一次性は咬合調整だけで1週間以内に改善できます。
外傷性咬合は、歯周組織に外傷性変化を起こしやすい咬合の状態そのものを指します。つまり、まだ歯や歯周組織に損傷は起こっていないが、損傷を引き起こす可能性のある噛み合わせの状態です。
具体的な外傷性咬合の原因には、以下のようなものがあります。
📌 早期接触
各顎位に達する前に1歯ないし数歯にわたり早期に歯が接触する状態です。咬合が高い充填物や補綴物、カリエスの進行や歯の欠損を放置した結果、咬合バランスが崩れて特定の歯に必要以上の力がかかります。
つまり早期接触です。
📌 ブラキシズム(歯ぎしり・食いしばり)
グラインディング(歯を無意識にこすり合わせる動き)、クレンチング(くいしばり)、タッピング(カチカチと歯を鳴らす動き)などの異常機能習癖が該当します。ストレスやアルコール、薬の副作用など多様な要因が関連して引き起こされることが分かっています。
意外ですね。
📌 側方圧や舌・口唇の悪習癖
側方滑走運動時に特定の歯に過剰な力が集中する状態や、舌で歯を押す癖、口唇の悪習癖なども外傷性咬合の原因となります。
不適切な矯正力や食片圧入も含まれます。
外傷性咬合は「原因」であるため、この段階では歯の支持機能に損傷はまだ起こっていません。しかし、放置すると次に説明する咬合性外傷という「結果」を引き起こします。
結論はそういうことです。
咬合性外傷は、過剰な咬合力によって歯や歯周組織に病的変化が生じた「結果」の状態を指します。外傷性咬合という「原因」によって引き起こされた病変そのものです。
咬合性外傷の主な症状には以下のようなものがあります。
🦷 臨床症状
- 歯の動揺(揺れ)
- 歯の病的移動
- 深い歯周ポケットの形成
- 著しい咬耗
- 顎運動の異常
- 咀嚼筋や顎関節の疼痛
- 歯髄炎様疼痛
🔬 エックス線写真での所見
- 歯根膜腔の拡大(初期変化としてロート状拡大)
- 歯槽硬線の消失や肥厚
- 歯槽骨の垂直性吸収
- 歯根吸収
- セメント質の肥厚
注目すべき点として、咬合性外傷では歯肉に病変は生じません。
病変が起こるのは深部歯周組織、すなわちセメント質、歯根膜、歯槽骨などの支持組織に限定されます。
歯根膜腔の拡大や歯槽硬線の変化がエックス線写真で確認された時点で、すでに咬合性外傷が生じていると判断します。
つまり組織レベルでダメージが起こっています。
この段階では、原因である外傷性咬合を除去するだけでなく、損傷した組織の回復を図る治療が必要になります。
外傷性咬合と咬合性外傷は言葉が類似しているため、臨床現場で混同されることがあります。しかし両者は「原因」と「結果」という明確な関係性があり、これを正しく理解していないと適切な診断と治療ができません。
日本歯周病学会の資料によれば、両者の使い分けに統一性がないため混同して用いられることがあり、歯科衛生士も注意が必要であると明記されています。クインテッセンス出版の歯科用語辞典でも「混同して用いられることがあるので、注意が必要である」と警告しています。
厳しいところですね。
混同による具体的な問題点は以下の通りです。
⚠️ 診断の遅れ
外傷性咬合(原因)の存在に気づかず、咬合性外傷(結果)が生じてから初めて対応するケースです。原因を早期に発見できれば、組織の損傷を未然に防げたはずなのに、損傷が起こってから治療を開始することになります。
⚠️ 治療方針の誤り
咬合性外傷が生じているのに、原因である外傷性咬合を除去せずに対症療法のみを行うケースです。歯の動揺や痛みに対して消炎処置だけを行っても、原因が残っている限り症状は改善しません。
つまり根本解決になりません。
⚠️ 患者説明の不適切さ
原因と結果を混同して説明すると、患者さんは自分の口腔内で何が起こっているのかを正確に理解できません。「噛み合わせが悪い状態(原因)によって、歯を支える骨が溶けている(結果)」という因果関係を明確に伝える必要があります。
歯科医療従事者として、外傷性咬合は「早期接触、ブラキシズム、側方圧などの原因」、咬合性外傷は「歯根膜変性、歯槽骨吸収などの結果」と明確に区別して記憶し、カルテ記載や患者説明の際にも正確に使い分けることが求められます。
この違いを理解しているかが専門性の証です。
外傷性咬合が存在するかどうかを診断し、さらにそれによって咬合性外傷が生じているかを評価するには、複数の検査を組み合わせた総合的な判断が必要です。
日本歯周病学会では、歯科衛生士が臨床において確認すべきポイントとして以下を挙げています。
🔍 臨床検査項目
1. プロービングデプスが4mm以上あるか?
アタッチメントロスが認められるかを確認します。プロービングデプスが4mm以上ある場合、歯周組織に何らかの破壊が生じている可能性が高くなります。
4mmが基準です。
2. 歯の動揺があるか?
動揺度1度以上の歯の揺れが認められるかを評価します。健康な歯周組織では動揺はほとんど認められませんが、咬合性外傷や急性炎症の際には特に動揺が強くなります。どういうことでしょうか?
咬合性外傷では、過剰な咬合力によって歯根膜や歯槽骨にダメージが加わり、歯の支持力が低下するため動揺が生じるのです。
3. エックス線写真上での評価
- 歯槽骨の垂直性吸収があるか?
- 歯槽硬線の消失、肥厚はないか?
- 歯根の吸収はないか?
- セメント質の肥厚はないか?
特に重要なのが歯根膜腔の拡大と歯槽硬線の変化です。歯根膜腔が拡大し、歯槽硬線が明瞭化している場合には、外傷力が加わっていることが推測されます。初期変化として歯槽骨頂部における歯根膜腔のロート状拡大が認められることが特徴的です。
📋 診断基準
外傷性咬合が認められる歯において、動揺度が1度以上あり、かつエックス線所見で辺縁部歯根膜腔の拡大または垂直性骨吸収が認められる歯については、咬合性外傷と診断します。
これらの検査情報を統合して、最終的に外傷性咬合部位を特定し、咬合性外傷の有無と程度を判定します。単一の検査所見だけで判断するのではなく、複数の情報を総合的に評価することが診断精度を高めます。
この情報を基に判断します。
早期発見のためには、定期的なメインテナンスやSPT(サポーティブペリオドンタルセラピー)の際に、これらの検査項目を漏れなくチェックすることが重要です。特にブラキシズムの既往がある患者さんや、補綴物を装着している患者さんでは、咬合性外傷のリスクが高いため注意深い観察が必要になります。
日本歯周病学会「歯科衛生士として知っておきたい咬合の基礎知識」
こちらの資料には、咬合性外傷の診断に必要な詳細な検査手順と評価基準が掲載されています。
咬合性外傷には一次性と二次性の2つのタイプがあり、それぞれ発症メカニズム、症状、治療法、予後が大きく異なります。この違いを正確に理解することが適切な治療戦略の立案に不可欠です。
🔵 一次性咬合性外傷の特徴
一次性咬合性外傷は、健康な歯周組織に異常な力が加わることで生じます。
原因としては以下のようなものがあります。
- 高い詰め物や被せ物による早期接触
- 歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム)
- 側方圧(側方滑走運動時の過剰な力)
- 不適切な矯正力
一次性咬合性外傷の最大の特徴は、歯周病(プラーク性の炎症)を伴わないことです。歯周組織は健康なのに、過剰な力だけが問題となっている状態です。
症状としては、特定の歯の動揺、咬合時の痛み、歯根膜腔の拡大、垂直性骨吸収などが認められます。しかし、アタッチメントロスは一般的には生じません。骨吸収が起こっても、原因を除去すれば骨の再生が期待できます。
治療は主に咬合調整です。早期接触や咬頭干渉を除去し、必要に応じてナイトガードを装着してブラキシズムをコントロールします。一次性咬合性外傷は、咬合調整だけでほとんどが治ります。揺れていた歯も、調整した日から1~2週間で治ってしまいます。
いいことですね。
🔴 二次性咬合性外傷の特徴
二次性咬合性外傷は、歯周病で支持組織が弱くなった歯に、正常な咬合力または異常な力が加わることで生じます。
すでに歯周病によって歯槽骨が吸収され、歯の支持力が低下している状態です。健康な歯周組織であれば問題ない程度の力でも、弱った歯周組織では支えきれず、さらなる破壊を引き起こします。
二次性咬合性外傷の症状は一次性と似ていますが、決定的に異なるのはアタッチメントロスを伴うことです。歯周ポケットが深く、歯槽骨の吸収が広範囲に及び、歯の動揺も強くなります。
治療は咬合調整だけでは不十分で、まず歯周病の治療が必須となります。歯石除去、歯のクリーニング、歯周外科治療など、歯周病の安定を図る包括的な治療が必要です。その上で咬合調整を行い、過剰な力を分散させます。
しかし、二次性咬合性外傷は、歯槽骨が溶けてしまっているので、がんばって治療しても、治らない場合が少なくありません。
痛いですね。
一次性と比べて予後が不良であることが多く、場合によっては抜歯を検討せざるを得ないケースもあります。
📊 一次性と二次性の鑑別ポイント
| 項目 | 一次性咬合性外傷 | 二次性咬合性外傷 |
|------|------------------|------------------|
| 歯周組織の状態 | 健康 | 歯周病あり |
| 加わる力 | 異常な力 | 正常な力でも発症 |
| アタッチメントロス | なし | あり |
| 治療の主体 | 咬合調整 | 歯周病治療+咬合調整 |
| 予後 | 良好(1~2週間で改善) | 不良(治らないことも多い) |
臨床では、一次性と二次性の両方が混在しているケースも少なくありません。例えば、軽度の歯周病がある患者さんに強いブラキシズムが加わると、一次性と二次性の両方の要素を持つ咬合性外傷が生じることがあります。
そのため、プロービング検査、動揺度検査、エックス線検査を総合的に評価し、歯周病の有無と程度を正確に診断した上で、一次性か二次性かを判断することが重要です。
この判断が治療計画を左右します。
咬合性外傷と歯周病は密接な関係があり、互いに影響を及ぼし合います。この相互関係を理解しないと、歯周治療の成功率が大きく低下します。
まず重要なポイントとして、咬合性外傷は歯周病を引き起こしません。咬合性外傷だけでは歯肉に炎症は生じないのです。歯周病の原因はあくまでプラーク(細菌)です。
しかし、咬合性外傷は歯周病の「増悪因子」として働きます。どういうことなのか?
すでに歯周病がある場合、咬合性外傷による過剰な力が加わると、歯周病による炎症がさらに悪化し、歯槽骨の吸収が加速してしまうのです。
🔬 メカニズムの解説
歯周病によって歯周組織の支持力が低下している状態では、通常の咬合力でも組織に大きなダメージを与えます。健康な歯周組織であれば吸収・添加のバランスが保たれている歯槽骨も、炎症がある状態で過剰な力が加わると、吸収のスピードが圧倒的に速くなります。
具体的には、咬合性外傷による機械的ストレスと、歯周病による細菌性炎症が相乗的に作用し、歯根膜や歯槽骨の破壊が促進されます。この結果、垂直性の骨吸収が急速に進行し、歯の動揺が増し、最終的には歯の保存が困難になることがあります。
⚠️ 臨床で見落としやすいポイント
歯周病の進行が速い患者さんを診察する際、プラークコントロールや歯石除去を徹底しているにもかかわらず改善が見られない場合、咬合性外傷が隠れている可能性を疑う必要があります。
特に以下のようなケースでは注意が必要です。
- ストレスが多く、食いしばりや歯ぎしりの習慣がある
- 特定の歯だけ歯周ポケットが深く、骨吸収が顕著
- 補綴物を装着後に歯周病が急速に悪化した
- 夜間にマウスピースを使用していない
このような場合は、咬合検査を実施し、早期接触や咬頭干渉の有無を確認することが重要です。咬合紙を用いた咬合接触の確認、側方滑走運動時の接触状態の観察、ブラキシズムの有無の問診などを行います。
💡 治療の優先順位
歯周病と咬合性外傷が併存している場合の治療の優先順位は以下の通りです。
1. 急性症状の緩和
まず痛みや腫れなどの急性症状がある場合は、これを優先的に処置します。咬合調整で過剰な力を除去し、抗菌薬や消炎薬で炎症をコントロールします。
2. 歯周基本治療
プラークコントロールの指導、スケーリング・ルートプレーニングを実施し、細菌性炎症を抑えます。
歯周病が基本です。
3. 再評価と咬合調整
歯周基本治療後に再評価を行い、改善が不十分な部位については咬合調整を追加します。
必要に応じて歯周外科治療も検討します。
4. メインテナンス
安定した状態を維持するために、定期的なメインテナンスとSPTを継続します。ブラキシズムがある場合は、ナイトガードの使用を推奨し、咬合性外傷の再発を予防します。
咬合性外傷と歯周病は単独では完治が難しいケースでも、両方にアプローチすることで劇的に改善することがあります。歯科衛生士としては、歯肉の炎症だけでなく、咬合状態にも目を向け、総合的な視点で患者さんの口腔内を評価することが求められます。
この視点が真のプロフェッショナルです。
日本歯科医師会「歯周病と咬合性外傷の関係」
こちらには歯周病と咬合性外傷の相互関係について、詳しい解説と症例が掲載されています。
Please continue.