梅フレーバーのガムで検査すると、基準値が10mlではなく14mlになります。
ガム試験(ガムテスト)は、唾液の分泌量を測定するシンプルかつ実用性の高い臨床検査です。特別な機器を必要とせず、紙コップとディスポーザブルシリンジ(注射器)、そして市販のチューインガムがあれば実施できます。これが基本です。
具体的な手順は以下のとおりです。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① | チューインガムを1枚、患者の口の中に入れてもらう |
| ② | 10分間、ガムを噛み続けてもらう(噛む速度は自然なペースでOK) |
| ③ | 口の中に分泌された唾液を飲み込まず、随時コップに吐き出してもらう(タイミングは自由) |
| ④ | 10分後、噛んでいたガムもコップの中に出してもらう |
| ⑤ | コップ内の唾液量をシリンジで計測し、泡は除いた液体部分のみを記録する |
計測に慣れていない患者には、本番の前に1回練習測定を行わせると精度が上がります。これは臨床研究でも推奨されている方法です(後藤ら 2002年、日口粘膜誌)。
手技そのものは非常に簡単です。ただし、測定結果の信頼性を高めるためには、いくつかの前処置と注意点を把握しておく必要があります。特に「使用するガムの種類」によって基準値(カットオフ値)が変わる点は、歯科医師・歯科衛生士として必ず覚えておきたい知識です。
慶應義塾大学病院では、入れ歯につきにくい「無味無臭の特殊なチューインガム」を使用しています。ただし、歯がぐらついている、入れ歯が不安定、口内炎の痛みがあるなどの場合は正確な測定ができないため、検査前に担当医に申し出てもらう必要があります。
慶應義塾大学病院 KOMPAS「唾液量検査(ガム試験)」 ― 検査手順と基準値の詳細が掲載されています。
ガム試験の正常値(カットオフ値)は **10mL/10分** です。これを下回ると唾液分泌低下と判定されます。つまり10mLが原則です。
ただし、使用するガムの種類によってこの基準値が変わる点が、現場での注意ポイントです。J-Stage掲載の論文(後藤ら 2002年)によると、3種類のガム(無味ガム・ミント味・梅味)で比較した結果、梅フレーバー(Plum-flavored)を使用した場合のカットオフ値は **14mL/10分** が適切だと報告されています。
| ガムの種類 | カットオフ値 | 備考 |
|-----------|------------|------|
| 無味ガム(Gum base) | 10mL/10分 | 最も標準的な条件 |
| ミント味(Mint-flavored) | 10mL/10分 | 市販品で入手容易 |
| 梅・柑橘系(Plum-flavored) | **14mL/10分** | 味覚刺激で唾液が多く分泌されるため |
梅や柑橘系のガムを使った場合、健常者でも唾液が余分に分泌されます。これは味覚刺激による反射的な分泌増加が影響するためです。もし梅味のガムで10mLを超えていても「正常」と判断してしまうと、実際にはシェーグレン症候群の患者を見落とす可能性があります。意外ですね。
こうした誤判定リスクを避けるには、使用するガムの種類を院内で統一し、種類を記録する習慣をつけることが重要です。検査記録に「使用ガムの種類」を必ず明記するだけで、後からの再評価や他院への紹介にも対応しやすくなります。
また、唾液量の測定時には「泡」の扱いにも注意が必要です。泡を体積に含めると測定値が実態より高くなるため、シリンジで計測する際は液体部分のみを記録するのが正確な手技です。これが条件です。
J-Stage「シェーグレン症候群の診断におけるガムテストの検討」(後藤ら) ― ガムの種類別カットオフ値の根拠となる査読済み論文です。
唾液分泌量の測定には、ガム試験のほかに「サクソン試験(Saxon test)」があります。この2つは、シェーグレン症候群の診断基準(1999年厚生省改訂)の口腔検査項目として並列に記載されており、どちらかを実施することが求められます。
2つの検査の違いを整理します。
| 項目 | ガム試験 | サクソン試験 |
|------|---------|------------|
| 方法 | ガムを10分間噛む | 規格ガーゼを2分間咬む |
| 測定単位 | 容量(mL) | 重量(g) |
| 正常値 | 10mL以上 / 10分 | 2g以上 / 2分 |
| 必要機器 | 紙コップ・シリンジ | ガーゼ・精密天秤(0.01gまで計測可能なもの) |
| 特徴 | 入手容易、手技が簡単 | 国際基準として使われることが多い |
サクソン試験は国際的な診断基準(ヨーロッパ基準)でも採用されており、精密天秤を用いる分、環境整備が必要です。一方でガム試験は特別な機器が不要で、市販ガム・紙コップ・シリンジだけで実施できる点が大きなメリットです。これは使えそうです。
なお、研究データでは両検査の相関係数は **r=0.838〜0.843** と非常に高く、ガム試験はサクソン試験の代替として十分な信頼性を持つと評価されています(後藤ら 2002年)。特に設備の限られた一般歯科診療所では、ガム試験の有用性が高いといえます。
また、シェーグレン症候群の診断においては、ガム試験・サクソン試験はあくまで「4項目のうちの1項目」です。残りの3項目(口唇小唾液腺の生検、涙液検査、自己抗体検査)と組み合わせて **2項目以上陽性** で初めて確定診断となります。ガム試験の結果のみで「シェーグレン症候群の疑いあり」とはできないため、この点は患者への説明時にも注意が必要です。
SS-info.net「シェーグレン症候群の診断方法」 ― ガムテスト・サクソンテストの解説と診断基準の4項目が確認できます。
ガム試験の測定値は、患者の状態によって大きく左右されます。これは重要です。歯科従事者として、検査前に必ず確認すべき要因を把握しておきましょう。
最も影響が大きいのが**服用薬剤**です。約400種類の処方薬が唾液分泌を低下させると報告されており(MSDマニュアル)、特に以下の薬剤が要注意です。
- 降圧薬(カルシウム拮抗薬、利尿薬など)
- 抗ヒスタミン薬(アレルギー薬)
- 抗うつ薬・抗精神病薬
- 抗パーキンソン病薬
- 抗てんかん薬
これらを常用している患者では、ガム試験の結果が「薬剤性の唾液分泌低下」を反映している可能性があります。そのため問診時に服薬歴・服用量・期間を必ず確認し、記録に残すことが治療方針の決定にもつながります。薬剤性と自己免疫疾患(シェーグレン症候群)では治療薬が異なるため、この情報は特に重要です。
服薬以外にも、以下の要因が測定値に影響します。
- **全身疾患**: 糖尿病、腎臓疾患、膠原病
- **放射線治療歴**: 頭頸部への照射は唾液腺の非可逆的な破壊を引き起こすことがある
- **年齢**: 50歳以上で唾液分泌量は低下傾向にある(ドライマウスは数百万〜数千万人に上ると推計)
- **精神的ストレス**: 交感神経優位の状態では唾液が出にくくなる
- **検査時間帯**: 午前と午後では分泌量が異なる場合がある
厳しいところですね。これだけの変数があるため、単回の測定値だけで判断するのは危険です。複数回の測定や、問診・口腔内観察の所見と合わせた総合的な判定が求められます。
歯がぐらついている、義歯が不安定、口内炎の痛みがあるといった口腔内の状態も、噛む動作そのものに影響し測定精度が落ちます。このような場合は検査前に担当医に申し出るよう患者に伝えておくと、より正確なデータが得られます。
大阪歯科大学附属病院「ドライマウス外来」 ― 原因別のドライマウス解説と服薬との関係が詳しくまとめられています。
ガム試験は「刺激時唾液」の量を測定する検査です。実はこれだけでは、患者の唾液分泌の全体像をとらえきれないという見落とされがちな事実があります。
唾液には大きく2種類あります。
- **刺激時唾液(咀嚼・味覚刺激によるもの)**: ガム試験で測定できる
- **安静時唾液(リラックス状態で分泌されるもの)**: 別途「吐唾法」で測定が必要(15分間唾液を吐き出し続ける)
安静時唾液の正常値は **1.5mL/15分以上** とされており、これを下回ると「安静時唾液分泌低下」と判定されます。刺激唾液の正常値(10mL/10分)と比べると、スプーン1杯分にも満たない非常に少ない量です。
なぜこの違いが重要かというと、患者が「食事中はそれほど乾燥感がない」と言いつつも、「起床時や就寝前に口の乾きが強い」と訴えるケースは、安静時唾液の分泌低下が主因である可能性があるからです。ガム試験のみで「正常」と判断してしまうと、患者の本当のQOL低下を見逃しかねません。
また、唾液は分泌される腺によって性状が異なります。
- 耳下腺: さらさらした漿液性の唾液(刺激時に多く分泌される)
- 顎下腺: 混合型(全唾液の約65%を占める)
- 舌下腺: ねばねばした粘液性の唾液
ガム試験で測定される唾液は、これらが混合した「全唾液」です。シェーグレン症候群では耳下腺・顎下腺の破壊が進行するため、刺激時唾液の低下が先に現れる傾向がありますが、唾液腺造影やシンチグラフィを組み合わせることで腺別の評価が可能になります。
ガム試験は入口として非常に有用ですが、「ガム試験の値が低い=ドライマウスの原因が分かった」ではありません。結果から次の検査へとつなぐ入口として使うのが正しい位置づけです。この視点を持つことが、精度の高い臨床判断につながります。
ドライマウス情報サイト(中村先生の部屋)「ドライマウスの診断」 ― 安静時唾液と刺激時唾液の違い、各検査の特徴が詳しく解説されています。
十分な情報が集まりました。記事を作成します。