歯科疾患管理料を算定した月でも、同月に手術が施行されれば術後から周術期等口腔機能管理料(Ⅰ)を別に算定できます。
歯科情報
周術期等口腔機能管理は、2012年の診療報酬改定で保険導入されました。以来、改定のたびに対象範囲と算定体系が拡充され、令和6年(2024年)改定でも大きな見直しが行われています。まず、算定の全体像となる基本ステップを押さえましょう。
最初のステップは、手術等を実施する保険医療機関からの文書による依頼を受けることです。患者さんやご家族の問診だけでは算定はできません。この点は非常に重要で、依頼文書の有無は査定・返戻の際に最初に確認される事項です。依頼文書が届いたら、依頼元の保険医療機関名をレセプト摘要欄に記載する必要があります。
次のステップが、周術期等口腔機能管理計画策定料(周計)の算定です。計画策定料は一連の治療を通じて1回に限り300点を算定します。患者またはその家族の同意を得た上で管理計画書を作成し、文書で提供することが要件です。計画書には、基礎疾患の状態・生活習慣、主病の手術予定、口腔内の現症と予測される変化、実施する管理内容、セルフケアの指導方針、担当歯科医師名などを記載します。カルテには管理計画書の写しを添付するか、内容を転記してください。
そして3番目のステップが、周術期等口腔機能管理料(Ⅰ〜Ⅳ)の算定です。管理計画書に基づいて口腔機能の管理を実施し、管理報告書を作成して患者に提供した場合に算定できます。管理報告書には、口腔内の状態の評価、実施内容・指導内容、その他必要な内容を記載します。手術や放射線治療等の実施年月日または予定年月日をレセプト摘要欄に記載することも必須です。
手術前に口腔機能管理を行った場合は、依頼元の医科病院に対して歯科治療経過報告書を返信することも忘れずに。急ぎの場合はFAXでの返信も認められていますが、文書は必ず後日送付してください。3つのステップが基本です。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ①依頼受付 | 医科病院から文書で依頼を受ける | 患者問診のみは不可/依頼元機関名を摘要欄記載 |
| ②計画策定 | 管理計画書を作成・患者に文書提供 | 一連の治療を通じて1回限り300点/カルテに写し添付 |
| ③管理・報告 | 口腔機能管理を実施し管理報告書を患者に提供 | 手術等の実施年月日を摘要欄記載/依頼元へ経過報告書返信 |
参考:大阪府歯科医師会 周術期等口腔機能管理の保険算定について(詳細な算定フローと文書例が掲載されています)
大阪府歯科医師会 周術期等口腔機能管理の保険算定について(PDF)
令和6年改定後、周術期等口腔機能管理料は「Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ」の4種類に整理されています。どの区分を算定すべきかは、患者の状態と所属する保険医療機関の種別によって決まります。
周術期等口腔機能管理料(Ⅰ)は主に一般歯科診療所が算定するものです。手術前1回(280点)と手術後は手術を行った月から3ヶ月以内に計3回(1回あたり190点)算定できます。対象は「手術を実施する他の病院の入院中の患者または入院中以外の患者」です。つまり、かかりつけ歯科として術前にケアし、退院後も管理を続けるという標準的なパターンがこの区分にあたります。施設基準の届出は不要です。
周術期等口腔機能管理料(Ⅱ)は、手術を行う病院と同一の医療機関に属する歯科医師が入院中の患者に管理を行う場合に算定します。手術前1回(500点)、手術後は3ヶ月以内に月2回まで(1回あたり300点)算定できます。病院内に歯科・口腔外科が設置されている場合の院内連携がこれにあたります。歯科診療所では算定できません。
周術期等口腔機能管理料(Ⅲ)は、令和6年改定で外来(入院中以外)の患者に限定されました。放射線治療・化学療法・集中治療室における治療・緩和ケアを実施する患者が対象で、月1回200点を算定できます。また、管理計画策定料を算定した月から6ヶ月を超えて管理を継続した場合は長期管理加算として50点が加算されます。長期にわたる化学療法患者の継続管理に積極的に活用したい区分です。
周術期等口腔機能管理料(Ⅳ)は令和6年改定で新設されました。放射線治療・化学療法・集中治療室における治療・緩和ケアを実施する患者のうち、入院中の患者を対象とします。管理計画策定月から3ヶ月以内は月2回、それ以降は月1回算定でき、6ヶ月超で長期管理加算50点を算定できます(200点+50点=最大250点)。Ⅲ(外来)とⅣ(入院中)に分離されたことが令和6年改定の大きなポイントです。
| 区分 | 算定主体 | 対象患者 | 点数・回数 |
|---|---|---|---|
| 周Ⅰ(280点/190点) | 歯科診療所 | 手術患者(外来・他院入院中) | 術前1回、術後3月以内3回 |
| 周Ⅱ(500点/300点) | 医科歯科併設病院の歯科 | 手術患者(同一病院入院中) | 術前1回、術後3月以内月2回 |
| 周Ⅲ(200点) | 歯科診療所・歯科病院 | 放射線/化学療法/ICU/緩和ケア患者(外来) | 月1回(6月超は+50点) |
| 周Ⅳ(200点) | 歯科診療所・歯科病院 | 放射線/化学療法/ICU/緩和ケア患者(入院中) | 3月以内は月2回、以降月1回(6月超は+50点) |
参考:クラブサンスタープロ 令和6年度診療報酬改定について|周術期等における口腔機能管理(改定前後の要件対比が詳しく掲載されています)
令和6年度診療報酬改定について | 周術期等における口腔機能管理
最も問い合わせが多く、算定誤りも多い論点が「歯科疾患管理料(歯管)との同月算定」です。原則として、周術期等口腔機能管理料(Ⅰ〜Ⅳ)を算定した月には、歯科疾患管理料を算定できません。これが基本です。
ただし、見落としやすい重要な例外があります。
「同月内において、術前に歯科疾患管理料を算定し、その後に手術が施行されて術後に周術期等口腔機能管理料(Ⅰ)を算定する場合は、同月に算定できる」という特例です。この例外を知らずに術後の周Ⅰを諦めている歯科医院は、実際に算定機会を損失していることになります。
この特例が適用できるのは「術前=歯管/術後=周Ⅰ」という時系列の流れが同月内に完結している場合です。同月内でも「術後=周Ⅰ算定月」に後から歯管を追加することはできません。月の前半に歯管を算定した後、月内に手術が施行されて術後の口腔機能管理が必要になった場合は、その月の周Ⅰを別に立てられる、という理解が正確です。
同様に、歯科疾患在宅療養管理料、在宅患者歯科治療時医療管理料、小児口腔機能管理料、口腔機能管理料、歯科特定疾患療養管理料、歯科治療時医療管理料、がん治療連携指導料、歯科矯正管理料も周術期等口腔機能管理料との同月算定は原則不可です。管理料を複数算定している患者さんに周術期等口腔機能管理の依頼が届いたときは、その月のレセプト構成を慎重に確認してください。意外ですね。
具体的なシナリオで確認しましょう。例えば2月1日に歯科疾患管理料を算定した患者さんが、2月15日に全身麻酔下の手術を受け、2月20日に退院後の口腔管理を依頼されたとします。この場合、2月に「歯管(算定済み)+周Ⅰ手術後」を同月算定することが認められます。
なお、歯科診療科のある病院が周Ⅱを算定している場合、その患者への訪問診療で周Ⅰを同月算定することはできません。入院先の病院を確認する必要があります。
参考:愛知県保険医協会 周術期の口腔機能管理に関わる留意事項(同月算定の例外事項や注意ケースが詳しく解説されています)
愛知県保険医協会 周術期の口腔機能管理に関わる留意事項
周術期等口腔機能管理を算定した際、歯科衛生士が専門的口腔清掃を行った場合に周術期等専門的口腔衛生処置(術口衛)を算定できます。この算定を見落としている医院が意外に多い点です。
術口衛1(100点)は、歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が専門的口腔清掃を行った場合に算定します。周Ⅰまたは周Ⅱを算定した入院中の患者に対して、術前1回・術後1回まで算定できます。周Ⅲまたは周Ⅳを算定した患者に対しては月2回まで算定できます。なお、緩和ケアを実施している患者については、周Ⅲまたは周Ⅳを算定した月において月4回まで算定回数が拡大されました(令和6年改定)。
術口衛2(110点)は、放射線治療または化学療法の副作用として生じた口腔粘膜炎に対して、口腔粘膜保護材(エピシル口腔用液:特定保険医療材料766点)を使用して疼痛緩和を行った場合に算定します。病名は「口腔粘膜炎」が必要で、摘要欄に前回の算定年月日を記載します。令和6年改定で一連の管理を通じて1回から月1回に算定回数が拡充されました。これは使えそうです。
歯科衛生士が処置を実施した場合は、歯科医師が指示内容・歯科衛生士名をカルテに記録し、歯科衛生士も業務記録を作成することが必要です。「歯科衛生実地指導料」「訪問歯科衛生指導料」とは同月・同日で算定できます。一方、機械的歯面清掃処置との同月算定は原則不可ですが、「機械的歯面清掃処置を算定した月に手術が施行され、手術日以降に術口衛を実施した場合」は例外として同月算定が認められます。
なお、術口衛1と術口衛2は同日には算定できません。同月であれば併算定は可能です。患者の状態に合わせて適切な区分を使い分けましょう。
参考:しろぼんねっと 周術期等口腔機能管理料(Ⅳ)点数・算定要件(算定要件の詳細と注の全文が確認できます)
B000−9 周術期等口腔機能管理料(Ⅳ)|歯科診療報酬点数表
算定方法を正しく理解しても、そもそも依頼文書が来なければ算定は始まりません。実は、周術期等口腔機能管理の算定率は伸び悩んでいる歯科医院が多いのが現実です。その最大の原因は「医科側からの依頼が来ない」という連携不足にあります。
厚生労働省が示す連携ルートは大きく3パターンです。①手術を行う病院(歯科口腔外科あり)と歯科診療所が連携する「病診連携A」、②病院内の医科と歯科が完結する「院内連携B」、③歯科のない病院から地域の歯科診療所が依頼を受ける「病診連携C」です。歯科診療所として積極的に取り組めるのは主にAとCです。
近隣の総合病院や整形外科・消化器外科・がん診療連携拠点病院に対して、「周術期等口腔機能管理を受け入れています」という案内文書を送付することが連携強化の第一歩です。医師側には「歯科医師による周術期口腔機能管理の実施後1ヶ月以内に、全身麻酔下の悪性腫瘍手術等を実施した場合、医科側でも手術の所定点数に200点(周術期等口腔機能管理後手術加算)を加算できる」というメリットがあります。医科側のメリットを伝えると連携が進みやすくなります。
また、がん患者に限らず、令和6年改定から集中治療室(ICU)での治療後患者や緩和ケア患者、さらに入院期間が2日を超える歯科疾患の手術患者も対象に加わりました。「心臓弁膜症の手術後患者」「股関節置換術患者」「脳血管外科手術患者」など、これまで歯科管理の発想がなかった科からも依頼が来る可能性があります。院内・院外を問わず、周術期管理の対象患者像を広く医科側に周知しておくことが、今後の算定拡大に直結します。
患者さん側にも「入院が決まったら主治医に歯科管理の依頼書をもらってください」と事前に伝えておくと、来院患者を起点に連携が生まれることもあります。算定の仕組みを知っているだけでは不十分です。
参考:山梨県 周術期等口腔機能管理における医科歯科連携のための手引き(連携フローと算定後手術加算の説明が詳述されています)
山梨県 周術期等口腔機能管理における医科歯科連携のための手引き(PDF)
正しく算定しても、レセプトの記載が不備であれば返戻・査定の原因になります。周術期等口腔機能管理に関するレセプト記載のポイントを整理します。
まず病名についてです。P病名(歯周病)やC病名(う蝕)がなくても算定できます。周術期等口腔機能管理の病名は「周術期口腔機能管理中」または「術後合併症」を使用します。これは多くの歯科医師が「歯科の病名がないと算定できない」と思い込んでいる点のひとつです。P病名ゼロで依頼が来ても、正しく算定できます。
次に摘要欄の記載事項です。周術期等口腔機能管理計画策定料の算定時には依頼元の保険医療機関名を記載します。周術期等口腔機能管理料(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ)の算定時には手術・放射線治療・化学療法等の実施年月日または予定年月日を記載します。緩和ケアを実施する患者に対して周Ⅲまたは周Ⅳを算定する場合は、その旨(緩和ケア実施中である旨)を摘要欄に記載します。
手術後に初めて依頼を受けた脳血管外科手術等の術後患者については、摘要欄に「脳卒中等の術後早期に口腔機能管理の依頼」と記載したうえで、1回目の周Ⅰ・Ⅱは「2 手術後」として算定します(「1 手術前」は算定できません)。これは記載必須です。
周術期等専門的口腔衛生処置2(術口衛2)を算定する場合、摘要欄に前回の算定年月日を記載することが必要です。また、気管内挿管時の口腔内装置を製作した場合は「気管内挿管時の口腔内装置必要状態」という病名を立て、摘要欄に手術予定日・手術を行う保険医療機関名・「気管内挿管時の歯の保護等を目的として製作した口腔内装置」の旨を記載します(口腔内装置3として680点算定可)。
参考:京都国民健康保険連合会 診療報酬明細書の「摘要」欄への記載事項等一覧(歯科)(摘要欄の記載事項を項目ごとに網羅した公式一覧です)
京都国民健康保険連合会 診療報酬明細書「摘要」欄への記載事項等一覧(歯科)(PDF)