配管清掃を1年放置すると15万円の修理費がかかります。
サクション(suction)とは、英語で「吸い込む」「吸引する」という意味を持つ言葉です。ポンプや送風機などの機械においては、吸い込み側をサクション、吐き出し側をデリベリと呼びます。歯科医療の現場では、この「サクション」という言葉が口腔内の唾液や血液を吸引する装置全般を指す用語として定着しています。
ポンプの構造において、サクション側は流体を取り込む入口部分に該当します。この吸引側の性能がポンプ全体の効率を左右する重要な要素となるのです。吸引側の圧力が適切でないと、キャビテーション(気泡の発生)が起こり、ポンプの性能低下や破損の原因になります。歯科用吸引装置でも同様に、サクション側の配管設計や吸引力の管理が診療の質を大きく左右するのです。
つまり、サクションとは単なる吸引動作ではなく、ポンプシステムにおける入口機能全体を指す専門用語ということですね。
歯科医院の機械室には、このサクション機能を担う真空ポンプやリングブロワが設置されています。これらの装置は各診療チェアからの配管を通じて、口腔内の排水や空気を集中的に吸引する役割を果たしています。適切なサクション圧を維持することで、治療中の視野確保や患者の快適性が保たれ、効率的な診療が可能になるのです。
サクションとデリベリの基本的な定義については、空調用語辞典が参考になります
歯科医院で使用されるサクション装置は、大きく分けて口腔内バキュームと口腔外バキュームの2種類が存在します。それぞれの装置は用途と機能が明確に異なっており、適切な使い分けが感染対策と診療効率の向上に直結します。
口腔内バキュームは、患者の口腔内に直接挿入して使用する吸引装置です。唾液、血液、切削片、洗浄水などを即座に吸引し、術野の視野確保と患者の誤嚥防止を目的としています。一般的な吸引力は毎分15~25リットル程度で、操作性に優れた軽量設計が特徴です。根管治療や補綴処置、抜歯などあらゆる歯科治療で必須の器具となっています。
一方、口腔外バキュームは患者の口元付近に設置し、治療中に発生する飛沫やエアロゾルを吸引する装置です。タービンやスケーラー使用時に空気中に拡散する微細な粒子を捕集し、HEPAフィルターなどで浄化します。吸引力は口腔内バキュームより強力で、感染対策の観点から新型コロナウイルス感染症の流行後に急速に普及しました。
口腔外バキュームは診療室の空気環境を守ります。
この2つの装置を併用することで、口腔内の液体と口腔外の浮遊粒子の両方を効果的に除去できます。特に義歯調整やクラウン研磨など粉塵が多く発生する処置では、両方のバキュームを同時に稼働させることで、スタッフや他の患者への飛沫曝露を大幅に減少させることができるのです。
装置の選定では、吸引力だけでなく静音性も重要な要素です。60デシベル以下の製品であれば、診療中の患者の不快感を最小限に抑えられます。また、移動式の口腔外バキュームを選択すれば、複数のチェア間で共用でき、設備投資の効率化が図れます。メンテナンス性の高い設計の製品を選ぶことで、長期的なランニングコストの削減にもつながります。
歯科用バキュームの種類や選び方について、ORTCの解説記事が詳しく紹介しています
サクションポンプの吸引力が低下すると、診療の効率と安全性に深刻な影響を及ぼします。最も顕著な問題は、術野の視野確保が困難になることです。唾液や血液が口腔内に溜まり続けると、治療部位を正確に確認できず、処置の精度が大幅に低下します。根管治療では洗浄液が適切に排出されず、感染リスクが高まる可能性があります。
患者にとっても吸引力不足は大きな不快感につながります。唾液を飲み込めない状況が続くと、咽頭反射が誘発され、嘔吐反射の強い患者では治療の中断を余儀なくされるケースもあります。特に水平位での診療では、吸引不良が誤嚥の危険性を高めるため、安全管理の観点からも看過できない問題です。
治療時間の延長も避けられません。
吸引力低下の主な原因は、配管内に蓄積した汚泥やヘドロです。歯科治療で発生する切削屑、金属粉、血液、唾液などが配管壁に付着し、徐々に管径を狭めていきます。この汚泥は時間とともに硬化し、通常の洗浄では除去できない頑固な詰まりを形成します。ポンプの吸い込み側フィルターが目詰まりすると、ポンプ本体に過度な負荷がかかり、モーターの焼損や羽根車の摩耗を引き起こすのです。
さらに深刻なのは、異物がポンプ内部に侵入するケースです。金属粉や硬化した汚泥の塊がポンプのシリンダーや羽根車に達すると、物理的な損傷が発生します。修理には部品交換が必要となり、費用は数万円から15万円程度に及ぶことも珍しくありません。診療を停止せざるを得ない期間が発生すれば、機会損失も加わります。
吸引力低下の初期兆候を見逃さないことが重要です。異音の発生、吸引時の「ゴボゴボ」という音、バキュームチップが口腔粘膜に吸着しやすくなる現象などが現れたら、早急に点検を実施すべきです。定期的な配管洗浄とフィルター交換を行うことで、これらのトラブルの大半は未然に防げます。
歯科医院のサクション配管に汚泥が蓄積する過程は、想像以上に複雑で急速です。治療中に吸引される物質は、唾液、血液、切削粉、歯石、金属粉、セメント片など多岐にわたります。これらは配管内を流れる際に、管壁の微細な凹凸に引っかかり、層状に堆積していきます。特に配管の曲がり部分や勾配が緩い箇所では、流速が低下して沈殿しやすくなるのです。
汚泥の主成分は有機物と無機物の混合物です。有機物である唾液や血液は細菌の栄養源となり、バイオフィルムを形成します。このバイオフィルムは粘着性が高く、金属粉や石膏の微粒子を捕捉します。時間の経過とともに、これらの層が重なり合い、硬化した「ヘドロ」へと変化します。このヘドロは悪臭の発生源となるだけでなく、配管の有効断面積を減少させ、吸引力の低下を引き起こします。
配管の材質も汚泥の付着に影響します。内面が滑らかな樹脂製配管は比較的汚れにくいですが、古い金属配管では錆や腐食による凹凸が汚泥の足がかりとなります。配管の内径が細いほど、少量の汚泥でも閉塞のリスクが高まるため、設計段階での配慮が必要です。
汚泥除去の方法は、予防的洗浄と緊急時の対処に大別されます。日常的な予防としては、診療終了後に専用洗浄液を配管内に流す方法が効果的です。酵素系洗浄剤は有機物を分解し、界面活性剤が金属粉を乳化させます。週に1回程度、大量の水と洗浄液を併用して配管全体をフラッシングすることで、汚泥の固着を防げます。
配管洗浄は週1回が基本です。
頑固な詰まりが発生した場合は、高圧洗浄や専門業者による配管清掃が必要です。高圧洗浄機を使用すれば、固着した汚泥を物理的に剥離できますが、古い配管では水圧で破損するリスクもあるため、専門家の判断が求められます。配管清掃の費用は1回あたり2万円から5万円程度が相場で、1年に1~2回実施すれば、長期的なトラブルを大幅に減らせます。
汚泥回収器具の導入も有効な対策です。分離機本体を配管の途中に設置し、固形物を事前に捕捉する仕組みです。定期的に回収容器を清掃するだけで、ポンプへの汚泥流入を防止できます。初期投資は発生しますが、ポンプの耐用年数を2倍以上延ばす効果が期待でき、結果的にコスト削減につながります。
配管汚泥の管理とバキューム故障予防については、JMS株式会社の専門記事が実践的な情報を提供しています
サクションポンプの法定耐用年数は7年とされていますが、適切なメンテナンスを実施すれば10年以上の使用も十分可能です。逆に、メンテナンスを怠ると3~5年で交換が必要になるケースも珍しくありません。ポンプ本体の価格は30万円から80万円程度と高額なため、日常的な管理で寿命を延ばすことが経営上も重要な課題となります。
毎日実施すべき点検項目は、異音の有無と振動の確認です。通常と異なる「ガラガラ」「キーキー」という音が聞こえたら、ベアリングの摩耗やベルトの緩みが疑われます。振動が大きくなった場合は、ポンプの固定ボルトの緩みや羽根車のバランス不良を示唆しています。これらの初期兆候を放置すると、短期間で深刻な故障に進行します。
週次メンテナンスでは、排水トラップの清掃とフィルターの確認が必要です。排水トラップに水やヘドロが溜まると、逆流や悪臭の原因になります。トラップ内の汚水を排出し、清水で洗浄してから再設置します。吸気フィルターは目詰まりの状態をチェックし、汚れが目立つ場合は水洗いまたは交換します。フィルター1枚の価格は数千円程度ですが、これを怠るとポンプ本体が数十万円の損害を受けるリスクがあります。
月次メンテナンスでは、ポンプオイルの点検と補充が重要です。オイル式ポンプの場合、オイル量の不足や劣化は潤滑不良を招き、内部部品の摩耗を加速させます。オイルの色が黒く濁っている、異物が混入している、水分が混ざっている場合は、全量交換が必要です。オイル交換の費用は2,000円程度で済みますが、これを怠った結果の修理費は10万円を超えることもあります。
年次メンテナンスでは、専門業者による総合点検が推奨されます。ベルトの張り具合、Vベルトの摩耗状態、配管接続部の漏れ、電気系統の異常などを専門的にチェックします。点検費用は1万円から3万円程度ですが、潜在的な故障要因を早期発見できれば、緊急修理による診療停止を回避できます。
定期点検は故障の9割を防ぎます。
ベルト交換は摩耗の度合いに応じて実施します。Vベルトにひび割れや亀裂が見られる場合、あるいは張り調整しても滑りが発生する場合は交換時期です。ベルト交換の費用は4,000円程度で、作業も30分程度で完了します。ベルトが切れてから対処すると、診療への影響が大きくなるため、予防的交換が賢明です。
メンテナンス記録を作成し、点検日時、実施内容、部品交換履歴を記録することで、設備の状態を可視化できます。この記録は、異常発生時の原因特定や、更新時期の判断材料としても活用できます。デジタルカメラで機械室の様子を定期的に撮影しておくことも、経年変化の把握に有効です。