連結チューブを1ヶ月交換しないと、測定値がズレて正しい診断ができなくなります。
JMS舌圧測定器(TPM-02)は、株式会社ジェイ・エム・エスが製造・販売する、国内で唯一の医療機器承認を受けた舌圧測定装置です(承認番号:22200BZX00758000)。測定精度が保証された管理医療機器であり、歯科診療の現場で口腔機能低下症の診断指標として広く用いられています。
本体は大きく3つのパーツで構成されています。「デジタル舌圧計」「舌圧プローブ(別売)」「連結チューブ(別売)」の3点がセットになって、はじめて正確な測定が成立します。
デジタル舌圧計の本体サイズは幅74mm×高さ120mm×厚さ27.5mmと、スマートフォン程度のコンパクトさで片手で保持できます。液晶パネルには「最大圧」と「現在圧」がリアルタイム表示され、測定値の見逃しを防ぐ設計になっています。
動作原理はシンプルです。
舌圧プローブ先端のバルーンを舌で押しつぶすと、密閉された空気回路内の圧力が上昇します。デジタル舌圧計内の圧力センサがその変化を読み取り、kPa(キロパスカル)の単位で液晶に数値表示されます。測定範囲は0〜99.9kPaで、測定精度は±1kPaです。
使用電源は単3アルカリ乾電池2本、または単3ニッケル水素充電池2本です。約2,500回の測定が可能で、耐用期間は5年(加圧ポンプ作動回数として約45,000回)と規定されています。
つまり、器械本体は長く使えますが、消耗品の管理が精度を左右する、ということですね。
歯科診療報酬・舌圧検査の算定要件や使用可能条件が詳しく掲載されています(株式会社ジーシー)。
口腔機能低下症の診断・保険算定・検査・訓練方法 | 株式会社ジーシー
舌圧測定の操作フローは、「接続→電源ON→内圧調整→プローブ挿入→押しつぶし→記録」の6ステップで構成されます。臨床での混乱を防ぐために、各ステップのポイントを正確に把握しておく必要があります。
【STEP 1】各パーツを接続する
デジタル舌圧計の「連結チューブ接続ポートキャップ」を外し、連結チューブの一方のコネクタを本体ポートへ、もう一方のコネクタを舌圧プローブへしっかりねじ込んで接続します。隙間があると気密性が保たれず、内圧調整の段階でエラーが発生します。接続は「隙間なくねじ込む」が基本です。
【STEP 2】電源を入れる
電源ボタンを押すと、ブザー音とともに液晶が全表示されたあと、スタンバイ状態になります。この時点ではまだ測定できません。
【STEP 3】内圧自動調整(ゼロ点補正)
スタンバイ状態になったことを確認したら、「測定/リセットボタン」を押します。「ピッピッピッ」というブザー音とともに加圧ポンプが作動し、内圧を19.6kPaに自動調整します。調整には最大20秒かかります。
⚠️ ここで重要な注意点があります。内圧調整中は、バルーンや連結チューブのチューブ部を絶対に触らないでください。グリップ部のみを保持してください。バルーンに触れた状態で調整すると、ゼロ点補正が正しく行われず、以後の測定値にズレが生じます。
「加圧」アイコンが消えて「測定」アイコンが点灯したら、測定準備完了のサインです。
【STEP 4】プローブを口腔内に挿入する
患者にプローブの「硬質リング」を前歯で軽く挟むように指示します。義歯使用者は、必ず義歯を装着した状態で測定してください。
意外と見落とされがちなのが、バルーンの向きです。取扱説明書には明確に記載されています。「バルーンの平らな面("線"が入っていない面)が舌上に乗るように向きを確認して挿入すること」——内圧調整前にあらかじめ確認しておくと、スムーズに挿入できます。
バルーンは噛まないよう、また強く前歯を噛み込まないよう患者に事前説明しておくことが大切です。バルーン損傷による誤飲リスク、歯や補綴物の破損を防ぐためです。
【STEP 5】最大の力で舌を挙上し、バルーンを押しつぶす
プローブを挿入したら、患者に口蓋(口蓋皺壁)へ向かって最大の力で舌を挙上するよう指示します。押しつぶし時間は7秒を目安にしてください。「現在圧」がリアルタイムで変化し、「最大圧」に最大値が記録されます。
「最大圧」の表示は、リセットボタンを押すまで保持されます。測定中に患者が力を緩めても、数値は消えないので記録し損なう心配はありません。これは使いやすい設計ですね。
【STEP 6】数値を記録し、プローブを廃棄する
「最大圧」に表示された数値を最大舌圧として記録します。測定が終わったプローブは1回使用限りです。廃棄してください。
JMS舌圧測定器の公式製品ページ。仕様・電源・寸法などの詳細情報が確認できます。
舌圧測定器(TPM-02E)製品案内 | JMS 医療関係者向けサイト
JMS舌圧測定器を使用するうえで、歯科従事者が最も見落としやすいのが「消耗品の交換ルール」です。正確な測定値を出すためには、器械の操作だけでなく消耗品の管理が決定的に重要になります。
まず確認が必要なのが、舌圧プローブは1回使い切り(ディスポーザブル)という点です。取扱説明書には「再使用禁止」として明記されており、再使用すると測定誤差や感染症の原因になると警告されています。「まだバルーンがきれいに見えるから」という理由で流用することは、絶対に避けてください。
次に、見落としやすいのが連結チューブの交換サイクルです。連結チューブは「使用頻度に関わらず、個包装開封後1ヶ月ごとに新品に交換」することが義務付けられています。毎日何十人も検査する大規模クリニックでも、週に1〜2件しか測定しない小規模医院でも、開封後1ヶ月という期限は変わりません。
これは痛いところですね。「使用頻度が少ないのに毎月交換が必要なのか」と感じるかもしれませんが、チューブ内部のOリングの気密性は時間の経過とともに劣化します。交換を怠ると、測定誤差または測定不能の原因となります。カルテに記録した舌圧値が実際とかけ離れていては、正確な口腔機能評価もできなくなります。
舌圧プローブの有効期限は製造から3年(包装に記載)、連結チューブも同様に3年の有効期限があります。倉庫や引き出しに保管したまま古くなった在庫を使用していないか、定期的に確認しましょう。
さらに、リハビリテーションを行ったあと、同じプローブで最大舌圧を測定することも禁止されています。リハビリ用途で使用されたバルーンは変形しており、正確な最大舌圧値が得られません。最大舌圧の測定には必ず新しいプローブを使用することが原則です。
消耗品管理のポイントをまとめると、舌圧プローブは1回使い切り、連結チューブは開封後1ヶ月ごと交換、リハビリ後のプローブで最大舌圧を測らない、の3点だけ覚えておけばOKです。
連結チューブとプローブの交換基準について公式FAQで詳しく解説されています。
【JMS舌圧測定器】舌圧プローブや連結チューブはディスポーザブル? | 製品Q&A GC Dental
測定で得られた最大舌圧値は、基準値と照らし合わせて患者の口腔機能を評価します。日本老年歯科医学会の口腔機能低下症診断基準では、最大舌圧が30kPa未満を「低舌圧(舌圧低下)」と判定します。
年代別の目安をまとめると以下のようになります。
| 年代 | 最大舌圧の目安 | 目安の状態 |
|---|---|---|
| 成人男性(20〜59歳) | 35kPa以上 | 標準範囲 |
| 成人女性(20〜59歳) | 30kPa以上 | 標準範囲 |
| 60歳代 | 30kPa以上 | 最低限確保したい目標値 |
| 70歳以上 | 20kPa以上 | 誤嚥リスクの目安ライン |
特に注目すべきなのが「20kPa」という数値です。大規模調査の報告では、最大舌圧が20kPa未満になると誤嚥のリスクが高まると言われています。また、別の報告では20kPa以下では何らかの調整食が必要になるとされています。簡単に言えば、舌圧20kPaは「普通食が安全に食べられるかどうか」の重要な境界線といえます。
さらに知っておきたいのは、低舌圧は高齢者だけの問題ではないという点です。ある調査では、10〜60歳代においても約20%前後に低舌圧が認められています。70歳代ではこれが約35%にのぼるとされています。若い患者でも口腔機能低下症が見過ごされているケースがあるため、幅広い年代への舌圧検査の実施が求められています。
口腔機能低下症の診断には、7項目のうち3項目以上に該当する場合が条件です。その7項目の中の一つが「低舌圧」であり、JMS舌圧測定器による舌圧検査がその唯一の評価ツールです。口腔衛生状態、咬合力、嚥下機能、咀嚼機能、口腔乾燥、舌口唇運動機能とあわせて総合的に評価します。
舌圧検査の保険算定は「D012 舌圧検査(1回につき)140点」として算定され、原則として3ヶ月に1回に限り算定できます。舌接触補助床(PAP)や口蓋補綴を装着している患者に対しては、例外的な追加算定も認められています。
最大舌圧の基準値と年代別データの出典が掲載された公式資料です。
最大舌圧の基準値 | JMS 医療関係者向けサイト(PDF)
JMS舌圧測定器の活用場面は、測定だけにとどまりません。2023年度から保険適用の対象範囲が拡大され、「口腔や嚥下機能の低下に対するリハビリテーション(舌筋力訓練)」にも使用可能になりました。これは歯科臨床において見逃せない変更点です。
舌筋力訓練の一般的な方法は、プローブを口腔内に入れ、舌でバルーンを口蓋へ30回押し付けることを1セットとし、1日3セット・週3回・8週間にわたって継続するというプロトコルです。
ただし、訓練の強度は「多ければいい」という単純なものではありません。先行研究から、健常高齢者を対象とした舌圧訓練においては、最大舌圧の100%・80%・60%の強度間で有意差がないことが報告されています。また、週3回と週5回でも統計的な差はないとされています。
つまり、訓練頻度より継続性のほうが重要、ということですね。
訓練強度によって1日あたりの回数目標も異なります。最大舌圧の60〜80%の強度なら30回×3セット(計90回)、最大舌圧100%の強度では5回×2セット(計10回)という文献も存在します。患者の状態や慣れ具合に応じて柔軟に調整することが、安全で効果的な訓練につながります。
舌圧測定で得られた最大舌圧値は、訓練用具「ペコぱんだ」の種類選びにも直接活用できます。ペコぱんだは、JMS社が開発した6段階の押しつぶし強度をもつ舌トレーニング用具です。
| 種類(カラー) | 押しつぶし強度 | 硬さ |
|---|---|---|
| SS(ブルー) | 5kPa | 極めて柔らかめ |
| S(ピンク) | 10kPa | 柔らかめ |
| MS(バイオレット) | 15kPa | やや柔らかめ |
| M(グリーン) | 20kPa | 普通 |
| MH(オレンジ) | 25kPa | やや硬め |
| H(イエロー) | 30kPa | 硬め |
例えば、最大舌圧が24kPaの患者であれば、その60〜80%(14〜19kPa)の強度に相当するMS(バイオレット:15kPa)やM(グリーン:20kPa)が訓練の目安となります。感覚ではなく数値に基づいてペコぱんだを選べるのが、JMS舌圧測定器と組み合わせる大きな強みです。これは使えそうです。
舌筋力訓練のプロトコルや研究文献について詳しく記載されています。
JMS舌圧測定器 嚥下リハビリで舌筋力訓練 | 京都リハビリテーション病院
JMS舌圧測定器を正式に使用できる職種は、取扱説明書に「医師、歯科医師または医師の指示監督下にある看護師、言語聴覚士および歯科衛生士」と明記されています。歯科衛生士が単独で測定・訓練を担当できる設計になっているのは、歯科医院での運用を想定した重要なポイントです。
一方で、測定が「適応ではない」患者も明確に定められています。以下の3つの条件に当てはまる患者への使用には、歯科医師や医師が状態を確認したうえで安全を確認しながら進める必要があります。
1つ目は、測定者の指示が認識できない患者(認知症、失語症、高次脳機能障害、乳幼児、知的障害者など)です。2つ目は、前歯で舌圧プローブを把持できない患者(無歯顎者で義歯を装着していない場合など)です。3つ目は、舌圧プローブを押しつぶせない患者(舌を全く動かせない患者など)です。
3点のうち2点目については、「無歯顎でも義歯を装着していれば測定可能」という点が注目です。義歯装着者には、必ず装着した状態で測定するよう誘導してください。
令和6年度(2024年度)の診療報酬改定では、舌圧測定の対象が小児にも拡大されました。成長過程において発達不全が疑われる小児も保険算定の対象となっており、幅広い年代への口腔機能検査への対応が求められています。
算定に際して必要な施設基準の届出を行っていない医院では舌圧検査の保険算定ができません。未届出の場合は地方厚生局への手続きが先決です。届出書類はGCデンタルのサイトからダウンロードできるものもあるので、確認しておくと役立ちます。
舌圧検査(D012)の算定要件と令和6年度改定対応の詳細が確認できます。