セルフエッチモードだけで使えば、エナメル質の接着強さが最大30%落ちることがあります。
スコッチボンドユニバーサル プラス アドヒーシブ(以下、SBUP)は、3Mが歯科向けに展開するユニバーサルボンディング材の進化版です。前世代の「スコッチボンドユニバーサルアドヒーシブ」が持っていた汎用性をそのまま引き継ぎながら、主に「ぬれ性」「歯質浸透性」「X線造影性」の3点で大幅な改良が加えられています。
3M独自の「VMSテクノロジー」とは、Vitrebond Copolymer(ビトラボンドコポリマー)、MDP(10-メタクリロイルオキシデシル二水素リン酸)、Silane(シラン)の3成分を有機的に組み合わせた接着システムのことです。これにより、セルフエッチングモードだけで金属・ジルコニア・アルミナ・エナメル質・象牙質・ガラスセラミックス・コンポジットレジンという7種類の被着体に前処理材なしで接着できるようになっています。つまり1本で完結するということですね。
前世代と比べた最大の変更点の一つが「粘度の低減」です。粘度が下がったことで、アドヒーシブが窩壁の隅々まで流れ込みやすくなり、複雑な窩洞形態や歯頸部付近でも塗りムラや液だまりが起きにくくなりました。硬化後の被膜厚さは約5µmと非常に薄く均一なため、間接補綴の適合精度に影響しません。審美修復での使用にも問題ないということです。
もう一つの大きな進化が「X線造影性の付与」です。一液性ユニバーサルボンディング材として業界初(3M社内調べ・2021年1月時点)に、象牙質と同等レベルのX線造影性を持たせることに成功しました。これにより、術後のデンタルX線写真やパノラマ撮影において、接着材の層が象牙質と区別なく造影されるため、修復物辺縁付近の観察がより精度よく行えます。二次う蝕の見落としリスクが軽減できる点は、長期的な修復物管理において実際に大きなメリットといえます。
参考:スコッチボンド ユニバーサル プラス アドヒーシブ 製品情報(OralStudio)
https://www.oralstudio.net/products/detail/14127
SBUPは「セルフエッチングモード」「トータルエッチングモード」「セレクティブエッチングモード」の3つの術式に対応しています。使い分けが重要です。
セルフエッチングモードは、エッチング剤を別途使用せずにSBUP単独で歯面処理を完結させる方法です。手順が最もシンプルで、象牙質に対しては高い接着性能を発揮します。ただし、エナメル質に対してはセルフエッチングのみでは接着強さがやや低下する傾向があることが複数の研究で報告されています。特に切削が入っていない未切削エナメル質や、歯頸部のエナメル質では表面エネルギーが低く、浸透深度が不十分になりやすいのが実情です。
この問題に対するのが「セレクティブエナメルエッチング(SEE)」です。エナメル質の部分にだけリン酸エッチング剤(スコッチボンドエッチャント等)を15秒間処理し、水洗・乾燥後にSBUPを塗布するという方法です。象牙質はエッチングせず、SBUPのセルフエッチング能を活かすという折衷案ですね。エナメル質の接着強さを確実に確保したい症例、例えばコンポジットレジン充填のCR修復や前歯部の審美修復など、辺縁封鎖が重要な症例ではSEEが臨床的に強く推奨されています。
トータルエッチングモードは、エナメル質・象牙質の両方をリン酸エッチング後にSBUPを塗布する方法です。象牙質については過乾燥を避けることが必須条件で、エッチング後は表面の輝きが残る程度の湿潤状態でSBUPを塗布することが大前提になります。エッチング後に乾燥しすぎると象牙質のコラーゲン線維が倒れてアドヒーシブの浸透が阻害されるため、接着強さが著しく低下する恐れがあります。過乾燥に注意すれば問題ありません。
なお、間接修復としてのセメント接着時には手順が直接法と異なります。支台歯側・補綴物側の両面にSBUPを塗布・乾燥させ、リライエックスTMユニバーサルレジンセメントと組み合わせて使用します。この際、支台歯および補綴物にSBUPを塗布した後は「光照射を行わない」という点が重要です。光照射してしまうと、SBUPが硬化して接着面の密着性が低下する可能性があります。添付文書を改めて確認することが条件です。
参考:ユニバーサルタイプの歯質接着材を用いる際の臨床上の留意点(日本接着歯学会)
SBUPは1ステップとはいえ、手順を適切に守らないと本来の接着力が発揮されないケースがあります。これは見落としやすい点です。
添付文書(2023年11月改訂・第3版)によると、基本的な使用手順は以下のとおりです。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| ①窩洞形成・清掃 | 通法に従って窩洞形成、水洗、乾燥 | 過乾燥に注意。象牙質は輝きが残る程度に |
| ②アドヒーシブ塗布 | ディスポーザブルブラシで窩洞に塗布、20秒間処理 | 20秒間こすりつけるように塗り広げる |
| ③エアー乾燥 | 緩やかなエアーで液面が動かなくなるまで約5秒乾燥 | 強すぎるエアーは溶媒と一緒にモノマーも飛ばすリスクあり |
| ④光照射 | 400mW/cm²以上の照射器で10秒間光照射 | 間接修復のセメント接着時は光照射不要(禁止) |
| ⑤修復材の充填 | 光重合型コンポジットレジンにて充填 | 未重合層の除去は知覚過敏抑制用途のみ必要 |
現場でよく見られる手技エラーとして最も多いのが、「塗布時間が不足している」ケースです。ボトルから採取してサッと塗るだけでは20秒の処理時間を確保できていないことが多く、ビトラボンドコポリマーとMDPによる化学的接着反応が不十分になります。これは接着強さに直結するエラーです。
もう一つのよくあるミスが「エアー乾燥の強さ」です。液面が動かなくなるまで約5秒という指示ですが、強すぎるエアーを短時間当てると、溶媒(エタノールと水)だけでなく接着性モノマーまで一緒に飛散し、均一な被膜が形成されないことがあります。緩やかなエアーを使うことが原則です。
ボトルタイプを使用する場合は、採取後の使用可能時間が遮光下で約30分とされています。ただし、ユニドースタイプ(0.11mL/本)と違い、開封後は酸化・揮発が少しずつ進む点に注意が必要です。複数窩洞を処置する際はボトルタイプが経済的ですが、使用後はすぐにボトルを閉め、光から保護することを徹底してください。
参考:スコッチボンドユニバーサル プラス アドヒーシブ 添付文書(第3版)
https://qx-files.yaozh.com/rbsms/370077_302AKBZX00043000_A_01_02.pdf
SBUPの利点の一つに「知覚過敏抑制処置での保険算定が可能」という点があります。この特性を活用できていないケースが意外と多いです。
ボンディング材が象牙細管に浸透し、光照射によってレジンタグを形成・封鎖することで知覚過敏を抑制します。知覚過敏処置としての使用手順は充填修復時とほぼ同じですが、光照射後に「綿球等を用いて未重合層を除去する」工程が追加されます。この除去を省略すると表面の未重合層が残り、修復物との接着に影響することがあるため注意が必要です。
また、支台歯形成後の窩洞や支台歯のシーリング・コーティング材としても使用可能です。間接修復を予定しているケースで印象採得から装着まで時間がかかる場合、露出した象牙質をSBUPで封鎖することで象牙質の細菌感染や術後知覚過敏を防ぐ効果が期待できます。これも保険算定が可能なため、臨床上で活用できる場面は多くあります。
SBUPが知覚過敏抑制材として機能するメカニズムは、象牙細管の封鎖によるものです。露出した象牙質では、飲食物の温度変化や刺激によって象牙細管内の液体流動(Hydrodynamic theory:流体力学説)が起き、それが歯髄神経を刺激して痛みが生じます。SBUPのリン酸エステル系モノマーとビトラボンドコポリマーが象牙細管に浸透してレジンタグを形成することで、この液体流動を遮断するのです。つまり物理的封鎖が原理です。
歯根露出を伴うⅤ級窩洞のような症例では、歯頸部のセメント質・象牙質への接着が重要になります。セメント質はエナメル質より耐酸性が低く、リン酸エッチングの処理時間に注意が必要ですが、SBUPのセルフエッチングモードならその心配が少なくなります。歯頸部への適用に適したボンディング材ということですね。
参考:doctorbook academy|知覚過敏抑制材料としての活用(連載記事)
https://academy.doctorbook.jp/columns/schotchbond_mmm_fujitani_senda
ユニバーサルボンディング材の中でもSBUPが特に評価されている点のひとつが、ジルコニアや金属に対してサンドブラスト以外の専用プライマーなしで接着できる能力です。これは使えそうな特徴です。
この接着能力の核心は「MDP(10-メタクリロイルオキシデシル二水素リン酸)」です。MDPはジルコニアの表面にある酸化ジルコニウムと化学的に結合できるリン酸エステル系モノマーで、機械的維持に頼らず化学的接着を実現します。ガラスセラミックスに対してはシランカップリング剤の化学反応が加わり、さらに高い接着性能が発揮されます。金属に対してもMDPが金属酸化膜と反応し、サンドブラスト処理後のプライマー処理を一本化できます。
具体的なデータとして、セルフエッチングモードでの被着体別の接着性能(フォーディーネット提供資料より)は次のとおりです。
| 被着体 | 接着の特徴 | 推奨前処理 |
|---|---|---|
| エナメル質 | セルフエッチ単独では低下することあり | 自費補綴など重要症例ではSEEを推奨 |
| 象牙質 | セルフエッチでも高い接着性能 | 湿潤状態を維持して塗布 |
| ジルコニア・アルミナ | MDPによる化学的接着で高性能を発揮 | サンドブラスト後にSBUP塗布が推奨 |
| ガラスセラミックス | シランによる化学的接着で科学的な接着性能 | HF処理後にSBUP塗布(補綴物側) |
| 金属 | MDPが金属酸化膜と反応 | サンドブラスト後にSBUP塗布 |
| コンポジットレジン | リペア修復にも対応 | ダイヤモンドバー等で粗面化後にSBUP |
ジルコニアへの接着は、以前はシランプライマーやジルコニア専用プライマーが必須とされていましたが、MDPを含むSBUPの登場でこの流れが大きく変わりました。ただし「サンドブラスト処理(30〜50µmアルミナ)を省略する」のは別の話です。サンドブラストによる機械的粗面化は接着面積を増やし、SBUPのMDPが作用する表面積を増加させるため、両者を組み合わせることが最も高い接着強さを得るための方法です。サンドブラストとSBUPの組み合わせが条件です。
リライエックスTMユニバーサルレジンセメントとの組み合わせにより、SBUPはセメント前処理材としての役割も担います。在庫管理の観点からも「ボンディング材1本・セメント1本」で完結できるというのは、日々の診療フローを大きく簡素化できる実際的なメリットです。
参考:ジルコニアのプライマーとボンディング材を知る(emium)
https://dt-lp.emium.co.jp/journal/zirconia_primer_bonding