dp皮弁の栄養血管と安全な採取・再建の知識

dp皮弁(deltopectoral flap)の栄養血管である内胸動脈穿通枝の解剖から、安全な皮弁デザイン・採取法まで徹底解説。救済手術での活用法や先端壊死を防ぐポイントも網羅。知らないと再建失敗につながる落とし穴とは?

dp皮弁の栄養血管と安全な採取・再建の基礎知識

内胸動脈の第3穿通枝だけ確実に含めれば、三角筋部まで伸ばしても生着できると思っていませんか。


この記事の3ポイント要約
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栄養血管は内胸動脈穿通枝第1〜4枝

DP皮弁は内胸動脈の第1〜第3(できれば第4)穿通枝を含めることが血流確保の基本。特に第2・第3穿通枝が最重要で、これを外すと先端壊死リスクが急上昇します。

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三角筋を超えた設計は壊死の高リスク

皮弁先端を三角筋の外側まで伸ばすと、一期的手術では高率に血流不全・壊死が発生します。先端外側は「真上から見える範囲=三角筋部を側方から見た正中線部まで」に抑えるのが安全設計の原則です。

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救済手術・放射線治療後でも最有力の選択肢

遊離皮弁が第一選択の時代でも、放射線治療後の再発症例や遊離皮弁壊死後のレスキューではDP皮弁が不可欠。血管吻合が不要で、頸部の吻合血管が使えない症例にも対応できます。

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dp皮弁(deltopectoral flap)とは何か:歴史と基本構造

DP皮弁(deltopectoral flap)とは、前胸部から三角筋部にかけての皮膚・皮下脂肪からなる皮膚筋膜弁です。その栄養血管は内胸動脈の穿通枝であり、肋骨と肋骨のあいだ(肋間)ごとに胸骨端から外側方向へ走行しています。


この皮弁の歴史は長く、文献上では1917年にAymardが外鼻再建に用いたことが最初の報告とされています。1930年代にはJosephらが追記していますが、その後40年近くほとんど注目されませんでした。転機となったのは1965年のBakamjianによる報告です。Bakamjianは皮弁の茎部(血管付着部)を外側ではなく胸骨側(正中側)に置くことで、血流が格段に安定することを示しました。それ以前の方法では茎を肩(外側)においていたため血流が不安定でしたが、Bakamjianの方法への転換により、この皮弁は頭頸部再建に広く普及しました。このためDP皮弁は「Bakamjian flap」とも呼ばれます。


皮弁の大きさは、鎖骨に沿って幅約10cm・長さ約20cm(はがき縦2枚分ほどの面積)が標準です。大胸筋は含めず皮膚と皮下脂肪のみを採取します。これが同じ前胸部から採取する大胸筋皮弁(PMMC flap)との大きな違いです。


現在、頭頸部領域の再建では遊離組織移植が第一選択となることが多いです。しかし1960年代のDP皮弁登場から1970年代の大胸筋皮弁、そして1980年代以降の遊離組織移植という流れで進化してきた歴史からも、DP皮弁は頭頸部再建外科の礎を築いた皮弁として現在も高く評価されています。


参考:口腔癌の再建に使われる皮弁(DP皮弁・大胸筋皮弁・遊離皮弁の種類と特徴を図解で解説)


dp皮弁の栄養血管:内胸動脈穿通枝の解剖と血流の仕組み

DP皮弁の生死を決めるのは栄養血管の理解です。つまり内胸動脈の穿通枝解剖です。


内胸動脈は胸骨の両端に沿って縦走する動脈で、各肋間から外側方向へ穿通枝を分岐します。DP皮弁が依拠するのは、主に第1・第2・第3肋間穿通枝であり、可能であれば第4穿通枝まで含めることが推奨されています。なかでも血流の観点から最重要なのは第2・第3穿通枝です。第1穿通枝もあわせて取り込むことで皮弁基部の血流がより安定しますが、第4穿通枝まで含めた場合には三角筋部側へのやや遠位の血流補強が期待できます。


皮弁の外側(三角筋部)に向かう血行は「ランダムパターン(random pattern)」となります。これは特定の栄養血管に依存しない毛細血管レベルの血流であり、安定性に劣るということです。そのため、三角筋部を過度に外側まで延長した設計は、先端部の血流不全と高率の壊死につながります。


松本歯科大学の報告によると、DP皮弁は第1〜第4内胸動脈穿通枝により栄養される有軸皮弁であり、delayなしで長さ対幅比3:1の皮弁設計が可能とされています。この比率を守ることが安定した生着の条件です。


術前に内胸動脈穿通枝の位置を把握しておくことも重要です。超音波ドップラー検査(カラードプラーモード)を使って術前にマーキングすることで、第3・第4肋間穿通枝の走行を確認でき、より確実な皮弁設計が可能です。皮弁先端外側の安全な範囲は「真上から見える範囲、つまり三角筋部を側方から見た正中線部まで」が目安です。これが原則です。


参考:DP皮弁の特徴と安全な採取法(耳鼻咽喉科・頭頸部外科 81巻5号 医学書院)内胸動脈穿通枝の詳細と安全採取の要点


dp皮弁の先端壊死を防ぐ:デザイン・採取上の注意点

DP皮弁の大きな弱点の一つが先端部壊死です。壊死を防ぐには、設計段階からの注意が必要です。


皮弁先端を三角筋部の外側まで伸ばすと、一期的手術では高い確率で先端部分が血流不全に陥ります。これはランダムパターンの血流領域を広げすぎることが原因です。安全なデザインの具体的な指標として、皮弁外側の先端は「真上から見えている範囲」、すなわち三角筋部を側方から見た正中線部まで、と設定することが推奨されます。


福岡歯科大学口腔外科の10年間の検討(2013年)では、D-P flapの完全生着率は100%でした。この好成績の背景には、DP皮弁の使用を「化学放射線治療後の再発」あるいは「遊離皮弁壊死後の救済手術」に限定し、さらに内胸動脈の第1〜第3穿通枝(可能ならば第4枝まで)を含めた確実な設計を厳守したことがあります。この設計ルールを守ることにより全例完全生着が認められた、と報告されています。


採取操作においても注意が必要です。第4肋骨より下方の胸壁からの剥離は可能な限り胸壁側で鋭的に行い、前肋間枝の穿通枝を傷つけないようにします。鎖骨を越えて頸部へ移動させる際は、鎖骨の上方あるいは鎖骨下面の骨膜を切開して鎖骨下を通すことで皮弁に無理な緊張がかかりにくくなります。


皮弁採取部には筋肉が露出するためほとんどの症例で分層植皮が必要です。これはDP皮弁の欠点の一つとして広く知られており、ドナー部の美容的・機能的問題として術前に患者へ十分な説明が求められます。


dp皮弁が今なお選ばれる場面:救済手術・放射線照射後への適応

遊離皮弁が主流の現代でも、DP皮弁が現役で活躍する場面があります。これは見逃せない知識です。


最大の出番は「遊離皮弁が使えない症例」へのレスキューです。具体的には次の3つのケースが代表的な適応です。


1つ目は、遊離皮弁壊死後の救済手術(サルベージ手術)です。一度遊離皮弁が壊死すると頸部の吻合に使える血管がなくなっていたり、創部に感染が伴っていたりすることが多く、再度の遊離組織移植が困難になります。そのような状況でもDP皮弁は血管吻合が不要なため適用できます。


2つ目は、放射線治療後の再発症例における再建です。化学放射線治療後の頸部皮膚は線維化が進み、硬くしなやかさを失っています。このような組織では吻合血管の確保が難しいうえ、吻合後も血管閉塞リスクが高まります。一方DP皮弁は血管吻合を必要としないため、こうした症例でも頸部皮膚の張り替えを比較的安全に行えます。


3つ目は、全身状態不良により手術時間短縮が求められる症例です。遊離皮弁では血管吻合に加え皮弁挙上に大幅な時間を要しますが、DP皮弁は2.6時間程度(前述の検討から)で再建まで完了できます。これは高齢者や全身合併症を持つ患者にとって大きなメリットです。


DP皮弁はこれらの場面で「保険」として機能するため、遊離皮弁の手術を行う術者は必ずDP皮弁の技術も身につけておく必要がある、と専門家の間で一致した見解があります。技術を習得していないと、救済の場面で患者を守れなくなるリスクがあるということです。


dp皮弁と大胸筋皮弁(PMMC flap)の違い:歯科口腔外科で知っておくべき使い分け

頭頸部再建で用いられる有茎皮弁には、DP皮弁と大胸筋皮弁(PMMC flap)の2種類が代表的です。この2つは似ているようで、栄養血管・適応・合併症が大きく異なります。


最大の違いは栄養血管の種類と組織の厚みです。DP皮弁は内胸動脈穿通枝が栄養血管で、採取するのは皮膚と皮下脂肪のみです。薄くてしなやかな組織であるため、頸部皮膚欠損の被覆や瘻孔閉鎖、顔面部の被覆に適しています。対してPMMC flapは胸肩峰動静脈が栄養血管で、皮膚・皮下脂肪に加えて大胸筋を含む、ボリュームのある皮弁です。舌全摘・亜全摘後の大きな口腔内欠損や、頭頸部の深い空洞を埋める再建に向いています。


組み合わせて使うことも可能です。舌癌の広範切除例では、PMMC flapによる口腔内欠損充填とDP皮弁による頸部皮膚被覆を同時に行った例が報告されています(前述の検討でも2例あり)。これはお互いの特性を活かした戦略的な使い分けです。


合併症パターンにも違いがあります。PMMC flapでは皮弁の下垂(約24%)や頸部でのpedicle緊張(約16%)が問題となることがあります。DP皮弁では茎部切離後の菌血症リスク(前述の検討で1/7例)や、瘻孔形成(約33%)が多めという特徴があります。どちらも洗浄による保存的治療で対処できることがほとんどですが、術前・術後管理の際の重要な視点です。


女性患者においてはPMMC flapで乳房の変形が強くなることがあるため使用が難しい場合があります。この点でDP皮弁は男女を問わず採取しやすいという優位性があります。


参考:頭頸部の再建術(日本頭頸部外科学会 患者向け解説ページ)DP皮弁・大胸筋皮弁・各種遊離皮弁の詳細な解説図あり


dp皮弁の現代的な活用:遊離皮弁時代における有茎皮弁技術の必要性

遊離組織移植が再建の主役となった現在でも、DP皮弁の習得は歯科口腔外科医にとって必須です。


現代の頭頸部再建では前腕皮弁・腹直筋皮弁・前外側大腿皮弁・腓骨皮弁などのマイクロサージャリーを用いた遊離組織移植が第一選択です。これらは血管吻合によって移植組織に確実な血流を確保し、移植位置の自由度も高いという優れた特性があります。


ところが遊離皮弁にも弱点があります。手術時間が長くなること、全身麻酔時間の延長に伴う全身合併症のリスク、そして頸部吻合血管が使えない症例では根本的に適用できないことです。加えて一度遊離皮弁が壊死すると、同一部位への再度の遊離移植は非常に困難になります。


だからこそ、DP皮弁を含む有茎皮弁の技術は「遊離皮弁への対抗手段」ではなく「遊離皮弁を安心して行うための保険」として位置づけられています。遊離組織移植が失敗したとき、確実にカバーできる技術を持っているかどうかが、口腔外科医・頭頸部外科医としての実力差をつくります。


大阪医科薬科大学の研究では、化学放射線治療後の頸部皮膚欠損に対し、有茎皮弁の再建が遊離皮弁に劣らない治療成果を上げていることが2024年に報告されています。遊離皮弁が困難な症例群においても術後の機能回復・食事摂取機能において有茎皮弁再建で良好な成績が得られており、DP皮弁はいまも現役の重要技術です。


研修医・若手口腔外科医の立場で考えると、遊離組織移植を習熟する前にDP皮弁・大胸筋皮弁といった有茎皮弁を正確に習得しておくことが、患者への安全性確保につながります。解剖の理解から皮弁設計・採取・ドナー部の植皮まで一連のプロセスを体得することが大切です。