穿通できないケースの1/3は根管口の明示不足が原因で、掘り進むより先に「入り口を整える」のが正解です。
根尖孔の穿通(せんつう)とは、根管内に閉塞物がない状態でファイルが解剖学的根尖孔まで到達している状態を指します。クインテッセンス出版のキーワード解説によれば、「ファイル先端が根管壁に障害なく到達している」という感覚で確認するものとされており、単にファイルを深く刺せばよいというわけではありません。
穿通はその後のグライドパス形成と密接に関連しています。グライドパスとは、根管口から根尖孔までファイルや薬剤がスムーズに到達できる通路のことです。穿通によってこの通路が確保されてはじめて、ニッケルチタン(NiTi)ロータリーファイルを安全に挿入できます。
根管治療の手順としては一般的に以下の流れになります。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 根管口の明示・上部拡大 | 髄室底を清掃し根管口を視認できる状態にする |
| ② 穿通(ネゴシエーション) | #8~#10のKファイルで根尖孔まで通路を確保 |
| ③ グライドパス形成 | #10→#15で通路を整え、NiTiファイルの挿入路を作る |
| ④ 根管形成(シェイピング) | NiTiロータリーで根管を適切な形態に拡大清掃 |
| ⑤ 根管洗浄・貼薬 | 次亜塩素酸ナトリウム+EDTAで感染除去 |
| ⑥ 根管充填 | ガッタパーチャ等で緊密に封鎖 |
穿通が先に行われることで作業長(根管長測定の基準点)を正確に決定できます。つまり根尖孔が確認できなければ、その後の清掃・充填がどこまで及んでいるかわからないまま治療が進む、ということです。
根管治療の成否を左右する大事な基礎工事です。
クインテッセンス出版:「穿通」キーワード解説 — 解剖学的根尖孔とファイル到達の定義を確認できます
石灰化根管や湾曲根管への穿通は、根管治療のなかでも特に難易度が高い操作です。これを誤ると、ファイルが本来の根管を外れてパーフォレーション(根管壁の穿孔)を引き起こすリスクがあります。パーフォレーションの発生率は複数の研究をまとめると0.7〜10%と報告されており、発生した場合には治癒率が大きく低下します。
具体的な穿通の手順として、デンタルダイヤモンド(長崎大学・石崎秀隆先生の解説)では以下の方法が紹介されています。
この際に重要なのが、クラウンダウン法の原則を守ることです。根管の上部(根管口側)から順番に整えながら根尖方向へ進む方法で、根尖付近だけをいきなり拡大しようとするステップアップ法より、デブリが根尖外へ押し出されるリスクが低くなります。
石灰化が強い症例では、EDTAを含む潤滑剤(代表的なものにファイリーズなど)の活用が有効です。EDTAは根管壁のスメア層を除去し、石灰化物を軟化させる効果があります。宮崎歯科医院の解説では「EDTAは1分で最大効果を発揮し、それ以上貼薬しても根管壁が溶け続けることはない」と示されています。ファイリーズを挿入→1分待機→時計逆回りのファイリングを5回繰り返しても開かない場合は、その日は終了し次回に持ち越す判断が現実的です。
根管口をしっかり整えるのが基本です。
デンタルダイヤモンド:石灰化根管や湾曲根管を穿通・根管形成するポイント(Q&A)— #8/#10ファイルの交互使用法が解説されています
「穿通」と混同されやすい概念にアピカルパテンシー(Apical Patency)があります。これは穿通とは少し異なる操作で、すでに根尖孔まで到達できている根管において、#6〜#10程度の細いKファイルを根尖孔から意図的に1mm程度突き出す行為を指します。全米の大学院の約50%で必須手技として教えられており、根管の先端付近に蓄積したデンティンプラグ(象牙質の削り滓)を除去することが目的です。
福岡エンドドンティクス(まつうら歯科医院)によるアピカルパテンシーの文献分析では、以下の点が明らかにされています。
つまり、失活歯の感染根管治療では根尖部洗浄効率を上げる意味でアピカルパテンシーは有用ですが、生活歯髄の抜髄では慎重に判断すべきということです。使用するファイルのサイズを#8〜#10に限定し、根管に次亜塩素酸ナトリウムを満たした状態で行えば細菌の根尖外溢出リスクは低いとされています。
サイズの選択が条件です。
まつうら歯科医院 歯内療法専門室:アピカルパテンシーの論文分析まとめ — 各研究の結果が詳細に整理されています
「どうしても穿通できない根管はどうすべきか?」という問いは、多くの歯科医師が現場で直面する現実的な課題です。ここで重要なのは、「穿通=根管治療の目的」ではないという視点です。
宮崎歯科医院の解説でも明確に述べられていますが、根管治療の目的はあくまで根管内の感染除去であり、根尖孔まで到達することはその手段のひとつです。穿通できなくても、根管上部の感染さえ除去できれば症状が改善し、根尖病変の形成に至らないケースは少なくありません。
穿通できないケースの主な原因と対処法を以下にまとめます。
Gorni(2004)の再根管治療成功率に関する研究によれば、穿通できなかった「アピカルストップ症例」でも成功率は76%という結果が出ています。穿通にこだわってパーフォレーションを引き起こすと、トランスポーテーション症例の成功率は35.6%、根尖形態が破壊されたパーフォレーション症例では成功率がさらに低下します。
「穿通にこだわって根管壁に穴を開けることの方がよほど予後に悪影響をもたらす」——この視点は、特に困難症例に対峙したときの判断軸として持っておくべきです。
根尖に届かなくても治る症例はあります。
ほうじょう歯科医院(新日本橋):穿通は必要か?— ルンド大学の調査データと穿通できないケースの実例が紹介されています
宮崎歯科医院:穿通しない根管・石灰化への対応法 — 穿通しないケースの4つの原因と具体的なEDTA活用手順が記されています
根管治療の現場では「電気的根管長測定器(アペックスロケーター)が反応したから根尖まで届いた」と判断しがちですが、これは正確ではありません。アペックスロケーターは根管内の電気抵抗を測定して根尖孔付近の位置を推定するものであり、根管が石灰化や鋭角な湾曲によって閉塞している場合は、ファイルが実際の解剖学的根尖孔に達していないのに「Apex」と表示することがあります。
科研費プロジェクト(KAKENHI-PROJECT-13771126)の研究では、電気的根管長測定器を用いて根尖部形態の診断精度を検討した結果、「根管の湾曲や狭窄が穿通を妨げる主因」であり、測定器単独での確認には限界があることが示唆されています。
臨床で意識すべきポイントは以下の通りです。
もう一点、あまり語られない視点として、根管口付近の形成不足が穿通失敗の最大原因だという事実があります。ほうじょう歯科医院の臨床報告では、「穿通できないケースの約1/3は根管口の明示がうまくできていないだけ」とされており、根管の奥を無理に掘り進む前に根管口を整えるアプローチで容易に穿通できたケースが多数報告されています。
これは使えそうです。
この観点から、穿通に苦労した際は「もっと掘る」ではなく「一歩手前を整える」という判断が、パーフォレーションなどのトラブルを未然に防ぐ最も現実的な対策といえます。根管口の拡大・上部1/3のストレート化をあらためて見直すことで、従来困難だった症例にも道が開けることがあります。
国立研究開発法人科学技術振興機構(KAKEN):穿通しない根管の形態と対応法 — 電気的根管長測定器を用いた根尖部形態診断の研究内容が確認できます