実は骨シンチでも顎骨壊死の診断ミスは起こる。
シンチグラフィーは放射性医薬品を体内に投与し、その分布をガンマカメラで画像化する核医学検査です。γ線を放出する放射性同位体を含む薬剤が、特定の臓器や組織に集積する性質を利用しています。
検査の種類は約30種類以上存在します。代表的なものとして、骨シンチグラフィ、脳血流シンチグラフィ、心筋シンチグラフィ、唾液腺シンチグラフィ、甲状腺シンチグラフィ、腎シンチグラフィ、肺シンチグラフィなどがあります。それぞれの検査で使用する放射性医薬品が異なるため、診断できる疾患や評価できる機能も変わってきます。
放射性医薬品の種類によって、どの臓器に分布するかが決まります。例えばテクネチウム99m(99mTc)を標識したMDPやHMDPは骨代謝が盛んな部位に集まる性質があり、骨シンチグラフィに使用されます。タリウム201(201Tl)は心筋細胞に取り込まれるため心筋血流の評価に用いられます。
テクネチウム99mは物理的半減期が6.01時間と短く、β線を放出しないため患者の被曝が極めて少ないという特徴があります。放出されるγ線エネルギーは140.5keVで、シンチレーションカメラでの検出に適しています。この特性が核医学検査で最も頻繁に使用される理由です。
九州大学病院の核医学検査解説ページでは、シンチグラフィとSPECT検査の原理と薬剤の種類について詳しく説明されています。
骨シンチグラフィは、がんの骨転移診断において最も重要な検査法の一つです。全身の骨を一度の検査で調べることができるという大きなメリットがあります。
検査では99mTc-MDPまたは99mTc-HMDPという放射性医薬品を静脈注射します。注射後2~3時間で骨に集積し、骨の代謝や反応が盛んなところに集まる性質を利用して画像化します。骨転移だけでなく、微小骨折や骨の炎症、骨腫瘍なども検出できます。
X線検査では分かりにくい早期の骨病変を検出できるのが特徴です。骨転移には溶骨型と造骨型の2種類がありますが、どちらも骨代謝の亢進を伴うため、骨シンチグラフィで集積増加として検出されます。
造骨型では特に強い集積を示します。
歯科領域では顎骨への転移診断に活用されています。ビスフォスフォネート製剤やデノスマブなどの骨修飾薬を投与されている患者では、顎骨壊死のリスクがあります。骨シンチグラフィは顎骨壊死の早期発見にも有用で、症状出現前に下顎骨への異常集積が確認されることがあります。
つまり予防的診断が可能です。
ただし、骨シンチグラフィだけでは良性と悪性の鑑別が難しい場合もあります。炎症や骨折でも集積増加を示すため、CTやMRIなどの形態診断と組み合わせることで診断精度が向上します。SPECT/CT装置を使用すれば、機能画像と解剖学的画像を同時に取得でき、病変部位のより正確な位置が分かります。
肺癌学会誌に掲載された論文では、顎骨壊死の症状出現前に骨シンチグラフィで下顎骨への集積が確認された症例が報告されています。
唾液腺シンチグラフィは、耳下腺や顎下腺の機能を評価する検査です。99mTcO4-という放射性医薬品を用いて、唾液を生成する能力と分泌する能力の両方を評価できます。
シェーグレン症候群などの唾液腺機能低下を伴う疾患の診断に有用です。急性耳下腺炎や慢性再発性耳下腺炎では、びまん性の集積像を示します。放射線治療後の唾液腺障害の評価にも使用されます。
意外なことに腫瘍診断にも役立ちます。
Warthin腫瘍(ワルチン腫瘍)とオンコサイトーマという良性腫瘍は、唾液腺シンチグラフィで特徴的な集積像を示します。Warthin腫瘍は50歳代の男性の耳下腺に好発する良性腫瘍で、組織学的にはリンパ組織と乳頭状に増殖した嚢胞状の腺腔構造を呈します。
99mTcシンチグラフィでは、Warthin腫瘍の部位に一致した限局強陽性像(hot spot)が認められます。これは腫瘍内のミトコンドリアが豊富な好酸性細胞が99mTcO4-を濃縮するためです。この特性により、他の唾液腺腫瘍との鑑別に有用な所見となります。
多形腺腫などの他の良性腫瘍では通常集積を示さないため、鑑別診断の補助として活用できます。ただし、腺房細胞癌などの一部の悪性腫瘍でも集積する場合があるため、最終診断には組織診断が必要です。
唾液腺シンチグラフィの組み合わせで診断精度が向上します。超音波検査やCT、MRIで形態的な特徴を把握し、シンチグラフィで機能的な情報を加えることで、より確実な診断が可能になります。喫煙との関連が指摘されているWarthin腫瘍では、喫煙歴の問診も重要な情報です。
OralStudio歯科辞書のWarthin腫瘍の項目では、99mTcシンチグラフィーで腫瘍に一致した集積像を示すことが解説されています。
核医学検査には、シンチグラフィ、SPECT、PETという3つの主要な撮像法があります。それぞれ使用する放射性同位体と撮像原理が異なります。
シンチグラフィは平面画像を撮影する方法です。ガンマカメラを体の前面や後面に固定して撮影し、放射性医薬品の分布を2次元画像として表示します。骨シンチグラフィなど、全身を一度に観察したい場合に適しています。
SPECTは断層撮影法です。
ガンマカメラが体の周りを回転しながら撮影し、コンピュータで画像を再構成して断層像を作成します。臓器の重なりによる情報の欠落を防ぎ、病変の位置をより正確に把握できます。脳血流シンチグラフィや心筋シンチグラフィなど、詳細な局所情報が必要な検査でよく使用されます。
PET検査はSPECTよりも高い空間分解能を持ちます。陽電子(ポジトロン)を放出する放射性同位体を使用し、体内で放出された陽電子が電子と結合して消滅する際に発生する2本のγ線を同時計測します。FDG(フルオロデオキシグルコース)という糖代謝を反映する薬剤を用いることで、がん細胞の活動性を評価できます。
使用する放射性同位体の違いも重要です。SPECT検査では単一光子放出核種(99mTc、201Tl、123Iなど)を用います。PET検査では陽電子放出核種(18F、11C、15Oなど)を使用します。陽電子放出核種は半減期が非常に短いため、施設内にサイクロトロンが必要です。
SPECT/CTやPET/CTという複合装置も普及しています。これらは核医学画像とCT画像を同一ベッドで連続撮影し、画像を融合表示できます。機能情報と形態情報を同時に得ることで、診断精度が大幅に向上します。
検査の目的に応じて使い分けることが重要です。骨転移のスクリーニングには骨シンチグラフィ、脳腫瘍の代謝評価にはPET、心筋虚血の評価には心筋SPECTというように、それぞれの特性を活かした使い方をします。
日本メジフィジックス株式会社の核医学検査解説ページでは、SPECT検査とPET検査の違いについて分かりやすく説明されています。
脳血流シンチグラフィは、脳の血流状態を評価する検査で、認知症の早期診断と鑑別診断に重要な役割を果たします。
検査では99mTc-ECD(エチルシステインダイマー)や99mTc-HMPAO(ヘキサメチルプロピレンアミンオキシム)という脳血流製剤を静脈注射します。これらの薬剤は血液脳関門を通過し、脳血流に比例して脳組織に取り込まれます。約20~30分後にSPECT撮像を行います。
認知症のタイプによって特徴的な血流低下パターンがあります。アルツハイマー型認知症では、頭頂葉や側頭葉後部、後部帯状回の血流低下が特徴的です。レビー小体型認知症では後頭葉の血流低下が目立ちます。前頭側頭型認知症では前頭葉や側頭葉前部の血流低下を認めます。
早期発見が可能です。
脳血流シンチグラフィは症状が出る2年前から血流減少を検出できる高感度な検査です。CTやMRIで脳萎縮が明らかになる前の段階でも、血流低下として異常を捉えられます。軽度認知障害(MCI)の段階で適切な介入を始めることで、認知症への進行を遅らせる可能性があります。
画像解析ソフトウェアを使用すると、診断精度がさらに向上します。3D-SSP(three-dimensional stereotactic surface projection)やeZISなどの統計解析ソフトは、患者の脳血流画像を正常データベースと比較し、血流低下部位を定量的に評価します。視覚的評価だけでは見逃しやすい軽度の血流低下も検出できます。
認知症の鑑別診断では、複数の検査を組み合わせることが推奨されます。神経心理学的検査で認知機能を評価し、MRIで脳萎縮の程度と分布を確認し、脳血流SPECTで機能的な変化を捉えます。ドパミントランスポーターシンチグラフィ(ダットスキャン)を追加すると、レビー小体型認知症とアルツハイマー型認知症の鑑別がより確実になります。
MCIから認知症への移行率は年間5~15%とされています。一方で、年間16~41%の人が健常な状態に戻れるという報告もあり、早期発見と適切な介入の重要性が示されています。
日本メジフィジックス株式会社の認知症診断サイトでは、脳血流SPECT読影のポイントについて詳しく解説されています。
放射性医薬品を使用する核医学検査では、患者の被曝を避けることはできません。しかし、実際の被曝線量は多くの人が想像するよりも少ないことが分かっています。
1回の核医学検査での被ばく線量はおよそ1~15mSv程度です。骨シンチグラフィでは約4~6mSv、脳血流シンチグラフィでは約5~8mSv、心筋シンチグラフィでは約8~12mSvです。FDG-PET検査では約3.5mSvの内部被曝に加え、CT撮影による外部被曝が約2~3mSv加わり、合計で約6mSvとなります。
比較すると理解しやすくなります。
胸部X線撮影は約0.06mSv、腹部CTは約8~10mSv、頭部CTは約2~3mSvです。航空機で1時間フライトすると約5μSvの被曝を受けます。つまり、骨シンチグラフィ1回の被曝量は、航空機で東京からニューヨークまで往復した場合(約0.2mSv)の20~30倍程度です。
自然放射線による年間被曝量は日本全国平均で約2.1mSvです。
世界平均では約2.4mSvとされています。
地域によって差があり、高線量地域では年間10mSv以上のところもありますが、健康への影響は報告されていません。
検査直後の患者からの外部被ばく線量率は、1m離れた位置で0.5~2.0μSv/時程度です。これは航空機での1時間のフライトで受ける線量(約5μSv)よりも低い値です。特別な行動制限は通常不要で、家族や周囲の人への影響はほとんどありません。
副作用はほとんどありません。使用される放射性医薬品は微量で、薬理作用を示さない程度の量です。造影剤を使用するCT検査やMRI検査と比較して、アレルギー反応などのリスクは極めて低くなっています。
妊娠中や授乳中の女性では注意が必要です。妊娠の可能性がある場合は検査前に必ず申し出る必要があります。授乳中の場合は、検査後一定期間(通常24~48時間)授乳を中止するよう指導されることがあります。乳汁中に放射性医薬品が分泌される可能性があるためです。
放射線防護の3原則である「正当化」「最適化」「線量限度」が守られています。検査による利益が被曝によるリスクを上回ることが確認され(正当化)、診断に必要最小限の線量で撮影し(最適化)、患者個人の被曝が管理されています(線量限度)。
神戸岸田クリニックの核医学検査解説ページでは、被曝線量の具体的な数値と航空機フライトとの比較が分かりやすく示されています。