歯科診療補助・管理の業務範囲と安全実践ガイド

歯科診療補助の業務範囲は法律で明確に定められており、違反すると医院に重大なリスクが生じます。歯科衛生士と歯科助手の業務範囲の違い、感染管理、記録管理の法的義務を正しく理解していますか?

歯科診療補助・管理の業務範囲

歯科助手が印象採得すると保険返戻で300万円超の損害が出る


📋 この記事で分かる3つのポイント
⚖️
歯科衛生士と歯科助手の業務境界

絶対的歯科医行為と相対的歯科医行為の違いを理解し、法的リスクを回避する方法を解説します

📝
診療補助における記録管理義務

カルテ保存期間は5年間、違反すると損害賠償請求リスクが20年継続する法的根拠を説明します

🦠
感染対策とチーム医療の実践

スタンダードプリコーションに基づく器具管理とスタッフ教育の具体的手法を紹介します


歯科診療補助の法的業務範囲と職種別の違い


歯科診療補助の業務範囲は、歯科衛生士法と歯科医師法によって厳密に定められています。この法的枠組みを正しく理解していないと、医院が重大な法的リスクに直面する可能性があります。


歯科衛生士は国家資格を持つ医療従事者として、歯科医師の指示のもと「相対的歯科医行為」を実施できます。相対的歯科医行為とは、歯科医師の監督下であれば歯科衛生士にも許可される医療行為のことです。具体的には歯石除去、歯の表面への薬剤塗布、ホワイトニング、仮歯の調整などが含まれます。厚生労働省の調査によれば、歯科衛生士の約80%が歯周組織検査を実施しており、約79%が歯肉縁下スケーリングを行っています。


つまり相対的歯科医行為ですね。


一方で「絶対的歯科医行為」は、どのような状況でも歯科医師のみが行える業務です。歯の切削、抜歯や神経の除去、精密印象採得、咬合採得、詰め物・被せ物の装着、麻酔注射などがこれに該当します。歯科衛生士がこれらの行為を行うと、歯科医師法違反として行政処分や刑事罰の対象になります。


歯科助手の業務範囲はさらに限定的です。歯科助手は国家資格ではなく、原則として患者の口腔内に触れる行為は一切認められていません。受付業務、器具の準備と片付け、診療室の清掃、カルテ管理、予約管理などの事務的サポートが主な業務です。バキューム操作については法的にグレーゾーンとされていますが、患者の口腔内に直接触れる場合は違法行為となります。


業務範囲外の行為は違法です。


2022年には、歯科医師の指示で歯科助手が精密印象採得や仮の詰め物の除去を行っていたとして、歯科医師と歯科助手が逮捕される事件が発生しました。このような違法行為が発覚すると、医院は保険医療機関の指定取消しや保険返戻を求められる可能性があります。保険返戻の金額は過去の診療分全体に及ぶこともあり、数百万円から1,000万円を超える損害になるケースもあります。


業務範囲を明確にするには、院内業務基準書の作成が効果的です。歯科衛生士と歯科助手それぞれが「できること」「できないこと」を文書化し、全スタッフに周知徹底することで、意図しない違法行為を防げます。業務基準書には、各業務の実施条件、歯科医師からの指示の受け方、緊急時の対応手順なども含めると、より実践的なマニュアルになります。


厚生労働省の歯科衛生士業務に関する公式資料はこちら


歯科診療補助における感染対策と器具管理の実践

歯科診療補助における感染対策は、患者とスタッフの安全を守る最重要課題です。特に「スタンダードプリコーション標準予防策)」の徹底は、すべての歯科医療機関に求められる基本原則となっています。


スタンダードプリコーションとは、「すべての患者が感染症を保有している可能性がある」という前提で感染対策を行う考え方です。血液、体液、分泌物、排泄物、損傷した皮膚、粘膜などすべての湿性生体物質を感染源とみなし、一律に予防策を講じます。この原則に基づけば、問診で感染症の有無を確認できなかった患者に対しても、適切な感染対策が実施されます。


すべての患者に同じ対策です。


診療補助における具体的な感染対策には、手指衛生、個人防護具(PPE)の着用、器具の適切な洗浄・消毒・滅菌、診療環境の清潔維持が含まれます。手指衛生は処置前後に必ず実施し、アルコール手指消毒または石鹸と流水による手洗いを行います。個人防護具として、手袋、マスク、ゴーグルまたはフェイスシールド、エプロンを適切に着用します。特に飛沫やエアロゾルが発生する処置では、目の保護が重要です。


器具管理では、使用後の器具を「汚染区域」で洗浄し、「清潔区域」で滅菌処理を行う動線の分離が基本です。超音波洗浄機とウォッシャーディスインフェクターを併用すると、手洗いでは除去しきれない血液やタンパク質を効果的に除去できます。滅菌にはクラスBオートクレーブの使用が推奨されており、滅菌パックに処理日と有効期限を記載することで、未滅菌器具の誤使用を防げます。


滅菌記録は保管が必要です。


診療ユニット周辺の感染対策も見落とせません。ユニットの取っ手、スイッチ類、ライトハンドルなどは患者ごとにバリアフィルムで保護するか、薬液消毒します。バキュームホースやハンドピース類は専用の消毒システムで内部まで洗浄し、交差感染のリスクを最小限に抑えます。


感染対策の実効性を高めるには、スタッフ教育とマニュアル整備が欠かせません。新人スタッフには採用時に感染対策研修を実施し、年1回は全スタッフ向けに最新ガイドラインの勉強会を開催します。手順書には写真やイラストを多用し、誰が見ても同じ手順で作業できるように工夫します。感染対策は日々の積み重ねによって定着するため、定期的なチェックリスト確認とフィードバックが効果的です。


日本歯科衛生士会の感染対策ガイドラインはこちら


歯科診療補助における記録管理とカルテの法的義務

歯科診療補助に関する記録管理は、法的義務であると同時に医療安全の根幹を成す重要業務です。適切な記録がなければ、医療事故発生時の責任の所在が不明確になり、医院が不利な立場に立たされる可能性があります。


歯科医師法第23条により、歯科医師は診療録(カルテ)を作成し、診療が完結した日から5年間保存する義務があります。この保存期間は紙カルテも電子カルテも同様です。保存義務に違反した場合、歯科医師法第33条の2により50万円以下の罰金が科される可能性があります。


5年間の保存が法律で義務です。


ただし、民法改正により医療事故による損害賠償請求権の消滅時効が20年に延長されたため、実務上はカルテを20年間保存する医療機関が増えています。特に自由診療でインプラントや矯正治療を行った患者のカルテは、長期間の保存が推奨されます。5年で廃棄したカルテについて10年後に訴訟が起きた場合、医院側が適切な治療を行った証拠を提示できず、不利な判決を受けるリスクがあります。


歯科診療補助を行った歯科衛生士も、業務記録を作成する必要があります。日本歯科衛生士会が2024年に公表した「歯科衛生士の業務記録に関する指針」では、歯科衛生士が実施した歯科予防処置、歯科診療補助、歯科保健指導の内容を記録することが推奨されています。記録には実施日時、患者氏名、実施した処置内容、使用した器材・薬剤、患者の反応や変化、歯科医師からの指示内容などを含めます。


記録は客観的証拠になります。


電子カルテを使用する場合、「電子保存の三原則」への適合が必須です。三原則とは、真正性(改ざん防止)、見読性(必要時に読める)、保存性(長期保存が可能)です。バックアップを複数箇所に保管し、システム障害時でもカルテにアクセスできる体制を整えます。電子カルテシステムの選定時には、これらの要件を満たしているか確認します。


記録管理の実務では、カルテ記載のタイミングとダブルチェック体制が重要です。診療直後に記録を作成することで記憶が鮮明なうちに正確な情報を残せます。歯科医師と歯科衛生士が互いの記録を確認し合い、記載漏れや矛盾がないかチェックする習慣をつけると、記録の質が向上します。


患者からカルテ開示を求められた場合、個人情報保護法に基づき原則として開示に応じる義務があります。開示請求から2週間以内に対応し、コピー代などの実費を請求できます。カルテ開示を拒否できるのは、患者本人や第三者の生命・身体に危害が及ぶ恐れがある場合など、法律で定められた例外的な場合に限られます。


日本歯科衛生士会の業務記録指針はこちら


歯科診療補助におけるチーム医療と効果的な連携体制

歯科診療補助の質を高めるには、歯科医師・歯科衛生士・歯科助手が一体となったチーム医療の実践が不可欠です。各職種が専門性を発揮しながら連携することで、患者により安全で質の高い歯科医療を提供できます。


チーム医療の基本は、役割分担の明確化とコミュニケーションです。歯科医師は診断と治療計画の立案、絶対的歯科医行為の実施、全体的な管理監督を担当します。歯科衛生士は相対的歯科医行為としての診療補助、歯科予防処置、歯科保健指導を担当します。歯科助手は診療環境の整備、器具の準備と片付け、受付業務、予約管理などの事務的サポートを担当します。


役割分担が明確だと効率的です。


効果的な連携には、朝礼とミーティングの活用が有効です。診療開始前の5分間の朝礼で、その日の予約患者の特記事項、使用する器材、注意点などを共有します。週1回のスタッフミーティングでは、インシデント事例の検討、新しい術式や器材の勉強、患者からのフィードバック共有などを行います。これにより、スタッフ全員が同じ情報を持ち、統一された対応ができます。


診療中のコミュニケーションでは、ハンドサインやアイコンタクトも重要です。口頭での指示が難しい場合、事前に決めた合図で器具の受け渡しや吸引のタイミングを伝えます。特に複雑な処置では、歯科衛生士が患者の状態変化に気づき、適切なタイミングで歯科医師に報告することで、偶発症を未然に防げます。


タイミングを逃さない報告です。


スタッフ教育では、新人教育プログラムと継続教育の両輪が必要です。新人には最初の3ヶ月間で基本的な診療補助技術、感染対策、患者対応を段階的に習得させます。チェックリストを使って到達度を確認し、一定レベルに達したら次のステップに進みます。既存スタッフには外部研修への参加機会を提供し、新しい知識や技術を医院内で共有してもらいます。


チーム医療の質を客観的に評価するには、患者満足度調査とスタッフ間フィードバックが有効です。患者アンケートで「スタッフの連携がスムーズだった」「説明が統一されていた」などの項目を設け、定期的に評価します。スタッフ同士で「今日の連携で良かった点」「改善できる点」を伝え合う習慣をつけると、チーム全体のパフォーマンスが向上します。


医科歯科連携も視野に入れたチーム医療の展開が求められています。糖尿病や心疾患などの全身疾患を持つ患者の歯科治療では、主治医との情報共有が重要です。診療情報提供書を活用し、患者の全身状態を把握した上で安全な歯科治療を提供します。このような連携体制の構築により、地域医療における歯科医院の役割が拡大しています。


厚生労働省のチーム医療推進資料はこちら


歯科診療補助の業務範囲拡大と浸潤麻酔に関する最新動向

歯科診療補助の業務範囲は、社会のニーズや医療技術の進歩に応じて見直しが検討されています。特に歯科衛生士による浸潤麻酔行為については、2024年に厚生労働省が新たな見解を示し、業界内で大きな議論を呼んでいます。


2024年6月、日本歯科医師会から歯科衛生士による浸潤麻酔行為の取り扱いについて疑義照会が出され、厚生労働省は「歯科衛生士が歯科医師の指示のもと浸潤麻酔を行うことは可能」との回答を示しました。ただし、歯科衛生士が自らの判断で実施することはできず、歯科医師が患者の状態や歯科衛生士の知識・技能を踏まえて実施の可否を判断し、明確な指示を出す必要があります。


医師の指示が絶対条件です。


この見解を受けて、日本歯科医師会、日本歯科医学会、日本歯科衛生士会の三者連名で、安全な実施のための体制整備と教育見直しを求める要望書が提出されました。現状の歯科衛生士養成課程では、浸潤麻酔の実習はほとんど行われていません。2021年の調査では、浸潤麻酔の相互実習を実施している養成施設はわずか0.7%、臨床実習で実施している施設は0%でした。


つまり教育体制が不十分ですね。


厚生労働省の調査によれば、現場で浸潤麻酔を実施している歯科衛生士は3.4%に留まっています。一方で、歯周治療時のスケーリング・ルートプレーニング(SRP)では、約79%の歯科衛生士が実施しており、疼痛管理のニーズは高いことが分かります。痛みを感じやすい歯肉縁下の処置で麻酔が使えれば、患者の負担軽減と治療の質向上につながります。


今後の課題は、安全に浸潤麻酔を実施できる知識と技能を持った歯科衛生士を育成する教育体制の整備です。必要とされる教育内容には、解剖学、生理学、薬理学などの基礎医学、バイタルサインの測定と評価、局所麻酔の合併症と対応、全身的偶発症への対処などが含まれます。認定資格制度や卒後研修プログラムの創設も検討されています。


安全確保が最優先課題です。


業務範囲の拡大は、歯科衛生士の職能拡大とキャリア発展の機会にもなります。高度な技術を習得した歯科衛生士は、より専門性の高い診療に携わり、患者からの信頼も高まります。一方で、技術習得には時間と費用がかかるため、医院側の支援体制も重要になります。研修参加のための勤務調整、研修費用の補助、院内での練習機会の提供などが求められます。


浸潤麻酔以外でも、口腔内スキャナーの操作、矯正装置の調整、インプラント周囲のメンテナンスなど、新しい技術や治療法に伴う業務範囲の明確化が課題となっています。それぞれの行為が「絶対的歯科医行為」か「相対的歯科医行為」かを判断し、適切な教育と指示体制のもとで実施することが、患者の安全と医院の法的リスク回避につながります。


歯科衛生士の業務範囲に関する詳しい解説はこちら




スマホで学ぼう! 歯科診療の補助コンプリートBOOK (共同動作編 Part1)第2版