歯性感染症の原因と症状、治療の基本

歯性感染症は虫歯や歯周病が引き起こす重篤な細菌感染症で、適切な診断と治療が欠かせません。嫌気性菌が約88%を占める複数菌感染の特徴や、抗菌薬選択、切開排膿の重要性について解説します。あなたの治療方針は適正ですか?

歯性感染症の原因と症状、治療

根尖性歯周炎なら抗菌薬は不要です。


この記事の3つのポイント
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歯性感染症の原因菌の特徴

嫌気性菌が約88%を占める複数菌感染で、5~7菌種が同時検出される。口腔レンサ球菌との混合感染が基本病態となる。

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抗菌薬の適正使用の原則

第一選択はアモキシシリンで、セフェム系やニューキノロン系の広域抗菌薬は推奨されない。 局所処置可能な症例では抗菌薬投与は不要。

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切開排膿の重要性

膿瘍形成時は切開排膿が治療の基本で、抗菌薬だけでは不十分。ドレナージで嫌気環境を改善し、菌量を減少させることが極めて有用。


歯性感染症の原因となる起炎菌の特徴


歯性感染症の起炎菌は口腔内常在菌による内因感染がほとんどで、嫌気性菌および口腔レンサ球菌の複数菌感染症という特徴があります。1検体から5~7菌種もの細菌が検出されることが一般的で、単一菌による感染ではありません。最近の研究報告によれば、原因菌の約88%が嫌気性菌であり、その中でも嫌気性菌グラム陰性桿菌が全体の52%を占めています。


嫌気性菌が優位になる理由は、歯周ポケットや根管内など酸素が届きにくい環境に細菌が定着するためです。これらの細菌は酸素を嫌う性質があり、深い歯周ポケットや閉鎖された膿瘍腔内で増殖しやすくなります。偏性嫌気性菌の検出率は50%を超えており、歯性感染症が重症化するほど嫌気性菌の関与が大きくなることが分かっています。


つまり複数菌感染が基本です。


主な起炎菌としては、口腔レンサ球菌(Streptococcus属)、Prevotella属、Porphyromonas属、Fusobacterium属、Peptostreptococcus属などが挙げられます。これらは通常、口腔内に常在している細菌ですが、宿主の免疫力低下や局所の環境変化により病原性を発揮します。疲労、睡眠不足、栄養不足、糖尿病などの全身状態の悪化により、身体の抵抗力が弱まると歯性感染症を起こすリスクが高まるのです。


原因疾患としては虫歯(う蝕)、根尖病巣歯根嚢胞顎骨嚢胞智歯周囲炎、顎骨骨髄炎などが多く見られます。さらに近年では、ビスホスホネート製剤やデノスマブなどの骨吸収抑制薬による薬剤関連顎骨壊死(MRONJ)も歯性感染症の原因疾患として注目されています。これらの薬剤を服用している患者では、抜歯などの侵襲的処置後に難治性の感染が生じる可能性があるため、治療計画の立案時に十分な配慮が必要です。


歯性感染症の起炎菌と原因疾患について詳しく解説されている専門サイト


歯性感染症の症状と重症度分類

歯性感染症は大きく4つのグループに分類され、それぞれ特徴的な症状を呈します。第1群の歯周組織炎(歯槽骨炎、歯槽膿瘍、歯周炎、抜歯後感染など)は、歯と周囲組織に限局した炎症で、局所の腫脹、疼痛、発赤、熱感が主な症状です。第2群の歯冠周囲炎(智歯周囲炎など)は、歯冠周囲の軟組織に炎症が生じ、開口障害を伴うことがあります。


第3群の顎炎(顎骨骨髄炎、顎骨骨膜炎など)になると、顎骨およびその周囲に炎症が波及し、顔面の腫脹が顕著になります。第4群の顎骨周囲の蜂窩織炎は最も重篤で、顎骨に隣接した軟組織内や組織隙に感染が拡大した状態です。口底部、頬部、頸部に蜂窩織炎が認められ、高熱、倦怠感、食欲不振などの全身症状が現れます。


これが最重症パターンです。


重症度の判定には、感染部位の炎症所見(発赤、熱感、腫脹、疼痛、機能障害)と血液検査が用いられます。血液検査では主にCRP(C反応性タンパク)が指標となり、軽度では0.3~1.0mg/dL、中等度では1.0~10.0mg/dL、重度では10.0mg/dL以上という基準があります。CRP値が高いほど炎症の程度が強く、全身への影響も大きいことを示しています。中等度以上では白血球数の増加、好中球/リンパ球比の上昇、白血球分画で桿状核球の出現(左方移動)が認められ、重症感染症の特徴的所見となります。


蜂窩織炎では開口障害が特徴的な症状として現れます。咀嚼筋に炎症が波及すると、顎の動きが制限され、口が十分に開けられなくなるのです。開口度が2横指(約3cm)以下になると、経口摂取が困難になり、気道確保にも問題が生じる可能性があります。さらに重症化すると、炎症が眼窩から脳、頸部から心臓や食道などに波及し、深頸部膿瘍や縦隔炎、敗血症を引き起こして生命に関わる事態となります。糖尿病などの基礎疾患を持つ患者では、免疫力低下により感染の重症化リスクが特に高くなるため注意が必要です。


歯性感染症の診断と検査方法

歯性感染症の診断には、臨床症状の観察、画像検査、血液検査、細菌学的検査を組み合わせて総合的に判断します。まず問診で痛みの部位、発症時期、既往歴、内服薬の確認を行い、視診・触診で腫脹の範囲、圧痛、波動、開口度を評価します。波動が触知できる場合は膿瘍が成熟している証拠で、切開排膿の適応となります。


画像検査ではパノラマX線写真やCT検査が有用です。パノラマX線で根尖病巣や骨透過像の有無を確認し、原因歯を特定します。CT検査は炎症の波及範囲、膿瘍の局在、気道への影響を評価するのに優れており、特に深頸部膿瘍や顎骨骨髄炎が疑われる重症例では必須の検査となります。造影CTでは膿瘍腔がリング状に造影され、周囲組織との境界が明瞭になるため、切開排膿の部位決定に役立ちます。


検査が診断の決め手です。


血液検査では白血球数、CRP、好中球/リンパ球比、血糖値、HbA1c、肝機能、腎機能を測定します。糖尿病の有無や免疫状態を評価することで、感染のリスク因子を把握できます。また全身的に免疫力が低下する原因がないかを血液検査で診断し、治療方針の決定に反映させます。CRP値は治療効果の判定にも有用で、抗菌薬投与後3日程度で再評価し、改善がなければ抗菌薬の変更や外科的処置の追加を検討します。


細菌学的検査は起炎菌の同定と薬剤感受性試験のために実施しますが、結果が出るまでに数日かかるため、最初はエンピリック治療(経験的治療)を開始します。膿汁や切開時の検体を採取し、好気性菌と嫌気性菌の両方を培養することが重要です。嫌気性菌は特殊な培養条件が必要なため、検体採取後すぐに嫌気輸送培地に入れて検査室に提出しなければなりません。培養結果と薬剤感受性試験の結果が判明したら、必要に応じて抗菌薬を変更し、より効果的な治療を行います。


歯性感染症における抗菌薬の適正使用

歯性感染症の治療における抗菌薬選択は、起炎菌が口腔レンサ球菌と嫌気性菌の混合感染であることを前提に行います。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016では、ペニシリン系薬およびβ-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬を第一選択とすることが推奨されています。具体的には、第1群(歯周組織炎)と第2群(歯冠周囲炎)にはアモキシシリンサワシリン®)が第一選択薬です。


アモキシシリンの投与量は1回250mgを1日3~4回、3~7日間が標準です。アモキシシリンは経口吸収率(バイオアベイラビリティ)が74~92%と非常に高く、血中濃度が安定して維持されるため、外来治療でも十分な効果が期待できます。ペニシリンアレルギーがある場合は、クラリスロマイシン(クラリス®、クラリシッド®)やアジスロマイシン(ジスロマック®)などのマクロライド系薬を選択します。


第一選択は必ずペニシリン系です。


第3群(顎炎)や第4群(蜂窩織炎)の重症例では、より強力な抗菌薬が必要になります。経口薬ではスルタミシリン(ユナシン®)やクラブラン酸/アモキシシリン配合剤(オーグメンチン®)を選択し、必要に応じてオーグメンチンとサワシリンを併用することも可能です。この併用により、アモキシシリンの大量投与と同等の効果が得られ、点滴静注に近い血中濃度を維持できます。


開口障害や嚥下困難を伴う重症例では、経口投与が困難なため点滴静注が必要です。中等症にはスルバクタム/アンピシリン(ユナシンS®)やセフトリアキソン(ロセフィン®)を使用し、重症例にはメロペネム(メロペン®)やドリペネム(ドリペネム®)などのカルバペネム系薬を投与します。壊死性筋膜炎など最重篤例では、カルバペネム系薬とクリンダマイシンの併用が推奨されます。抗菌薬の効果判定は投与開始後3日を目安に行い、改善がなければ追加処置や薬剤変更を検討します。


一方で、抗菌薬が不要な症例も存在することを認識すべきです。局所処置が可能で全身症状を伴わない根尖性歯周炎や抜歯後のドライソケットでは、経口抗菌薬の投与は不要とされています。根尖性歯周炎では根管内の細菌が問題であり、血流を介した抗菌薬は根管内に十分到達しないため、根管治療による機械的清掃と消毒が最も重要です。安易に抗菌薬を処方すると薬剤耐性菌(AMR)の発生リスクを高めるだけで、患者にとって有害となります。


JAID/JSC感染症治療ガイドライン2016(歯性感染症)の公式文書


歯性感染症における切開排膿とドレナージ

歯性感染症の治療において、切開排膿とドレナージは抗菌薬投与と同等かそれ以上に重要な処置です。特に膿瘍を形成した症例では、抗菌薬だけでは膿瘍腔内に薬剤が十分到達せず、治療効果が不十分となります。膿瘍は血流の乏しい閉鎖空間であり、嫌気性菌が増殖しやすい環境が形成されているため、物理的に膿を排出し、酸素を供給して嫌気環境を改善することが極めて有用です。


切開排膿の適応は、触診で波動が確認できる成熟した膿瘍、画像検査で膿瘍腔が明確な症例、抗菌薬投与のみでは改善しない症例です。切開部位は膿瘍の最下点かつ組織の緊張が強い部位を選び、重力による自然排膿を促すようにします。口腔内からアプローチする場合と、口腔外(皮膚側)からアプローチする場合があり、膿瘍の位置と範囲に応じて判断します。切開後は生理食塩水で洗浄し、膿汁と壊死組織を除去します。


排膿路確保が治療の鍵です。


ドレーンの留置は持続的な排膿を促し、切開創の早期閉鎖を防ぐために重要です。歯科領域ではペンローズドレーンとネラトンカテーテルが主に使用されます。ペンローズドレーンは柔らかいゴム製の管で、1週間程度でドレーンを抜去できる軽症から中等症の症例に適しています。一方、ネラトンカテーテルは硬めのチューブで、長期間のドレナージが必要な重症例や深部膿瘍に使用します。ドレーンは膿の排出が十分に減少するまで留置し、通常3~7日程度で抜去します。


切開排膿には局所麻酔を使用しますが、膿瘍部位は酸性環境のため麻酔が効きにくい特徴があります。そのため膿瘍周囲の健常組織に麻酔薬を注入し、可能な限り痛みを軽減します。切開は一気に行い、膿の排出と同時に圧が解放されることで疼痛が軽減します。切開後は開放創として管理し、毎日洗浄と消毒を行います。閉鎖してしまうと再び膿が貯留するため、創部が内側から自然に治癒するまで開放状態を維持することが重要です。


嫌気性菌が関与する感染症では、切開排膿により菌量を減少させるとともに嫌気環境を改善することが治療の根幹となります。抗菌薬投与だけに頼らず、積極的な外科的処置を行うことで治療期間の短縮と重症化の予防が可能になります。深頸部膿瘍や壊死性筋膜炎など重篤な症例では、全身麻酔下での広範囲なデブリードマン(壊死組織除去)と複数箇所からのドレナージが必要となり、入院治療が必須です。


歯性感染症の予防と薬剤耐性対策

歯性感染症を予防するには、日常的な口腔衛生管理と定期的な歯科受診が最も重要です。虫歯や歯周病を早期に発見し治療することで、感染症への進展を防ぐことができます。特に糖尿病患者、免疫抑制薬を服用している患者、ビスホスホネート製剤やデノスマブを使用している患者は、易感染状態にあるため、より厳格な口腔管理が求められます。これらの患者では定期的なプロフェッショナルケアを受け、歯科医師と連携して感染リスクを最小化することが大切です。


抗菌薬の予防投与については、適応を厳密に判断する必要があります。2016年に改訂された術後感染予防抗菌薬適正使用のためのガイドラインでは、歯科処置における予防投与の適応は極めて限定的とされています。感染性心内膜炎(IE)の既往がある患者、人工弁置換術後の患者、先天性心疾患の一部などハイリスク症例以外では、通常の抜歯や歯周外科処置に対する予防投与は推奨されていません。健常者の単純抜歯では感染率が1~2%程度と低く、予防投与のメリットよりもデメリット(薬剤耐性菌の発生、副作用など)が上回るためです。


予防投与は慎重に判断します。


薬剤耐性(AMR:Antimicrobial Resistance)対策は、現在世界的に重要な課題となっています。2050年にはAMRによる死亡者数が年間1000万人に達すると予測されており、不適切な抗菌薬使用がその主要因とされています。歯科領域でも抗菌薬処方は全診療科の約10%を占めており、適正使用の推進が求められているのです。厚生労働省の「抗微生物薬適正使用の手引き(歯科編)」では、第3世代セフェム系薬やニューキノロン系薬などの広域抗菌薬を安易に使用しないよう明記されています。


歯性感染症に対しては、第一選択薬としてアモキシシリンなどの狭域スペクトラムのペニシリン系薬を使用し、安易に広域抗菌薬に頼らないことが重要です。第3世代セフェム系薬(セフカペンピボキシルセフジトレンピボキシルなど)は経口吸収率が25%程度と低く、歯性感染症の起炎菌に対する抗菌スペクトラムも必ずしも適切ではありません。また薬価も高く、AMR対策の観点からも推奨されないのです。培養検査で耐性菌が検出された場合にのみ、感受性試験の結果に基づいて適切な抗菌薬に変更すべきです。


抗菌薬の投与期間も適正化が必要で、通常の歯性感染症では3~7日間が標準です。症状が改善しても医師の指示通り最後まで服用することが重要ですが、逆に漫然と長期投与を続けることは避けるべきです。抗菌薬投与開始後3日を目安に効果判定を行い、改善が見られない場合は原因の再評価と治療方針の見直しが必要です。単に抗菌薬を変更するだけでなく、切開排膿などの外科的処置の追加や、原因歯の抜歯を検討することも重要な選択肢となります。




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