ユーザーシールチェックをしているだけでは、フィットテストの代わりにはなりません。
歯科診療の現場では、治療中に患者の唾液や血液が飛散するリスクが常に存在します。そのため、サージカルマスクよりもフィルター性能の高いN95マスクを使用する場面が多くあります。しかし、N95マスクはどれほど高性能であっても、顔にしっかり密着していなければ意味がありません。つまり「性能」と「密着性」は別の問題です。
フィットテストとは、装着者の顔とマスクとの密着状態(フィット)を確認するための試験です。大切なのはここです。着けていれば安全というわけではなく、きちんとフィットしていて初めて防護が成立します。
特に歯科医療従事者が注意すべき点として、職業感染制御研究会のガイドラインには「装着する可能性のある医療従事者ごとにテストを行う必要がある」と明記されています。同じ施設内でも、スタッフの顔の形は一人ひとり異なるため、採用されているN95マスクが全員に合うとは限りません。これが重要です。
米国(OSHA)では、N95マスクの導入時、以降は年に1回、さらに体重の増減など顔貌に変化があった場合にもフィットテストを義務付けています。日本での医療機関への法的義務化は現時点では産業分野(溶接作業など)が中心ですが、感染予防の観点から、歯科診療においても積極的に実施することが強く推奨されています。
フィットテストを一度も受けないまま「毎回シールチェックはしている」という状態で働いている歯科スタッフは少なくありません。しかしユーザーシールチェックは「そのとき正しく装着できているかの確認」にすぎず、自分の顔にそのマスクが本当に合っているかを確認するフィットテストの代替にはなりません。この2つは別物と理解しましょう。
参考:職業感染制御研究会による個人防護具(PPE)の選択・使用に関する情報(N95マスクの選び方・使い方)
https://www.safety.jrgoicp.org/ppe-3-usage-n95mask.html
フィットテストには大きく「定性的フィットテスト」と「定量的フィットテスト」の2種類があります。それぞれに特徴があるため、歯科クリニックや訪問歯科の現場でどちらを選ぶかは、コストと精度のバランスで判断することになります。
| 項目 | 定性的フィットテスト | 定量的フィットテスト |
|---|---|---|
| 判定方法 | 味覚・嗅覚(サッカリン等) | 専用機器による粒子数計測 |
| 対象マスク | 半面形面体のみ | 半面形・全面形どちらも可 |
| コスト | 比較的低い | 機器が高額(数十万円〜) |
| 客観性 | やや主観的 | 数値化されるため高い |
| 所要時間(1人) | 約15分 | 約5〜10分 |
| 注意点 | 味覚障害があると使用不可 | 機器準備・操作の習熟が必要 |
定性的フィットテストの肝はこうです。サッカリン(甘味)やBitrex(苦味剤)をエアロゾル化してフード内に噴霧し、マスクを着用した状態で味を感じるかどうかで密着性を判定します。「味がすれば漏れている」というシンプルな仕組みです。導入コストが抑えられるため、小規模な歯科クリニックでも実施しやすい方法です。
一方、定量的フィットテストは専用の測定器(例:柴田科学のMT-05U型や米国TSI社のポータカウントプロ+)を使い、マスク内外の粒子数の比率から「フィットファクター」という数値を算出します。数値で客観的に判定できるのが大きな強みです。歯科医院よりも病院・施設のICT委員会が主体となって実施するケースが多いです。
定性的フィットテストを選択する場合の重要な注意点が一つあります。テスト前の少なくとも15分間は、水以外の飲食・喫煙・チューインガム・歯磨きを控える必要があります。味覚に影響してテストの精度が下がるためです。「食後すぐに検査できる」という思い込みは禁物です。
また、定性的テストは「味覚障害がある場合は実施不可」という制約もあります。亜鉛欠乏やウイルス感染後の味覚障害を持つスタッフがいる場合は、定量的フィットテストを選択する必要があります。該当スタッフの存在は事前に確認しましょう。
参考:3Mが監修した医療従事者向けN95マスク適正使用ガイド(東京女子医科大学感染制御科 満田年宏教授監修)
http://jrgoicp.umin.ac.jp/rtip/HPM_528_D_N95_users_guide.pdf
ここからが実践的な内容です。歯科医院でよく使われる定性的フィットテストの手順と、定量的フィットテストの標準プロトコルをあわせて解説します。
**🔵 定性的フィットテストの手順(サッカリン使用)**
| 動作 | 内容 |
|------|------|
| 通常呼吸 | 静かに深呼吸を繰り返す |
| 頭を左右に動かす | ゆっくりと左右に振る |
| 頭を上下に動かす | ゆっくりと上下に振る |
| 発声 | 「あいうえお」とゆっくり大きく発音 |
| 前屈 | 腰を曲げてつま先に触れる動作 |
いずれの動作中にも甘みを感じなければ合格です。感じた時点で即不合格となります。
**🔵 定量的フィットテストの標準プロトコル(OSHA基準・合計約7分15秒)**
合格基準は「フィットファクター(FF)100以上」です。これはマスク外側の粒子数÷内側の粒子数で算出されます。FFが100であれば、マスク内側は外側の100倍きれいな空気が入っているということになります。漏れ率に換算すると1%以下です。
短縮版プロトコルも存在し、こちらは約2分29秒で完了します。前屈・発声・左右・上下の4動作のみです。時間が限られる現場では短縮版を選ぶことも選択肢の一つです。
参考:メディアスホールディングスによるN95マスクの適正使用に関する解説記事
https://www.medius.co.jp/asourcenavi/n95/
フィットテストで不合格になることは珍しくありません。不合格は問題ではなく、自分に合ったマスクを選ぶための重要な情報です。
まず、不合格になった場合は慌てずに次の手順を踏みましょう。最初に行うべきはマスクの装着し直しです。ノーズワイヤが鋭角になっていると鼻の頂点に隙間ができます。顔をしっかり覆い直した上で再測定します。それでも合格しない場合は、別の形状・別のメーカーのN95マスクで試すことが次のステップです。
N95マスクには主に3つの形状があります。
同一メーカーの製品でも形状やサイズが異なれば結果が変わります。「A社のカップ型は不合格でも、B社の三つ折り型は合格した」というケースは非常に多いです。複数の製品を試してみることが原則です。
歯科クリニックで重要なのは、施設として採用している1種類のN95マスクがスタッフ全員に合うと思い込まないことです。2011年に実施された595名の感染管理認定看護師を対象とした調査では、フィットテストを実施したことのない施設が32.8%、年1回以上実施している施設はわずか25.7%にとどまりました。この数字は意外ですね。フィットテストの普及がまだ十分でないことを示しています。
また、定量的フィットテストで不合格が続く場合には、PAPR(電動ファン付き呼吸用保護具)への切り替えも選択肢の一つです。PAPRはルーズフィット形のため、顔の形を問わず高い防護性能を発揮します。ひげを剃れないスタッフや、どうしてもN95マスクがフィットしないスタッフには有効な代替手段です。
フィットテストに一度合格しても、それが永久に有効なわけではありません。これが見落とされやすい盲点です。
顔の形は体重の変化によって変わります。体重が数キログラム増減するだけで、顔の頬や顎周りの厚みが変化し、以前はフィットしていたマスクが浮くことがあります。OSHAのガイドラインでは、体重増減など顔貌に変化があった際には改めてフィットテストを実施することを義務付けています。「半年前に合格したから大丈夫」は危険な油断です。
再実施が必要なタイミングをまとめると、以下のケースが該当します。
歯科特有の注意点もあります。定性的フィットテストはサッカリンの甘みを感じる味覚を使いますが、歯科治療後の患者を担当した直後など、口の中に残留物がある状態では正確な判定ができません。テスト前15分は水以外を口にしないことが条件です。また、テスト中に大きく口を開けて発声する動作がありますが、歯科医師・歯科衛生士は診療中にも口を開ける場面が多いため、この動作が特に重要な確認ポイントになります。口の開閉でマスクが浮きやすいことを意識した上でフィットテストを受けてください。
ひげ(無精ひげを含む)がある状態でフィットテストを行うと、ほぼ確実に不合格になります。ひげがマスクと顔の間に入り込み、密着性を著しく低下させるためです。これは数値で証明されており、注意が必要です。フィットテストの日に限らず、N95マスクを着用するすべての日にひげがない状態で出勤することが、感染対策上の重要な職業的ルールです。
フィットテストの記録管理も重要な業務の一つです。結果(合格・不合格・フィットファクター数値)、使用したマスクのメーカー・製品番号・サイズ、実施日、体重などを記録し、スタッフごとに保管しておくことをお勧めします。定量的フィットテスト実施の記録簿には「実施日」「体重」「マスクのメーカー」「形状」「製品番号」「フィットファクター」「漏れ率」「コメント」を記入するのが標準フォーマットです。記録は感染管理の証拠にもなります。
参考:フィットテスト研究会産業部会(呼吸用保護具の正しい使用法の普及活動)
https://www.navida.ne.jp/snavi/101081_1.html
フィットテストを「いつかやろう」と思いながら後回しにしている歯科医院は少なくありません。しかし、一度体制を整えると以降は年1回の確認だけで維持できます。まずは何を準備すればよいかを整理しましょう。
歯科クリニックが定性的フィットテストを自院で始める場合、必要なものはそれほど多くありません。
一般財団法人化学物質評価研究機構(CERI)や各地の予防医学協会では、外部委託によるフィットテスト実施サービスを提供しています。機器を自院で持つのが難しい場合は外部サービスの活用を検討してください。1人あたり数千円〜1万円程度の費用で実施できるケースが多いです。コストに見合う感染防護の価値があると考えれば、決して高くはありません。
訪問歯科診療を行うスタッフについても同様に重要です。在宅・施設での診療は換気が制限される空間で行われることが多く、歯科診療中に生じるエアロゾルのリスクが高まります。「訪問だから大丈夫」という思い込みは禁物です。携帯できるポータブルタイプのN95マスクを使用する際も、事前のフィットテストは必須です。
最後に確認すべき一点があります。N95マスクの下にサージカルマスクを重ねて着用しているスタッフがいる場合、その行為はN95マスクの密着性を損なう可能性があります。サージカルマスクによって顔とN95マスクの間に隙間ができ、折角のフィルター性能が無効になるためです。重ね着けは厳禁として、スタッフ全員に周知しておきましょう。
フィットテストを正しく実施することは、歯科従事者自身の健康を守るだけでなく、患者への感染リスクを最小化するための最も基本的な職業的安全行為です。「着けている」から「守れている」へ、一歩進んだ感染対策を実践してください。
参考:メディコムジャパンによる正しいマスク着用方法の解説(定性的・定量的フィットテストの手順を掲載)
https://medicom-japan.com/infection/%E6%AD%A3%E3%81%97%E3%81%84%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%81%AE%E7%9D%80%E7%94%A8%E6%96%B9%E6%B3%95/
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