「施設基準を満たしていれば自動的に加算が算定できる」と思っていると、実は届出なしでは1点も算定できず返還請求を受けます。
歯科外来診療感染対策加算は、歯科診療において適切な感染防止対策を講じている医療機関を評価する診療報酬上の加算です。患者が安心して歯科治療を受けられる環境整備を促進する目的で設けられており、2024年度の診療報酬改定でも制度の維持・拡充が図られています。
加算には「歯科外来診療感染対策加算1」「歯科外来診療感染対策加算2」「歯科外来診療感染対策加算3」の3区分が存在します。それぞれの点数は以下の通りです。
| 区分 | 点数 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 歯科外来診療感染対策加算1 | 6点 | 基本的な感染対策体制 |
| 歯科外来診療感染対策加算2 | 12点 | より高度な設備・研修要件 |
| 歯科外来診療感染対策加算3 | 20点 | 最上位。感染管理の徹底と設備整備 |
これは1回の初・再診ごとに算定できる加算です。つまり、仮に1日10人の患者を診察し全員に加算3(20点)を算定できれば、1日200点、月単位では数千点規模の収益になります。点数の差は小さく見えますが、塵も積もれば山となります。
加算1・2・3は上位互換の関係にあり、加算3の要件を満たせば加算1・2も含まれているとみなされます。届出に際しては、自院が満たせる最上位の区分を申請するのが一般的な考え方です。
この加算の根拠となるのは、厚生労働省が定める「診療報酬の算定方法」および「施設基準に関する届出に係る取扱いについて(告示・通知)」です。2024年度改定に関する詳細は以下を参照できます。
令和6年度診療報酬改定に関する告示・通知等(厚生労働省)では、歯科領域の感染対策加算の施設基準と届出要件が明記されています。
施設基準が肝心です。区分ごとに求められる内容が明確に異なるため、それぞれを正確に把握しておく必要があります。
【加算1の主な要件】
【加算2の主な要件(加算1の要件に加えて)】
【加算3の主な要件(加算1・2の要件に加えて)】
「クラスB」という言葉は聞き慣れない方も多いかもしれません。これはEN13060という欧州規格に基づく滅菌性能の区分で、中空器具(タービンハンドピースの内部など)まで確実に滅菌できる最上位クラスを指します。国内でもPrevac(プレバキューム)式オートクレーブがこれに相当することが多く、現時点では診療室に導入している医院はまだ限られています。加算3を目指す場合、機器導入コストが数十万〜百万円超になることも珍しくありません。
加算3の要件は加算1・2と比べて設備面での投資が大きくなります。どの区分を狙うかは、現在の設備状況と将来的な投資計画を考え合わせて判断することが重要です。
届出が完了して初めて算定できます。これが原則です。
施設基準の要件を院内で満たしたとしても、地方厚生局への届出が受理されるまでは算定することができません。届出前に算定してしまった場合、それは不正請求とみなされ、過去に遡って返還を求められる可能性があります。
届出の流れは大きく以下の通りです。
提出が月末ギリギリになると算定開始が翌々月にずれ込む場合もあるため、早めの準備が得策です。
必要書類として代表的なものは以下です。
書類の不備は届出の遅延に直結します。提出前に管轄の地方厚生局窓口へ確認の連絡を入れるのが確実です。地方厚生局ごとに様式や添付書類の運用が若干異なる場合があるため、必ずその地区のホームページを確認してください。
関東信越厚生局のウェブサイトでは、歯科関連の施設基準届出に関する様式と記載例が公開されており、届出前の確認に役立ちます。
「研修は1回受ければ終わり」と思っている歯科医従事者は少なくありません。これは要注意です。
加算1の場合、感染対策に関する研修を「年1回以上、全従事者を対象に実施」することが施設基準上の要件です。つまり、1回受けて終わりではなく、毎年継続して実施し、その記録を保管しておく必要があります。指導監査の際に研修記録の提示を求められることが多く、記録がなければ「要件を満たしていない」と判断されるリスクがあります。
加算2・3では、常勤の歯科医師または歯科衛生士が「感染対策に係る適切な研修」を受けていることが求められます。ここで重要なのは、「どの研修が認められるのか」という点です。
認定される研修として代表的なものは以下の通りです。
「どの研修でもいい」は誤解です。認定外の研修を受けていた場合、加算2・3の施設基準を満たさないと判断される可能性があります。
加算3の場合は特に、修了証の有効期限や更新の有無についても確認が必要です。研修を受けた年が古く、現行の基準に適合した内容かどうか不明な場合は、改めて最新の研修を受講することをおすすめします。
また、新しいスタッフが入職した際にも同様の研修を受講させる必要がある点も見落とされがちです。院内で新規採用のたびに研修機会を設けるか、次回の全体研修まで算定区分を見直す判断が求められることもあります。厳しいところですね。
研修機会については、日本歯科医師会のウェブサイトで年間スケジュールや認定研修一覧を確認できます。
施設基準の「取得」よりも「維持」の方が難しいというのが、多くの歯科医療機関の本音です。届出後に油断して体制が崩れ、指導監査で要件不備を指摘される事例は実際に起きています。
ここでは、施設基準を継続的に維持するために有効な院内体制づくりについて、実践的な視点からまとめます。
まず重要なのは「感染対策担当者の明確化」です。院長や院長代理が兼任するケースが多いですが、担当者を明確に決め、業務分掌として文書化しておくことで、スタッフ全員の意識が統一されます。歯科衛生士が担当者になっているクリニックでは、衛生管理の質が向上しやすいという傾向があります。
次に「チェックリストの活用」です。院内感染対策マニュアルはあっても、日常的に運用されていないケースが見受けられます。毎日の診療前・後に確認できる1枚もののチェックリストを作成し、実施記録として保管しておくことが有効です。このリストは指導監査の際にも実態確認の証拠として提出できます。これは使えそうです。
研修記録の管理についても、年度ごとにファイルを分けて整理しておくのが理想的です。記録の内容には「実施日・場所・テーマ・参加者氏名・資料の有無」を必ず含めましょう。口頭確認だけでは記録として認められない場合があります。
さらに、設備の定期点検も見落とされがちなポイントです。オートクレーブなどの滅菌器具は、適切なメンテナンスが行われていない場合、機器の性能を満たせなくなることがあります。メーカーの点検記録を保管しておくことで、要件の維持を客観的に示すことができます。
加算取得後も、年に1回は施設基準の内容と自院の状況を照らし合わせる「施設基準チェックの日」を設けることをおすすめします。診療報酬改定の際には要件が変わることがあるため、改定のたびに通知文書を確認する習慣が重要です。
院内感染対策の体制整備や自己点検を支援するツールとして、日本医療機能評価機構が提供する「Gリーン(グッド・プラクティス)」などの評価プログラムを参考にしている医療機関もあります。外部の目で体制を確認することで、自院では気づきにくい不備を発見できることがあります。
日本歯科医師会が発行する「歯科外来診療における院内感染対策指針」は、施設基準に準拠した院内体制づくりの参考資料として活用できます。
施設基準の維持は「届出して終わり」ではありません。継続的な体制運用こそが、安定した加算算定と患者さんへの安全な医療提供を両立する基本です。