抗菌薬を最初に処方すると、ANUGの治癒が遅れることがある。
ANUG(Acute Necrotizing Ulcerative Gingivitis)は、歯肉辺縁部・歯間乳頭部に急性の壊死性潰瘍を形成する感染性疾患です。一般人口における有病率は1%未満とされており、珍しい疾患に分類されます。 ただし、臨床的な重要性は高く、歯科バイオフィルム関連疾患の中で最も重症な部類に入ります。 ncbi.nlm.nih(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK562243/)
特に注目すべきは、免疫抑制状態との強い関連性です。HIV感染患者では4.3〜16.0%の有病率が報告されており、CD4細胞数が200 cells/mm³未満のAIDS患者では、健常者に比べて20.8倍の発症リスクがあるとされています。 これはクリニカルサイトで見かける「少し腫れているだけ」という軽い認識とは大きく異なります。 jetem(https://jetem.org/anug/)
放置した場合のリスクも深刻です。治療なしで経過すると、壊死性潰瘍性歯周炎(NUP)や、さらにはcancrum oris(ノマ)へと進行し、後者は致死的になりえます。 つまり迅速な診断と介入が必須です。 ncbi.nlm.nih(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK562243/)
主な誘因(リスクファクター)は以下のとおりです。
- 🦠 口腔内不衛生(プラーク・歯石の蓄積)
- 😓 精神的・身体的ストレス
- 🚬 喫煙習慣
- 😴 睡眠不足・疲弊
- 🥗 栄養障害・低栄養
- 🔬 免疫低下(HIV/AIDS、免疫抑制薬使用など) doctors-me(https://doctors-me.com/disease/4323)
歯科従事者として最も大切なのは、初診時に全身状態の評価を怠らないことです。初診が重要です。
ANUGの急性期治療の核心は、ジェントルなデブリードマンです。超音波スケーラーまたは手用スケーラーを用いて、歯肉表面のプラークと歯石を丁寧に除去します。 ただし、急性炎症で組織が脆弱になっているため、過度の圧力は壊死の拡大を招きます。これが基本原則です。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/professional/dental-disorders/periodontal-disorders/acute-necrotizing-ulcerative-gingivitis-anug?ruleredirectid=746)
デブリードマンは1回で完結させず、数日にわたって段階的に行います。 初回処置後24〜48時間以内に顕著な改善が見られることが多く、その後に残存した歯石の除去・スケーリング・ルートプレーニングへと移行します。 改善が早いのは良いことですね。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/professional/dental-disorders/periodontal-disorders/acute-necrotizing-ulcerative-gingivitis-anug)
初期デブリードマン後のうがい薬
| 薬剤 | 濃度 | 使用頻度 |
|------|------|----------|
| 生理食塩水(温) | 通常濃度 | 1時間ごと |
| 過酸化水素 | 1.5% | 1日2回 |
| クロルヘキシジン | 0.12% | 1日2回(30日間) |
msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/professional/dental-disorders/periodontal-disorders/acute-necrotizing-ulcerative-gingivitis-anug?ruleredirectid=746)
局所への酸素療法(酸素照射)も壊死病変に対して有効です。 嫌気性菌が主要な病原菌であるANUGに対して、酸素リッチな環境を局所的に作ることで菌増殖を抑制できます。意外ですね。 ncbi.nlm.nih(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK562243/)
器具が利用できないなど、やむを得ずデブリードマンが遅延する場合は、抗菌薬を先行投与することがあります。 しかし、抗菌薬はあくまで補助手段であり、デブリードマンの代替にはなりません。抗菌薬だけで完結させようとすると、再発リスクが高まります。 msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/professional/dental-disorders/periodontal-disorders/acute-necrotizing-ulcerative-gingivitis-anug)
ANUGの全身抗菌薬療法は、デブリードマンに反応しない場合または全身症状を伴う場合(発熱・倦怠感・嘔吐など)に適応となります。 全身症状の有無が判断の分岐点です。 ncbi.nlm.nih(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK562243/)
小児・成人別の推奨用量は以下のとおり。
| 年齢 | 用量 | 頻度 |
|------|------|------|
| 1〜2歳 | 50mg | 1日3回 |
| 3〜6歳 | 100mg | 1日2回 |
| 7〜9歳 | 100mg | 1日3回 |
| 10〜17歳 | 200mg | 1日3回 |
| 成人 | 400〜500mg | 1日3回(8時間ごと) |
sdcepdentalprescribing.nhs(https://sdcepdentalprescribing.nhs.scot/guidance/bacterial-infections/nug-and-pericoronitis/metronidazole/)
ペニシリン系を組み合わせる場合は、アモキシシリン500mgを8時間ごとに併用する方法もあります。 ペニシリンアレルギーがある患者への代替薬は以下のとおりです: msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/professional/dental-disorders/periodontal-disorders/acute-necrotizing-ulcerative-gingivitis-anug)
- クリンダマイシン 300mg・6時間ごと
- エリスロマイシン 250mg・6時間ごと
- テトラサイクリン 250mg・6時間ごと msdmanuals(https://www.msdmanuals.com/professional/dental-disorders/periodontal-disorders/acute-necrotizing-ulcerative-gingivitis-anug?ruleredirectid=746)
なお、局所抗菌薬は推奨されていません。組織内の細菌量が多く、局所投与では十分な薬物濃度を得られないためです。 局所だけに頼るのはNGです。 ncbi.nlm.nih(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK562243/)
参考リンク(NIH/StatPearls掲載・英文・ANUG治療プロトコル全体像)。
StatPearls:Acute Necrotizing Ulcerative Gingivitis(NIH掲載)
急性期の収束後、治療はすぐに終わりではありません。実はここからが歯科従事者の腕の見せどころです。
急性炎症が落ち着いたら、既存の慢性歯肉炎・歯周炎の治療に移行します。 具体的には本格的なスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を実施し、患者への口腔衛生指導(OHI)を徹底します。 SRPが土台です。 ncbi.nlm.nih(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK562243/)
急性期に歯間乳頭が失われ、歯肉形態が陥凹(クレーター状)になっていることがあります。この場合、そのままにすると二次的な歯周炎の温床になります。歯肉形態が問題になりますね。表層の陥凹には歯肉切除術(Gingivectomy)または歯肉形成術(Gingivoplasty)が有効です。 ncbi.nlm.nih(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK562243/)
誘因の管理も不可欠です。維持フェーズで取り除くべきリスクファクター。
- 🚬 禁煙指導(喫煙は再発の最大要因の一つ)
- 😴 睡眠衛生の改善(6時間未満の睡眠が継続するとリスク増大)
- 🥗 栄養状態の改善(ビタミンCやタンパク質の充足)
また、患者の基礎疾患(特にHIVや糖尿病)が未管理の場合は、主治医との連携を図ることが重要です。歯科単独での対応に限界があるケースでは、医科との連携が患者の長期予後を大きく左右します。
HIV陽性患者・免疫抑制状態の小児では、ANUGの治療プロトコルが通常と異なります。見逃すと重篤化します。
Sub-Saharan Africaなどの栄養障害が多い途上国では、10歳以下の小児における有病率が23%に達するという報告もあります。 日本では珍しいケースであっても、海外渡航歴がある小児患者や栄養状態が不良な小児には注意が必要です。 jetem(https://jetem.org/anug/)
ANUGを歯肉炎の一種として軽視せず、全身疾患のスクリーニングのトリガーとして捉える視点が歯科従事者には求められます。ANUGは全身のシグナルです。
参考リンク(PubMed掲載・小児・HIV患者のANUG管理に関する最新論文)。