下顎骨辺縁切除術の術式と適応・再建の要点

下顎骨辺縁切除術の術式・適応基準・再建法まで、歯科口腔外科従事者が知っておくべき実践的ポイントを解説。虫喰い型骨吸収の症例でも辺縁切除が選択できるケースとは?

下顎骨辺縁切除術の術式と適応・再建の要点

虫喰い型骨吸収でも、辺縁切除術で根治切除できる症例が実は約43例中18.6%しか再発していない。


下顎骨辺縁切除術 3つのポイント
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適応の判断基準

X線骨吸収型(平滑型・虫喰い型)と吸収深度(歯槽部か下顎管か)で術式を選択する

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骨折リスクへの対応

残存下顎骨が9mm以下になる場合は金属プレートによる補強が必須。術後23.5か月が骨折ピーク

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再建の選択と時期

辺縁切除後の再建は植皮・D-P皮弁が基本。区域切除時は腓骨皮弁・再建プレートも選択肢に入る


下顎骨辺縁切除術の基本術式と手順の概要



下顎骨辺縁切除術(marginal mandibulectomy)は、下顎骨の連続性を保ちながら腫瘍側の骨辺縁部のみを切除する術式です。区域切除術(segmental resection)と異なり、下顎骨アーチの連続性が温存されるため、術後の顎位ずれや咬合不全が起きにくい点が最大のメリットです。つまり機能温存と根治性を両立しやすい術式です。


手術は口腔内切開を基本とします。腫瘍周囲の歯肉粘膜・口底粘膜を切開し、骨膜上剥離を行って下顎骨外側面を露出します。切断には reciprocating saw(往復ノコ)が使用されることが多く、骨切り線は腫瘍辺縁から最低5mm以上のマージンを確保して設定します。頬舌側の外側緻密骨を切断後、骨折させる方法をとる部位もあります。


オトガイ神経の処置も重要な操作です。切開操作の過程でオトガイ神経が露出した場合は、切断せざるをえないケースがあります。患者に対して術前から口唇の知覚麻痺のリスクを十分に説明しておくことが、術後のクレームや不信感を防ぐうえで不可欠です。


「イラストでみる口腔外科手術 第3巻」:下顎骨辺縁切除の切開・骨切り操作の詳細なイラスト解説。術式の視覚的理解に有用


下顎骨辺縁切除術の適応基準:X線骨吸収型と吸収深度の見方

適応判断の鍵は、X線所見における骨吸収の「型」と「深度」の2軸です。これが原則です。


まず骨吸収型について整理します。


    >✅ 平滑型(圧迫型):expansive patternが多く、骨髄腔への深部浸潤が少ない。辺縁切除術の良い適応
    >⚠️ 虫喰い型(浸潤型):infiltrative patternの可能性があり、骨髄腔内への癌浸潤が予想される。歯槽部にとどまっていても原則として区域切除術の適応


次に吸収深度の基準です。


    >🟢 歯槽部のみへの浸潤 → 辺縁切除術が適応可能(T1症例が主な対象)
    >🟡 下顎管の上方部まで → 辺縁切除術(下顎管を含む rim mandibulectomy)+金属プレート補強が必要
    >🔴 下顎管を含む深さ → 骨吸収型にかかわらず区域切除術が原則


意外なのは、T2・T3症例でもX線学的に骨吸収が歯槽部にとどまり、かつ骨吸収型が平滑型であれば辺縁切除術が適応される場合がある点です。 「T2以上は必ず区域切除」という思い込みは、過剰切除を招くリスクがあります。 jsco-cpg(http://www.jsco-cpg.jp/oral-cavity-cancer/cq/)


「口腔癌診療ガイドライン(日本癌治療学会)」:CQ4-5にて下顎歯肉癌の骨浸潤と辺縁切除術適応基準を明記。臨床判断の根拠として活用可


下顎骨辺縁切除術後の骨折リスクと金属プレートによる補強の実際

辺縁切除後の合併症として見落とされがちなのが、残存下顎骨の骨折です。これは痛いですね。


2025年の研究では、辺縁切除術(MM)を受けた190例のうち24例(12.7%)が術後に二次的下顎骨折を経験しました。 骨折発生までの期間の中央値は術後23.5か月(約2年)で、術直後だけでなく中長期的なフォローが必要です。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/065e9d99-c2d1-4ed1-9417-0d4f11600cca)


骨折リスクが上がる条件はいくつか知られています。


    >🚨 残存下顎骨下縁が9mm以下になる症例(金属プレートでの補強が必須)
    shinshu-u.ac(http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/medicine/chair/i-shika/until%202003%20HP/gazou2.html)
    >🚨 後方部位(臼歯部〜下顎角付近)での切除
    >🚨 術前放射線治療歴がある症例(骨の再生能が低下)


金属プレートは補強のために使用した場合でも、長期的には咀嚼力でプレートが破折することがあります。 そのため、金属プレート単独の再建は暫間処置と位置づけ、術後2〜3年の経過で問題がなければ自家骨移植を検討する考え方が主流とされています。つまりプレートがゴールではないということですね。 med.oita-u.ac(https://www.med.oita-u.ac.jp/oralsurg/allpdf/sikaigeppou/2019/%E7%AC%AC6%E5%9B%9E%E3%80%80%E5%86%8D%E5%BB%BA%E9%A1%8E%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%97%E3%81%A6%E8%A3%9C%E7%B6%B4%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%86%E6%99%82.pdf)


「下顎辺縁切除術後の骨折リスク因子」(ケアネット 2025年):190例を対象とした後方視的研究。骨折率12.7%・中央値23.5か月のデータを収載


下顎骨辺縁切除術後の再建法:植皮・D-P皮弁から腓骨皮弁まで

辺縁切除術後の再建は、切除範囲と軟部組織の欠損量によって選択が変わります。これが条件です。


辺縁切除のみで骨の連続性が保たれる場合は、軟部組織の再建が主体になります。


    >🌱 植皮(SSG):口底粘膜欠損が比較的小さい場合に選択。シンプルで侵襲が低い
    >🌿 D-P皮弁(デルトペクトラル皮弁):やや大きな欠損をカバーできる有茎皮弁。術後の経過が良好な報告が複数ある
    cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390001204729030400)
    >💪 前腕皮弁・腹直筋皮弁:さらに広範な切除後の再建に用いる。顕微鏡下血管吻合が必要


一方、辺縁切除でも rim mandibulectomy(下顎管を含む範囲)を行った場合、残存骨の骨量が大幅に減るため、早期から腓骨皮弁による骨再建を検討することがあります。 腓骨は長さと形状の自由度が高く、下顎の湾曲形態への適合性に優れています。 ncc.go(https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/plastic_surgery/ps/01.html)


再建後に義歯インプラント補綴を検討する場合は、再建皮弁上の粘膜知覚がないこと、および骨形態が通常と異なることへの注意が必要です。 義歯性潰瘍が生じても患者が痛みを訴えない可能性があります。これは見落とせないリスクです。 med.oita-u.ac(https://www.med.oita-u.ac.jp/oralsurg/allpdf/sikaigeppou/2019/%E7%AC%AC6%E5%9B%9E%E3%80%80%E5%86%8D%E5%BB%BA%E9%A1%8E%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%97%E3%81%A6%E8%A3%9C%E7%B6%B4%E6%B2%BB%E7%99%82%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%86%E6%99%82.pdf)


「国立がん研究センター東病院 頭頸部再建」:腓骨皮弁・再建プレート・腹直筋皮弁の適応と概要を一般向けにわかりやすく解説


下顎骨辺縁切除術と区域切除術の生存率比較:適応を誤らなければ同等の成績

「辺縁切除術は機能温存できる代わりに根治性が劣る」と思われがちですが、これは必ずしも正しくありません。意外ですね。


岩手医科大学等の研究では、下顎骨離断・半側切除術を行った群と辺縁切除術を行った群の間に、生存率や腫瘍制御率に有意差はなく、「適応を誤らないかぎり、下顎骨辺縁切除術は有効な手術法である」と結論づけられています。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-61480413/)


再発率の比較データを見ると以下のとおりです。
























術式 局所再発 備考
区域切除術(segmental) 11.8% 17例中2例再発
辺縁切除術(marginal) 18.6% 43例中8例再発
削骨・歯肉切除術(shaving) 55.6% 9例中5例再発 ⚠️


削骨・歯肉切除術の再発率が55.6%と突出して高い点は重要です。 辺縁切除術の適応であるにもかかわらず、切除が不十分な「歯槽骨削骨」だけで終わらせてしまうと、再発リスクが3倍以上に跳ね上がります。「できるだけ切除を小さくしたい」という気持ちが過剰になると、逆に患者の予後を損ねる結果になりかねません。結論は、辺縁切除術の適応範囲を正確に判断し、しっかり切除することが肝心です。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679705739136)


術前化学放射線療法が奏功した症例(CR例)では非手術での経過観察を選択できるケースもあり、24年間81例の検討で術前治療の完全奏功率は55.4%であったとの報告があります。 術前治療の評価も適応判断に組み込む視点が求められます。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282679705739136)






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