メタルコアを選んでいると、歯が割れて抜歯になるリスクが約3倍高くなります。
根管治療(神経を取る治療)を終えた歯は、内側が空洞になっています。そのまま被せ物(クラウン)を装着しようとしても、支えとなる歯質が十分に残っていないことが多く、「土台(コア)」を築造して形を整える必要があります。この土台を作る処置を「支台築造」といい、レジンコアはその代表的な素材のひとつです。
レジンコアとは、コンポジットレジン(歯科用合成樹脂)を主材料として口腔内でダイレクトに成形する土台のことです。「レジン(resin)」は樹脂、「コア(core)」は核・中心を意味し、直訳すると「樹脂製の核」になります。保険適用が認められており、3割負担の場合の自己負担額はおよそ600円前後と、費用面での敷居が低い選択肢です。
つまり「保険で使える白い土台」がレジンコアの基本的な位置づけです。
歯科における支台築造全体を整理すると、素材の種類としては「メタルコア(金属)」「レジンコア(樹脂)」「ゴールドコア(金合金)」「ファイバーコア(ガラス繊維+レジン)」に分けられます。このうち保険適用されるのは、メタルコアとレジンコア、そして2024年現在では一定条件下でファイバーコア(スクリューポスト使用のものが対象)の一部も保険収載されています。
レジンコアは最も広く使われる保険コアのひとつですが、「強度さえあればよい」という理由だけで選ぶと後悔することがあります。次のセクションで分類の詳細を確認していきましょう。
レジンコアを正確に理解するには、いくつかの分類軸から整理するのが効果的です。大きく「①コア素材の分類」「②施術法(直接法・間接法)の分類」「③硬化方式の分類」という3つの軸があります。
① コア素材による分類
支台築造のコア材料を素材で整理すると、以下のようになります。
| 種類 | 主な材料 | 保険適用 | 弾性係数の目安 |
|------|----------|----------|----------------|
| メタルコア | 金銀パラジウム合金・銀合金 | ○ | 60〜200 GPa |
| レジンコア | コンポジットレジン(+スクリューポスト) | ○ | 5〜13 GPa |
| ファイバーコア | グラスファイバー+レジン | △(条件付き) | 10〜20 GPa |
| ゴールドコア | 金合金 | × | 80〜100 GPa |
象牙質の弾性係数は12〜19 GPaです。つまりレジンコアは象牙質に近い弾性係数を持ち、硬すぎないことが特徴です。これが原則です。
一方でメタルコアの弾性係数は最低でも60 GPa、高いものでは200 GPaにも達します。「硬さ=強さ」と思いがちですが、硬すぎる土台を柔らかい象牙質に埋め込むと、歯根に応力が集中して垂直破折(根が縦に割れる)を引き起こすリスクがあります。この状態になると高確率で抜歯を余儀なくされます。
② 施術法による分類:直接法と間接法
支台築造は「直接法」と「間接法」に分類されます。
直接法は、口腔内でその場でレジンを築盛・成形して土台を作る方法です。型取りが不要なため1回の来院で完結できるというメリットがあり、レジンコアは主にこの直接法で行われます。フィニッシュライン(クラウンとの境目)が歯肉縁より上にある症例に向いています。
間接法は、印象(型取り)を行い、技工士が模型上でコアを製作してから口腔内に装着する方法です。フィニッシュラインが歯肉縁下にある症例では、直接法だと滲出液の影響を受けて接着不良が起きやすいため、間接法が推奨されます。鋳造(メタルコア・ゴールドコア)はほぼすべて間接法で行われます。
③ 硬化方式による分類
レジンコア材料は硬化方式でも分類できます。「光重合型」「化学重合型」「デュアルキュア型(光+化学重合)」の3種類です。
根管内のような光が届きにくい深部では光重合だけでは硬化が不十分になるため、化学重合も同時に発生するデュアルキュア型が支台築造用に広く採用されています。これはきちんと知っておきたい知識です。
「どの症例にレジンコアを使うべきか」という判断において、残存歯質量の評価が最も重要な指標となります。鶴見大学の研究(Peroz Iらのガイドライン改変版)では、残存壁数を基準に5つのクラスに分けた指針が広く参照されています。
残存壁数の判定には「歯質の厚みが1mm以上、かつマージンラインから高さが2mm以上の壁がある」という条件が用いられます。この条件を満たす壁が4枚残存すればクラスⅠ、3枚ならクラスⅡ、2枚ならクラスⅢ、1枚ならクラスⅣ、0枚(残根状態)ならクラスⅤです。
この分類を踏まえた基本的な選択方針は次のとおりです。
- クラスⅠ(4壁)・クラスⅡ(3壁)・クラスⅢ(2壁):ポストなしのレジンコアで対応可能
- クラスⅣ(1壁)・クラスⅤ(0壁):ファイバーポストまたは金属ポストを根管内に設置し、レジンコアとの併用が必要
「残存壁が2枚以上ならレジンコアのみ」これだけ覚えておけばOKです。
レジンコアでポストを使う場合、金属スクリューポストとファイバーポストの2択になります。金属スクリューポストは保険適用ですが、根管を拡大する量が多くなりがちで、再根管治療の際に除去が難しくなるリスクがあります。ファイバーポストは弾性係数が象牙質に近く(10〜20 GPa)、歯根破折のリスクをさらに低減できます。
なお、残存歯質が十分にあってもフェルール(帯環効果)の確保が不十分な場合は予後に影響します。フェルールとは、クラウンが歯質の壁を包み込む部分のことで、マージンラインから2mm以上の健全歯質が全周にわたって残っているほど高い効果を発揮します。フェルールなしの状態でどんな素材を使っても長期的な安定は期待しにくく、素材の選択よりもこの歯質確保が根本的な優先事項です。
参考:鋳造支台築造・レジン支台築造の適応に関する学術情報(日本補綴歯科学会)
ファイバーポストを使用したレジン支台築造の臨床 ー残存歯質量・適応症・選択基準の詳細ー(日本補綴歯科学会)
コアの種類を選ぶ際に患者さんが最も気にするのは、「どれが一番長持ちするか」という点でしょう。ここでは3種類のコアを「弾性係数」と「歯根破折リスク」という観点から整理します。
メタルコアの特性と問題点
メタルコアは最も使用実績が長く、保険で提供しやすい素材です。しかし弾性係数が60〜200 GPaと象牙質(12〜19 GPa)の約3〜10倍以上に達します。硬すぎる芯を柔らかい根に埋め込む形になるため、噛む力が繰り返しかかると歯根に応力が集中します。
実験では、金属製ポストを用いた支台築造では破折様相Dと呼ばれる「縦割れ+横割れが混在する最も深刻な破折」が多く発生することが確認されています(鶴見大学・坪田先生らの研究)。この状態になると支台歯として使えず、抜歯になることがほとんどです。深刻ですね。
レジンコアの特性と利点
レジンコアは弾性係数が5〜13 GPaと象牙質に近いため、応力を自然な形で分散できます。仮に内部で問題が起きたとしても、破折線が歯槽骨縁より上側(クラウンマージン上)にとどまるケースが多く、「再利用可能な破折」で済む確率が高まります。
メタルコアに比べると強度は劣りますが、前歯や歯根が細い歯への適用では、この「しなやかさ」が長期安定に貢献します。これは使えそうです。
ファイバーコアとの違い
ファイバーコアはガラス繊維(グラスファイバー)をポストとして用い、レジンコアと組み合わせて使用します。弾性係数は10〜20 GPaでレジンコアに近く、審美性・金属アレルギーのリスク回避・再根管治療のしやすさで優れています。
ただし、歯科用ファイバーポストの材料費は1本あたり600〜800円以上かかり、技工士に間接法で製作依頼すると3,000円以上になるケースもあります。保険点数内での対応が難しく、多くのクリニックでは保険外(自費)として扱うことがあります。
レジンコアはファイバーコアより性能面でやや劣りますが、保険内での選択肢として十分な臨床実績があります。「コストを抑えつつ金属を使いたくない」という場合は、まずレジンコアの選択を検討する価値があります。
参考:コアの比較と弾性係数に関する詳細データ
保険適用の歯の土台、メタルコアとファイバーコア:支台築造の比較(ブランデンタル)
コアの選択に関する記事の多くは「素材の性能比較」で完結します。しかし実際の臨床では、素材よりも「誰が・どのように施術するか」という術者依存性のほうが予後に大きく影響するという側面があります。これは意外ですね。
レジンコアは直接法で口腔内に築盛するため、複数の手技上のリスクが存在します。
まず「気泡の混入」です。レジンをシリンジで注入する際に気泡が入ると、コア内部に空洞ができて機械的強度が著しく低下します。この気泡は完成後の外観からは確認できません。
次に「防湿の不徹底」です。レジン接着は水分と血液に弱いため、ラバーダムを使用した確実な防湿が必要です。防湿が不十分なまま接着操作を行うと、歯根との界面に微細な隙間が生じ、二次う蝕(治療した歯の再虫歯)や脱落の原因になります。
さらに「デュアルキュア型レジンの扱い」にも注意が必要です。光重合と化学重合を組み合わせたデュアルキュア型コアレジンは、光照射を行った部位と化学重合のみに依存した部位とで重合率が大きく異なります。根管内の深部は光が届かないため化学重合のみで硬化しますが、この部分の物性は光重合部より低くなる可能性があります。
これらのリスクをふまえると、レジンコアの予後を左右する要因は「素材の良し悪し」だけではありません。「ラバーダム使用の徹底」「気泡混入防止のためのシリンジ操作の丁寧さ」「光照射プロトコルの厳守」という手技の精度が、仕上がりの品質を大きく左右します。
治療を受ける側の視点では、歯科医師が「どのような手順で行うか」を事前に確認することが、コアの長期安定を得るための現実的なアプローチです。「保険か自費か」という素材の議論より先に、術者の手技に注目する必要があります。治療前に確認することが条件です。
参考:術式・接着プロトコルと支台築造の安定性についての学術資料
日常臨床に接着を活かす ー支台築造の接着を考えるー(デンタルプラザ)