即時義歯の仮床試適は算定できません。
仮床試適は有床義歯製作において欠かせない工程であり、保険診療上も明確に評価されています。診療報酬点数表では、欠損歯数に応じて細かく分類されており、少数歯欠損(1歯から8歯)では40点、多数歯欠損(9歯から14歯)では100点、総義歯では190点が設定されています。その他の特殊なケース、例えば口蓋補綴や顎補綴などの場合は272点となっており、症例の複雑さに応じた評価体系が整備されています。
保険算定の基本的な考え方として、仮床試適は製作物ごとに1回を原則としています。つまり、上下顎それぞれに義歯を製作する場合は、各床に対して別々に算定が可能です。ただし、2024年の診療報酬改定では、歯科技工士との連携を評価する加算制度が拡充されました。これにより、試適時に技工士が対面で立ち会い、床の適合状態や人工歯の配列位置、咬合関係などを歯科医師とともに確認した場合、歯科技工士連携加算1として60点、ICTを活用したリアルタイム連携の場合は歯科技工士連携加算2として80点を追加算定できるようになっています。
これは技工士の専門知識を活かすことが重要です。
ただし、即時義歯の製作においては、模型上で抜歯後の状態を推定して製作するという特性上、仮床試適に係る費用は原則として算定できません。これは保険診療の通知において明確に規定されています。例外として認められるのは、抜歯予定部位が残根または根面被覆などで、実際に仮床試適が可能な場合に限られます。このケースでは通常の有床義歯製作として扱われ、仮床試適を算定しても差し支えないとされています。
算定における実務上の注意点として、同一補綴物に対して複数回の試適を行った場合の取り扱いがあります。基本的には1製作物につき1回の算定が原則ですが、顎堤が著しく吸収している症例や、咬合関係の再現が極めて困難なケースなど、臨床上の必要性が明確な場合には、複数回の試適が認められることもあります。ただし、その必要性を診療録に明記し、合理的な説明ができることが前提となります。個別指導や監査においても、この点は確認される重要項目の一つです。
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仮床の製作は、まず概形印象から始まります。既製トレーを用いてアルジネート印象材で患者の口腔内の大まかな形態を採得し、石膏を注入して研究用模型を製作します。この模型上で、顎堤の形態、残存歯の位置関係、粘膜の状態などを詳細に観察し、義歯床の外形を設計します。
個人トレーは、研究用模型を基に患者固有の口腔形態に合わせて製作される重要な道具です。即時重合レジンやシェラック板などの材料を用い、粘膜面に密着するように成形されます。この個人トレーを用いて精密印象を採得することで、より正確な作業用模型が完成します。精密印象の際には、患者に頬や口唇、舌を動かしてもらい、機能運動時の口腔周囲組織の動きも記録することが重要です。これにより、義歯の辺縁形態が適切に設定され、装着後の維持力や安定性が向上します。
作業用模型が完成したら、その上で基礎床を製作します。基礎床はレジン板やシェラック板で製作され、粘膜面に適合するように調整されます。この基礎床の上に、パラフィンワックスをロール状に軟化圧接して咬合堤を形成します。咬合堤の高さは、患者の顔貌や既存の咬合高径を参考に設定されますが、一般的には上唇の長さや鼻翼下点から顎底までの距離などを指標として用います。
咬合採得は義歯製作の成否を左右する極めて重要な工程です。咬合床を患者の口腔内に装着し、適切な垂直的顎間関係と水平的顎間関係を記録します。この時、患者がリラックスした状態で自然な下顎位を再現できるよう、十分な時間をかけて調整を行います。咬合採得が不正確だと、最終義歯の咬合が不安定になり、患者の咀嚼機能や快適性に大きな影響を及ぼします。記録した咬合関係に基づいて、歯科技工士が咬合器に作業用模型を装着し、人工歯の排列を行います。
人工歯の選択も重要な要素です。患者の顔貌、年齢、性別、残存歯の色調などを考慮して、適切な形態と色調の人工歯を選定します。前歯部では審美性が最優先されますが、臼歯部では咬合効率と耐久性が重視されます。排列位置は、発音、審美性、咬合バランスの三要素を満たすように慎重に決定されます。
この段階で技工士との連携が効果的です。
仮床試適の目的は、最終義歯を製作する前に、義歯の適合性、機能性、審美性を総合的に評価し、必要な修正を行うことです。試適時にチェックすべき項目は多岐にわたりますが、系統的なアプローチが重要です。
まず、義歯床の適合状態を確認します。仮床を患者の口腔内に挿入し、粘膜面への密着度を触診や視診で評価します。特に顎堤の高い部分や骨隆起がある部位では、過度な圧迫が生じていないか慎重に観察します。粘膜面に発赤や圧痕が見られる場合は、その部分の床を削合調整します。義歯床の辺縁形態も重要なチェックポイントです。辺縁が長すぎると周囲筋の動きを妨げ、短すぎると維持力が低下します。患者に頬を膨らませたり、舌を左右に動かしたりしてもらい、機能運動時の辺縁部の適合性を評価します。
咬合関係の確認も欠かせません。患者に軽く噛み締めてもらい、上下顎の人工歯が均等に接触しているかを観察します。咬合紙を用いて接触点を記録し、早期接触や咬合干渉の有無をチェックします。前方運動や側方運動時の咬合接触パターンも確認し、顎運動に調和した咬合が得られているかを評価します。咬合高径が適切かどうかは、患者の顔貌、発音、安静空隙などから総合的に判断します。咬合高径が高すぎると顎関節に負担がかかり、低すぎると審美性が損なわれます。
人工歯の排列位置は審美性に直結します。患者と向かい合って、笑顔時の歯の見え方、中心線の位置、歯の傾斜角度などを確認します。特に前歯部の排列は患者の満足度に大きく影響するため、患者の希望を十分に聞き取りながら調整します。鏡を見せて患者自身にも確認してもらい、納得が得られるまで修正を繰り返すことが重要です。臼歯部の排列位置は、舌房の広さや頬粘膜との関係に注意します。人工歯が舌側に寄りすぎると舌房が狭くなり、発音や嚥下に支障をきたします。逆に頬側に寄りすぎると、頬粘膜を咬み込むリスクが高まります。
発音のチェックも忘れてはなりません。患者にサ行、タ行、ラ行などを発音してもらい、明瞭度を評価します。特にサ行の発音は前歯部の排列位置や咬合高径の適否を判断する重要な指標となります。発音に問題がある場合は、人工歯の位置や咬合高径の調整を検討します。
維持力と安定性も重要な評価項目です。義歯を軽く引っ張って、十分な維持力が得られているかを確認します。総義歯の場合は吸着の状態をチェックし、部分床義歯の場合はクラスプの適合性を評価します。患者に咀嚼様運動を行ってもらい、義歯が転覆したり浮き上がったりしないかを観察します。
つまり多角的な評価が必要です。
試適時に問題点が見つかった場合は、その場で可能な調整を行うか、技工士に修正を依頼します。大幅な修正が必要な場合は、再度試適を行うこともあります。ただし、保険診療では原則として1回の試適しか算定できないため、診療録に修正の必要性と理由を明記しておくことが重要です。
2024年の診療報酬改定で拡充された歯科技工士連携加算は、義歯製作の品質向上を目的とした重要な制度です。この加算を算定するには、印象採得、咬合採得、または仮床試適のいずれかの段階で、歯科医師と歯科技工士が連携して確認作業を行う必要があります。
仮床試適における技工士連携では、具体的に以下の項目を確認します。まず、義歯床の辺縁形態が適切かどうかを評価します。技工士は製作者の立場から、辺縁の厚み、長さ、研磨面の滑沢度などを細かくチェックします。次に人工歯の排列位置について、技術的な観点から問題点を指摘します。咬合平面の傾斜、歯列弓の形態、個々の人工歯の傾斜角度などを、歯科医師とともに評価し、必要に応じて修正方針を決定します。咬合関係については、咬合接触のバランス、咬頭嵌合位の安定性、偏心位での咬合干渉の有無などを確認します。
歯科技工士連携加算1は、対面での連携に対する評価です。技工士が診療室に来院し、患者の口腔内の状態を直接観察しながら、歯科医師とともに確認作業を行います。これにより、技工士は患者の顔貌、口唇の動き、舌の位置などを実際に見ることができ、より精密な義歯製作が可能になります。対面連携の最大のメリットは、その場でコミュニケーションを取りながら、リアルタイムで修正方針を決定できることです。
歯科技工士連携加算2は、ICTを活用した連携に対する評価です。ビデオ通話システムなどを用いて、技工士が技工所にいながらリアルタイムで試適の様子を確認し、歯科医師と情報共有を行います。カメラで口腔内の状態や患者の顔貌を映しながら、音声でやり取りをすることで、対面に近い情報量を確保できます。地理的な制約や時間的な制約がある場合でも、質の高い連携が可能になるという利点があります。
実務上の重要ポイントです。
連携加算を算定する際の注意点として、診療録への記載が厳格に求められます。確認した内容、技工士の所属する技工所名、連携の方法(対面またはICT)、確認の結果判明した問題点と対応方針などを具体的に記載する必要があります。また、同一製作物に対して、印象採得、咬合採得、仮床試適のうち複数の段階で連携を行った場合でも、算定できるのは1回のみです。ただし、上下顎それぞれに義歯を製作する場合は、例えば上顎義歯で咬合採得時に連携加算を算定し、下顎義歯で仮床試適時に連携加算を算定することは可能です。
技工士連携を効果的に活用するには、事前の準備が重要です。試適の日程を技工士と事前に調整し、確認すべきポイントを明確にしておきます。患者にも技工士が立ち会うことを説明し、了承を得ておくことが望ましいです。試適時には、技工士の専門的な視点からの意見を積極的に取り入れ、最終義歯の品質向上につなげます。
歯科技工士連携加算1・2の具体的な算定要件と実施手順について、算定奉行の解説記事で詳しく確認できます
即時義歯は、抜歯と同時または抜歯直後に装着する義歯であり、患者が無歯期間を経ることなく社会生活を継続できるという大きなメリットがあります。しかし、即時義歯の製作においては、保険算定上の特殊な制約があるため、十分な理解が必要です。
即時義歯の最大の特徴は、模型上で抜歯後の状態を推定して製作することです。抜歯予定の歯が残存している状態で印象採得を行い、その模型上で該当歯を削除し、顎堤の形態を推定して義歯を製作します。このプロセスでは、抜歯後の歯槽骨の吸収や軟組織の変化を予測する必要があるため、歯科医師の経験と技術が求められます。しかし、実際に口腔内で仮床試適を行うことができないため、保険診療の通知では「即時義歯の仮床試適に係る費用は算定できない」と明確に規定されています。
この規定には例外があります。抜歯予定部位が残根状態であったり、根面被覆などで歯冠部がほとんど残っていない場合、実際に仮床を口腔内に試適することが可能です。このような症例では、通常の有床義歯製作と同様のプロセスを踏めるため、仮床試適を行い、その費用を算定しても差し支えないとされています。この判断は臨床的な状況に基づいて行われますが、診療録に「残根状態で仮床試適が可能であった」などと明記しておくことが重要です。
即時義歯と混同されやすいのが暫間義歯です。暫間義歯は一時的な使用を目的とした簡易的な義歯であり、保険診療では認められていません。即時義歯は「長期的に使用できるもの」と定義されており、最終義歯としての品質を備えている必要があります。ただし、抜歯後の歯槽骨吸収に伴って適合が悪くなるため、多くの場合、数ヶ月後に改めて最終義歯を製作することになります。この際、即時義歯は仮義歯としての役割を果たしたことになりますが、製作時点では最終義歯としての意図で作られている点が重要です。
算定のタイミングにも注意が必要です。
個別指導や監査において、即時義歯に関する指摘事例は少なくありません。よくある指摘内容として、即時義歯に対して仮床試適を算定していたケース、暫間義歯を即時義歯として算定していたケース、即時義歯の製作後短期間で新製義歯を作成し、実質的に即時義歯が暫間義歯としてしか使用されていなかったケースなどがあります。これらの指摘を避けるためには、即時義歯の適応症例を適切に選択し、製作意図と使用期間を診療録に明確に記載しておくことが必要です。
即時義歯の適応症例としては、審美性の観点から前歯部の抜歯が必要な場合や、咀嚼機能の維持が重要な場合などが挙げられます。一方で、抜歯窩の治癒を優先すべき急性炎症がある場合や、全身状態が不良で義歯装着のリスクが高い場合などは適応外となります。患者に対しては、即時義歯の特性、装着後の調整の必要性、将来的な新製義歯の必要性などを十分に説明し、同意を得ておくことが重要です。
高度な顎堤吸収を伴う症例では、仮床試適の重要性が一層高まります。顎堤が著しく吸収している場合、義歯の維持や安定が困難になり、患者のQOLに大きな影響を及ぼします。このような症例に対しては、通常の製作手順とは異なるアプローチが必要になることがあります。
顎堤吸収が進行すると、義歯床の支持面積が減少し、咬合圧が集中的にかかるようになります。特に下顎の前歯部顎堤は吸収しやすく、フラットな形態になることが多いです。このような症例では、印象採得の段階から特別な配慮が必要です。個人トレーを用いた筋形成を十分に行い、義歯床辺縁部での維持力を最大限に引き出す必要があります。精密印象では、粘膜の被圧変位性を考慮した印象圧のコントロールが重要になります。
仮床試適の段階では、顎堤の状態に応じた人工歯の排列位置を慎重に決定します。高度な顎堤吸収症例では、人工歯を顎堤頂上に配列することが困難な場合があります。この場合、咬合力の方向と義歯の安定性のバランスを考慮して、やや舌側寄りまたは頬側寄りに排列することもあります。試適時にこの排列位置が適切かどうかを確認し、必要に応じて修正を指示します。
咬合高径の設定も難しい課題です。顎堤が吸収すると、下顔面高が減少している場合が多く、適切な咬合高径の決定が困難になります。低すぎる咬合高径で製作すると審美性が損なわれますが、高すぎると顎関節や咀嚼筋に過度な負担がかかります。仮床試適時には、患者の顔貌、発音、安静空隙などを総合的に評価し、最適な咬合高径を決定します。
結論は慎重な評価が必要です。
顎堤吸収症例では、義歯装着後のリライン(裏装)が必要になることが多いです。特に即時義歯の場合、抜歯後の歯槽骨吸収により、短期間で適合が悪化します。リラインのタイミングや方法についても、患者に事前に説明しておくことが重要です。保険診療では、義歯装着後6ヶ月以内のリラインは修理として算定できますが、それ以降は新製扱いとなる場合があります。
重度の顎堤吸収症例では、保険診療の範囲内での対応に限界がある場合もあります。このような場合、インプラントオーバーデンチャーや、金属床義歯などの自費診療の選択肢についても情報提供を行い、患者の希望と経済状況に応じた治療計画を立てることが望ましいです。
仮床試適の段階で顎堤の状態を詳細に評価し、予想される問題点を患者と共有することで、装着後のトラブルを最小限に抑えることができます。診療録には、顎堤の吸収程度、予測される問題点、対応方針などを具体的に記載し、継続的な管理の基礎資料とします。