根管形態の分類と歯種別の特徴を臨床で活かす方法

根管形態の分類(Vertucci分類など)を正しく理解していますか?歯種ごとの根管数や樋状根・MB2などの複雑形態を知ることが、根管治療の精度と成功率に直結します。あなたの臨床に役立つポイントとは?

根管形態の分類と歯種別の特徴を正しく把握できていますか

上顎6番(第一大臼歯)の根管治療を「3根管で完了」と判断すると、9割近くのケースで見落としが起きる可能性があります。


🦷 この記事でわかること:根管形態と分類の要点3つ
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Vertucci分類の8パターンとは

1984年に2,400本の永久歯を解析して確立された根管形態の基本分類。Type I〜VIIIまでの構造的特徴を押さえることが、見落とし防止の第一歩です。

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歯種別の根管数と形態の傾向

上顎前歯・小臼歯・大臼歯それぞれに固有のリスク部位があります。特にMB2根管や樋状根など、見逃しやすい形態を歯種ごとに整理します。

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複雑形態への臨床対応のポイント

C字状根管・イスムス・フィンなど、器具が届きにくい部位の清掃戦略と、CBCTやマイクロスコープを活用した診断精度向上のヒントを紹介します。


根管形態の分類の基本:Vertucci分類8タイプを理解する


根管形態を語るうえで最も参照されるのが、1984年にFrank J. Vertucciが発表した分類体系です。外科的な理由で抜去された2,400本のヒト永久歯を実際に透明化・染色して観察し、根管の入口・中間部・根尖部の3点に基づいて8つのタイプに分けたものです。


根尖側の出口が1本に収束するタイプをType I〜III、2本に分岐するタイプをType IV〜VII、3本あるものをType VIIIとして整理しています。つまり「入口の数」と「出口の数」の組み合わせがカギです。


タイプ 入口(根管口 根尖(出口) 概要
Type I 1 1 1根管口→1根尖。最もシンプルな一本道。
Type II 2 1 2根管口→途中で合流→1根尖。
Type III 1 1 1根管口→途中で分岐→再合流→1根尖。
Type IV 2 2 2根管口→それぞれ独立→2根尖。
Type V 1 2 1根管口→根尖手前で分岐→2根尖。
Type VI 2 2 2根管口→一度合流→再び2根尖に分岐。
Type VII 1 2 分岐→合流→再分岐。最も複雑なパターン。
Type VIII 3 3 3根管口→それぞれ独立→3根尖。


重要なのは、入口と出口が一致しないケースが多いという事実です。Type IIやType Vのように、根管口が2本あっても根尖は1本、あるいはその逆もあり得ます。根管口を確認しただけで「根管の全容を把握した」と判断するのは危険です。


また、この分類はあくまで「基本骨格」にすぎません。実際の歯では分類の枠に収まらない複合形態も多く、Vertucci分類をベースに理解を積み上げていく姿勢が重要です。Vertucci分類が基本です。


参考:根管形態の分類の原点となるVertucci分類の詳細な定義はこちら
クインテッセンス出版|Vertucci分類 キーワード解説


根管形態の分類を歯種別に整理する:上顎前歯・小臼歯・大臼歯

Vertucci分類の8タイプを頭に入れたら、次は「各歯種でどのタイプが多いか」を実臨床に紐づけて理解することが大切です。歯種ごとの統計的傾向を知ることで、治療前の想定精度が格段に上がります。


上顎前歯:上顎中切歯・側切歯・犬歯はいずれも単根・単根管(Type I)が基本です。ただし側切歯では約10〜20%で2根管が報告されており、根尖付近での分岐に注意が必要です。「前歯だから1本道」という思い込みは禁物です。


上顎小臼歯:上顎第一小臼歯は約85%が単根ですが、単根歯の約80%に2根管が存在します(Type IVやType IIが多い)。つまり2根管が「当たり前の歯種」です。上顎第二小臼歯でも約50%が2根管とされています。


上顎大臼歯:3根(近心頬側根・遠心頬側根・口蓋根)が基本ですが、最も臨床的に問題になるのが近心頬側根のMB2根管です。詳細は次のセクションで掘り下げます。


下顎前歯:下顎中切歯・側切歯は1根・1根管が多数派に見えますが、実は約40%で2根管が存在するとされています。細くて楕円形の根管はType III(入口1つ・途中分岐・再合流・1根尖)が多く、単純なファイリングだけでは見逃す可能性があります。


下顎小臼歯:下顎第一小臼歯は75%が1根管、25%が2根管です。下顎第二小臼歯はほとんどが単根管ですが、稀に2根管例が報告されています。


下顎大臼歯:2根(近心根・遠心根)が基本で、近心根の約70%に2根管があります。また下顎第二大臼歯では約30%に「樋状根(C字状根管)」が見られ、アジア系患者を対応する日本の臨床では特に注意が必要な歯種です。


歯種別の根管数の傾向を整理するには以下の辞書が参考になります。


OralStudio歯科辞書|根形態と根管数(歯種別まとめ)


根管形態の分類で見落とされやすいMB2根管の実態

上顎第一大臼歯の根管治療で、「MB(近心頬側根)・DB(遠心頬側根)・P(口蓋根)の3根管で完了」とするのは、統計的にはかなり危険な判断です。これが冒頭で示した驚きの事実の正体です。


上顎第一大臼歯(いわゆる6番)のMB2根管の発現率は、文献によって幅がありますが70〜90%程度と報告されています。某報告では第一大臼歯で約80〜90%、第二大臼歯でも約60%という数値が示されています。つまり、上顎6番に限れば、10人に9人近くにMB2が存在する計算になります。


MB2根管は非常に細く(60〜80μm前後)、MB1根管口のやや口蓋側に隠れていることが多いため、肉眼では確認が困難です。マイクロスコープや拡大鏡なしに発見しようとすると、見落とすリスクが大幅に上がります。


見落としが続くと何が起きるか。MB2内に残った感染組織が継続的に細菌の温床となり、根尖病変の再発や治療の長期化、最悪の場合は抜歯につながります。日本での根管治療の再発率(再治療率)は45〜70%と報告されており、MB2の見落としはその重大な原因の一つとされています。


MB2根管を探索するには以下の対応が有効です。


  • 🔬 マイクロスコープ・拡大鏡の使用:MB1根管口から口蓋側2〜3mmの位置を細心の注意でチェックする。
  • 📷 術前CBCT撮影:MB根の走行を3次元的に把握することで、根管口の位置や分岐形態を事前に確認できる。
  • 🧪 歯髄染色液の活用:MB根管口周囲に染色液を垂らし、根管口の位置を視覚的に確認する方法。


MB2は必須の確認項目です。


参考:MB2探索に役立つ根管形成の実践的アプローチを紹介しています。


福岡エンドドンティクス|根管形成のコツ:MB2の存在と探索方法


根管形態の分類から見る樋状根(C字状根管)の臨床的難しさ

日本の歯科臨床で特に無視できないのが、下顎第二大臼歯(7番)の「樋状根」です。英語ではC-shaped canal(C字状根管)と呼ばれ、1979年に初めて論文で命名されました。横断面で見るとアルファベットの「C」に見えることからこの名称がつけられています。樋状根が基本です。


欧米人では発現率が数%にとどまりますが、アジア系(モンゴロイド)では下顎第二大臼歯の30〜40%という高頻度で見られます。日本人を対象にした複数の研究でも28〜32%程度のデータが報告されており、「3本に1本」というのはオーバーではありません。


通常の奥歯(大臼歯)は2〜3本の根が独立していますが、樋状根では複数の根がU字型に癒合し、根管同士が細い溝(イスムス)や薄い膜状の突起(フィン)でつながった複雑な内部構造を持ちます。この形態だと通常の回転式NiTiファイルだけでは、溝の奥や突起の裏まで清掃が届きません。


その場で症状が改善されても、清掃できなかったフィン・イスムス部に細菌が残存していると、数年後に感染が再燃するケースがあります。「一度治療したのに再発した」という状況の背景に、樋状根の未対応が潜んでいることは少なくありません。


樋状根への対応で重要なポイントをまとめると次の通りです。


  • 🖥️ 術前CBCT:横断面画像でC字形態を確認し、イスムスの幅や走行を事前に把握する。
  • 🔬 マイクロスコープ必須:一番奥の歯(下顎7番)は視野確保が最も難しい部位。拡大視野なしにC字状根管を処理することは現実的に困難。
  • 💧 豊富な洗浄液使用:次亜塩素酸ナトリウム溶液などによる化学的洗浄を積極的に活用し、器具が届かない部分の有機物溶解を図る。
  • 🔄 専門医への紹介検討:通常の根管治療では対処困難と判断した場合は、歯内療法専門医へのコンサルテーションが患者にとって最善の選択になることも多い。


意外ですね。通法のみで対応しようとすると、清掃不足のリスクが高まります。


参考:樋状根の分類と発現率に関する詳細な学術資料
愛知学院大学|樋状根・樋状根管の分類と発現率に関する資料(PDF)


根管形態の分類では語れない副根管系(イスムス・フィン・側枝)の見方

Vertucci分類は「主根管の走行パターン」を整理する上で非常に有用ですが、臨床では主根管以外の微細な根管系の存在も無視できません。これが「Vertucci分類を完璧に覚えても、まだ見落としが起きる」という現実の背景です。


主根管系とは別に、根管内には以下のような副根管系が存在します。


  • 🔗 イスムス(Isthmus):2本の根管が薄い帯状の通路で連結している部分。下顎大臼歯の近心根や上顎大臼歯のMB根に多い。「2本の根管の橋渡し」のようなイメージで、器具が入らない細長いスペースです。
  • 🪶 フィン(Fin):主根管から側方に伸びる薄い突起。断面で見ると「魚のひれ」のように見えます。主根管の清掃はできていても、フィン部分に感染が残存するケースがあります。
  • 🌿 側枝(Lateral canal):歯根の中央部や根尖部から、外側に向かって枝分かれする細い管。歯周組織と歯髄をつなぐルートにもなり、歯周疾患と根尖病変が複合的に関係する「エンドペリオ病変」の発端になることもあります。


根管形成時に機械的な清掃が可能な範囲は、根管系全体の60〜80%程度にとどまるとされています(日本歯科保存学会講演資料より)。残り20〜40%は化学的洗浄(次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒液)に頼るしかない状況です。これは使えそうです。


つまり、根管治療は「掃除機で吸う」だけでは終わらない、「洗浄液で洗い流す」プロセスが不可欠なのです。この認識を持つことが、Vertucci分類を暗記するのと同じくらい、あるいはそれ以上に実臨床で役立ちます。


副根管系の清掃精度向上のために意識したい点は下記の通りです。


  • 📐 根管形成時に根管のテーパーを適切に確保し、洗浄液が根尖近くまで届く空間を作る。
  • 💊 次亜塩素酸ナトリウム溶液を温めて(40〜60℃程度)使用すると有機物溶解能が高まるという報告がある。
  • 🔊 超音波洗浄(パッシブウルトラソニックイリゲーション)を活用することで、イスムスやフィン内の洗浄液の流動性が大幅に向上する。


副根管系の管理が根管治療の成否を左右するといっても過言ではありません。


参考:イスムス・フィン・側枝を含む根管系の構造と清掃法の解説
シーエン|写真とエビデンスで学ぶ根管解剖(書籍サンプル)


根管形態の分類を臨床で活かすCBCT活用と独自の術前評価視点

Vertucci分類や歯種別の統計データを知識として持っていても、目の前の患者の根管形態が教科書通りとは限りません。「大多数はこうだから、この患者もそうだろう」という推測が、見落としや治療の失敗を招くことがあります。これが、根管形態の分類を単なる「丸暗記の試験知識」ではなく「臨床判断のフレームワーク」として使う必要がある理由です。


現在の歯科臨床において、根管形態の3次元的把握に最も有効なツールがCBCT(歯科用コーンビームCT)です。従来の2次元デンタルX線では確認できなかった、根管の分岐位置・走行方向・イスムスの幅・樋状根の形態などを事前に把握することが可能になります。


CBCTで確認できる主な項目を整理すると次の通りです。


  • 🦷 根管数と分岐位置の確認:MB2の有無・位置・走行。樋状根の有無と形態(C1〜C5など)。
  • 📏 根管の彎曲度:直線的か、S字彎曲があるか。Schneider法で彎曲角度を測定することも可能。
  • 🔬 根尖部形態の確認:根尖分岐・デルタ根尖・根尖孔の位置と径。
  • 🏥 根尖病変の3次元的評価:病変の広がり・骨吸収の範囲・隣接歯への波及。


一方で、CBCTには被曝の問題もあります。必要性と被曝リスクのバランスを考慮した上で、複雑形態が疑われるケースや再根管治療例に対して適切に活用することが重要です。


また、CBCTだけに頼るのでなく、「術前触診・X線2方向撮影・根管口の視覚的探索・術中CBCT追加」というように段階的なアプローチで根管形態を立体的に構築していく習慣も非常に有効です。根管口探索の精度向上のために、三次元的なイメージを持った上でマイクロスコープの下で作業することが、MB2発見率の向上に直結するという報告もあります。


根管形態への理解が深まるほど、治療計画の立案精度・患者への説明の質・再発リスクの低減、いずれも向上します。分類は「知識のゴール」ではなく「臨床の出発点」です。


参考:CBCTが根管治療の診断精度に与える影響を専門的に解説しています。


デンタルプラザ|歯内療法におけるCBCT(3DX)の有効性(モリタ)




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