全介助が必要な患者でも、その日に実施していなければ必要度の点数はゼロになります。
口腔清拭(こうくうせいしき)は、うがいができない患者や嚥下障害のある患者に対して、スポンジブラシや口腔ケア用ウェットティッシュで口腔内の汚れを拭き取るケア手技です。これは歯ブラシを使った一般的な歯磨きとは区別されますが、看護必要度の評価上は「口腔内清拭」として口腔清潔(B項目)に含まれます。
厚生労働省の評価票において、「口腔内の清潔には、歯磨き・うがい・口腔内清拭・舌のケア等の介助から義歯の手入れ・挿管中の吸引による口腔洗浄・ポピドンヨード剤等の薬剤による洗浄も含まれる」と明記されています。つまり口腔清拭は、必要度評価の対象行為として明確に位置づけられています。
一方で、口腔内吸引のみ・硼砂グリセリンの塗布のみは評価対象外です。これが混同されやすい落とし穴です。
評価のポイントは「一連の行為」にあります。準備(歯ブラシ・うがい用水の準備や歯磨き粉をつけるなど)、実施、磨き残しの確認を含む一連の行為の中で、一部でも介助があれば「できない(要介助)」と評価されます。洗面所への移動は一連の行為に含まないため、評価から外します。これは基本です。
口腔清拭が必要度評価の中でどう位置づけられるかを正確に把握することが、病棟での適切な記録・算定につながります。
参考リンク(厚生労働省:看護必要度の口腔清潔に関する判断基準の留意点)
厚生労働省 重症度・看護必要度に係る評価票 評価の手引き(PDF)
2024年(令和6年)度の診療報酬改定により、看護必要度B項目の評価ルールが大きく変わりました。口腔清潔・食事摂取・衣服の着脱などのB項目では、「評価日に介助が実施されていれば得点となる」方式に変更されています。
これが現場で意外と見落とされています。
たとえば、全介助が必要な患者であっても、その日の評価時点でまだ口腔ケアが行われていなかった場合、その日の点数は「介助なし(0点)」として扱われます。介助が必要な状態かどうかではなく、「その日、介助が行われたかどうか」が評価の基準になる点に注意が必要です。
また、2024年改定では急性期一般入院料1のB項目が判定基準から除外されましたが、引き続き毎日の「評価(モニタリング)」としての実施は義務として残っています。つまり記録をやめていいわけではありません。7対1病棟でも記録は続けなければならないということです。
| 評価区分 | 内容 | 2024年改定後の扱い |
|---|---|---|
| 急性期一般入院料1(7対1) | B項目 | 判定基準から除外・評価は継続 |
| 急性期一般入院料2〜6など | B項目 | 引き続き判定基準に使用 |
| 地域包括医療病棟など | B項目含む | 新設病棟でも評価対象 |
もうひとつ重要なルールがあります。「口腔清潔が制限されていないにもかかわらず、看護師等が口腔清潔を行わなかった場合は『できる(自立)』とする」という規定です。ケアを実施しなかった理由が制限によるものではない場合、患者は自立と見なされる——これは病棟スタッフにとってリスクになりうる判断基準です。
参考リンク(看護必要度B項目「口腔清潔」2024年改定の詳細解説)
【看護必要度】「口腔清潔」「食事摂取」「衣服の着脱」2024年改定|リジリエントメディカル
歯科従事者が特に押さえておくべき点がここにあります。看護必要度のB項目「口腔清潔」の評価は、「当該病棟に所属する看護職員」が行ったケアに限定されています。歯科衛生士が口腔清拭を実施した場合、その行為はB項目の口腔清潔の得点に反映されません。
これは現場で混乱を招きやすいポイントです。
歯科衛生士は、口腔ケアの専門職として質の高い口腔清拭を行えます。しかしその行為がいくら丁寧で技術的に優れていても、看護必要度の評価上は「実施なし」に準じた扱いになることがあります。病棟の点数評価と、歯科的な介入とは、制度上のカウント方法が異なる——これが基本原則です。
ただし、歯科衛生士の口腔清拭が「まったく意味のない行為」というわけではありません。以下の点で歯科衛生士の介入は医療的に重要です。
つまり歯科衛生士が行う口腔清拭は、看護必要度ではなく診療報酬上の別の項目で評価される、という理解が正確です。B項目に含まれないからといって「算定できない」わけではありません。
参考リンク(歯科衛生士が算定できる報酬の整理)
歯科衛生士がいることで算定できる報酬|日本訪問歯科協会
口腔清拭の必要度が高い患者には、いくつかの共通した特徴があります。代表的なのは嚥下障害、意識障害、気管挿管中の患者、経管栄養が必要な患者です。これらの患者は「ぶくぶくうがい」ができないため、口腔清拭が口腔ケアの主役となります。
口腔清拭の必要度が高い状態を放置することは、命に関わるリスクと直結します。口腔内で増殖した細菌が誤嚥によって気管・肺に流れ込むことで発症する誤嚥性肺炎は、現在、日本人の死因第6位(年間約5万人超)に位置しています。
米山武義先生(広島大学)らの研究では、要介護高齢者に対して継続的な口腔ケアを行うことで、誤嚥性肺炎の発症を約4割(40%)程度抑制できる可能性が示されました。これは歯科業界のみならず、医科・看護領域でも広く引用されているエビデンスです。口腔清拭1回の実施が、入院期間の短縮や医療費削減に間接的に貢献する——これは大きなことです。
特に経管栄養中の患者では、口から食べないために唾液の分泌量が減少し、口腔内が乾燥しやすくなります。乾燥した口腔内では細菌が増殖しやすく、剥離上皮膜(はくりじょうひまく)という口腔粘膜の膜が形成されやすくなります。この状態を放置すると、口腔清拭だけでは対応が難しくなるため、専門的な介入が必要です。
参考リンク(口腔ケアによる誤嚥性肺炎予防効果についての厚生労働科学研究報告)
口腔ケア・口腔リハビリは高齢者の命を救う|日本WHO協会(PDF)
口腔清拭を正しく行い、それを必要度評価と算定に正確につなげるためには、実施手順と記録の両方を整備することが不可欠です。
口腔清拭の基本的な順番は以下のとおりです。
スポンジブラシを使う場合は、水分を十分に絞ってから使用することが鉄則です。水分が多いと誤嚥リスクが高まります。使用前にスポンジが柄から外れないか確認することも忘れずに。スポンジブラシは使い捨てが基本です。
必要度評価に直結する記録の観点では、以下の点が重要です。
「実施した」という事実が記録に残っていなければ、実際には行っていても評価上は「ゼロ」になりかねません。記録が点数をつくるということです。
また、非経口摂取患者口腔粘膜処置(110点・月2回)を算定したい場合は、「口腔内に剥離上皮膜が形成されていること」と「歯科医師による指示」が必須です。単なる清掃だけでは算定対象になりません。この違いは実務上、非常に重要です。
参考リンク(非経口摂取患者口腔粘膜処置の算定要件)
令和6年 I030-2 非経口摂取患者口腔粘膜処置(1口腔につき)|しろぼんねっと
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