良性腫瘍と歯科治療の関係性と摘出方法

口腔内に発生する良性腫瘍について、種類や症状、診断方法から治療法まで詳しく解説します。歯原性腫瘍と非歯原性腫瘍の違いや、放置するリスクとは?適切な治療時期はいつなのでしょうか?

良性腫瘍と歯科治療

口腔内良性腫瘍の基本情報
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良性腫瘍の特徴

口腔内の良性腫瘍は周囲組織に浸潤せず、転移もしない腫瘍です。ゆっくりと成長し、生命に直接関わる危険性は低いものです。

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主な発生部位

口唇、舌、頬粘膜、歯肉、口蓋など口腔内のさまざまな部位に発生します。顎骨内部に発生するものもあります。

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治療の必要性

良性でも放置すると増大し、機能障害や感染リスクが高まります。早期発見・早期治療が重要です。

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口腔内に発生する良性腫瘍は、歯科医療において比較的よく遭遇する疾患です。良性腫瘍は悪性腫瘍(がん)と異なり、周囲の組織に浸潤したり転移したりすることがなく、一般的にゆっくりと成長します。しかし、良性だからといって放置してよいわけではありません。

 

口腔内の良性腫瘍は、その発生源によって「歯原性腫瘍」と「非歯原性腫瘍」に大きく分類されます。歯原性腫瘍は歯の発生過程における各組織の細胞が発生母細胞となる腫瘍であり、非歯原性腫瘍は歯に関連しない組織から発生する腫瘍です。

 

良性腫瘍は初期段階では無症状であることが多く、定期的な歯科検診やレントゲン検査で偶然発見されることがよくあります。しかし、腫瘍が大きくなると、口腔内のしこりや腫れ、痛みや違和感、機能障害などの症状が現れることがあります。

 

本記事では、口腔内に発生する良性腫瘍の種類、症状、診断方法、治療法について詳しく解説します。歯科医療従事者として知っておくべき知識を網羅的にお伝えします。

 

良性腫瘍の種類と歯原性腫瘍の特徴

口腔内の良性腫瘍は、その発生源によって歯原性腫瘍と非歯原性腫瘍に分類されます。歯原性腫瘍は、歯の発生に関わる組織から発生する腫瘍で、WHO(世界保健機関)の2017年分類によると、以下のように分類されています。

 

  1. 良性上皮性歯原性腫瘍
    • エナメル上皮腫
    • 単嚢胞型エナメル上皮腫
    • 骨外型/周辺型エナメル上皮腫
    • 転移性エナメル上皮腫
    • 扁平歯原性腫瘍
    • 石灰化上皮性歯原性腫瘍
    • 腺腫様歯原性腫瘍
  2. 良性上皮間葉混合性歯原性腫瘍
    • エナメル上皮線維腫
    • 原始性歯原性腫瘍
    • 歯牙腫
    • 象牙質形成性幻影細胞腫
  3. 良性間葉性歯原性腫瘍
    • 歯原性線維腫
    • 歯原性粘液腫/粘液線維腫
    • セメント芽細胞腫
    • セメント質骨形成線維腫

これらの中で最も発生頻度が高いのはエナメル上皮腫で、次いで角化嚢胞性歯原性腫瘍、歯牙腫と続きます。歯原性腫瘍の99%以上は良性腫瘍であり、悪性腫瘍の発生はまれです。

 

歯原性腫瘍の特徴として、顎骨内に発生することが多く、X線検査で偶然発見されることがよくあります。また、永久歯の萌出遅延や歯の位置異常を引き起こすことがあります。

 

日本口腔外科学会 - 良性腫瘍についての詳細情報

良性腫瘍の症状と診断方法

口腔内の良性腫瘍は、初期段階では無症状であることが多く、患者自身が気づかないことがよくあります。しかし、腫瘍が大きくなるにつれて、さまざまな症状が現れることがあります。

 

主な症状

  1. 口腔内のしこりや腫れ
    • 頬の内側、舌、歯肉、唇の内側などにしこりや腫れとして現れます
    • 触れると硬いものや柔らかいものがあり、腫瘍の種類によって異なります
  2. 痛みや違和感
    • 初期は痛みを伴わないことが多いですが、腫瘍が大きくなると違和感を覚えることがあります
    • 咀嚼や会話時に腫瘍が邪魔になったり、擦れて痛みを引き起こすことがあります
  3. 出血や潰瘍
    • 一部の腫瘍は表面が傷つくことで出血したり、潰瘍が形成されることがあります
    • 特に血管腫は軽い刺激で出血しやすい特徴があります
  4. 嚥下や発音の問題
    • 腫瘍が舌や喉に近い場所に発生すると、食べ物や飲み物を飲み込む際に支障が出ることがあります
    • 発音しづらくなることもあります
  5. 顎骨の膨隆や顔貌の変化
    • 顎骨内の腫瘍が大きくなると、顎骨が膨隆し、顔貌に変化が現れることがあります

診断方法
口腔内の良性腫瘍の診断には、以下の方法が用いられます。

 

  1. 問診と視診・触診
    • 受診までの経過を詳しく聞き取り、口腔内を診察して腫瘍の状態を確認します
    • 腫瘍の大きさ、固さ、深さなどを調べるため、直接指で触れます
    • 同時に頸部リンパ節の状態も触診します
  2. 画像検査
    • X線検査:腫瘍の位置や大きさ、周囲の骨への影響を評価します
    • CT検査:腫瘍の詳細な位置や大きさ、骨破壊の程度を三次元的に評価します
    • MRI検査:腫瘍の内部性状(液状成分の有無など)を詳しく評価します
    • 超音波検査:軟組織内の腫瘍の性状を評価するのに有用です
  3. 病理組織検査
    • 確定診断のために、腫瘍の一部を採取して病理組織検査を行います
    • 腫瘍の種類や良性・悪性の鑑別に不可欠です

これらの検査結果を総合的に判断して、腫瘍の種類や進行度を診断し、適切な治療方針を決定します。

 

慶應義塾大学病院 - 口腔腫瘍の診断方法についての詳細情報

良性腫瘍の代表例と歯牙腫の特徴

口腔内の良性腫瘍にはさまざまな種類がありますが、ここでは代表的な腫瘍について詳しく解説します。特に歯科領域でよく遭遇する歯牙腫に焦点を当てます。

 

1. 歯牙腫(しがしゅ)
歯牙腫は、歯を形づくる細胞の過剰形成によって生じる良性腫瘍の一つです。厳密には真の腫瘍ではなく、歯胚(歯の芽)の形成異常から生じる組織の形態異常と考えられています。

 

歯牙腫は一般的に以下の2種類に分類されます。

  • 集合性歯牙腫:多数の小さな歯のような構造が集まったもの
  • 複雑性歯牙腫:歯の組織(エナメル質、象牙質、セメント質)が不規則に混在したもの

歯牙腫の特徴。

  • 10歳台で発見されることが多い
  • 無症状で、X線検査で偶然発見されることが多い
  • 正常歯の萌出を妨げることがある
  • 顎骨内に発生し、徐々に成長する

歯牙腫の治療は主に外科的摘出です。摘出後は、埋伏していた永久歯の萌出誘導を行うことがあります。摘出後の再発はまれです。

 

2. エナメル上皮腫
エナメル上皮腫は、歯原性腫瘍の中で最も頻度の高い腫瘍です。主に下顎の後方部に発生し、ゆっくりと成長します。

 

エナメル上皮腫の特徴。

  • 10〜20歳台で発見されることが多い
  • 初期は無症状で、腫瘍が大きくなると顎骨の膨隆や顔貌の変化が現れる
  • X線検査では多房性または単房性の透過像として観察される
  • 再発率が比較的高い

エナメル上皮腫の治療法は、顎骨切除療法と顎骨保存療法に大別されます。顎骨切除療法は再発リスクが低い一方で侵襲が大きく、顎骨保存療法(開窓療法など)は侵襲が少ない一方で再発リスクがやや高いという特徴があります。

 

3. 線維腫
線維腫は、結合組織の増殖によって生じる良性腫瘍です。口腔内では頬粘膜や歯肉によく発生します。

 

線維腫の特徴。

  • 慢性的な刺激や外傷が原因となることが多い
  • 表面が平滑で硬い腫瘤として現れる
  • 通常は無痛性で、ゆっくりと成長する

治療は外科的切除が基本で、再発はまれです。

 

4. 血管腫
血管腫は、血管の異常増殖によって生じる良性腫瘍です。口腔内では舌や頬粘膜によく発生します。

 

血管腫の特徴。

  • 赤色や紫色の柔らかい腫瘤として現れる
  • 圧迫すると退色することがある
  • 外傷を受けると出血しやすい

治療法には外科的切除、硬化療法、レーザー治療などがあります。

 

あいざわ歯科クリニック - 歯牙腫の治療例についての詳細情報

良性腫瘍の治療方法と摘出術

口腔内の良性腫瘍の治療は、腫瘍の種類、大きさ、発生部位、症状などによって異なりますが、多くの場合、外科的切除が基本となります。ここでは、主な治療方法について詳しく解説します。

 

1. 外科的切除(摘出術)
外科的切除は、良性腫瘍の治療で最も一般的に行われる方法です。腫瘍を完全に取り除くことで、再発のリスクを低減します。

 

外科的切除の特徴。

  • 局所麻酔下で行われることが多い
  • 腫瘍とその周囲の一部組織を切除する
  • 切除後には病理組織検査を行い、良性であることを確認する
  • 腫瘍の大きさや位置によっては、全身麻酔が必要な場合もある

2. 開窓療法
開窓療法は、特に大きな嚢胞性腫瘍(エナメル上皮腫や角化嚢胞性歯原性腫瘍など)に対して行われる治療法です。腫瘍の一部に穴をあけて内圧を減少させることで、腫瘍の縮小や骨の再生を促します。

 

開窓療法の特徴。

  • 侵襲が少なく、顎骨や歯、神経などを保存できる
  • 腫瘍が縮小した後に二次的な摘出術を行う
  • 治療期間が長くなることがある
  • 複数回の手術が必要になることがある

3. 反復処置法
反復処置法は、再発性の良性腫瘍に対して行われる治療法で、開窓術、摘出術、反復処置の3つの外科処置からなります。腫瘍によって失われた骨の再生を促進し、腫瘍の完全除去を目的とします。

 

反復処置法の特徴。

  • 口腔機能の温存に努める
  • 手術の回数は多くなるが、侵襲は少ない
  • 長期の経過観察が重要
  • 再発率を低減できる

4. レーザー治療
レーザー治療は、特に血管腫や小さな良性腫瘍に対して行われることがあります。レーザーを使用して腫瘍を切除する方法で、出血が少なく、治癒が早いという特徴があります。

 

レーザー治療の特徴。

  • 出血が少なく、周囲の健康な組織を傷つけにくい
  • 術後の腫れや痛みが少ない
  • 小さな腫瘍に適している

5. 硬化療法
硬化療法は、主に血管腫などの特定の腫瘍に対して行われる治療法です。腫瘍内に硬化剤を注入して血管を収縮させ、腫瘍のサイズを縮小させます。

 

硬化療法の特徴。

  • 外科的切除が難しい部位や、手術によるリスクが高い場合に選択される
  • 複数回の治療が必要になることがある
  • 完全な消失が難しい場合もある

治療法の選択は、腫瘍の種類、大きさ、発生部位、患者の年齢や全身状態などを考慮して決定されます。また、治療後の経過観察も重要で、特に再発リスクの高い腫瘍(エナメル上皮腫など)では長期間の経過観察が必要です。

 

北海道大学歯学部 - 顎骨良性腫瘍の治療法についての詳細情報

良性腫瘍の放置リスクと予防対策

口腔内の良性腫瘍は、悪性腫瘍と異なり生命を直接脅かすことは少ないですが、放置することでさまざまなリスクが生じる可能性があります。ここでは、良性腫瘍を放置するリスクと予防対策について解説します。

 

良性腫瘍を放置するリスク

  1. 腫瘍の増大
    • 良性腫瘍もゆっくりと成長し続けることがあります
    • 大きくなると周囲の組織を圧迫し、機能障害を引き起こす可能性があります
    • 特に顎骨内の腫瘍は、顎骨の膨隆や変形を引き起こすことがあります
  2. 機能障害の発生
    • 腫瘍が大きくなると、咀嚼、嚥下、発音などの口腔機能に支障をきたすことがあります
    • 特に舌や口蓋に発生した腫瘍は、これらの機能に大きな影響を与えます
  3. 歯の位置異常や萌出障害
    • 歯原性腫瘍は、永久歯の萌出を妨げたり、歯の位置異常を引き起こすことがあります
    • これにより、咬合不正や審美的問題が生じる可能性があります
  4. 感染リスクの増加
    • 腫瘍の表面が傷つくと、細菌感染を起こすリスクが高まります
    • 感染すると、痛みや腫れ、発熱などの症状が現れることがあります
  5. 治療の複雑化
    • 腫瘍が大きくなると、治療が複雑になり、より侵襲的な手術が必要になることがあります
    • これにより、術後の機能障害や審美的問題のリスクが高まります
  6. 悪性転化の可能性
    • 一部の良性腫瘍は、長期間放置すると悪性転化する可能性があります
    • ただし、多くの口腔内良性腫瘍では悪性転化はまれです

予防対策

  1. 定期的な歯科検診
    • 6ヶ月に1回程度の定期的な歯科検診を受けることで、早期発見・早期治療が可能になります
    • 歯科医師による口腔内の視診・触診は、腫瘍の早期発見に役立ちます
  2. 適切な口腔衛生管理
    • 歯磨きやフロスなどによる適切な口腔衛生管理は、口腔内の健康維持に重要です
    • 慢性的な刺激や炎症は、一部の良性腫瘍の発生リスクを高める可能性があります
  3. 口腔内の変化に注意
    • 口腔内のしこりや腫れ、痛みや違和感などの変化に気づいたら、早めに歯科医師に相談しましょう
    • 自己判断で放置せず、専門家の診断を受けることが重要です
  4. 適切な治療と経過観察
    • 良性腫瘍と診断された場合でも、適切な治療を受け、定期的な経過観察を続けることが重要です
    • 特に再発リスクの高い腫瘍では、長期間の経過観察が必要です
  5. 生活習慣の改善
    • 喫煙や過度の飲酒は、口腔内の健康に悪影響を与える可能性があります
    • バランスの取れた食事と適度な運動は、全身の健康維持に役立ちます

口腔内の良性腫瘍は、早期発見・早期治療が重要です。定期的な歯科検診を受け、口腔内の変化に注意することで、腫瘍を早期に発見し、適切な治療を受けることができます。また、良性腫瘍と診断された場合でも、定期的な経過観察を続けることが重要です。

 

医療法人社団 宝塚ライフ歯科 - 歯茎の良性腫瘍の放置リスクについての詳細情報

良性腫瘍と口腔がんの鑑別診断

口腔内に発生する腫瘤性病変は、良性腫瘍と悪性腫瘍(口腔がん)の両方の可能性があります。両者の鑑別は治療方針や予後に大きく影響するため、正確な診断が非常に重要です。ここでは、良性腫瘍と口腔がんの鑑別診断について解説します。

 

良性腫瘍と口腔がんの臨床的特徴の比較

特徴 良性腫瘍 口腔がん
成長速度 ゆっくり 比較的速い
境界 明瞭 不明瞭
表面性状 平滑なことが多い 不整、潰瘍形成あり
硬さ 弾性硬〜弾性軟 硬い(石様硬)
可動性 あり なし(固定性)
痛み 通常なし あることが多い
出血 まれ(血管腫を除く) しばしばあり
リンパ節腫脹 なし あることがある

鑑別診断の方法

  1. 問診
    • 腫瘤の発生時期や成長速度
    • 痛みや出血などの症状の有無
    • 喫煙や飲酒などの生活習慣
    • 既往歴や家族歴
  2. 視診・触診
    • 腫瘤の大きさ、形態、色調
    • 表面性状(平滑か不整か)
    • 硬さや可動性
    • 周囲組織との関係
    • 頸部リンパ節の触診
  3. 画像検査
    • X線検査:骨への影響を評価
    • CT検査:腫瘤の範囲や骨浸潤の有無を評価
    • MRI検査:軟組織の状態や周囲組織への浸潤を評価
    • 超音波検査:腫瘤の内部構造や血流を評価
  4. 生検(病理組織検査)
    • 確定診断のために最も重要な検査
    • 切除生検:小さな腫瘤を全て切除して検査
    • 切片生検:大きな腫瘤の一部を切除して検査
    • 細胞診:腫瘤の表面から細胞を採取して検査

良性腫瘍と口腔がんの関連性
一般的に、良性腫瘍が直接悪性転化することはまれですが、一部の良性腫瘍や前癌病変は、適切な治療を受けなかったり、慢性的な刺激を受け続けたりすると、悪性転化する可能性があります。

 

特に注意が必要な病変。

  • 白板症
  • 紅板症
  • 扁平苔癬
  • 慢性刺激による過形成

これらの病変は、定期的な経過観察が重要で、変化が見られた場合には速やかに生検を行うべきです。

 

早期発見・早期治療の重要性
口腔がんは、早期発見・早期治療により予後が大きく改善します。口腔内の変化に気づいたら、自己判断せずに歯科医師や口腔外科医に相談することが重要です。特に以下のような症状が2週間以上続く場合は、専門医の診察を受けるべきです。

 

  • 口腔内のしこりや腫れ
  • 治らない口内炎
  • 出血しやすい部位
  • 白色や赤色の斑点
  • 嚥下困難や発音障害
  • 頸部のしこり

口腔がんのリスク因子(喫煙、過度の飲酒、不適切な口腔衛生など)を避け、定期的な歯科検診を受けることが、口腔がんの予防と早期発見につながります。

 

良性腫瘍と口腔がんの鑑別は、時に難しい場合があります。確定診断には病理組織検査が必須であり、疑わしい病変に対しては積極的に生検を行うべきです。また、良性と診断された場合でも、定期的な経過観察を続けることが重要です。

 

医療法人社団 京都下鴨ライフ歯科 - 口腔の良性腫瘍と口腔がんの関連性についての詳細情報