上げる筋肉を動かし、口腔内の大部分の感覚を脳へ伝える kitatsuji-dc(https://kitatsuji-dc.com/blog/%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%82%8B%E4%BA%8B%E3%81%AB%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%99%E3%82%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C/)
- 顔面神経:顔の筋肉(表情筋)を動かし、舌の前方3分の2の味覚を脳に伝える kitatsuji-dc(https://kitatsuji-dc.com/blog/%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%82%8B%E4%BA%8B%E3%81%AB%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%99%E3%82%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C/)
- 舌咽神経・迷走神経:飲み込む時に喉の中の筋肉を動かす(鼻咽腔閉鎖や咽頭収縮など) kitatsuji-dc(https://kitatsuji-dc.com/blog/%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%82%8B%E4%BA%8B%E3%81%AB%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%81%99%E3%82%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C/)
- 舌下神経:舌の運動に関係する kokumin.ago(https://kokumin.ago.ac/study/02/index.html)


咀嚼運動は食べ物を口に入れた時の歯や口腔から入る感覚情報により、かむ力や速さを変えることができる精密な運動です。咀嚼の運動パターンは、歯根膜感覚や閉口筋筋紡錘感覚をもとに咀嚼の中枢性パターン発生器が形成し、三叉神経上核や顔面神経背側の網様体などに存在するプレモーターニューロンを介して各運動ニューロンに送られます。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1416200107)


研究によると、「奥歯で噛む」時は咀嚼筋の筋活動の上昇に応じて小脳をはじめとした運動の命令を送る領域の脳活動が活性化し、「前歯で噛む」時に比べ有意に強い正の相関が示されました。一方「前歯で噛む」時は、逆に咀嚼筋の筋活動の上昇に応じて帯状皮質運動野をはじめとした繊細な力のコントロールに関与する領域の脳活動が減少しました。厳しいところですね。 ncnp.go(https://www.ncnp.go.jp/topics/2019/20190613.html)


咀嚼神経刺激が脳機能に与える影響とメカニズム

咀嚼によって脳に与えられる効用は主に2つあります。1つ目は、咀嚼をすると三叉神経を介して大脳新皮質を刺激することで、覚醒状態を保つことができるという点です。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/39454)


大脳新皮質の覚醒状態を保つ脳幹網様体賦活系には三叉神経を含めいくつかの神経がつながっていますが、大脳新皮質の覚醒の度合いにもっとも影響を与えるのは三叉神経です。したがって、三叉神経とのかかわりが強い咀嚼は非常に重要です。 quint-j.co(https://www.quint-j.co.jp/dictionaries/keyword/39454)


咀嚼をした時に最も顕著となる脳の活性化は、大脳皮質(脳の表面部分)の感覚野、運動野、補足運動野のほか、弁蓋部、島、小脳、視床などでみられます。咀嚼の運動は電気信号として脳を刺激し、脳の海馬や前頭葉の血流を増やし、その結果神経活動を活性化します。 lotte.co(https://www.lotte.co.jp/kamukoto/brain/845/)


研究では、良く噛むことで大脳の神経が活性化され、大脳皮質の血流量が大きく増えるメカニズムが解明されています。脳の血流量とマイネルト神経細胞の活動との関係を調べた結果、咀嚼野を電気刺激することで脳の血流量が増加することが確認されました。 himan(https://himan.jp/news/2020/000370.html)


成長期における咀嚼刺激の低下が記憶を司る海馬の神経細胞に変化をもたらし、記憶・学習機能障害を引き起こすことも研究で突き止められています。この成果は、記憶・学習機能障害や認知症の予防において咀嚼機能の維持または強化が有効であることを示唆します。 jst.go(https://www.jst.go.jp/pr/announce/20170616/index.html)


咀嚼神経と脳神経の関係から見る認知症予防の臨床的意義

咀嚼が記憶力を高めることは、複数の研究で実証されています。学生を対象にした実験では、ガムを噛みながら学習した群は、噛まなかった群に比べて記憶テストの成績が有意に高かったという結果が得られています。 irodori(https://www.irodori.dental/staff/6772/)


咀嚼は脳の海馬に刺激を与え、これが記憶形成に重要な役割を果たすとされています。一般高齢者12名に毎食30回以上咀嚼するよう指導し、1週間後および6ヵ月後に咀嚼力と短期記憶を測定した研究では、咀嚼力と短期記憶がともに維持・向上する傾向が確認されました。認知症予防につながる可能性が示唆されたということですね。 oasis.nagano(https://oasis.nagano.jp/journal/2024/06/post-346.php)


多くの研究が「咀嚼行動と認知症の発症リスク低減」の関連性を示しており、咀嚼の運動は電気信号として脳を刺激し、脳の海馬や前頭葉の血流を増やすことで神経活動を活性化して認知症の予防や進行を遅らせます。 blanc-dental(https://blanc-dental.jp/column/gum-2/)


歯並びが綺麗に並んでいると、信号が奥歯から順々に伝わり正しい信号が脳に送られ、最大限に脳に栄養が行き渡るという研究結果もあります。逆に歯並びが悪いと正しい信号が脳に送られず、脳への栄養供給が不十分になる可能性があります。 tomodc(https://www.tomodc.jp/column/2023/03/02/%E6%AD%AF%E4%B8%A6%E3%81%B3%E3%81%A8%E8%84%B3%E3%81%AE%E9%96%A2%E4%BF%82%E3%80%80%E3%82%88%E3%81%8F%E5%99%9B%E3%82%81%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AF%E8%84%B3%E3%81%AE%E7%99%BA%E8%82%B2%E3%81%AB/)


患者の咀嚼機能を評価し維持・向上させることは、単に栄養摂取の効率を上げるだけでなく、認知機能の維持という観点からも極めて重要です。歯科従事者として、義歯の適合性の確認、咬合調整歯周病治療による咀嚼機能の回復など、咀嚼神経と脳神経の関係を理解した上での包括的なアプローチが求められます。これは使えそうです。


咀嚼刺激の低下が記憶・学習機能を障害するメカニズムに関する研究(JST)