ロキソニンを処方しても、筋痛症の患者の痛みが7割は改善しないことがあります。
歯科臨床において「筋痛症」という言葉が指す範囲は、実は思っているよりも広いです。大きく分けると、①筋・筋膜性疼痛症候群(MPS)、②線維筋痛症(FM)、③咀嚼筋痛障害の3つが歯科と深く関わっています。 onodera-dc(https://www.onodera-dc.net/%E7%AD%8B%E3%83%BB%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E6%AD%AF%E7%97%9B/)
筋・筋膜性疼痛症候群は、特定の筋肉や筋膜に「トリガーポイント」と呼ばれる圧痛点ができ、そこから離れた部位(歯や顎など)に関連痛を引き起こすのが特徴です。 歯に問題がないのに歯痛を訴える患者の半数以上は、この筋・筋膜の関連痛が原因とされており、歯科医師が最初に対応するケースが非常に多いです。 hojoshika-shinnihonbashi(https://www.hojoshika-shinnihonbashi.com/w8nekv/)
線維筋痛症は全身の広範な痛みと、慢性疲労・不眠を伴う疾患で、顎関節や咀嚼筋にも症状が出ます。 診断には専門的知識が必要ですが、歯科治療がストレスとなり症状を悪化させることがあるため、治療前のスクリーニングが重要です。 www5.famille.ne(http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-352-18.html)
咀嚼筋痛障害は顎関節症の一分類で、開口時や咀嚼時の筋肉痛として発現します。つまり、歯科で扱う筋痛症は一括りにできないということです。それぞれのタイプによって、有効な薬物療法が大きく異なります。
多くの歯科従事者は、痛みにまずロキソニン(ロキソプロフェン)を処方します。これは炎症性の痛みには有効ですが、筋痛症の痛みメカニズムとは根本的に相性が悪いです。 hijiyaortho(https://www.hijiyaortho.com/news/3183)
NSAIDsが効かない理由は明確です。ロキソニンをはじめとするNSAIDsは、プロスタグランジンという炎症物質の産生を阻害することで鎮痛効果を発揮します。しかし、線維筋痛症や筋・筋膜性疼痛症候群では末梢の炎症が主体ではなく、中枢神経系の感作(中枢性感作)が痛みの本質です。 rheuma-net.or(https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/illness/fm/)
日本リウマチ学会のガイドラインでも、「ロキソニン(ロキソプロフェン)やボルタレン(ジクロフェナク)などの一般的な解熱鎮痛薬、および副腎皮質ステロイドは線維筋痛症の痛みには有効ではない」と明記されています。 これは重要な事実です。 rheuma-net.or(https://www.rheuma-net.or.jp/rheuma/illness/fm/)
では代わりに何を選ぶかというと、以下の薬剤が現在の主流です。
| 薬剤名(商品名) | 分類 | 筋痛症への効果 | 主な副作用 |
|---|---|---|---|
| プレガバリン(リリカ®) | 神経障害性疼痛治療薬 | 🔵 高い(線維筋痛症で保険適用) | 傾眠・浮動性めまい・体重増加 |
| デュロキセチン(サインバルタ®) | SNRI系抗うつ薬 | 🔵 高い | 吐き気・眠気・口渇 |
| アミトリプチリン(トリプタノール®) | 三環系抗うつ薬 | 🔵 中等度 | 口渇・便秘・眠気・体重増加 |
| アセトアミノフェン(カロナール®) | 解熱鎮痛薬 | 🟡 限定的(補助的使用) | 少ない(肝機能に注意) |
| ロキソプロフェン(ロキソニン®) | NSAIDs | 🔴 効果乏しい | 胃腸障害・腎機能障害 |
アセトアミノフェン(カロナール)は中枢性に作用するため、炎症のない筋膜痛にも一定の効果があります。NSAIDsより副作用が少ない点も、歯科現場では使いやすい理由のひとつです。 hijiyaortho(https://www.hijiyaortho.com/news/3183)
プレガバリン(商品名:リリカ®)は、線維筋痛症において日本で初めて保険適用を取得した薬剤です。 これは大きな意義があります。 oralhealth(https://oralhealth.jp/fibromyalgia/)
プレガバリンは神経の過剰な興奮を抑制するカルシウムチャンネルα2δサブユニットに作用し、中枢性感作を緩和することで筋痛症の痛みを和らげます。 睡眠の質を改善する効果もあるため、不眠を伴う難治性の慢性疼痛にも幅広く使われています。 www5.famille.ne(http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-20-20.html)
ただし、副作用への注意は欠かせません。臨床試験において最も多く報告された有害事象は、傾眠・浮動性めまい・体重増加・便秘・異常感覚です。 歯科治療中の患者がリリカを服用している場合、体位変換時のめまいや転倒リスクに注意が必要です。 pg-japan(http://pg-japan.jp/wp_pgjapan/wp-content/uploads/2021/11/seninkintsusho-tomo-no-kai-kaihou_201107_34.pdf)
さらに注目すべきは、2023年に発表された台湾の大規模コホート研究(200万人分のデータ)の結果です。プレガバリンを使用した患者は、使用しなかった患者に比べ認知症の発症リスクが45%高いことが示されました。 特に累積使用量が多いほどリスクが高まるとされており、長期処方の際には慎重な判断が求められます。 okuno-y-clinic(https://okuno-y-clinic.com/shibuya/column/nou-itami/)
意外ですね。患者がプレガバリンを服用している事実は問診で必ず確認し、治療計画に反映させることが歯科医としての重要な役割です。
「抗うつ薬を痛みの薬として使う」ことに違和感を覚える患者も少なくありません。説明の仕方が歯科従事者の腕の見せどころです。
三環系抗うつ薬(TCA)の代表であるアミトリプチリン(トリプタノール®)は、40〜50年前から慢性疼痛の治療に使われており、世界的に最も定評のある薬の一つです。 脳内のノルアドレナリンとセロトニンの再取り込みを阻害することで、下行性疼痛抑制系を活性化し、痛みの感じ方そのものを変えるメカニズムです。 同時に睡眠改善効果もあるため、不眠を伴う顎関節症の難治性疼痛にも有効とされています。 luxia-ginza(https://luxia-ginza.com/hiteikeishituu/treatment/)
SNRI系のデュロキセチン(サインバルタ®)も線維筋痛症への有効性が高く推奨されています。 三環系と比較して心臓への副作用が少なく、高齢患者にも使いやすい選択肢です。 kashiwa-gomi-shikanaika(https://kashiwa-gomi-shikanaika.com/blog/post-2627/)
ただし、これらの薬は歯科では通常処方できません。歯科での役割は「患者がこれらの薬を服用しているかを把握し、副作用(口渇による龋蝕リスク増加、唾液分泌低下など)に備えること」です。三環系抗うつ薬は口腔乾燥(ドライマウス)を引き起こしやすく、齲蝕や歯周病が急速に進行するリスクがあります。抗うつ薬服用中の患者には、より頻繁なメインテナンスを勧めることが大切です。
現在のガイドラインが推奨する治療は、薬物療法と非薬物療法の「個別化治療」です。 非薬物療法で効果が証明されているのは以下の通りです。 kashiwa-gomi-shikanaika(https://kashiwa-gomi-shikanaika.com/blog/post-2627/)
- 🏃 段階的有酸素運動:筋痛の閾値を引き上げ、中枢性感作を改善する
- 🧘 認知行動療法(CBT):痛みへの過剰反応を修正し、QOLを向上させる
- 😴 睡眠改善:不眠は痛みを増幅させるため、睡眠の質を上げること自体が鎮痛になる
- 🦷 マウスピース(スプリント):食いしばり・歯ぎしりによる咀嚼筋への負荷を軽減する
- 💆 鍼治療・温泉療法:一定の有効性が報告されている kashiwa-gomi-shikanaika(https://kashiwa-gomi-shikanaika.com/blog/post-2627/)
歯科で特に取り組めるのはマウスピース療法とカウンセリングです。筋・筋膜性歯痛では、TCH(歯列接触癖)の改善指導だけで著しく改善するケースがあります。 副作用もなく、効果も高いとされており、まず試みるべき第一の介入といえます。 onodera-dc(https://www.onodera-dc.net/%E7%AD%8B%E3%83%BB%E7%AD%8B%E8%86%9C%E6%80%A7%E6%AD%AF%E7%97%9B/)
なお、ボツリヌス毒素(ボトックス)注射は顎の筋肉痛(筋・筋膜性疼痛症候群)への効果は低いとされており、積極的な適応は推奨されていません。 これも意外な事実です。 shinbashishika(https://shinbashishika.com/blog/tmd-pharmacotherapy/)
筋痛症の患者に歯科治療を行う際は、治療そのものがストレスとなり症状を悪化させるリスクがあります。 そのため、通常の患者以上の細やかな配慮が必要です。 www5.famille.ne(http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-352-18.html)
まず問診での確認事項を整理しておくとよいです。
- 💊 服用中の薬の確認:リリカ(傾眠・めまい)、サインバルタ・トリプタノール(口渇・起立性低血圧)、トラマドール(依存リスク)など
- 🪑 治療時の体位:長時間の仰臥位は筋痛症患者に苦痛を与えやすい。こまめな休憩と体位調整を心がける
- ⏱️ 治療時間:1回の治療を短めに設定し、筋肉への負荷を最小限にする
- 😰 ストレス管理:歯科治療の音・痛み・においは線維筋痛症の悪化因子。静脈内鎮静法が有効な症例もある jglobal.jst.go(https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201302211446476632)
痛みに対して鎮痛薬を処方する場合は、まずアセトアミノフェン(カロナール)が妥当です。 NSAIDsを選択する場合は、胃腸障害や腎機能への影響を考慮し、必要最小限の期間・用量にとどめることが原則です。 lowbackpain(https://lowbackpain.jp/Drug-therapy-for-chronic-low-back-pain)
また、筋弛緩薬(テルネリン・ミオナール)は顎関節症の治療に使用されることもありますが、眠気やだるさの副作用があるため、最近は使用頻度が減っています。 使用する際は患者に副作用を事前説明した上で、短期間にとどめることが条件です。 www5.famille.ne(http://www5.famille.ne.jp/~ekimae/sub7-20-20.html)
歯科治療後に痛みが強い場合は、専門機関(口腔顔面痛科、顎関節症治療科)への紹介を検討してください。昭和大学歯科病院のような専門機関では、神経障害性疼痛治療薬・三環系抗うつ薬・弱オピオイドなど、より専門性の高い薬物療法が行われています。 showa-u.ac(https://www.showa-u.ac.jp/SUHD/department/list/tmd/)
歯科医従事者として筋痛症の薬の知識を深めることは、患者への適切な対応だけでなく、不要な処置や誤った治療を避けることにもつながります。薬の選択はケースバイケースが基本です。
口腔顔面痛・顎関節症の薬物療法に関する詳細なガイドライン情報はこちらも参考になります。
顎関節症(顎機能障害)の薬物治療の詳細解説|新橋しか歯科医院(NSAIDsからボトックスまで各薬剤の推奨度を解説)
線維筋痛症診療ガイドライン2017の解説|柏五味歯科内科クリニック(プレガバリン・デュロキセチンの推奨度と非薬物療法について)
プレガバリン(リリカ)の認知症リスクに関する解説|オクノクリニック(2023年・台湾大規模コホート研究の内容を詳しく解説)