滅菌パック期限の正しい理解と管理方法

滅菌パックの期限は原則無限ですが、実際の歯科医院では1~6ヶ月の設定が一般的です。期限管理を怠ると感染リスクが高まる可能性がありますが、適切な知識があれば無駄なコストを削減できます。あなたの医院の期限設定は本当に適切でしょうか?

滅菌パック期限の基本と管理方法

破れがなければ滅菌パックは永久に無菌を保てます。


📋 この記事の3つのポイント
期限は原則無限だが施設ごとに設定

適切な保管なら滅菌パックの使用期限は原則的に無限ですが、日本の歯科医院では1~6ヶ月の設定が一般的です

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TRSM方式とERSM方式の違い

時間依存型と事象依存型の2つの考え方があり、保管環境や包装形態によって適切な期限設定が異なります

適切な保管と記録管理が重要

扉付きキャビネットでの保管、温度18~24℃・湿度75%以下の環境維持、滅菌日と期限の記録が必須です


滅菌パック期限の原則と施設ごとの設定基準


日本感染症学会のガイドラインによると、滅菌パックの包装に破れや水濡れがなければ、使用期限は原則的に無限とされています。適切に滅菌され、適切に保管されていれば、滅菌状態は理論上永続するという考え方です。


日本感染症学会の滅菌物使用期限に関する公式見解(PDF)


しかし実際の歯科医院では、材質の経時的劣化や在庫管理の観点から、施設ごとに独自の使用期限を設定することが一般的です。日本の多くの歯科医院では1~6ヶ月の範囲で期限を設定しており、中には2週間という短期設定や、1年という長期設定を採用している施設もあります。


つまり各医院の判断次第ということですね。


この設定の幅がある理由は、保管環境の違いにあります。扉付きキャビネットで空調管理された部屋に保管する場合と、開放棚で保管する場合では、無菌性維持の条件が大きく異なるためです。また、包装材料の種類によっても推奨期間が変わってきます。


期限設定を決める際には、自院の保管環境を客観的に評価することが重要です。温度・湿度管理の状況、保管棚の種類、人の往来の頻度などを総合的に判断して、無菌性を維持できる現実的な期間を設定しましょう。


滅菌パック有効期限の2つの考え方TRSM方式とERSM方式

滅菌物の有効期限には、時間依存型無菌性維持(TRSM: Time Related Sterility Maintenance)と事象依存型無菌性維持(ERSM: Event Related Sterility Maintenance)という2つの考え方があります。


どちらが正解ということはありません。


TRSM方式は、時間の経過とともに滅菌の質保証が変わるという考え方です。米国CDCが1970年代前半に実施した研究で、織布で二重包装された物の有効期限が3週間であったことから定められました。この方式では、包装材料や包装形態に応じて具体的な期限を設定し、その期限内に医療機器を使用するよう管理します。


日本では伝統的にTRSM方式が採用されており、滅菌バッグで包装した場合は1~6ヶ月、滅菌コンテナで包装した場合はより長い期間といった具体的な期限設定が行われています。管理がシンプルで明確な期限があるため、スタッフにとって理解しやすいメリットがあります。


一方ERSM方式は、滅菌物を汚染する可能性のある事象が存在すれば、時間にかかわりなく無菌性は破綻するという考え方です。つまり、適切に保管されている限り期限は設定せず、破損や濡れなどの事象が発生した時点で無菌性が失われるとみなします。


米国では現在、TRSM方式からERSM方式へと考え方が変わってきており、あえて有効期限を設定しない施設も増えています。ただし現実的には、各施設で滅菌方法、包装材料、包装形態、保管条件などを総合的に考慮し、TRSMとERSMを融合した使用期限の設定が必要とされています。


自院でどちらの方式を採用するかは、スタッフの管理能力と保管環境によって決めるとよいでしょう。厳格な環境管理ができる場合はERSM寄りの長期設定、スタッフの入れ替わりが多い場合はTRSM方式で明確な期限設定が推奨されます。


滅菌パック保管方法と温度湿度の適正範囲

滅菌パックの無菌性を維持するには、保管環境の整備が最も重要です。国際的なヘルスケアセントラルサービス資材管理協会では、滅菌物の保管場所の温度は18℃~24℃、相対湿度は75%以下であるべきとしています。


日本の歯科医院では、室温20~25℃、湿度40~50%を目安に維持し、温湿度変動による結露発生を防止することが推奨されています。結露が発生すると滅菌パックの紙面が湿気を帯び、無菌バリアが破綻する可能性があるためです。


湿気は最大の敵です。


保管場所としては、扉付きの戸棚が最も適しています。扉がない開放棚の場合は、床面から20cm以上、天井から45cm以上、外壁から5cm以上離して保管することが基本的なルールです。これらの距離を確保することで、床からの埃の巻き上げ、天井からの結露の落下、外壁からの温度変化の影響を最小限に抑えられます。


また、水道近くや流しの下など、湿気を帯びる可能性のある場所は絶対に避けてください。人通りが多い場所も、パックに触れる機会が増えるため適していません。空調された部屋では通気口や吸気ファンの近くには置かないことも重要です。


保管時の注意点として、滅菌パックを折り曲げたり、輪ゴムで束ねたりしてはいけません。これらの行為は包装材料を破損させ、無菌バリアを破綻させる原因になります。パックは平置きまたは立てて保管し、圧迫しないように仕切り板などを使用するとよいでしょう。


滅菌パック期限管理の記録方法とトレーサビリティ確保

滅菌パックには滅菌日と使用期限を明記することが必須です。手書きの場合は、高圧蒸気滅菌で滲まない油性ペンを使用します。細すぎないペンを選び、パック表面に滅菌日、使用期限、滅菌サイクル番号などを記録しましょう。


より効率的な方法として、滅菌日と期限をスタンプで押印する方法があります。日付スタンプを用意しておけば、毎回手書きする手間が省けます。スタンプを押す位置は、パックを開封する際に確認しやすい場所を選んでください。


最近では、バーコードやQRコードを使った管理システムも普及しています。滅菌パックにバーコードラベルを貼付し、滅菌履歴と患者情報を連携させることで、トレーサビリティが確保できます。万が一滅菌不良が発覚した場合でも、どの患者にどの器具を使用したか追跡できるため、リコール対策として有効です。


日本医療機器学会の滅菌管理業務におけるトレーサビリティ白書2024


記録管理台帳の作成も重要です。滅菌日、滅菌方法、滅菌者、使用期限、使用日、使用患者などを記録する台帳を作成し、少なくとも週に1回は有効期限を確認して記録簿に記録します。この台帳は、医療安全管理の観点からも重要な証拠書類となります。


在庫管理では「先入れ先出し」が原則です。必ず最初に期限が切れる物品から使用するよう、期限が近い順に並べて保管しましょう。月1回は期限切迫品の回収を行い、期限切れ前に再滅菌するか廃棄する運用が推奨されます。


デジタル管理システムを導入できない小規模医院でも、エクセルなどの表計算ソフトで簡易的な管理台帳を作成することは可能です。滅菌物の種類ごとにシートを分け、滅菌日と期限を入力すれば、自動で期限切れアラートを出す設定もできます。


滅菌パックの期限切れと破損時の対応方法

期限切れの滅菌パックは、内部の無菌保証が失われる可能性があるため、そのまま使用することはできません。期限切れを発見したら、速やかに再滅菌の手続きを取る必要があります。


これが基本ルールです。


再滅菌の手順は、まず滅菌パックから器具を取り出し、洗浄・乾燥を経て、新しい滅菌パックに入れ直します。


古い滅菌パックは再利用してはいけません。


滅菌過程を通過すると、滅菌パックに仕組まれたフィルターが変化し、2回目の滅菌過程では滅菌剤の浸透も細菌の遮断も効果を失ってしまうためです。


破損や濡れを発見した場合も同様の対応が必要です。滅菌パックに破れ、穴、水濡れの痕跡が確認された場合、パック内が汚染されている可能性があるため使用できません。床に落としたパックも、衝撃で微細な破損が生じている可能性があるため、再滅菌が必要です。


滅菌インジケーターの確認も忘れてはいけません。滅菌パックに印刷されたインジケーターが適切に変色していない場合、滅菌条件が満たされていない可能性があります。滅菌後は必ず「滅菌済」の文字が浮き出ているか、インジケーターが指定の色(多くの場合、紫から水色、またはピンクから茶色)に変色しているか確認しましょう。


開封時の注意点として、スタッフは手袋を装着し、紙面から破るように開封しながら、器具が外気や手指に触れないよう注意します。患者ごとに新たなパックを開けることで、患者に「この医院は滅菌を徹底している」という安心感を与える効果もあります。


期限管理のミスを防ぐために、定期的な棚卸しを実施しましょう。月に1回、すべての滅菌パックの期限をチェックし、期限が近いものは優先的に使用するよう赤いシールを貼るなど、視覚的に分かりやすくする工夫が有効です。


滅菌パック使い回しのリスクと経営への影響

滅菌パックの使い回しは、感染リスクだけでなく、医院の信頼性や経営にも深刻な影響を与えます。シール部分の強度や紙面の透過性が劣化して内部が汚染される恐れがあり、厚生労働省や日本歯科医師会、感染管理学会などの指針でも再利用は推奨されていません。


使い回しが発覚した場合の影響は計り知れません。患者からの信頼を失うだけでなく、口コミやSNSで情報が拡散されれば、医院の評判は地に落ちます。2015年には、多くの歯科医院で歯を削る医療機器を滅菌せずに使い回している実態が報道され、歯科業界全体の信頼が揺らぎました。


経済的な観点から見ても、滅菌パックのコストは1枚あたり数十円程度です。この数十円をケチって患者の安全を脅かすことは、リスクとリターンが全く見合いません。むしろ、患者の目の前で滅菌パックを開封することで、「この医院は衛生管理が徹底している」という付加価値を提供できます。


適切な期限管理と新品パックの使用は、感染対策の基本であると同時に、患者満足度を高めるマーケティングツールでもあります。待合室に滅菌の取り組みを掲示したり、ホームページで滅菌プロセスを紹介したりすることで、他院との差別化につながります。


コスト削減を考えるなら、使い回しではなく、適切な在庫管理によって期限切れを減らす方向で取り組むべきです。滅菌物の使用頻度を分析し、よく使う器具は多めに、あまり使わない器具は少なめに滅菌するなど、データに基づいた在庫最適化が賢明な経営判断といえるでしょう。




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