指の骨折治療にプレートが使えないケースでも、創外固定器なら術後すぐに指を動かせます。
歯科情報
創外固定器(External Fixator)とは、骨に細いピンやワイヤーを経皮的に刺入し、体外に組み上げたフレームで骨折部や変形部位を三次元的に固定・矯正する医療機器のことです。手指領域では、通常のプレートやスクリューによる内固定が物理的に困難な「小さな骨・小さな関節」への対応策として、独自の地位を確立しています。
指の骨はとても小さい構造物です。近位指節骨(基節骨)の幅はおおよそ1〜1.5cm程度で、人差し指の爪の横幅とほぼ同じサイズ感です。そこへプレートを固定しようとすると、腱や軟部組織への侵襲が避けられず、術後の拘縮や腱癒着のリスクが高くなります。創外固定器を選択する主な意義はここにあります。
指用創外固定器の適応となる主要な病態は以下のとおりです。
| 病態 | 代表的な創外固定器 | 主な治療目的 |
|---|---|---|
| PIP関節内骨折・脱臼骨折 | DDA2、PIPウイング | 関節面の整復・早期運動 |
| 基節骨粉砕骨折・開放骨折 | イリザロフミニ、フィンガーフィックス | 仮固定・整復位保持 |
| 変形治癒(Malunion)・交差指 | イリザロフミニ | 三次元矯正・骨切り後固定 |
| PIP関節拘縮(関節授動術) | コンパスPIPジョイントヒンジ | 緩徐牽引・可動域回復 |
| 第1指間拘縮 | イリザロフミニ(指用) | 軟部組織の3次元牽引・開大 |
創外固定器の仕組みはシンプルです。骨折部を挟んだ近位・遠位のそれぞれに直径1.0〜1.8mm程度のピンを2〜3本ずつ刺入し、体外のバーやリングで連結します。骨折部自体には触れないため、軟部組織を大きく損傷することなく骨を安定させられます。これが基本原則です。
歯科医従事者が創外固定器を意識する場面として、特に口腔外科領域では顎骨骨折・下顎骨延長・上顎骨形成術の際に創外固定器が使用されることがあります。K932創外固定器加算(10,000点)は、下顎骨形成術(K444)や下顎骨延長術(K444-2)にも適応があり、顎骨領域での小顎症患者への骨延長術でも活用される点数区分です。手指領域の知識が顎顔面外傷との連携理解を深めることにもつながります。
参考:創外固定器加算の算定要件と適応手術の詳細(今日の臨床サポート)
https://clinicalsup.jp/jpoc/shinryou.aspx?file=ika_2_10_3/k932.html
指用の創外固定器は複数の機種が存在し、それぞれ構造・適応・操作性が異なります。代表的な3つを順に見ていきましょう。
まず「DDA2(Dynamic Distraction Apparatus 2)」は、PIP関節内骨折・脱臼骨折に特化した牽引型創外固定器です。関節面をHintringer法で整復し、C-ワイヤーやスクリューでの固定を追加したうえでDDA2を設置します。日本手外科学会誌に掲載された7指を対象とした治療成績報告では、全指で骨癒合が得られ、最終時の平均関節可動域は屈曲/伸展80.7°/−3°と良好な成績が示されています。ただし2指で可動域不良を認めており、アライメント不良の早期発見と関節運動開始時期の短縮が課題とも報告されています。
次に「イリザロフミニ創外固定器」は、ロシアの整形外科医ガブリエル・イリザロフが考案した骨延長法を指用に小型化した機器です。最大の特徴は「鋼線刺入方向に制限がない」点で、角状変形・回旋変形・短縮変形という三種の複合変形を同時に矯正できます。変形治癒(Malunion)や交差指の矯正骨切り術に用いられ、切開長は約10mm程度(はがきの短辺の約1/15のサイズ)に抑えられます。内固定材料を使用しないため、プレート固定で必須となる二次的な抜釘手術が不要です。
「PIPウイング(アラタ社)」はPIP関節脱臼骨折に特化した創外固定器で、背側脱臼・掌側脱臼それぞれの矯正が可能な設計になっています。隣接指への干渉を最小化するためにコンパクトな形状が採用されており、術後早期から作業療法士と連携した運動療法も行いやすい構造です。
また近年では「ICHI-FIXATORシステム(ネオメディカル社)」のように、特許技術の側面極小ネジによる仮固定が可能な手指用創外固定器も登場しています。ピンサイズはΦ1.0〜1.8mmのバリエーションがあり、固定器本体はクラスⅠ医療機器として薬機法に基づく承認を受けています。これは使えそうです。
各機種の選択は、骨折の部位・粉砕度・脱臼方向・患者の年齢・術後のリハビリ体制などを総合的に判断して決定されます。術者の習熟度も選択基準のひとつです。
参考:イリザロフミニ創外固定器を使用した手指変形治癒の治療解説(カラムス千駄木クリニック)
https://calamus-clinic.com/2025/12/31/イリザロフミニ創外固定器を使用した手指変形治癒・交差指/
指に対して創外固定器を用いる手術は、全身麻酔または伝達麻酔下で行われます。一般的なPIP関節内骨折への適用を例に取ると、その流れは概ね次のようになります。
まず透視(フルオロスコピー)下で骨折部を確認し、近位・遠位の指骨に直径1.2〜1.5mm程度のピンを経皮的に刺入します。ピンは通常、指の側面から骨軸に対して垂直に近い角度で挿入されます。続いて体外でフレームを組み立て、関節面の整復と牽引力を同時に与えながら固定します。手術時間は症例の複雑さによりますが、おおよそ1〜2時間程度が目安です。
術後管理において最も重要なことのひとつが「早期からの関節可動域訓練(Range of Motion Exercise)」です。創外固定器の最大の優位性がここにあります。ギプスや経皮的鋼線固定では固定期間中に指を動かせないのに対し、創外固定器を適切に設置した場合は術後翌日から指の屈伸運動を開始できます。早期運動が原則です。
関節拘縮は術後最も起こりやすい合併症のひとつです。手指のPIP関節は特に拘縮しやすい関節で、固定期間が3〜4週間を超えると関節包・側副靱帯・屈筋腱鞘の線維化が進み、可動域の回復が著しく困難になります。創外固定器を使いながら早期から動かすことで、この問題を大幅に予防できる点が臨床上の大きなメリットです。
術後の流れをまとめると以下のとおりです。
リハビリ介入において歯科医従事者が知っておくべき視点として、口腔外科で下顎骨延長術に創外固定を使用した患者も、指と同様に「装着中の固定器管理」と「早期機能回復」が治療の質を左右します。開口訓練・咀嚼訓練は創外固定器装着期間中から開始されることが多く、コメディカルとの密な連携が不可欠です。
参考:手指PIP関節脱臼骨折に対するDDA2を用いた治療成績(J-STAGE・日本手外科学会)
創外固定器を指に装着した患者に発生する合併症の中で、頻度・重要性ともに最上位にくるのが「ピントラクト感染(Pin-tract infection:PTI)」です。ピンが皮膚と骨を貫いている以上、感染リスクはゼロにはなりません。ただし適切な管理によって重篤化をほぼ防げることも、また事実です。
ピントラクト感染の重症度は一般に以下の3段階で分類されます。
小児の開放性長管骨骨折を対象とした研究(2026年1月報告)では、PTIの多くは表在性であり保存的治療で管理可能であることが示されています。一方、2025年11月に報告されたデータでは、創外固定器除去後のピン刺入部を一次閉鎖することで二次治癒法と比較して感染リスクが有意に低下することが明らかになっており、抜去後の創管理も侮れません。
日常的なピンサイトケアの実施手順は以下の通りです。
患者指導のポイントとして、ピンサイトを濡れたままにしないことが非常に重要です。入浴やシャワーが許可されている場合でも、終了後は必ずティッシュや清潔なガーゼで水分を丁寧に除去するよう指導します。患者自身が管理する場面も多いため、「なぜ乾かすのか」という理由を含めた説明が遵守率を高めます。
歯科医従事者の視点では、口腔外科領域で下顎骨延長に創外固定を用いた場合も、同様のピンサイト管理が求められます。口腔内の細菌叢が感染源になる可能性があるため、口腔清潔管理は一般の整形外科症例以上に重要な意味を持ちます。これが条件です。
参考:創外固定装着中のピンサイトケアと看護のポイント(看護お仕事ガイド)
手指領域の創外固定器について解説してきましたが、ここで歯科医従事者ならではの視点から一点掘り下げたい内容があります。それは「下顎骨延長術(Mandibular Distraction Osteogenesis)における創外固定器の役割」です。
この治療は、第1・第2鰓弓症候群やトリーチャー・コリンズ症候群にみられる小顎症に対して行われます。K444-2(下顎骨延長術)は診療報酬上、K932創外固定器加算(10,000点)の算定対象手術として明確に位置づけられており、歯科口腔外科でも直接関係する点数区分です。
手指への創外固定と下顎骨延長への創外固定を比較すると、いくつかの共通する原則が見えてきます。
まず「骨延長(Distraction Osteogenesis)の原理」は同一です。骨を切り(骨切り術)、1日0.5〜1.0mm程度の緩徐な牽引を行うことで、骨と軟部組織を同時に再生させるイリザロフの原理に基づきます。この速度は速すぎると骨が形成される前に空隙が生じ、遅すぎると骨が早期に癒合してしまうため、管理する側の正確な知識が欠かせません。
次に「感染管理の場が口腔周囲になること」です。口腔内の常在菌数は1mlの唾液あたり10億個を超えることが知られており、ピン刺入部が口腔に近い部位にあることで感染リスクは手指の場合よりも高くなります。歯科医従事者が口腔清潔管理に直接介入できる点は、治療の質を保つうえで非常に重要な役割です。
さらに「固定器装着中の機能回復訓練」として、口腔外科では開口訓練・構音訓練・摂食嚥下訓練が創外固定器装着期間中から求められます。指では術後翌日からの可動域訓練が拘縮予防に直結するように、顎でも早期から開口訓練を行うことが最終的な機能回復に影響します。早期介入が原則です。
このように手指の創外固定で培われた「早期運動・感染管理・三次元矯正」という3つのコアな知識は、そのまま顎骨延長術の周術期管理に応用できます。歯科医従事者が手外科領域の文献や研修に触れておくことは、自身の専門性を意外な角度から高めてくれる投資になります。意外ですね。
手指の創外固定器メーカーの情報・製品仕様については、手外科専門のメーカーサイトや日本手外科学会の資料が参考になります。
参考:日本手外科学会誌(指骨折への各種創外固定器の治療戦略を含む号)
https://www.jssh.or.jp/doctor/jp/publication/news/news59_2.pdf
参考:PIP関節脱臼骨折の治療方針(埼玉手外科マイクロサージャリー研究所)
https://hand.jikei.or.jp/disease/trauma/pip.html

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