骨粗鬆症歯科治療の休薬期間を正しく理解し顎骨壊死を防ぐ

骨粗鬆症治療中の患者に抜歯を行う際、休薬期間を設けるべきかどうか迷っていませんか?最新のポジションペーパー2023の見解や、BP製剤・デノスマブ別の対応法、MRONJリスク管理の実践的ポイントを解説します。

骨粗鬆症歯科治療の休薬期間と顎骨壊死リスクの最新知見

経口BP製剤を3年以上服用していても、抜歯前の休薬でMRONJ発症率はほとんど変わらないことが大規模データで示されています。


この記事のポイント:骨粗鬆症歯科治療と休薬期間
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PP2023の核心:経口BP製剤は原則休薬不要

2023年改訂のポジションペーパーで、低用量BP製剤(骨粗鬆症向け)の抜歯前休薬は「原則不要」と明記。休薬によるMRONJ予防効果を示すエビデンスが得られていないことが根拠です。

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デノスマブの休薬は骨折リスクを跳ね上げる

デノスマブ(プラリア)を中止すると6〜12ヵ月以内に骨代謝マーカーが急上昇し、多発性椎体骨折リスクが著しく増大する「反跳現象」が起こります。歯科側の都合だけで安易に休薬を依頼することは患者に重大なリスクをもたらします。

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骨粗鬆症治療開始前の全例歯科スクリーニングが必須に

PP2023では「骨粗鬆症治療を開始する患者は全例が歯科スクリーニングの対象」と明記されました。医歯薬連携の強化が現場に強く求められています。


骨粗鬆症の休薬期間に関するガイドライン変遷:2010年から2023年まで


「BP製剤を服用中の患者には抜歯前に3ヵ月の休薬が必要」——この常識が、今では完全に覆されています。意外ですね。


骨粗鬆症治療と歯科治療の関係をめぐる見解は、この15年間で大きく転換しました。2003年に米国でビスホスホネート(BP)製剤が原因とみられる難治性の顎骨壊死(BRONJ)が初めて報告され、当初は現場の混乱が相次ぎました。2010年に日本で最初のポジションペーパーが発刊されると、「抜歯前に少なくとも3ヵ月間はBP製剤を中止し、抜歯後も術創が治癒するまで再開しない」という運用が広まりました。


ところが、2016年のポジションペーパー改訂で方針が転換し始めます。「BP製剤服用中は休薬せず、侵襲的治療をできるだけ避ける」という考え方に変わりました。そして2023年7月、日本口腔外科学会ほか関連学会による「顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(PP2023)」が公開され、現在の最も重要な統一見解となっています。


PP2023の最大のポイントは、「原則として抜歯時に骨吸収抑制剤を休薬しないことを提案する」という明確な一文です。これは単なる慣習の見直しではなく、複数の大規模研究のシステマティックレビューに基づいた判断です。抜歯前2〜3ヵ月間の低用量BP製剤休薬を行っても、MRONJ発症が有意に減少しなかったというデータが積み上がった結果です。休薬が原則不要、これが基本です。


加えてPP2023では、MRONJの発症において「抜歯そのもの」よりも「歯性感染症歯周病・根尖病変)の存在」をより重大なリスク因子として位置づけ直しました。すなわち、抜歯前にすでに潜在的MRONJが発症しており、抜歯によってそれが顕在化するケースが多いとされています。


参考:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023(日本口腔外科学会公式PDF)
https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf


骨粗鬆症歯科治療における休薬期間の具体的判断基準:BP製剤とデノスマブの違い

「骨粗鬆症の薬が入っていたら一律に休薬」という判断は、今日では誤りとされています。薬剤の種類・投与経路・使用期間・追加リスク因子によって、対応が明確に分かれるからです。


まず、経口BP製剤(アレンドロン酸リセドロン酸など骨粗鬆症向け低用量)については、PP2023もアメリカ口腔顎顔面外科学会(AAOMS 2022年版)も米国骨代謝学会(ASBMR)も同様に、抜歯時の休薬は原則推奨しないとしています。ただし使用期間が4年以上かつ糖尿病・ステロイド使用・喫煙などの追加リスク因子が重なる場合には、担当医と協議のうえ3ヵ月程度の休薬(ドラッグホリデー)を検討することがありますが、エビデンスは限定的です。4年未満なら問題ありません。


次に、デノスマブ(プラリア)は話が変わります。デノスマブはBP製剤と違って骨に長期蓄積しないため、中止後の薬効消退が速い一方、中止後6〜12ヵ月以内に骨代謝マーカーが急上昇し骨密度が急低下する「反跳現象」が生じます。これにより多発性椎体骨折リスクが著しく高まることが報告されており、歯科治療の都合だけで安易に中止・休薬を依頼することは患者に深刻な健康被害をもたらす危険性があります。つまり、デノスマブは休薬不可が原則です。PP2023でも投与後の歯科治療は感染予防処置を徹底のうえ休薬せずに行うとされており、むしろデノスマブ投与開始2週間前までにすべての侵襲的歯科治療を終了しておくことが理想とされています。


最後に、静注BP製剤(ゾレドロン酸〈ゾメタ〉など悪性腫瘍高用量使用)は状況が大きく異なり、MRONJ発症リスクが経口製剤の最大100倍以上とも報告されます。高用量ARAを使用中の患者にはインプラント埋入は避けるべきとされており、抜歯についても慎重な個別リスク評価が必要です。低用量と高用量では全く別の話、これだけ覚えておけばOKです。


薬剤区分 代表的製品名 抜歯前休薬 備考
経口BP(骨粗鬆症) フォサマック、ベネット等 🟢 原則不要 4年以上+追加リスクがある場合のみ個別協議
デノスマブ(骨粗鬆症) プラリア 🟡 原則不要・中止禁止 中止で反跳現象→多発椎体骨折リスク大
静注BP(悪性腫瘍・高用量) ゾメタ、アレディア等 🔴 個別リスク評価が必須 MRONJ発症リスクが経口製剤より著しく高い


参考:抜歯の予定だがBP製剤は休薬するべきか(研究学縁歯科)
https://kenkyugakuenshika.com/2025/02/26/bp製剤は休薬するべきか/


骨粗鬆症歯科治療における顎骨壊死(MRONJ)の発症頻度と実際のリスク管理

「BP製剤を飲んでいたら顎骨壊死になる」という患者からの不安は、歯科の現場でよく耳にするはずです。ただし、実際の数字を見ると、リスクの大きさはかなり現実的な範囲に収まっています。


経口BP製剤(骨粗鬆症向け低用量)を使用した場合のMRONJ発症頻度は、10万人中1〜69人程度とされています(文献によりばらつきがあります)。わかりやすく言えば「10万人が1年間服用して、多くても約1人に発症する」レベルです。これは東京ドームが5個ぶんの客席を埋めた観客のうち、1〜3人ほどが発症する頻度と考えると、決して全員に起こることではないとわかります。一方、悪性腫瘍に使う高用量静注BP製剤では発症率が大きく跳ね上がり、最大で数%以上の報告もあります。


厳しいところですね、とはいえ歯科医としてはゼロにはできないリスクと正直に向き合う必要があります。そのためにPP2023が示した予防的管理の実践ポイントをまとめると、次のようになります。


まず、低侵襲な術式の徹底が求められます。抜歯時には骨削除量を最小限に抑え、術後は粘膜骨膜弁による閉鎖を基本とします。ただし、無理な完全閉鎖は逆効果になることもあるため、上皮化の進行を確認しながら通常の抜歯創管理で対応する選択肢も残されています。


次に、術前・術後の口腔清掃と予防抗菌薬の適正使用が重要です。PP2023では、手術1時間前にアモキシシリン250mg〜1000mg単回投与を基本とし、最長でも48時間以内の術後投与とするよう指針が示されています。これは通常の観血的歯科治療と同水準の考え方です。


また、長期的なフォローアップと定期的な口腔管理が不可欠です。BP製剤は骨への親和性が高く体内への蓄積性があるため、服薬を中止してからも数ヵ月〜数年単位でBP成分が骨組織に残留し続けます。骨のリモデリング周期から考えると、この蓄積効果は休薬の期間だけで消えるものではなく、それが「休薬してもMRONJ予防効果が得られない」という研究結果につながっています。長期的な管理が条件です。


参考:3分でチェック!歯科医のためのMRONJ(三鷹歯科)
https://mitakasika.com/column/column_mronj.html


骨粗鬆症歯科治療の休薬期間にまつわる現場の6割問題:医師・歯科医師間の認識ギャップ

「骨粗鬆症治療薬の6割が不要な休薬に応じる」——これは2019年の第21回日本骨粗鬆症学会で報告された、衝撃的な調査結果です。


この調査によると、骨粗鬆症の患者が抜歯を受ける際に、歯科医師から休薬を依頼された薬剤の約73%がBP製剤またはデノスマブであったにもかかわらず、主治医の6割超が(根拠のない)休薬依頼に応じていたとのことです。さらに驚くべきことに、休薬依頼のあった薬剤のうち27.7%は顎骨壊死との関連が確認されていないBP・デノスマブ以外の骨粗鬆症薬でした。つまり、MRONJとは無関係の薬まで休薬させていたケースが相当数存在していたことになります。


これは医科と歯科の双方に課題があると言えます。なぜこうした状況が起きるかといえば、旧来の「抜歯前は3ヵ月休薬」という情報が診療現場に根強く残っているためです。情報のアップデートが追いついていない歯科医師が休薬を求め、患者から依頼を受けた内科医・整形外科医が断りにくい状況で応じてしまうという構図です。これは使えそうな情報ですね——特に医歯薬連携の強化を検討する際に。


この問題の解決策として、PP2023は医師から歯科医師への情報提供の標準化と、歯科から医師への情報フィードバックの双方向連携を具体的に規定しています。連携に不可欠な情報として、処方医が歯科に提供すべき内容は「薬剤名・投与量・投与期間・追加リスク因子(糖尿病・ステロイド使用・喫煙など)」であり、歯科から医師に返すべき情報は「歯科処置の内容・術後の口腔状態・MRONJを疑う所見の有無」です。連携の内容を具体化することが鍵です。


また、2023年度からは歯管(歯科疾患管理料)への「総合医療管理加算50点(骨吸収抑制薬投与中の患者への加算)」が設定されており、医歯薬連携を積極的に進める体制づくりを診療報酬でも後押しする制度が整いつつあります。


骨粗鬆症歯科治療開始前の歯科スクリーニングと口腔管理:PP2023が示した新たな責務

PP2023が新たに打ち出した重要な視点があります。それは「骨粗鬆症治療を開始するすべての患者が、歯科スクリーニングの対象となる」という原則です。これは今までとは異なる発想で、患者が薬を飲み始める「前」の段階から歯科が積極的に関与せよという意味を持っています。


なぜかというと、ARA(BP製剤・デノスマブ)を投与し始めた後に重度歯周病や根尖病変を抱えたまま侵襲的歯科治療が必要になった場合、MRONJのリスクが格段に高まるためです。薬を飲む前に感染源を取り除いておくことこそが、最も効果的なMRONJ予防になります。投与前の処置が条件です。


具体的に、ARA投与前に歯科が行うべきことをまとめます。保存不可能な重度歯周病罹患歯や活動性の根尖病変を持つ歯は、原則としてARA投与開始前に抜歯を完了させておくことが望まれます。根管治療が適応となるケースでも、治療期間が数ヵ月に及ぶと見込まれる場合は、むしろARA投与を遅らせないために早期抜歯を選択することもあります。義歯の不適合が長期間続くと粘膜損傷を起こしてMRONJの引き金になることもあるため、義歯調整も投与前にできる限り済ませておくことが重要です。


なお、デノスマブの場合は投与間隔が6ヵ月ごとであるため、最終投与から約4ヵ月後に抜歯などの外科処置を行うと骨の治癒の面で良好な結果が得られる可能性があるとPP2023に記載されており、予定手術(インプラントなど)ではタイミング調整の参考になります。


また、インプラントに関してはPP2023で興味深い見解が示されています。「現時点では低用量ARA投与中の患者にインプラント埋入手術を行ってはならないとする根拠はない」としつつも、高用量ARA使用患者へのインプラントは代替治療の存在を理由に「行うべきではない」と区別されています。一律に禁忌とはしない、というのが最新の考え方です。


参考:顎骨壊死ポジションペーパー2023のトピック解説(honetoha.jp)
https://honetoha.jp/info/0572/


参考:薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)の歯科医向け解説(三鷹歯科)
https://mitakasika.com/column/column_mronj.html






顎骨壊死を知っていますか? 骨粗鬆症やがん治療中の患者さんが歯科治療にかかる前に / 黒嶋伸一郎 【本】