仮着用セメント 歯科での選び方と種類

仮着用セメント 歯科における適切な選び方と使い分けを徹底解説。ユージノール系と非ユージノール系の違い、保持力の調整方法、除去時のリスクまで分かりやすく説明しています。あなたの臨床で本当に最適な仮着材を使えていますか?

仮着用セメント 歯科での適切な選択

ユージノール系の仮着材を使うとレジン接着が30%以上低下する。


⚡この記事の3つのポイント
🔍
仮着用セメントの種類と使い分け

ユージノール系と非ユージノール系の特性を理解し、最終補綴の合着材に応じた適切な選択ができます

期間別の仮着材選択基準

短期間(1週間程度)はソフト、長期間(3週間程度)はハードと使い分ける保持力調整の実践方法

⚠️
残留セメントによる歯周リスク

仮着用セメントの取り残しが歯肉炎症や最終合着の接着力低下を引き起こすメカニズムと対策


仮着用セメントの基本的な分類と特徴


仮着用セメントは、最終補綴物が装着されるまでの期間、補綴物を一時的に固定する目的で使用される歯科材料です。合着用セメントとは異なり、「適度な保持力を持ちながらも容易に除去できる」という相反する性質が求められます。この特殊な要求から、仮着材は大きくユージノール系と非ユージノール系の2つに分類されています。


ユージノール系仮着材の代表である酸化亜鉛ユージノールセメントは、粉末の酸化亜鉛と液体のユージノールを練和して使用します。ユージノールには鎮痛・鎮静効果があるため、支台歯が生活歯の場合に知覚過敏を抑制する効果が期待できます。練和時の粉液比を調整することで、稠度を変化させ保持力を微調整できる点も臨床上の大きなメリットです。


つまり使い勝手が良いということですね。


一方で、ユージノールにはレジン系材料の重合を阻害する性質があります。最終合着に接着性レジンセメントを使用する予定がある場合、ユージノール系仮着材の残留が接着力を著しく低下させるリスクがあります。研究によれば、ユージノールが残留した歯面では接着性レジンセメントの接着強さが30%以上低下することが報告されています。


これは使えそうです。


非ユージノール系仮着材は、このレジン重合阻害の問題を解決するために開発されました。カルボキシレート系やグラスアイオノマー系などがあり、最終補綴にレジンセメントを使用する症例で安心して使用できます。ただし、ユージノール系に比べて保持力がやや強めになる傾向があるため、除去時の操作には注意が必要です。


仮着用セメントの保持期間による選択基準

仮着期間の長短によって、適切なセメントの硬度を選択する必要があります。市販されている仮着材の多くは、「ソフト」と「ハード」の2タイプが用意されており、臨床状況に応じた使い分けが可能です。


ソフトタイプは、約1週間程度までの短期間の仮着に適しています。松風のハイ-ボンド テンポラリーセメント ソフトでは、練和時間45秒以内、硬化時間5~8分程度で、比較的軟らかい硬化物が得られます。単冠の仮着や、次回来院時に確実に除去する必要がある症例で使用されます。除去が容易である反面、咬合力の強い部位や保持力が不足しやすい形態の支台歯では脱落のリスクがあります。


除去が簡単なら問題ありません。


ハードタイプは、約3週間程度までの長期間の仮着や、脱落しやすい症例に適しています。同じく松風のハイ-ボンド テンポラリーセメント ハードでは、硬化時間が約10分と長めですが、硬化後の保持力はソフトタイプよりも明らかに高くなります。ブリッジの仮着や、複数回の来院をまたぐ症例、インプラント補綴の仮着などで選択されることが多い材料です。


松風の仮着用セメント製品情報には、各タイプの推奨使用期間や特性が詳しく記載されています。


硬化時間の違いは、余剰セメントの除去タイミングにも影響します。ハードタイプは操作時間が長いため、ブリッジなど複数歯にまたがる仮着でも焦らずに装着と余剰セメント除去ができる利点があります。一方で、硬化しすぎると除去時に細かく砕けて取り残しのリスクが高まるため、タイマーでの時間管理が重要です。


3週間が条件です。


仮着期間が1ヶ月を超える場合は、セメントの経年劣化により辺縁封鎖性が低下し、二次う蝕のリスクが高まります。長期間の仮着が必要な症例では、定期的な経過観察と必要に応じた再仮着の検討が必要になります。


仮着用セメントのユージノール系と非ユージノール系の使い分け

最終補綴物の合着に使用するセメントの種類によって、仮着材の選択は大きく変わります。これは仮着材の残留が最終合着の成否に直接影響するためです。


最終合着にリン酸亜鉛セメントグラスアイオノマーセメントなどの非接着性セメントを使用する場合、ユージノール系仮着材を自由に選択できます。ユージノール系は適度な鎮静効果があり、練和による稠度調整の自由度が高く、臨床上扱いやすいという利点があります。特に生活歯の支台歯で知覚過敏のリスクがある症例では、ユージノールの鎮痛効果が有効に働きます。


最終合着に接着性レジンセメントを使用する予定の症例では、非ユージノール系仮着材を選択するのが原則です。ユージノールの重合阻害作用は、たとえ仮着材を除去した後でも歯質に残留した微量のユージノール成分が影響を及ぼす可能性があります。この場合、カチャックス(サンメディカル)やテンプボンドNE(Kerr)などの非ユージノール系製品が推奨されます。


どういうことでしょうか?


ユージノールによる重合阻害のメカニズムは、ユージノール分子がレジンの重合反応を開始するフリーラジカルを捕捉してしまうことにあります。この作用により、レジンセメントの架橋構造形成が不完全になり、接着強度が低下します。完全にユージノール残留を除去したつもりでも、象牙細管内部に浸透した成分まで完全に取り除くことは困難です。


仮着材の成分比較記事では、各製品のユージノール含有の有無と臨床での使い分けが詳しく解説されています。


やむを得ずユージノール系で仮着した後にレジンセメントで最終合着する必要がある場合は、徹底的な仮着材除去が必須です。超音波スケーラーやエアースケーラーは歯質を傷つけるリスクがあるため使用を避け、手用スケーラーやブラシを用いた丁寧な清掃を行います。さらに、アルコール綿やアセトンでの拭き取りにより、残留ユージノール成分の溶出除去を試みる方法もあります。


レジン接着が必要なら非ユージノール系が基本です。


CAD/CAM冠やジルコニアクラウンなど、接着性レジンセメントでの合着が推奨される補綴物が増加している現在、非ユージノール系仮着材の使用頻度は確実に増えています。日常臨床では、最終補綴の合着方法を見据えた仮着材選択の習慣づけが重要です。


仮着用セメント除去時の注意点とリスク管理

仮着用セメントの除去は、最終補綴物の装着前における重要なステップです。しかし、この工程で取り残しや不適切な操作を行うと、最終合着の失敗や歯周組織への悪影響につながります。


仮着セメント除去のタイミングは、硬化の進行度によって大きく左右されます。仮着後の余剰セメント除去は、セメントが半硬化状態のときが最適です。完全に硬化する前であれば、探針で一塊として除去できます。松風のハイ-ボンド テンポラリーセメント ソフトなら約5~8分後、ハードなら約10分後が目安です。この時間を過ぎて完全硬化すると、セメントが細かく砕けて歯肉縁下に入り込むリスクが高まります。


厳しいところですね。


仮着用セメントの残留は、歯周組織に直接的な悪影響を及ぼします。朝日大学の研究では、クラウン仮着後の仮着用セメントの残留について実験的検討が行われ、全周シャンファーマージンのクラウンを仮着した場合でも、相当量のセメントが歯肉縁下に残留する可能性が示されています。残留セメントは歯肉溝内でプラークの蓄積を促進し、歯肉炎歯周炎の原因となります。


インプラント補綴では、この問題がさらに深刻です。インプラント周囲に仮着セメントが残留すると、インプラント周囲粘膜炎やインプラント周囲炎のリスクファクターとなることが複数の論文で報告されています。日本口腔インプラント学会の報告でも、インプラント周囲疾患の発症に仮着用セメントの残存が影響することが指摘されています。


インプラント周囲疾患発症リスクに関する論文には、仮着セメントの残留がどのように炎症を引き起こすかが詳述されています。


余剰セメント除去の実践的手順としては、まずコンタクト部分から優先的に除去することが重要です。隣在歯との接触点に残留したセメントは、フロスでは除去しきれず、後から発見されにくい場所です。次に歯肉縁下のマージン部を、探針や歯周プローブを用いて丁寧に確認します。乾いた綿球で拭き取りながら、視覚的にセメントの残留がないか確認する作業を怠らないことです。


対合歯にも注意すれば大丈夫です。


超音波スケーラーやエアースケーラーの使用は、余剰セメント除去には推奨されません。これらの器具は支台歯や補綴物を傷つけるリスクがあり、特に仮歯の表面を粗造にすることでかえってプラークが付着しやすくなる可能性があります。


手用スケーラーでの丁寧な除去が基本です。


仮着用セメントの臨床での練和と操作のコツ

仮着用セメントの性能を最大限に引き出すには、正確な練和と適切な操作が不可欠です。同じ製品でも、練和条件によって硬化時間や保持力が大きく変化します。


粉液タイプのセメントでは、粉液比の調整により稠度と保持力をコントロールできます。保持力を強くしたい場合は粉を多めに、除去を容易にしたい場合は液を多めに練和します。ただし、メーカー推奨の比率から大きく外れると、セメントの基本性能が損なわれる可能性があるため、微調整にとどめることが重要です。


練和時間も重要な要素です。規定時間より短いと均一に混ざらず、部分的に硬化不良を起こす可能性があります。逆に練和時間が長すぎると、練和中にすでに硬化反応が始まってしまい、操作余裕時間が短くなります。ハイ-ボンド テンポラリーセメント ソフトなら45秒以内の練和が推奨されています。


粉を多めにすれば保持力が上がるということですね。


練和温度も硬化時間に影響します。室温が高い夏季は硬化が早まり、冬季は遅くなる傾向があります。診療室の温度環境を把握し、必要に応じて練和時間や操作のペースを調整する必要があります。特にハードタイプを使用する場合、冬季は硬化に予想以上の時間がかかることがあるため、患者の口腔内保持時間を長めに確保しておくと安全です。


ペーストタイプの仮着材は、計量と練和の簡便性が利点ですが、均一に練和されているかの目視確認が重要です。2色のペーストが完全に単色になるまで練和しないと、部分的に硬化不良や保持力のばらつきが生じます。GCのフジTEMPのように色調変化で練和状態を確認できる製品では、色のムラがなくなるまで確実に練和します。


仮着後の口腔内保持時間は、セメントが初期硬化に達するまで患者に動かないようにしてもらう必要があります。ソフトタイプで約5分、ハードタイプで約10分が目安です。この間に患者が舌で触ったり、唾液が多量に流入したりすると、セメントの硬化不良や保持力低下につながります。バキュームでの唾液吸引や、ロールワッテでの防湿を適切に行うことが成功のカギです。


仮着用セメントのトラブルシューティングと対策

仮着用セメントを使用する臨床では、予期せぬトラブルに遭遇することがあります。これらのトラブルに対する適切な対処法を知っておくことで、スムーズな診療が可能になります。


仮着後の早期脱落は、最も頻繁に遭遇するトラブルです。脱落の原因としては、支台歯の保持力不足、セメントの練和不良、唾液の混入、咬合が高すぎる、といった要因が考えられます。特に支台歯の高さが低い症例や、テーパー角度が大きい支台歯では、ソフトタイプでは保持が不十分になる可能性があります。この場合、ハードタイプへの変更や、支台歯形態の修正を検討する必要があります。


保持力が条件です。


逆に、除去が困難になるトラブルもあります。ハードタイプを使用した場合や、予定より長期間仮着状態が続いた場合に起こりやすい問題です。無理に外そうとすると支台歯や仮歯を破損させるリスクがあります。対策としては、仮歯の内面にワセリンを少量塗布して保持力を意図的に弱める方法や、超音波振動を短時間与えてセメントの結合を緩める方法があります。ただし、超音波は支台歯を傷つける可能性があるため、慎重な使用が求められます。


仮着材の硬化不良も時折発生します。練和不足、粉液比の誤り、湿度や温度の影響、材料の劣化などが原因です。硬化不良のセメントは保持力が著しく低下し、口腔内で徐々に溶出して二次う蝕のリスクを高めます。硬化不良が疑われる場合は、一旦除去して再度仮着をやり直すことが安全です。


材料の管理も重要な要素です。仮着用セメントの粉は湿気を吸収しやすく、液は揮発性成分を含むため、保管状態が不適切だと性能が低下します。開封後は密栓保管を徹底し、使用期限を守ることが基本です。特にユージノール系の液は光や熱で変質しやすいため、冷暗所での保管が推奨されます。


意外ですね。


患者への説明も、トラブル防止には欠かせません。仮着であることを明確に伝え、硬いものや粘着性のある食品(ガム、キャラメル、餅など)を避けるよう指導します。万が一脱落した場合は自分で接着剤などでつけようとせず、すぐに連絡するよう伝えることで、不適切な自己対処による二次的トラブルを防げます。


複数の種類の仮着材を診療室に常備しておくことも、実践的な対策です。ユージノール系のソフト・ハード、非ユージノール系のソフト・ハードの計4種類を揃えておけば、ほとんどの臨床状況に対応できます。初診時に最終補綴の計画を立てた段階で、どの仮着材を使用するかをカルテに記載しておくと、スタッフとの連携もスムーズになります。




トーヨー 30分速乾性インスタントセメント 1.3kg