リリカ(プレガバリン)を処方した高齢患者が、翌週の来院時に転倒して骨折していた。
神経障害性疼痛とは、神経そのものが傷ついたり圧迫されたりすることで生じる痛みです。ビリビリ・ジンジンとした灼熱感や電撃様の痛みが特徴で、ロキソニンやボルタレンといった一般的なNSAIDsがほとんど効かないのが大きな特徴です。
リリカの主成分プレガバリンは、神経細胞の電位依存性カルシウムチャネルの「α₂δ(アルファ2デルタ)サブユニット」に結合して作用します 。この結合によって、細胞内へのカルシウム流入が抑制され、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の放出が減少します 。 sincellclinic(https://sincellclinic.com/column/lyrica-pregabalin)
つまり、「過剰に興奮した神経を落ち着かせる」というのが基本です。
| 項目 | リリカ(プレガバリン) | NSAIDs(例:ロキソニン) |
|---|---|---|
| 作用機序 | Caチャネルα₂δ結合 → 神経伝達物質抑制 | COX阻害 → プロスタグランジン抑制 |
| 対象となる痛み | 神経障害性疼痛・線維筋痛症 | 炎症性疼痛・急性疼痛 |
| 代表的副作用 | めまい・傾眠・浮腫・体重増加 | 消化器症状・腎機能障害 |
| 歯科での代表的使用場面 | 神経障害性歯痛・抜歯後遷延性疼痛 | 抜歯後急性疼痛・感染性歯痛 |
歯科でリリカが検討される代表的な病態を整理しておくことは、処方の適正化に直結します。典型的なのは「神経障害性歯痛(Neuropathic Toothache)」で、感染・外傷・根管治療後に神経障害が残る状態です。
適応として検討される主な病態は以下の通りです。
- 根管治療後遷延性疼痛:治療は完了しているのに3ヶ月以上痛みが持続する状態。神経障害性成分が疑われる
- 帯状疱疹後神経痛(PHN):口腔・顔面に帯状疱疹が生じた後の持続性灼熱痛。リリカの最初の適応症
- 三叉神経障害性疼痛:カルバマゼピンが第一選択だが、代替薬または追加薬としてプレガバリンが検討される webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15104/J01461.2020218334)
2011年の適応拡大により、「末梢性神経障害性疼痛」全般への適応が認められ、歯科医師による処方が可能になりました 。これは歯科従事者にとって大きな変化でした。 kazenomorishika(https://www.kazenomorishika.com/43/)
ただし「痛み止めが効かない=神経障害性疼痛=プレガバリン」という短絡的な処方は危険です 。適切な鑑別診断なしの処方は、効果が得られないばかりか副作用リスクだけが残ることになります。診断が先、処方はその後というのが原則です。 jorofacialpain.sakura.ne(https://jorofacialpain.sakura.ne.jp/data/handout_110605.pdf)
リリカを処方する上で、副作用への理解は欠かせません。めまいや傾眠は要注意です。
PMDA(医薬品医療機器総合機構)の再審査報告書によると、副作用発現率は承認時の臨床試験で約65.9%にのぼりました 。主な副作用は以下の通りです。 pmda.go(https://www.pmda.go.jp/drugs_reexam/2019/P20190701002/671450000_22200AMX00297_A100_2.pdf)
- 😵 浮動性めまい:23.4%(承認時調査、1,680例中393例) eisai.co(https://www.eisai.co.jp/news/pdf/news201028pdf.pdf)
- 😴 傾眠:15.9%(同267例) eisai.co(https://www.eisai.co.jp/news/pdf/news201028pdf.pdf)
- 🦵 浮腫(末梢性):10.7%(同179例) eisai.co(https://www.eisai.co.jp/news/pdf/news201028pdf.pdf)
- ⚖️ 体重増加:継続投与で発現。患者への事前説明が必要
- 🚨 重大な副作用:心不全、肺水腫、意識消失、横紋筋融解症、腎不全、血管浮腫 eisai.co(https://www.eisai.co.jp/news/pdf/news201028pdf.pdf)
特に高齢者への投与には慎重な対応が必要です。
発売直後(2010年6月)の副作用報告10件のうち7件が80歳超の患者であり、ふらつき・転倒が多数を占めました 。転倒による骨折リスクは、高齢歯科患者では生命予後にも関わります。 min-iren.gr(https://www.min-iren.gr.jp/news-press/shinbun/20110620_15187.html)
添付文書上の初期用量は「150mg/日(朝夕2回)」ですが、高齢者には25〜75mg/日の就寝前1回投与から開始し、1週間以上かけて漸増するのが現場での推奨です 。また、腎機能低下患者では投与量を減量する必要があります 。 jspc.gr(https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide08_11.pdf)
参考:神経障害性疼痛の診断・治療に関するガイドライン(日本ペインクリニック学会)
神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版(日本ペインクリニック学会)
投与量の段階的な設定が、副作用を最小化しながら効果を引き出す鍵です。
通常の成人における標準的な投与方法は以下のステップになります 。 pins.japic.or(https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068974.pdf)
1. 初期投与:1日150mg(75mgを朝夕2回)から開始
2. 漸増フェーズ:1週間以上かけて効果・副作用を確認しながら増量
3. 維持量:1日300mg(効果不十分な場合は最大600mg/日まで増量可能)
4. 減薬時:急な中止は離脱症状(不眠・頭痛・発汗・不安)の原因になるため、1週間以上かけて漸減
高齢患者では上記の半量以下から開始するのが安全です。
歯科では、疼痛の性質を評価する問診が処方の出発点になります。「ズキズキする炎症性の痛み」か「ビリビリ・ジンジンする神経性の痛み」かの鑑別は、問診と視診・触診だけで7〜8割は可能です。NRS(Numeric Rating Scale)やDN4質問票(神経障害性疼痛のスクリーニングツール)を活用すると判断精度が上がります。
また、内科・神経科との連携も重要です。特に線維筋痛症など全身性疾患が疑われる場合は、専門医への紹介も選択肢になります。
参考:リリカのくすりのしおり(一般患者向け情報)
リリカカプセル75mgのくすりのしおり(くすりの適正使用協議会)
「リリカを処方したが改善しない」という状況は、実は珍しくありません。効かない場合の理由を知っておくと、次の手が打てます。
リリカが効きにくいまたは効かないケースとして、以下が挙げられます。
- 診断の誤り:炎症性疼痛・筋筋膜性疼痛をリリカの適応と誤診した場合は当然効果なし
- 侵害受容性疼痛の混在:神経性と炎症性が混在している複合性疼痛では、単独では不十分
- 用量不足:副作用を恐れて低用量のまま維持し、有効域に達していない
- 腎機能低下による血中濃度の低下:腎排泄型の薬のため、腎機能低下があると有効濃度に達しない jspc.gr(https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide08_11.pdf)
- 心理社会的要因:慢性疼痛には破局的思考や抑うつが関与しており、薬物だけでは改善しないケースがある
リリカが効かない場合の代替・追加薬として、三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)、SNRI(デュロキセチン)、タリージェ(ミロガバリン)などがあります 。 www5.famille.ne(http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-352-16.html)
これは使えそうです。
歯科における神経障害性疼痛は、身体的・心理的因子が複雑に絡み合うケースが多いため、「薬を出せば解決する」と考えず、患者の生活背景も含めた包括的なアプローチが重要です。精神科・心療内科・ペインクリニックとの連携を視野に入れておくことが、長期的な患者ケアにつながります。
参考:神経障害性疼痛のセミナー資料(顎顔面口腔痛学会)
神経障害性疼痛セミナー資料(日本顎顔面口腔痛学会)
その冷たい一口、放置すると神経を抜く流れです。 apollohospitals(https://www.apollohospitals.com/zh-CN/symptoms/hyperalgesia)