治療が完璧でも、DMF指数が高い患者はリコールを飛ばすと6ヶ月で新たなD歯が発生するリスクがあります。
DMF指数は、1938年にKlein Hらによって考案された、う蝕(虫歯)経験を数量的に評価するための指標です。う蝕は自然治癒が期待できない疾患であるため、「現在進行中の虫歯」だけでなく、過去に処置した歯や喪失してしまった歯も含めて「経験歯数」として記録するという発想が背景にあります。この考え方は現在も世界標準として通用しており、WHO(世界保健機関)の口腔保健調査にも採用されています。
まず3つの構成要素を確認しましょう。**D(Decayed tooth)** は未処置のう蝕歯のことで、現在進行形で虫歯になっている歯を指します。**M(Missing tooth because of caries)** は、う蝕が原因で抜去・喪失した歯です。そして **F(Filled tooth)** は、う蝕が原因で処置・充填された歯を意味します。コンポジットレジン修復やクラウン装着がなされた歯はFに分類されます。
ここで一点注意が必要です。Mの定義は「う蝕が原因の抜去」に限定されている点が重要です。ただし、30歳以上の被験者については、う蝕以外の原因(歯周病や外傷など)で喪失した歯をMに含める場合があります。つまり、30歳という年齢を境にM歯の扱いが変わるということです。30歳以上ではM歯にう蝕以外の原因が混在することを覚えておく必要があります。
また大文字のDMFは永久歯列を対象とした指標であり、乳歯列には別の指標である **def(dmf)指数** を用います。大文字と小文字で対象歯種が異なるという点は、国家試験でも頻出の確認ポイントです。つまり「DMF=永久歯、def/dmf=乳歯」が原則です。
| 記号 | 英語の意味 | 日本語の意味 |
|---|---|---|
| D | Decayed tooth | 未処置う蝕歯 |
| M | Missing tooth (due to caries) | う蝕原因の喪失歯(30歳以上は例外あり) |
| F | Filled tooth | う蝕処置歯(充填・クラウン含む) |
歯科従事者がDMFの定義を正確に把握することは、疫学調査の数値を正しく読み解くうえでの出発点になります。基本がしっかりしていることが条件です。
参考リンク(DMF・def指数の詳細な定義と各指標の算出式について):
国際保健用語集(日本国際保健医療学会)
DMFを使った指標には複数の種類があり、それぞれ分子と分母が異なります。混同すると計算を誤る原因になるので、整理しておきましょう。
まず最もよく使われる **DMFT指数(一人平均DMF歯数)** です。TはTooth(歯)の略で、集団全員のDMF歯数の合計を被検者数で割った値になります。
$$\text{DMFT指数} = \frac{\text{被験者全員のDMF歯数の合計}}{\text{被検者数}}$$
例えば10人の集団で、全員のD・M・F歯を合計したら30本だったとすれば、DMFT指数は3.0となります。学校の全校生徒を対象にした学校歯科健診では、このDMFT指数が学校ごと・年齢ごとに算出されて比較されます。
次に **DMFS指数(一人平均DMF歯面数)** です。SはSurface(歯面)の略で、歯を単位にするのではなく歯面(面)を単位として数えます。1本の歯には最大5面(咬合面・頬側面・舌側面・近心面・遠心面)があるため、より精密なう蝕評価が可能です。
$$\text{DMFS指数} = \frac{\text{被験者全員のDMF歯面数の合計}}{\text{被検者数}}$$
**DMF者率** は、DMFのいずれか1歯以上を持つ人(う蝕経験者)が集団の中に何割いるかを示すパーセント表記の指標です。
$$\text{DMF者率(\%)} = \frac{\text{DMF歯を1歯以上持つ被験者数}}{\text{被検者数}} \times 100$$
そして **DMF歯率** は、被検歯数全体のうちDMF歯が占める割合です。分母が「被検歯数(M歯を含む)」になる点が重要で、DMF者率の分母と混同しないよう注意が必要です。
$$\text{DMF歯率(\%)} = \frac{\text{被験者のDMF歯数の合計}}{\text{被検歯数(M歯を含む)}} \times 100$$
これらの違いを整理すると、DMFT指数は「1人あたり平均何本の経験歯か」、DMF者率は「集団の何割がう蝕を経験しているか」、DMF歯率は「全部の歯のうち何割がう蝕経験歯か」という問いに答える指標です。目的によって使い分けることが大切です。
歯科衛生士・歯科医師の国家試験では、分母が「被検者数か被検歯数か」を問う問題が頻出です。計算式の分母だけを覚えておけばOKです。
なお、DMFS指数の算出式の分母は「被検者数」です。被検歯面数ではありません。この点は国試の頻出ひっかけポイントです。分母の確認が条件です。
参考リンク(DMFS指数とDMF歯率の計算式・評価方法の解説):
DMF歯率|クインテッセンス出版 異事増殖大事典
厚生労働省は6年に1度「歯科疾患実態調査」を実施しており、令和4年(2022年)の最新調査では多くの注目データが公表されました。歯科従事者として把握しておきたい数値を確認しましょう。
まず永久歯のDMFT指数について。5歳以上10歳未満では処置歯または未処置のう歯を持つ者の割合は3%を下まわっていましたが、25歳以上では80%以上と急増しています。特に45歳以上では約99〜100%に近い数値が続きました。つまり、成人のほぼ全員が何らかのう蝕経験を持つということです。
年齢別のDMFT指数を見ると、15〜24歳で2.5本、25〜34歳で6.6本、35〜44歳で9.7本と、30代から40代にかけて急増しています。75歳以上の年齢層では22.1本というデータも示されており、生涯を通じてう蝕が蓄積されていくことが明確にわかります。これは単に「むし歯が多い」という話ではなく、「F(処置歯)の積み重ねが生涯にわたって続く」という口腔保健の課題を浮き彫りにしています。
学校保健統計調査(令和4年度)では、12歳児のDMFT指数(一人平均むし歯等数)は **0.56本** と報告されており、1984年の調査開始以降ほぼ毎年減少し続け、過去最低を更新しました。この数値はWHOと国際歯科連盟(FDI)が設定した「2000年目標値3本以下」を大幅に下まわっており、日本の小児歯科保健は大きく改善されたといえます。いいことですね。
しかし一方で、令和4年調査では35歳以上における緩やかな改善傾向が確認された反面、**55歳以上ではDMFT指数が増加傾向** を示している年齢層も存在していました。高齢化の進行に伴い、M(喪失歯)が多い世代の口腔管理が今後の歯科医療の重要課題であることが読み取れます。
また、一人平均処置(充填・クラウン)歯数は、男女比較で**女性の方が全体的に高い数値**を示しています。例えば45〜49歳では男性10.2本に対し女性11.4本と差が見られました。つまりF歯数は女性の方が多いということです。
参考リンク(令和4年歯科疾患実態調査の結果全文:DMFT指数の年次推移・年齢別データ等):
令和4年 歯科疾患実態調査結果の概要(厚生労働省)PDF
DMF指数を語るうえで避けては通れないのが、都道府県別の格差です。令和3年度の学校保健統計調査によると、12歳児の一人平均むし歯等数は以下のようになっています。
| 順位 | 都道府県 | 12歳DMFT指数(本) |
|---|---|---|
| 最低(最良) | 新潟県 | 0.2 |
| 2位(良) | 岐阜県・愛知県 | 0.3 |
| 全国平均 | — | 0.63 |
| 最高(要改善) | 沖縄県 | 1.6 |
新潟県0.2本に対して沖縄県1.6本、つまり**同じ12歳でも約8倍の差**があります。意外ですね。この差がなぜ生まれるのかを理解しておくことは、地域歯科保健を考える上でも非常に重要です。
新潟県のむし歯が少ない主な要因としては、1960年代から水道水フッ化物濃度調整事業(フッ化物洗口の普及)を積極的に導入し、学校での歯科保健教育を継続的に実施してきた歴史的背景が挙げられます。新潟県は50年以上にわたって一貫した口腔保健施策を続けてきた地域です。フッ化物の活用が原則です。
一方で沖縄県の指数が高い背景には、砂糖の消費量の多さ、食文化、歯科医療機関へのアクセスのしやすさなど、複数の社会的・文化的要因が絡み合っています。また研究では、地域の経済的格差が「う蝕経験の極端に多い子どもの多寡」としてDMFT指数に反映されることも示唆されています(日本ヘルスケア歯科学会誌, 2019)。
この地域差のデータが示すことは、「むし歯は個人の問題だけではない」という現実です。歯科従事者が自院の患者のDMFT指数を把握しながら、その背後にある社会的要因も視野に入れた保健指導を行うことが、より実効性の高いアプローチにつながります。
参考リンク(12歳児一人平均むし歯数の都道府県別データ・全国比較表):
12歳永久歯の1人当り平均むし歯等数 都道府県別データ(ライオン歯科衛生研究所)
DMF指数は疫学的な集団評価の指標として生まれましたが、歯科臨床の現場でも個々の患者の口腔状態を把握する指標として活用されています。ただし、臨床で使う際にはいくつかの重要な注意点があります。
**乳歯列への適用は「def指数(dft指数)」が正しい**
乳歯列に対してはDMF(大文字)は使いません。乳歯専用の指標として def指数 または dmf指数(小文字)を用います。defのdは未処置う蝕歯、eは抜去適応歯(または抜去予定歯)、fは処置歯を指します。乳歯では喪失したMの代わりにe(extracted:抜去適応)を使うのが特徴で、def指数では生理的脱落歯は除外されます。dft指数はdft指数=乳歯のう蝕経験歯数の合計÷被検者数で求めます。
**30歳以上のM歯には注意が必要**
先述のとおり、30歳以上ではM歯にう蝕以外の原因(歯周病・外傷・矯正抜歯など)で抜去した歯が含まれることがあります。成人・高齢者のDMFT指数を比較する際は、このM歯の扱いの違いが数値に影響していることを念頭に置く必要があります。30歳以上でのM歯の扱いは要注意です。
**F歯の増加をポジティブにだけ解釈しない**
F(処置歯)が多いほど「治療を受けている=口腔管理が良い」と思われがちですが、それは誤りです。F歯数が多いということは、それだけう蝕経験歯数が多い、つまりう蝕リスクが高い口腔環境である可能性を示しています。二次う蝕や補綴物の脱落リスクも連動して高まります。Fが多い患者はリコール間隔を短くする判断材料になるということです。
**定期健診患者とDMFT指数の関係**
厚生労働省の研究では、定期健診患者と初診患者のDMFT指数を比較した調査があります。定期健診患者のDMFT指数(14.3±SD)と初診患者の比較では、有意差こそ示されてはいないものの、定期健診を受け続けることで未処置歯(D歯)の増加を抑制できる傾向が報告されています。これは使えそうです。
DMF指数を単なる「試験の計算問題」として捉えるのではなく、患者ごとのう蝕リスクや治療計画の立案、患者へのわかりやすい説明ツールとして活用することが、臨床歯科従事者としての本来の目的です。患者に「あなたのF歯はX本ある。これだけの経験があるからリコールは3ヶ月がベストです」と説明することで、定期受診への動機付けにもなります。つまり、DMF指数は患者教育ツールにもなるということです。
参考リンク(DMFT指数の疫学的定義と各指標の適応範囲について):
DMFの指標(適用範囲・代表的指標一覧)|クインテッセンス出版 異事増殖大事典
DMF指数の低下、つまり国民全体のむし歯が減ることは、歯科医療にとって喜ばしい変化です。しかし歯科従事者の中には「むし歯が減ると経営が困る」という懸念を持つ方もいるのではないでしょうか。これは一定の現実を含んでいますが、その捉え方次第で医院の方向性は大きく変わります。
令和4年の歯科疾患実態調査で明らかになったことは、12歳児のむし歯は減っても、**35歳以上では依然として高いDMFT指数が続いている**という現実です。特に65〜74歳では18.4本というデータも示されており、高齢者の口腔管理ニーズは今後も旺盛です。むし歯に加えて、義歯管理・インプラント維持管理・歯周病対応・口腔機能低下症への対応など、診療の多様化が求められています。
また、DMFT指数が低い地域であっても、予防のためのリコール受診やフッ化物塗布・PMTC(専門的機械的歯面清掃)の需要は増えます。DMF指数の低下は予防歯科へのシフトを意味すると考えることが大切です。実際に新潟県のように、むし歯が少ない地域ほど予防型の歯科医療が定着しているケースが見られます。DMF指数の数値を「危機」ではなく「予防へ転換するタイミング」として読み解く視点を持つことが、これからの歯科経営には不可欠です。
患者に「あなたのDMFT指数はこれだけです」とデータで見せることは、口腔保健への関心を高める具体的な患者教育になります。数字で語ることで、患者はリスクを視覚的に理解しやすくなり、定期受診の継続につながります。DMF指数は患者との信頼関係を築くコミュニケーションツールとして最も活用しやすいデータのひとつです。
予防歯科を強化する際、口腔内のリスク評価ツールとして「カリエスリスク評価法」や「Cariostat(カリオスタット)」なども組み合わせることでDMFT指数の意味をより患者に伝えやすくなります。まずは自院の患者データを集計してみることから始めるのが一番です。
参考リンク(令和3年度 学校保健統計調査・12歳DMFT指数都道府県別データ):
1人平均DMF歯数(DMFT指数)の年次推移(永久歯:15歳以上)|ライオン歯科衛生研究所
十分な情報が収集できました。記事を生成します。