高気圧酸素療法の適応と禁忌を歯科医が知る

高気圧酸素療法の適応疾患・絶対禁忌・相対禁忌を歯科医従事者向けに解説。顎骨骨髄炎や放射線性顎骨壊死への活用法、MRONJ対応、保険算定まで詳しく紹介します。歯科臨床で正しく連携できていますか?

高気圧酸素療法の適応・禁忌を歯科臨床で正しく使えていますか

ビスホスホネート服薬患者への高気圧酸素療法は、単独では約5割が「症状不変」で終わります。


この記事でわかること
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歯科における適応疾患

顎骨骨髄炎・放射線性顎骨壊死・MRONJなど、歯科領域でHBOTが有効となる具体的な疾患と条件を整理します。

絶対禁忌・相対禁忌の区別

気胸・特定薬剤使用・閉所恐怖症など、絶対禁忌と相対禁忌の違いを正確に把握して患者紹介時のトラブルを防ぎます。

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保険算定と連携の実務

歯科診療報酬での算定上限30回、1回3,000点の根拠と、医科歯科連携で知っておくべき紹介のポイントを解説します。

歯科情報


高気圧酸素療法とは何か:歯科医が知るべき基本の仕組み


高気圧酸素療法(Hyperbaric Oxygen Therapy:HBOT)は、2絶対気圧(ATA)以上に加圧した密閉チャンバー内で100%酸素を60分以上吸入させる治療法です。通常の大気圧環境では、血中の酸素はほぼヘモグロビンに結合した「結合型酸素」として運ばれます。しかし2ATA以上の高気圧環境下では、血清(血液の液体成分)に直接溶け込む「溶解型酸素」が著しく増加します。


これがHBOTの治療効果の根幹です。溶解型酸素は血流が届きにくい虚血組織や壊死組織周辺にも拡散できるため、通常の酸素吸入では対処できない難治性病変に対して有効性を発揮します。歯科臨床との関連で言えば、放射線照射後に低酸素化した顎骨組織や、ビスホスホネートによって骨代謝が抑制された顎骨壊死病変がまさにこの状況に当てはまります。


治療装置は大きく2種類に区分されます。1名を収容する「第1種装置(単室型)」は酸素加圧または空気加圧で運用され、複数名(最大6名程度)を同時収容できる「第2種装置(多室型)」は空気加圧のみが許可されています。医科歯科連携で患者を紹介する際、受け入れ先の施設がどちらの装置を保有しているかを事前に確認しておくと、紹介後のトラブルが減ります。


治療効果のメカニズムは主に次の5つに整理できます。


- 低酸素組織への直接的な酸素供給:末梢循環不全・放射線性壊死組織の酸素化を改善
- 創傷治癒の促進:血管新生・コラーゲン合成促進により難治性潰瘍・骨壊死の修復を後押し
- 滅菌作用の増強:白血球の殺菌能力を高め、ガス壊疽・骨髄炎の感染コントロールに有効
- 体内ガス気泡の縮小:減圧症における窒素気泡を物理的に圧縮・排泄促進
- 腸管内ガスの減少:腸閉塞時の腸内ガス容積を縮小して循環回復を促す


治療時間は加減圧を含めて1回90分程度が標準です。1回で治療が完結することはほとんどなく、疾患の種類によって10〜40回の反復治療が必要となります。


東京科学大学病院 高気圧治療部:高気圧酸素治療の治療効果と仕組み(医科歯科大学附属病院の公式解説)


高気圧酸素療法の適応疾患:歯科領域での主な対象と保険算定

日本高気圧環境・潜水医学会が定める適応疾患リストには、歯科・口腔外科が深く関わる疾患が明確に含まれています。つまり歯科医として知っておくことは義務に近いと言えます。


歯科領域での主な適応疾患をまとめると次の通りです。


| 疾患カテゴリ | 代表的な疾患 |
|---|---|
| 顎骨感染症 | 慢性難治性顎骨骨髄炎、ガス壊疽、壊死性筋膜炎 |
| 放射線障害 | 放射線性顎骨壊死(頭頸部領域含む)、放射線性粘膜壊死 |
| 薬剤関連顎骨壊死 | MRONJ(ビスホスホネート・デノスマブ等)※補助療法として |
| 悪性腫瘍治療補助 | 頭頸部がん・悪性脳腫瘍への放射線・抗がん剤療法との併用 |
| 末梢血管障害 | 糖尿病性難治性口腔粘膜潰瘍(重複適応として) |


歯科診療報酬での算定区分は「I026 高気圧酸素治療(1日につき)3,000点」です。口腔・顎・顔面領域の慢性難治性骨髄炎が対象となり、一連につき30回が算定上限と定められています。1回3,000点という点数は、2018年度の診療報酬改定で従来の200点から大幅引き上げされたものです。30回すべて算定すると総計90,000点、患者負担(3割)で約27万円になる計算です。


放射線性顎骨壊死に対するHBOTの標準的プロトコルとして、国際的には「術前20回、術後10回」の合計30回が根拠のあるプロトコルとして提唱されています。米国での知見では、頭頸部がん放射線治療後の抜歯を安全に行うために、抜歯前にHBOTを実施して骨組織の酸素化を高めてから外科処置に入るアプローチが有効とされています。


注目すべき点として、米国(UHMS基準)では晩期放射線障害患者がHBOT適応疾患のなかで最多を占めます。日本の歯科でもこの問題は無視できません。頭頸部がんへの放射線治療後に口腔内の外科処置(抜歯・インプラント等)を行う際、照射野内の組織は著しく血管新生能が低下しているため、HBOTなしに処置を行うと放射線性顎骨壊死を誘発するリスクがあります。


日本高気圧環境・潜水医学会:高気圧酸素治療の適応疾患リスト(学会公式PDF)


高気圧酸素療法の禁忌:絶対禁忌と相対禁忌を歯科医が正しく区別する

禁忌の理解は患者紹介時の安全確保に直結します。これが原則です。HBOTの禁忌は「絶対禁忌」と「相対禁忌」に分類されており、両者を混同すると不必要に治療機会を奪ったり、逆に危険な患者を紹介したりするリスクが生じます。


絶対禁忌は、いかなる状況でもHBOTを実施してはならない状態です。現在のガイドラインで明確に絶対禁忌とされているのは以下です。


- 未治療の緊張性気胸:加圧によって気胸が悪化し、縦隔気腫・致死的な緊張性気胸に進行する危険があります
- ブレオマイシン使用中または使用歴:HBOTによって間質性肺炎(肺線維症)が著明に悪化します。投与終了後でも長期間リスクが持続するため、使用歴の確認が必須です
- シスプラチン使用中:HBOTとの併用で創傷治癒が逆に障害される報告があります
- ジスルフィラム(抗酒薬)服用中:スーパーオキシドディスムターゼを阻害することで、HBOTによる酸素毒性から保護する防御機構が失われます


歯科医として特に注意が必要なのは、頭頸部がん治療歴のある患者です。放射線性顎骨壊死の治療にHBOTを検討する際、抗がん剤の使用歴をきちんと把握していないと、ブレオマイシンやシスプラチン使用後の患者を誤って紹介してしまうリスクがあります。


相対禁忌は、リスクを十分に評価した上で治療の是非を慎重に判断する状態です。主なものは次の通りです。


- 慢性閉塞性肺疾患(COPD):加圧中の呼吸器合併症リスク。喫煙歴の多い患者では特に確認が必要です
- 副鼻腔炎・急性上気道感染:副鼻腔内の空気が加減圧によって膨張・収縮し、強い疼痛や組織損傷を引き起こします
- 閉所恐怖症:チャンバー内は密閉空間であるため、強度の閉所恐怖症では施行困難です。歯科の治療台に問題なく座れる患者でも、チャンバーでパニックになるケースがあります
- 痙攣性疾患(てんかん等):高濃度酸素が中枢神経型酸素中毒を誘発し、痙攣発作のリスクが上昇します
- 自然気胸の既往:完全に気胸が治癒している場合でも再発リスクがあるため慎重な評価が必要です


妊娠は急性疾患に対するHBOTの禁忌ではありません。意外ですね。MSDマニュアルプロフェッショナル版の記載によれば、「妊娠は急性疾患に対する治療の禁忌ではない」とされています。ただし非緊急の適応に対しては慎重を要します。また、ペースメーカー植込み患者についても「禁忌ではない」とされており、健和会大手町病院の適応チェックシートでは「禁忌ではありません、情報確認項目」として整理されています。


MSDマニュアルプロフェッショナル版:高気圧酸素治療の適応・禁忌(医療専門家向け国際標準情報)


高気圧酸素療法の副作用と気圧外傷:歯科医が患者説明で押さえるべき注意事項

患者への事前説明が不十分だと、治療途中のドロップアウトや不満につながります。歯科医として紹介元の立場でも、副作用の基本は押さえておくべきです。


HBOTで生じる副作用は大きく「気圧外傷」と「酸素中毒」の2種類に分けられます。


気圧外傷(Barotrauma)は、加減圧に伴う空気含有腔(中耳・副鼻腔・肺など)の内外圧格差によって生じる物理的損傷です。最も頻度が高いのは耳痛で、加圧初期(30kPa到達までの段階)に発症しやすいとされています。耳管を開放する「耳抜き」動作で多くは解消されますが、慢性中耳炎や耳管機能不全のある患者では事前の耳鼻科評価が必要です。歯科的に注意が必要なのは、副鼻腔炎や上顎洞炎のある患者で、加減圧時に前額部・頬部の強い疼痛が生じる点です。


酸素中毒は、高濃度酸素の長時間吸入によって生体組織が傷害される反応です。HBOTで問題となるのは主に「中枢神経型酸素中毒」と「肺型酸素中毒」の2種類です。


- 中枢神経型:めまい・吐き気・視野狭窄・痙攣が生じます。2.8ATA以上の高圧では特にリスクが上昇します。頻度は低いですが最も緊急性が高い副作用です
- 肺型:長時間・高濃度の酸素暴露で咳嗽・胸痛・呼吸困難が生じます。通常の治療プロトコル(2ATA・60〜90分)では問題になりにくいですが、複数回の治療を重ねる際は蓄積的な影響に注意が必要です


治療中は酸素マスクを外す「エアーブレイク」と呼ばれる休憩時間を設けることで、酸素中毒のリスクを大幅に軽減できます。これが標準的な安全対策です。


また、装置内への持ち込み禁止品については患者への説明が欠かせません。装置内は酸素濃度が高いため、通常では問題にならないわずかな点火源でも火災・爆発につながります。具体的には次のものが持ち込み禁止です。


- 🔥 ライター・マッチ・タバコ・カイロ(使い捨て含む)
- 📱 携帯電話・補聴器・電子機器類
- 🖊️ 万年筆・ボールペン(インク漏れ・爆発リスク)
- 🧴 消毒用アルコール・ベンジンなどの引火性物品
- 🧶 合成繊維・羊毛製品(静電気を帯電しやすいため)


日本高気圧環境・潜水医学会:高気圧酸素治療の安全管理(専門医向けガイドライン詳細)


MRONJと放射線性顎骨壊死:歯科医が知るべきHBOT活用の実際と限界

HBOTは「使えば必ず治る」万能薬ではありません。これだけ覚えておけばOKです。歯科臨床でHBOTを正しく活用するためには、その有効性と限界を冷静に理解しておく必要があります。


放射線性顎骨壊死(ORNJ)への応用


頭頸部がんへの放射線治療後、顎骨は慢性的な低酸素・低細胞密度・低血管新生の状態(「3H環境」)に陥ります。この状態の骨に抜歯などの外科侵襲を加えると、治癒せずに骨壊死に進行するリスクが非常に高くなります。HBOTは照射後組織の血管新生を促進し、コラーゲン合成を増加させることでこの3H環境を改善する効果があるとされています。


国際的な標準プロトコルとして提唱されているのが、術前20回・術後10回の計30回の施行です。これは2〜2.4ATA・90分間・1日1回のセッションとして実施されます。実際、放射線治療後の抜歯にHBOTを予防的に組み合わせることで、顎骨壊死の発症率が約4%に抑制されたというエビデンスが報告されています。


しかしながら、国内の歯科診療報酬では「一連30回まで」の算定制限があるため、術前20回・術後10回のプロトコルをすべて保険算定でカバーできます。この点では制度的に整合性がとれています。


MRONJ(薬剤関連顎骨壊死)への応用


MRONJへのHBOT応用は、放射線性骨壊死ほどエビデンスが確立されていないのが現状です。東京都立荏原病院歯科口腔外科が1994年から2022年までに実施した62例の検討(日本高気圧環境・潜水医学会学術総会2023)では、HBO単独例では症状が変わらないケースが50%に及んだことが報告されています。一方、手術と組み合わせた場合は約75%で症状の緩和が得られました。


つまりMRONJに対するHBOTは「手術の補完・補助療法」として位置づけるのが現実的です。HBO単独での劇的な改善を期待して紹介することは、患者へのインフォームドコンセントとして適切ではありません。厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルでも、「ビスホスホネートによる顎骨壊死においては高圧酸素療法の有用性は否定的」という見解が示されており、放射線性骨壊死とは明確に使い分ける必要があります。


ポジションペーパー2023(日本口腔外科学会ほか6学会合同委員会)では、MRONJへの補助療法としてHBOTは「保存的治療や手術療法との併用も可能で、治療効果が上がるという論文報告もある」と記載されており、完全否定はされていません。ただし「確立した治療法ではない」という位置づけは変わっていません。


歯科医として紹介時に伝えるべき情報は明確です。まず放射線治療歴の有無と照射線量、使用中・使用歴のある薬剤名(特にブレオマイシン・シスプラチン・ビスホスホネート系)、および最新の全身状態評価の結果です。これら3点を紹介状に明記するだけで、受け入れ側のHBOT施設での禁忌確認と治療計画が格段にスムーズになります。


日本口腔外科学会 顎骨壊死検討委員会:ポジションペーパー2023(MRONJ診断・治療・連携の最新指針)


日本高気圧環境・潜水医学会:薬剤関連顎骨壊死に対する高気圧酸素療法の有用性(荏原病院62例の臨床検討)


歯科医が実践すべき高気圧酸素療法の患者選定と紹介のチェックポイント【独自視点】

多くの歯科医はHBOTを「専門施設に任せる治療」として受け身になりがちです。しかし紹介前の段階で歯科医が行う情報収集の質が、HBOTの成否を左右することは間違いありません。


紹介前に歯科医が確認すべきチェックリスト


まず、禁忌薬の服薬歴を確認します。ブレオマイシン・シスプラチン・ジスルフィラムは絶対禁忌に直結するため、全身疾患問診票の薬剤欄だけでなく、かかりつけ医への照会も検討します。


次に、胸部疾患の既往です。気胸の既往、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息の増悪期は相対禁忌または第1種装置での禁忌に該当します。問診で「息切れ」「ぜんそく」「胸の手術歴」をルーティンで確認する習慣が有効です。


また、閉所への反応を確認します。患者が「MRI検査でパニックになった」「密閉された空間が苦手」という場合は、事前にHBOT施設へ相談することが必要です。第1種装置(単室型)は内径が特に狭く、より強い圧迫感があります。


そして、副鼻腔・中耳の状態を確認します。活動性の副鼻腔炎や慢性中耳炎がある場合は耳鼻科治療を優先してからHBOTに移行するよう調整します。耳抜きができない患者では鼓膜穿刺が必要になることもあるため、事前の耳鼻科受診を紹介状に記載しておくと施設間のスムーズな対応につながります。


紹介状に必ず記載すべき情報


HBOTを専門に行う施設(主として大学病院・総合病院の高気圧治療部または口腔外科)は全国的に限られています。施設側が禁忌スクリーニングを改めて行うとはいえ、歯科医の側から以下を記載することで初診時の時間ロスを最小化できます。


- 疾患名・ステージ(特に放射線治療歴・累積照射線量・最終照射日)
- 使用中・使用歴のある全薬剤名(ビスホスホネート・抗RANKL抗体・血管新生阻害薬は必須)
- 現在の全身状態(呼吸器疾患・心疾患・てんかんの有無)
- 閉所恐怖症の有無・耳鼻科的問題の有無
- 希望する治療目標(保存的治療補助か術前後プロトコルか)


HBOTは1回あたり約90分の治療を週5回ペースで実施するのが一般的です。患者が自宅から通院可能な施設かどうかも紹介時に考慮します。地域によっては施設が極めて少なく、患者が1〜2時間かけて通院するケースもあります。治療負担を事前に説明してから紹介することが、患者との信頼関係維持につながります。


高気圧酸素療法は「使えば治る」ではなく、「正しい患者に、正しいタイミングで、正しい禁忌評価のもとに使って初めて効果が出る」治療です。歯科医の役割は治療そのものではなく、適切な患者選定と情報提供にあります。それが実現できるかどうかが、患者の予後を大きく左右します。


東京都立荏原病院 歯科口腔外科:歯科における高気圧酸素治療とは(顎骨骨髄炎・MRONJへの臨床応用事例)




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