BMP-2を高用量で使えば使うほど骨は早く確実に再生される、と思っていませんか?実は用量依存的な過剰骨化や異所性骨形成が報告されており、適切な用量管理なしでは治療失敗リスクが3倍以上に跳ね上がります。
BMP-2(Bone Morphogenetic Protein-2)は、TGF-βスーパーファミリーに属するサイトカインです。1965年にMarshall Uristが「脱灰骨基質に骨誘導活性がある」と報告して以来、その活性本体としてBMP群が同定されてきました。
BMP-2が細胞表面のI型受容体(BMPR-IA/BMPR-IB)およびII型受容体(BMPR-II)に結合すると、受容体複合体が形成されます。II型受容体がI型受容体をリン酸化し、下流のSmad1/5/8がリン酸化されます。リン酸化されたSmad1/5/8はSmad4と複合体を形成し、核内に移行します。
核内では、Runx2やOsx(Osterix)などの骨形成転写因子の発現を誘導します。つまり骨芽細胞分化が促進される、というわけです。
さらに近年の研究では、BMP-2シグナルとWntシグナルのクロストークが骨形成効率に大きく関わることが明らかになっています。Wntシグナルが活性化されているとBMP-2の骨誘導効果が相乗的に増強され、逆にDkk-1などのWntアンタゴニストが存在する環境では骨形成効率が著しく低下します。これは意外ですね。
炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β)が高濃度で存在する感染歯周組織では、Smadシグナルが抑制され、BMP-2を投与しても十分な骨形成が起きないケースがあります。口腔内という感染リスクの高い環境でBMP-2を使う際は、この点が特に重要です。骨形成の前提条件として、感染制御が必須です。
歯科臨床でBMP-2が最も注目される場面の一つが、上顎臼歯部インプラント治療における上顎洞底挙上術(サイナスリフト)です。
上顎洞底挙上術では、残存骨量が不足している場合に骨補填材を填入して骨量を確保します。従来の自家骨移植は「ゴールドスタンダード」とされてきましたが、採骨部の疼痛・感染・神経損傷といった侵襲が問題でした。
BMP-2を吸収性コラーゲンスポンジ(ACS:Absorbable Collagen Sponge)に担持して使用する方法では、自家骨移植と同等以上の骨形成が得られるとする報告が複数あります。特に2009年のMisch & Grossman らの多施設試験では、BMP-2/ACS使用群においてサイナスリフト後12か月で平均8.42mmの骨高径増加が確認されています。これは使えそうです。
一方で、BMP-2投与量には慎重な設定が必要です。口腔・顎顔面領域では1.5mg/mL濃度での使用が多く報告されていますが、投与量が多いほど炎症性浮腫が強くなる傾向があります。上顎洞内での過剰骨化が副鼻腔炎を誘発したケースも報告されており、耳鼻科との連携が必要になることもあります。
担体となるACSはおよそ縦4cm×横4cm(はがきの半分程度)のシート状で、BMP-2溶液に15分間浸漬してから使用します。担体の選択と前処理の手順も骨形成効率に直結します。担体選択が条件です。
BMP-2に関して、歯科従事者の間で特に注意が必要なのが「多ければ多いほど効果が高い」という誤解です。これが最も危険な思い込みです。
FDA(米国食品医薬品局)が承認しているInFuse Bone Graft(rhBMP-2/ACS)の添付文書でも、推奨濃度(1.5mg/mL)を超えた投与に対しては警告が記載されています。2008年には頸椎前方固定術においてBMP-2の高用量使用による重篤な軟部組織浮腫・気道閉塞が報告され、FDAが安全性通知を発出しました。
歯科口腔外科領域でも同様のリスクがあります。具体的なリスクとしては以下が挙げられます。
バウンスバック現象は意外です。最終的な骨量が初期形成量を大幅に下回るケースがあり、インプラント埋入タイミングの判断を誤らせる要因になります。
リスクを最小化するためには、术前のCTによる解剖形態把握、感染巣の完全除去、投与量の厳格な管理の3点が基本です。これだけ覚えておけばOKです。
歯科臨床では、骨欠損への対応として①自家骨移植、②人工骨補填材(β-TCP、ハイドロキシアパタイト)、③異種骨(Bio-Ossなど)、④BMP-2製剤の4つが主な選択肢です。
それぞれを比較すると以下のようになります。
| 種類 | 骨誘導能 | 骨伝導能 | 侵襲性 | コスト |
|---|---|---|---|---|
| 自家骨 | ◎ 高い | 高(採骨部) | 低〜中 | |
| 人工骨(β-TCP) | △ 低い | ◯ 中程度 | 低 | 中 |
| 異種骨(Bio-Oss) | △ 低い | ◎ 高い | 低 | 中〜高 |
| BMP-2製剤 | ◎ 高い | △ 担体依存 | 低〜中 | 高 |
BMP-2製剤の最大の利点は、自家骨採取が不要でありながら高い骨誘導能を持つ点です。特に採骨部の確保が難しい高齢患者や全身疾患を持つ患者では、BMP-2の適応価値が高まります。
ただしコスト面では、rhBMP-2製剤は1キットあたり数十万円に上るケースもあり、保険適用外となる日本の歯科臨床では患者への費用説明が不可欠です。これは厳しいところですね。
人工骨補填材とBMP-2を組み合わせる「ハイブリッド法」も注目されています。β-TCPの骨伝導性スキャフォールドにBMP-2を担持させることで、担体単独より優れた骨形成が得られるとする前臨床試験の結果が複数発表されています。
これはあまり語られない視点ですが、口腔内のBMP-2応用において最大の障壁の一つが「口腔常在菌によるBMP-2タンパク質の分解」です。
Porphyromonas gingivalis(歯周病原細菌)が産生するジンジパイン(システインプロテアーゼ)は、BMP-2タンパク質を直接分解することがin vitro実験で確認されています。つまり、歯周病未治療の口腔内でBMP-2を投与しても、有効成分が想定より大幅に早く失活してしまうということです。これは骨形成が原則の話を根底から変える事実です。
具体的には、P. gingivalisのジンジパインによりBMP-2の半減期が通常の約1/3〜1/4に短縮されるとの報告があります。BMP-2の生体内半減期は担体によっても異なりますが、ACSに担持した場合でも投与後3〜7日で急激に濃度が低下します。それがさらに短縮されるとなると、初期骨誘導シグナルが十分に伝わらない可能性があります。
この問題への対策として、術前の歯周基本治療による菌量コントロール、抗菌性担体(クロルヘキシジン含浸コラーゲンなど)の研究、そしてBMP-2の徐放性を高めた新世代担体(ハイドロゲル系、PLGAマイクロスフェアなど)の開発が進んでいます。
臨床的な行動としては、BMP-2を使用する骨増生手術の前に歯周炎・周囲炎の治療を完結させることが最も現実的で効果的なリスク回避策です。感染制御が先、骨形成は後が原則です。
参考として、BMP関連の基礎研究情報は以下から確認できます。
日本補綴歯科学会誌 - BMP関連論文・歯科補綴領域の基礎・臨床研究
(上記リンクでは、BMP-2の歯科応用に関する国内研究論文を検索可能です。サイナスリフトや骨増生術との関連論文が多数収録されています。)
日本大学歯学部学術雑誌 - 骨形成因子・再生医療関連の原著論文
(骨形成タンパク質の担体開発・口腔外科応用に関する研究報告が掲載されています。)