側枝が確認されなかった歯でも、マイクロCTで調べると85%に側枝が存在します。
根管系は、主根管だけで構成されているわけではありません。主根管から分岐して側方に走行し、歯根の側面に開口する副根管を「側枝」と呼びます。クインテッセンス出版の定義によれば、副根管はさらに「根管側枝」「根尖分岐」「髄管」などに分類されます。根管側枝はさらに「管外側枝」と「管間側枝」に細分されており、前者は根管から直角または斜走して歯根表面に向かい、後者は頬舌的分岐根管において2本の根管を連結する構造です。
つまり根管系全体は、主根管を幹とした複雑な樹形図のような構造です。
歯が発生する過程では、歯冠から歯根に向かって順に形成が進みます。その過程で血管の一部が象牙質に取り込まれた状態で固定されてしまったものが側枝の起源とされています。そのため側枝は形成上の必然的産物であり、すべての歯に多かれ少なかれ存在すると考えるべきです。
側枝が存在するということは、歯髄組織がその細管内にも分布しているということを意味します。健康な歯の場合は特に問題になりませんが、歯髄が細菌感染や壊死に陥った場合、側枝は歯根の側面に向かう感染の経路となります。これが根管治療を複雑にする本質的な理由のひとつです。
クインテッセンス出版による副根管・根管側枝の分類定義が確認できる参考リンクです。
副根管の分類(根管側枝・根尖分岐・髄管)|クインテッセンス出版 キーワード検索
根管充填後のX線写真を評価した研究では、側枝が確認されたのはわずか3.06%にとどまります。しかし、マイクロCT(微小コンピュータ断層撮影)を用いた研究では全く異なる数値が報告されています。
| 歯種 | マイクロCTによる側枝確認率 |
|---|---|
| 下顎第一小臼歯 | 85% |
| 下顎第一大臼歯 | 84% |
| 上顎第一小臼歯 | 52% |
| 上顎第二小臼歯 | 48% |
この数字は衝撃的です。
X線での確認率が3%台であることと比較すると、実際の側枝存在率との乖離がいかに大きいかが分かります。解像度の限界から通常のX線では側枝はほぼ映りません。マイクロCTでようやく可視化できる構造であり、臨床の現場では「見えないけれど確実に存在する構造として対処する」という発想の転換が不可欠です。
特に下顎小臼歯は側枝の発生頻度が非常に高く、はがきの横幅(約10cm)ほどの歯根に対して、85本中85本に近い割合で側枝が存在するイメージです。上下顎を問わず前歯から臼歯まで広く分布していることも、この問題を根管治療全般に関わる普遍的な課題にしています。
側枝の発生部位には傾向があります。根尖側1/3と根分岐部に最も多く見られ、特に歯頸部寄りの側枝は歯周組織との連絡が生じやすいため、歯内歯周病変の鑑別において重要な意味を持ちます。
J-STAGEに掲載された日本歯科保存学会の論文で、側枝の頻度・部位・対応が詳細に解説されています。
側枝への感染が起こると、根管治療の難易度は大きく跳ね上がります。臨床上で特に問題になるのは、次の3つです。
まず、鑑別診断の複雑化です。側枝から感染が広がると、歯根側面に病変が形成されます。このX線像は歯根の穿孔、歯根破折、辺縁性歯周炎、あるいは側方性歯周囊胞と酷似するため、正確な診断が求められます。特に、根の横方向に黒い影が現れた場合、側枝由来の病変を鑑別リストの上位に置く習慣が重要です。
次に、歯内歯周病変との関連です。歯周炎の進行によって深い歯周ポケットが形成されると、歯根面の細菌は象牙細管・髄管・副根管・根尖孔を通じて歯髄に波及する可能性があります。厚生労働省研究班が刊行した歯周歯内病変に関する資料においても、副根管は「根尖部(根尖から2〜3mm)で非常に多い」とされており、歯周ポケットが深くなるほど歯内病変との合併リスクが高まると指摘されています。歯内歯周病変の鑑別は、治療の方向性そのものを左右します。
そして、再治療時の感染源としての側枝です。主根管を十分に機械的・化学的清掃したにもかかわらず症状が持続する場合、側枝内に感染が残存している可能性があります。根管治療の再治療を行う際には、側枝の存在を念頭に置いた診査・診断が不可欠です。再治療の成功率が初回治療より低くなる傾向があることを考えると、初回治療の精度がいかに重要かがわかります。
歯内歯周病変の判定を誤ると、治療方針が根本から変わります。
歯周歯内病変の発症メカニズムと副根管の関与について、根拠ある資料で確認できます。
側枝はファイルによる機械的拡大形成が届かない構造です。そのため、側枝の清掃は化学的洗浄に依存します。これが原則です。
主に使用される洗浄液は次亜塩素酸ナトリウム(NaOCl)とEDTAの2種類です。NaOClは有機質溶解・殺菌作用を持ち、歯髄残渣や細菌を溶かす役割を担います。EDTAはスメア層(器械的清掃で生じた象牙質の削りカス)を除去することで、象牙細管や側枝の開口部を露出させ、後続の薬剤浸透を助けます。
J-STAGEの論文では、17% EDTAで60秒間の超音波洗浄を実施することで、根中部の側枝へのシーラー浸透が改善されたことが報告されています。超音波による洗浄液の攪拌(UAI:Ultrasonically Activated Irrigation)は、静的に注入するだけの洗浄法よりも側枝への到達率が高まります。これは使えそうです。
ただし、超音波洗浄法・音波洗浄法では洗浄針の挿入深度が洗浄効果に直結するという点に注意が必要です。また、根管内陰圧洗浄法は作業長まで洗浄液を届かせることに優れる一方で、側枝への洗浄効果はやや劣るとされています。目的に応じた洗浄法の組み合わせが現実的な対応です。
根管充填法の選択も側枝への対応に影響を与えます。垂直加圧充填法(熱可塑性ガッタパーチャ使用)は、側方加圧充填法よりもガッタパーチャによる側枝充填に優れるとされています。ただし、側方加圧充填法の場合でも側枝はシーラーによって充填されるため、どちらが絶対的に優れているとは言い切れません。結論としては、根管充填法の優劣よりも、「充填前の化学的洗浄をいかに徹底するか」が予後を決定づける最も重要な因子です。
超音波化学的洗浄(UAI)が副根管・側枝の封鎖性改善に与える効果についての解説ページです。
超音波化学的洗浄×無菌化根管治療「再発しにくい」治療の鍵|SpecialtyQuestブログ
側枝に対して直接的な清掃・充填が困難である以上、予後において最も重要なのは主根管の徹底的な処置です。この点は、現場の臨床家にとって大きな希望にもなります。
実際の症例報告として、根管充填後もX線上で側枝部分に黒い影(病変)が確認されていた歯が、主根管をMTAセメントで根管充填した後、側枝には何も触れていないにもかかわらず11ヶ月後に側枝由来の病変が消失したことが報告されています。これは「主根管をしっかり治療することで、側枝の先の病変は自然治癒し得る」という事実を示しています。
主根管を徹底清掃することが基本です。
この考え方の根拠は、側枝内の細菌が生存し続けるためには感染源(主根管内の壊死組織や細菌の溜まり場)が必要であることにあります。主根管を完全に清掃・封鎖することで側枝への感染の補給路を断てば、側枝内に残存した細菌は増殖できなくなり、免疫系の働きとも相まって病変が縮小・消失に向かうと考えられます。
ただし、これが成立するのはあくまで主根管の処置が高水準で行われていることが前提です。洗浄・拡大・充填のいずれかに不備があれば、感染源が残り続けて側枝病変も改善しません。また、根管充填材であるガッタパーチャが側枝に充填されているように見えても、実際には壊死歯髄組織や細菌が混在しているケースが報告されており、X線所見だけで充填の質を判断することには限界があります。再治療の際に側枝の関与を念頭に置くことが、診断の精度を高めます。
主根管清掃後に側枝由来の病変が改善した症例レポートを実際のX線像とともに確認できます。