あなたが「大きい欠損なら腹直筋皮弁で問題ない」と思っているなら、血管茎の選択ミスで皮弁壊死を起こすリスクがあります。
腹直筋皮弁(Rectus Abdominis Musculocutaneous Flap)を支える主要血管は、上腹壁動脈と深下腹壁動脈の2系統です。 このうち頭頸部再建で積極的に利用されるのは、外腸骨動脈から分岐する深下腹壁動脈(DIEA:Deep Inferior Epigastric Artery)です。 深下腹壁動脈は腹直筋の後面を上行し、腹直筋内に多数の穿通枝を出しながら上腹壁動脈と吻合する構造を持ちます。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411901972)
血管茎の長さは平均で10〜14cm程度確保でき、これははがきの横幅とほぼ同じ長さです。 この長さが、口腔外科再建においてレシピエント血管(顔面動脈や上甲状腺動脈など)まで確実に届く大きな利点になります。血流が豊富かつ血管茎が太いことが特徴です。 dentaljuku(https://www.dentaljuku.net/oral-cancer/flap-used-reconstruction)
つまり「長くて太い血管茎」が腹直筋皮弁最大の強みということですね。
一方、上腹壁動脈を茎とした有茎皮弁では、腹直筋起始部をpivot pointとして回転させる設計になりますが、血管茎の長さが不足するため、物理的に頭頸部の欠損部に到達できません。 口腔外科領域で腹直筋皮弁を使う場合は、必ず深下腹壁動脈を茎とした遊離皮弁として計画する必要があります。これは基本原則です。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411901972)
口腔癌の再建に使われる皮弁の種類と血管解剖(DentalJuku)
深下腹壁動脈から腹直筋を貫いて皮膚・皮下脂肪へ至る細い枝が「穿通枝(perforator)」です。 この穿通枝の数・位置・直径には著しい個人差があり、同じ腹部でも穿通枝の支配領域が大きく異なります。 innervision.co(https://www.innervision.co.jp/sp/ad/suite/aze/jisedai/162)
術前にCTアンギオグラフィーで穿通枝を三次元描出することで、安全な皮弁デザインが可能になります。 具体的には、臍周囲にある穿通枝の座標をマッピングし、最も太い穿通枝(直径0.5mm以上が目安)を茎として選択します。これが皮弁壊死リスクを下げる条件です。 innervision.co(https://www.innervision.co.jp/sp/ad/suite/aze/jisedai/162)
穿通枝の位置を術前に把握できていないと、挙上中に予期せず細い穿通枝しか確保できず、皮弁の一部または全体が壊死するリスクが高まります。意外ですね。
| 皮弁タイプ | 主茎血管 | 腹直筋犠牲 | 血流安定性 | 主な適応 |
|---|---|---|---|---|
| TRAM皮弁(有茎) | 上腹壁動脈 | 大(全幅) | 不安定 | 乳房再建(限定的) |
| 遊離TRAM皮弁 | 深下腹壁動脈 | 中〜大 | 安定 | 口腔・頭頸部再建 |
| MS-TRAM皮弁 | 深下腹壁動脈 | 小〜中 | 安定 | 頭頸部・乳房再建 |
| DIEP皮弁 | 深下腹壁動脈穿通枝 | なし | 安定(技術依存) | 乳房再建・軟部再建 |
国立がん研究センター中央病院:腹直筋皮弁とDIEP皮弁の違いについての解説
口腔癌切除後の再建において、腹直筋皮弁の適応が特に広いのは大量の軟部組織が必要なケースです。 舌亜全摘・全摘後の舌口腔底再建、上顎洞癌切除後の上顎再建、中咽頭進行癌切除後の再建などが代表例として挙げられます。 iryogakkai(https://iryogakkai.jp/2006-60-04/248-253.pdf)
選択の判断基準として重要なのが「欠損ボリューム」と「患者のBMI」です。 BMIが高い患者では腹部皮下脂肪が十分にあり、ボリューム確保が容易な反面、皮弁が重くなりすぎる懸念もあります。逆に痩せ型の患者では皮弁採取量が限られるため、前外側大腿皮弁(ALT皮弁)への変更を検討するケースもあります。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411200668)
これは使えそうです。
舌半切程度の比較的小さな欠損では、前腕皮弁やALT皮弁のような薄い皮弁が選ばれます。 一方、亜全摘以上の大きな欠損では腹直筋皮弁のボリュームが不可欠です。欠損の大きさと皮弁の選択は対応関係として覚えておけばOKです。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1411200668)
口腔外科医・歯科医師が術前に患者のBMIと欠損予定範囲を評価しておくことで、形成外科チームとの連携がスムーズになります。術前計画の精度を上げるには、患者の腹部CT情報の共有が有効です。
頭頸部がんの再建外科:腹直筋皮弁の適応範囲と欠点(国立医療学会誌)
遊離腹直筋皮弁の成功は、レシピエント血管の選択と吻合技術に大きく依存します。 口腔外科領域では、顔面動脈・静脈、上甲状腺動脈、外頸静脈などが主なレシピエント血管となります。 cir.nii.ac(https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282681504422528)
血管吻合部に過剰なテンション(緊張)がかかると血栓形成リスクが高まります。これは必須の知識です。腹直筋皮弁の場合、深下腹壁動脈の外径は2〜3mm程度(太さは鉛筆の芯よりやや太い程度)が一般的で、顔面動脈との口径差が問題になることがあります。この口径差への対処として、端側吻合(end-to-side anastomosis)を選択するケースもあります。
また、術前に放射線照射を受けた患者ではレシピエント血管の壁が脆くなっていることがあります。 放射線治療歴のある患者の場合、吻合部の位置をより中枢側(照射野外)にずらす工夫が求められます。術前情報の把握が血管吻合の質に直結するということですね。 jmedj.co(https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_8181)
以下に血管吻合時に注意すべきポイントを整理します。
腹直筋皮弁採取後のドナーサイト合併症は、歯科医師や口腔外科医が患者の全身状態を把握する上で欠かせない情報です。代表的な合併症として腹壁ヘルニア(脱腸)、腹直筋の筋力低下、腹部膨隆などがあります。 ncc.go(https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/plastic_surgery/ps/01.html)
腹壁ヘルニアの発生率は皮弁の種類によって異なります。筋肉を大きく犠牲にするTRAM皮弁では約3〜5%に腹壁ヘルニアが生じるとされ、筋温存型(MS-TRAM)やDIEP皮弁ではその頻度が有意に低下するとされています。 筋の犠牲が少ないほど合併症が減る、ということですね。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/891fb5d8-8763-4fa0-9aba-c226210a9caa)
歯科治療との関連では、治療中の体位(長時間の仰臥位や半仰臥位)が腹部の筋力低下のある患者に不快感を与えることがあります。腹直筋皮弁後の患者に対しては、チェアの傾斜角度や姿勢サポートへの配慮が必要です。これは見落とされがちな実務的な知識です。
また、術後長期にわたって腹部の感覚異常(しびれ、違和感)が残存するケースがあります。患者が「腹部に変な感じがある」と訴える場合、それがドナーサイトの後遺症である可能性を念頭に置いておくと、インフォームドコンセントの質が上がります。
国立がん研究センター東病院:腹直筋皮弁の合併症リスクの詳細解説