下顎前歯のスコアを頬側で記録すると、OHI-S の値が実際より低く出て患者への指導が遅れます。
歯科情報
OHI-S(Oral Hygiene Index-Simplified)は、1964 年に Greene と Vermillion が提唱した口腔衛生指数の簡略版です。もともと同じ 2 人が 1960 年に発表した OHI(Oral Hygiene Index)は、上下顎の全 12 歯面を検査する指標でしたが、大規模な疫学調査や集団健診には時間がかかりすぎるという課題がありました。
そこで対象歯面を 12 から 6 に絞り込んで検査時間を約半分に短縮したのが OHI-S です。検査精度を保ちながら現場での運用負担を減らすという設計思想が、今日も歯科衛生士国家試験・歯科医師国家試験の頻出テーマとして根付いています。
OHI-S は「プラーク付着の割合」と「歯石沈着の割合」という 2 つの軸で口腔清掃状態を数値化します。この 2 つの情報を同時に把握できる点が、PCR(O'Leary のプラークコントロールレコード)などの指標とは異なる強みです。PCR はプラークの有無のみを記録するのに対して、OHI-S は付着量の程度まで段階的に評価できるため、患者の口腔衛生状態のレベルをより詳しく伝えられます。
現在も障害者歯科や介護施設での口腔健診、地域集団を対象とした歯科保健調査などで広く使われています。これは使えそうです。国際的な疫学データと比較しやすいという実務上のメリットも、現場で選ばれ続ける理由の一つです。
参考:OHI-S の概要と算出方法について(OralStudio 歯科辞書)
https://www.oralstudio.net/dictionary/detail/947
OHI-S の計算で最も混乱しやすいのが「どの歯の、どの面を評価するか」という点です。対象となる 6 歯面は以下のとおりに決まっています。
| 歯の部位 | 評価面 |
|---|---|
| 上顎右側第一大臼歯(⑥) | 頬側面 |
| 上顎右側中切歯(①) | 唇側面 |
| 上顎左側第一大臼歯(⑥) | 頬側面 |
| 下顎左側第一大臼歯(⑥) | 舌側面 ⚠️ |
| 下顎左側中切歯(①) | 唇側面 |
| 下顎右側第一大臼歯(⑥) | 舌側面 ⚠️ |
⚠️ マークを付けた下顎大臼歯の 舌側面 は、特に間違えやすいポイントです。上顎大臼歯が頬側であるのに対して、下顎大臼歯だけは舌側になります。これは歯石が最もたまりやすい部位を意図的に選んでいるためです。下顎前歯の舌側には唾液腺の開口部(舌下腺・顎下腺)があり、唾液のカルシウム・リン酸成分が石灰化して歯石が生じやすい環境にあります。
対象歯がない場合(抜歯・未萌出など)は、その歯面はスコアの計算から除外し、残りの歯面数で除します。これが原則です。ただし、乳歯列期・混合歯列期の子どもへの適用では、萌出途中の歯も含めて評価できるとされているため、対象者の年齢と歯列の状態を確認してから記録に入ることが重要です。
参考:OHI-S の被検歯と DI-S・CI-S の算出方法(1D ワンディー)
https://oned.jp/terminologies/VT6yMifrX8FfRzPCFaiV92XshHxN3lHv
OHI-S の計算は、まず DI-S(Simplified Debris Index)と CI-S(Simplified Calculus Index)を別々に算出するところから始まります。2 つをまとめて記録しようとするのは誤りです。それぞれの判定基準を正確に覚えることが、計算の精度を左右します。
DI-S(歯垢スコア)の判定基準
| スコア | 状態 |
|--------|------|
| 0 | プラークが認められない |
| 1 | 歯面の 1/3 以下にプラーク付着、または着色(範囲に関係なく) |
| 2 | 歯面の 1/3 を超え 2/3 以下にプラーク付着 |
| 3 | 歯面の 2/3 を超えてプラーク付着 |
CI-S(歯石スコア)の判定基準
| スコア | 状態 |
|--------|------|
| 0 | 歯石が認められない |
| 1 | 歯肉縁上歯石が歯面の 1/3 以下に沈着 |
| 2 | 縁上歯石が歯面の 1/3 〜 2/3、または点状の縁下歯石あり |
| 3 | 縁上歯石が歯面の 2/3 以上、または帯状の縁下歯石あり |
DI-S スコア「1」の条件に「着色(ステイン)が範囲に関係なく付着している場合」が含まれている点は見落とされがちです。歯面の 1/3 未満でも着色があれば 1 点を付けます。また CI-S スコア「2」と「3」の境目として、縁下歯石が「点状(散在)」か「帯状(連続)」かで分けることも、覚えておくべき分岐点です。
各歯面のスコアが決まったら、DI-S = 6 歯面のスコア合計 ÷ 6、CI-S = 6 歯面のスコア合計 ÷ 6 の式でそれぞれ算出します。小数第2位を四捨五入して小数第1位で表すのが一般的です。最後に、OHI-S = DI-S + CI-S で最終値を求めます。
$$\text{OHI-S} = \text{DI-S} + \text{CI-S} = \frac{\sum \text{DI スコア}}{6} + \frac{\sum \text{CI スコア}}{6}$$
DI-S と CI-S それぞれの最大値は 3 なので、OHI-S の最大値は 6 です。OHI(簡略化前の指標)の最大値が 12 であることと混同しないよう注意が必要です。
参考:OHI・OHI-S の判定基準と計算方法(国立みんなの歯医者ブログ)
https://kunitachi-dental.jp/blog/5081/
実際の計算の流れを具体的な数値例で確認しましょう。国家試験でも数値を変えた類似問題が繰り返し出題されているため、手順を体に染み込ませることが大切です。
〔例〕6 歯面のスコアが次の場合
| 歯面 | DI スコア | CI スコア |
|------|-----------|-----------|
| 上顎右側⑥ 頬側 | 2 | 1 |
| 上顎右側① 唇側 | 1 | 0 |
| 上顎左側⑥ 頬側 | 3 | 2 |
| 下顎左側⑥ 舌側 | 2 | 1 |
| 下顎左側① 唇側 | 1 | 0 |
| 下顎右側⑥ 舌側 | 3 | 2 |
| 合計 | 12 | 6 |
$$\text{DI-S} = \frac{12}{6} = 2.0$$
$$\text{CI-S} = \frac{6}{6} = 1.0$$
$$\text{OHI-S} = 2.0 + 1.0 = 3.0$$
この例では OHI-S = 3.0 となり、口腔清掃状態は「不良」の領域に入ります。
国家試験で出題された実例(第 26 回歯科衛生士国家試験)でも、DI の合計が 15、CI の合計が 6 という数値から DI ÷ 6 = 2.5、CI ÷ 6 = 1.0、OHI-S = 3.5 という正解が導かれています。公式自体はシンプルですが、手順を飛ばすと計算ミスが起きやすい構造です。「DI-S と CI-S を必ず別々に計算してから足す」という手順が条件です。
一点注意すべきことがあります。OHI-S は各歯面を「1 歯面につき 1 スコア」として評価するため、OHI のように「ブロックの代表値を選ぶ」ステップはありません。OHI と OHI-S を混同して、代表値の考え方を OHI-S にも適用してしまうと誤った数値が出ます。これは別々の指標だと割り切って覚えると整理しやすいです。
OHI-S の数値が算出できたら、次はその値を解釈する段階です。明確な国際統一基準があるわけではありませんが、一般的に次のような評価のめやすが使われています。
| OHI-S の値 | 口腔衛生状態の評価 |
|------------|-------------------|
| 0.0 〜 1.2 | 良好(Good) |
| 1.3 〜 3.0 | 普通(Fair) |
| 3.1 〜 6.0 | 不良(Poor) |
OHI-S が 1.2 を超えると口腔衛生指導の強化が必要な目安になります。この閾値は、歯科衛生士が患者への介入レベルを決める際の一つの判断材料として覚えておくと便利です。
PHP との使い分けについて
似た指標として PHP(Patient Hygiene Performance Index)もよく比較されます。PHP も OHI-S と同じ 6 歯面を評価しますが、各歯面を近心・中央・遠心・歯肉縁側・切端(または咬合面側)の 5 分割で評価するため、プラークの付着部位をより細かく把握できます。
- OHI-S:大規模集団への適用、疫学調査、国試頻出の計算問題に向く
- PHP:個別の患者へのブラッシング指導、部位別の磨き残しの可視化に向く
臨床では、初診時の口腔衛生状態の把握に OHI-S を使い、ブラッシング指導の効果確認には PHP を活用するという流れが合理的です。どちらが優れているかではなく、目的に応じた使い分けが重要です。
また、厚生労働省が公表している職域歯科保健推進の手引きでは、日本人成人の DI-S 平均が約 0.66、CI-S 平均が約 0.23 という実際の統計データが示されています(8020 推進財団)。この数値はスタッフ間での指導基準のすり合わせや、患者への説明時に「平均値と比べてどの位置にいるか」を伝える文脈でも参考になります。
参考:職域等で活用するための歯科口腔保健推進の手引き(8020 推進財団)
https://www.8020zaidan.or.jp/databank/doc/syokugyo.pdf
「OHI」と「OHI-S」は名称が似ているため、両者の仕様を混同して国試の計算問題で失点するケースが少なくありません。ここで両者の違いを整理しておくと得点につながります。
| 項目 | OHI | OHI-S |
|------|-----|-------|
| 発表年 | 1960 年 | 1964 年 |
| 提唱者 | Greene & Vermillion | 同上(簡略化版) |
| 対象歯面数 | 12 歯面 | 6 歯面 |
| DI・CI の最大値 | 各 6 | 各 3 |
| OHI(-S)の最大値 | 12 | 6 |
| スコアの選び方 | ブロックの代表値(最高値)を採用 | 各歯面を個別にスコア化 |
OHI の最大値は 12 で、OHI-S の最大値は 6 です。これが混乱の元です。OHI では上下顎を各 3 ブロックに分け、各ブロックの唇・頬側と舌・口蓋側の「最高値を代表値として採用」する手順があります。一方の OHI-S では限定された 6 歯面を一面ずつ個別にスコア化します。この「代表値を選ぶかどうか」が構造上の大きな違いです。
また OHI-S は小規模な臨床の現場でも計測できるよう設計されており、光源がなくても視診による確認が可能な 6 部位に絞られています。これが疫学調査から個別の患者管理まで幅広く使われる実用的な理由です。
日本歯科医学会の国際保健用語集でも OHI と OHI-S の定義が明確に区別されており、対象歯の指定方法が異なる点が注意事項として記載されています。
参考:国際保健用語集(日本渡航医学会)OHI・OHI-S の定義
https://jagh.or.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/33/d5a119f05682d2105ee7dc7961a3c483